みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、千葉県鴨川市にある亀田総合病院で、腎臓リハビリテーションに携わる理学療法士の小柴輝晃さんにお話を伺いました。
この記事では、小柴さんが情熱を注ぐ腎臓リハビリテーションの取り組みや、リハビリテーションを実践するうえで大切にしていることをご紹介します。
※ 亀田メディカルセンターリハビリテーション部門の紹介記事はこちら
理学療法士・小柴輝晃さん

◆小柴輝晃(こしば・てるあき)さん
医療法人鉄蕉会亀田総合病院リハビリテーション室副主任 / 理学療法士 / 腎臓リハビリテーション指導士
千葉県富津市出身。2011年に千葉医療福祉専門学校を卒業後、理学療法士免許として亀田総合病院に入職。2014年から腎臓リハビリテーションに携わり、現在に至る。

亀田総合病院で、腎臓リハビリテーションの立ち上げ期から精力的に活動されている小柴さんですが、もともと理学療法士を目指されたきっかけは何だったのでしょうか。

家の近所に理学療法士養成校の先生が住んでおり、親からその話を聞いたのが最初のきっかけです。自宅から通いやすいことや、手に職をつけたいという思いもあり、養成校に進学しました。
しかし、入学後のある出来事がきっかけで私の考え方は大きく変わりました。それは、母ががんを発症したことでした。一度は手術で回復しましたが、3年目に再発し、ステージ4と診断。そのとき、「もっと幼い頃から勉強していれば、医師として母を助けられたのではないか」という悔しさで胸がいっぱいになったのを覚えています。
それでも、学校で理学療法を学ぶうちに、その思いは少しずつ変わっていきました。理学療法士という仕事が「病気だけではなく、人そのものに向き合う仕事」であることに気づいたからです。
患者さんの生活や価値観に寄り添いながら、多角的な視点で支えていくことができる。この仕事の可能性に希望を感じ、「もっと知識を深めて、この道を極めたい」という思いが強くなりました。
学生の頃から「医療を通じて、私はどう社会に貢献できるか」ということを、考え続けているように思います。

お母さまのご病気やその中で抱かれた思いが、小柴さんのいまの原動力になっているのですね。
就職先として亀田総合病院を選ばれたのには、どんなきっかけがあったのでしょうか。

実は、私は亀田総合病院で生まれました。そして、小さい頃から病気やケガをしたときには、必ずと言っていいほどここにお世話になっていました。
「何かあったら亀田へ」という地域の人々の信頼と安心感は、本当に強いと思います。幼い頃から慣れ親しんできたこの病院に「恩返しがしたい」という思いもあり、就職を希望しました。
2011年に理学療法士として入職して以来、亀田総合病院や亀田リハビリテーション病院など、さまざまな関連施設でリハビリ業務に携わっています。

未来を共に描くプランナー

学生時代に、「病気だけではなく、人そのものに幅広く向き合える仕事」というところに魅力を感じられた小柴さんですが、実際に理学療法士として働く中で、それを実感する瞬間はありましたか? 印象に残っているエピソードもあれば、ぜひ教えてください。

本当にたくさんあります。なかでも最近残っているエピソードのひとつが、緊急で下肢切断(股関節離断)の手術を受けた患者さんとの出会いです。
その方には幼いお子さんがいらっしゃり、手術後に足を失ったことをどうお子さんに伝えるべきか悩まれていました。
その姿を見て、私は自分に何ができるのかを一生懸命考えました。先生方とも相談を重ねる中で、思いついたのが「絵本」を作ることでした。
お子さんが安心して受け入れられるよう、AIで絵を作成し、自分で文章を考えて物語に仕上げました。


絵本には、「魔法の車椅子」に乗った患者さんが登場します。この車椅子は、ご本人の強い気持ちと子どもたちの優しさで動きます。「車椅子に乗ればどこへでも行けるし、一緒に遊べるから怖くないんだよ」というメッセージを込めました。
完成した絵本を製本してお渡しした後、その方は少しずつお子さんに自分の状況を説明できるようになりました。そして、「義足をつけて歩けるようになりたい」と希望をもち、一歩一歩、前に進まれていきました。
理学療法士は、患者さんの身体と心の回復だけでなく、ご家族との架け橋としても重要な役割を果たせるのではないかと思えた経験でした。

絵本というアイデア、小柴さんならではの優しさが溢れていてとても素敵です。「身体だけでなく心にも寄り添い、そしてご家族との架け橋にもなる」という小柴さんのメッセージから、理学療法士という仕事の奥深さと温かさを感じました。
小柴さんにとって、「リハビリテーション」とはどのようなものでしょうか。

リハビリテーションというと、「アフターケア」というイメージが強いかもしれませんが、私は「プランニング」という視点を大切にしています。
リハビリテーションに携わるセラピストは、たとえるなら「人生最悪のときのウェディングプランナー」だと思います。
ウェディングプランナーさんは、結婚式という幸せの絶頂期に、「どんな風にしたいですか?」と寄り添いながら、理想の形を一緒に考え、プランを立ててくれる存在です。一方で、私たち理学療法士は、人生で最も辛く苦しい瞬間に、その人にとって最適な「これからのプラン」を一緒に考えるのが仕事です。
プランニングは、ひとりで全てを決めるわけではなく、患者さんと一緒に未来を描く作業です。その人らしい生き方を一緒に模索しながら、少しでも前向きになれるお手伝いをする。そんな心構えで、私は日々、リハビリテーションに向き合っています。

これまでたくさんの方にこの質問をさせていただきましたが、「プランナー」という表現をされたのは小柴さんが初めてでした。
患者さんとの対話を通じて未来を描き、プランナーのひとりとしてその人生に寄り添い、伴走する。その真摯な姿勢と情熱に、深く感銘を受けました。

腎臓リハビリテーション

亀田総合病院で「腎臓リハビリテーション」のチームが立ち上がった当初から、中心メンバーとして活躍されてきた小柴さんですが、腎臓リハビリテーションに関わるようになったきっかけや、これまでの歩みについて教えていただけますか。

私が腎臓リハビリテーションに携わるようになったのは、理学療法士3年目の半ば(2014年)、前任者の異動がきっかけでした。1つの診療科を任されることに大きな不安を感じていましたが、当時のチームリーダーの山本喜美夫さんに支えていただきながら、少しずつ腎臓リハビリテーションを形にしていきました。
当時、腎臓リハビリテーション学会も設立されたばかりで、まずは「安静から運動へ」というキーワードをもとに、入院中の患者さんへのリハビリをスタートしました。
最初は、透析導入や保存期CKD(慢性腎臓病)患者さんへの介入から始まり、その後、透析患者さんへの透析中の運動療法も試験的に実施しました。
透析患者さんへの透析中の運動療法は約5年間にわたって実施しましたが、まだ透析時運動指導等加算(令和4年度診療報酬改定)もない時代であり、診療報酬上の問題で一時中断。その後、COVID-19の影響で再開には至っていません。
しかし、透析運動療法の研修会参加や腎臓リハビリテーション指導士の資格取得を通じて、いつでも再開できる準備は整えている状況です。

前例がない中で新たな道を切り拓くのは、本当に大変だったと思います。そんな中で、小柴さんが喜びややりがいを感じる瞬間はどんなときでしょうか?

私が腎臓リハビリテーションに関わり始めた当初、腎臓病患者さんにおけるリハビリテーションはあまり重視されていない印象でした。しかし現在は、リハビリテーションの視点が「治療の選択肢の一助となっている」と実感する機会が増え、大きなやりがいを感じています。
特に、腎臓病の治療において、フレイルやADL低下が重要な視点だと認識する腎臓内科の先生が増えたことは、とても嬉しい変化です。
最初は「廃用予防のため」といった簡単な指示だったものが、次第に「元々杖歩行が可能だった患者さんなので、歩行能力を維持するリハビリをお願いします」といった具体的な指示に変わってきました。
この1文が加わるだけで、リハビリの視点が医療チーム全体に浸透してきたことを感じ、励みになっています。

まずは受け入れてもらえる土壌づくりから始めてこられて、こうした目に見える変化が現れてきたことは本当に嬉しいですね。
現在、小柴さんが特に力を入れていることや、これから注力していきたいことがあればぜひ教えてください。

腎臓リハビリテーションの推進のほか、「腎移植術後のリハビリテーション」のプログラム作成にも力をいれています。
当院では2017年から生体腎移植術が行われていますが、腎移植術後のリハビリテーションに関してあまり報告がなく、外科の周術期リハビリテーションを参考にしたり、当時の執刀医や腎移植コーディネーターと相談したりしながら、リハビリプログラムを作成・実施してきました。昨年は、その内容で学会発表も行いました。
今後は、腎臓リハビリテーションを病院全体でさらに根づかせ、多職種で連携しながら総合的に患者さんを支援できる環境を構築していきたいです。このような考え方を「トランスディシプリナリー・モデル」と呼びますが、職種ごとにできる範囲をお互いにカバーし合い、患者さんの日常生活動作(ADL)、教育、痛みといった問題をチーム全体で共有し、支援していくことを目指しています。
今年からステータスボードを導入し、このモデルを進めています。ICUではすでに浸透しているかと思いますが、一般病棟では看護師さんの人数が限られるため、看護師長さんたちとも相談しながら無理のない形で実現していけるように少しずつ進めています。

「みる」こと「共感する」こと

小柴さんがリハビリテーションを実践するうえで、大切にしていることを教えてください。

私は、リハビリテーションは身体の回復だけでなく、その方の暮らしや人生そのものに向き合う仕事だと考えています。一人ひとりの背景や価値観を尊重し、その方にとって最善の道を一緒に探していくことが、私の目指すリハビリテーションの在り方です。
そのため、実践するうえで特に大切にしているのが、「人間をみる(視る・診る・看る)」ことと「共感」です。
「視る」は、調査や観察のようにじっくりと状況を見極めること。「診る」は、病状や健康状態を正確に把握すること。そして「看る」は、その方を支え、寄り添う心を持つことを指しています。これら3つの視点を通じて、病気はもちろん、その方がどのような価値観を持ち、何を大切にしているのかを理解することを心がけています。


人の価値観は千差万別で、正解は一つではありません。だからこそ「共感」も欠かせないと考えています。
たとえば、仕事終わりのビール一杯がその方のQOL(生活の質)を支えている場合、それを奪うことはQOLを下げることにつながります。しかし、病状によって禁酒が必要な場合には、医療者として制限を提案する責任もあります。このように正解が一つではない中で、患者さんの立場に立ち、共感を通じて折衷案や落とし所を見つけていくことが重要だと考えます。
以前、ある医師が、患者さんの喜びを自分のこと以上に喜び、感動している姿を目にしました。その姿勢に感銘を受け、共感が現場を明るくし、患者さんやチームに良い影響を与えることを実感しました。
患者さんの痛みを自分の痛みとして感じ、喜びを自分のこと以上に喜ぶこと。それが、リハビリテーションを実践するうえでの私の大切な信念です。

リハビリに励む方へメッセージ

最後に、リハビリに励む当事者の方へ向けて、メッセージがあればお願いします。

「1億円もらえるけど今日で人生終わる」のと、「1億円はもらえないけど明日からも生きられる」、みなさんはどちらを選びますか?
きっと多くの方が「明日からも生きられる方」を選ぶのではないでしょうか。それはつまり、「明日には1億円以上の価値がある」ということです。
リハビリテーションも同じです。今日の一歩が、明日をつくります。いまを変えることで、明日も変わる。その明日の価値をつくるのは、他の誰でもない、自分自身なんです。
いま目の前にある小さなことを積み重ねていくことで、未来はきっと変わります。焦らず、自分のペースで。今日できることを一緒に見つけながら、明日に向かって進んでいきましょう。

小柴さん、素敵なメッセージをありがとうございました。
「明日には1億円以上の価値がある」という言葉に、心が揺さぶれました。「目の前の一歩を大切にすることで未来が変わる」というメッセージは、多くの方の励みになることと思います。
この10年間で大きく進化した腎臓リハビリテーション。その最前線で、新たな道を切り拓き続けている小柴さんの挑戦は、きっとこれからのリハビリテーションの未来を照らす光になると思います。リハノワは、これからもその挑戦を全力で応援しています。
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。


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以上、今回は千葉県鴨川市にある亀田総合病院で、腎臓リハビリテーションに携わる理学療法士の小柴輝晃さんを紹介しました。
ひとりでも多くの方に、小柴さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。


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