パーキンソン病とリハビリテーション。つながり続ける支援のかたち|理学療法士・甲斐太陽さん

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです。

今回は、奈良県にある西大和リハビリテーション病院で働く、理学療法士の甲斐太陽さんにお話を伺いました。

甲斐さんは、パーキンソン病のリハビリテーションを軸に、臨床・研究・教育、そして地域とのつながりを大切にしながら幅広くご活動されています。

パーキンソン病は、長く付き合っていく病気だからこそ、日々の暮らしを支えるリハビリテーションのあり方が、いまあらためて問われています。

この記事では、甲斐さんがこの領域と出会った背景から、地域で支える仕組み、そして大切にしている「情報」と「対話」という視点についてお届けします。

理学療法士という道へ

◆甲斐 太陽(かい・たいよう)さん
1993年生まれ、宮崎県高千穂町出身。京都橘大学卒業後、2016年に医学研究所北野病院へ入職。急性期医療の現場で経験を積む中でパーキンソン病のリハビリテーションに出会う。2019年にLSVT®BIGを取得し、畿央大学大学院修士課程に進学、2022年に修了。2023年2月より西大和リハビリテーション病院に勤務し、パーキンソン病の方を対象とした入院・外来リハビリに加え、地域でリハビリを継続できる仕組みづくりに挑戦している。


かわむー
かわむー

まずは、甲斐さんが理学療法士を目指されたきっかけからお伺いしてもよろしいでしょうか。


甲斐さん
甲斐さん

幼少期の頃から剣道やサッカーをしていて、将来はスポーツに関わる仕事がしたいと思っていました。

中学生のとき、サッカー部の友人の親御さんから理学療法士という仕事を教えていただき、自分でも調べる中で興味をもつようになりました。

人と関わることや「伝える」ことにも関心があったので、教員という道も考えていましたが、最終的には高校3年生の12月に、理学療法士の道に進むことを決意しました。

大学では内部障害系のゼミに所属し、先生方の手厚いサポートのもとで学びを深めていきました。

仲間にも恵まれ、スポーツや旅行を楽しみながら、3年生のときには全国学会で発表する機会もいただくなど、とても濃い時間を過ごしました。


かわむー
かわむー

学生時代に、全国学会での発表も経験されたのですね。お話から、当時の充実した日々が伝わってきました。

免許取得後は、どのような環境でキャリアをスタートされたのですか?


甲斐さん
甲斐さん

ゼミでお世話になっていた先生からご紹介いただき、大阪にある北野病院(医学研究所北野病院)に就職しました。

北野病院は、大阪を代表する急性期病院のひとつで、臨床・研究・教育が一体となった医療機関です。

当初は大学病院への就職も考えていましたが、急性期で幅広い疾患に携わることができる環境や、熱心な先生方が多いことに魅力を感じ、就職を希望しました。

入職後は、ローテーションを通してさまざまな経験を積みながら、呼吸や循環といった内部障害領域を中心に、学会発表にも取り組ませてもらいました。



パーキンソン病のリハビリ

かわむー
かわむー

内部障害領域を中心に取り組まれてきた中で、現在の「パーキンソン病のリハビリ」に興味をもたれるようになったのには、どのようなきかっけがあったのですか?


甲斐さん
甲斐さん

就職して3年目のときに、中枢神経チームに配属されたことが大きな転機となりました。

もともと脳神経領域・集中治療領域(SCUなど)にも興味があり、脳神経内科や脳外科病棟を担当しながら経験を重ねていくうちに、少しずつ惹かれていったのがパーキンソン病のリハビリでした。

急性期では、薬剤調整を目的に入院される患者さんと関わることが多いのですが、リハビリを通して「動きやすくなった」「歩きやすくなった」と、変化を実感される場面に立ち会うことがありました。その瞬間、「リハビリの即時効果が出せるんだ」と気づかされたんです。

北野病院はパーキンソン病の治療で知られる医療機関ですが、当時はリハビリスタッフの中で専門的に関わっている人がいなかったこともあり、「自分がこの領域を担っていきたい」と考えるようになりました。

文献を調べることはもちろん、医師のカルテから学ぶことも多く、日々読み込みながら理解を深めていきました。


かわむー
かわむー

リハビリによる患者さんの変化を実感できたことが、この領域に惹き込まれていくきっかけになったのですね。

実際に取材で拝見した診療の場面でも、歩行時のほんのわずかなアシストで動きが変わる瞬間や、「歩きやすくなった!」と患者さんの笑顔がこぼれる場面、そして甲斐さんの真剣な眼差しがとても印象的でした。



甲斐さん
甲斐さん

医師との距離も近く、自然と連携が生まれる環境だったことも、面白さややりがいにつながっていきました。

「薬を開始するので運動機能の経過を見てほしい」「DBS(脳深部刺激療法)の刺激を調整するので一緒に確認してほしい」といったやり取りを重ねる中で、治療とリハビリテーションが一体となって進んでいく感覚を実感するようになりました。

「もっと深く学びたい」という思いは、自然と強くなっていったように思います。

論文を読み進める中で、パーキンソン病のリハビリで著名な畿央大学の岡田洋平先生の研究に出会い、より専門的に学びたいと考えるようになりました。

そして2019年に畿央大学大学院へ進学し、パーキンソン病患者さんの入院中の活動量に着目した研究に取り組みました。コロナ禍で一時的に中断する時期もありましたが、岡田先生のもとで研究に取り組めた時間は、非常に貴重な経験となりました。



病院の枠を超え、地域へひらく

かわむー
かわむー

病院で経験を積みながら、さらには大学院で研究にも取り組まれてきた甲斐さんですが、2023年に現在お勤めの西大和リハビリテーション病院へ転職されたと伺いました。

転職を決意されたきっかけや、現在とくに力を入れて取り組まれていることについて、お聞かせいただけますか?


甲斐さん
甲斐さん

転職を考えるようになったきっかけは、患者さんの言葉でした。

入院中はリハビリができても、「家に帰ると続けられる場所がない」と話される方が多くいらっしゃったんです。

急性期では、退院後の生活が見えにくいという側面もあります。「リハビリの効果は、その後の暮らしの中でどう現れていくのだろう」と考えるようになり、次第に「地域に出て関わりたい」と思うようになりました。

ちょうど進路を考えていたタイミングで、西大和リハビリテーション病院から「パーキンソン病のリハビリを強化していきたい」というお話をいただき、2023年に転職することになりました。


西大和リハビリテーション病院では、以前からパーキンソン病のリハビリに力を入れており、短期集中の入院リハビリに加えて、外来や体操教室など、継続して関われる体制が整えられていました。

現在は外来リハビリのリーダーを務め、入院と外来の運営に関わりながら、患者さんの状態に応じて、入院が適しているのか、外来での継続がよいのかといった判断にも携わらせてもらっています。


パーキンソン病外来の様子
一人ひとりに丁寧に向き合う甲斐さん
セラピストの教育にも力を注がれています。


甲斐さん
甲斐さん

2023年の夏からは、パーキンソン病患者会「かつらぎみどりの会」の活動にも関わらせていただいています。奈良県内にも全国パーキンソン病友の会の支部がいくつかありますが、友の会とは別の立ち位置で活動している会になります。

月に1度、奈良県北葛城郡河合町のコミュニティセンターで、体操や交流の場を2時間ほど設けています。10年以上続いている活動で、当院の外来リハビリを終えた方にもご参加いただきながら、地域での継続的なリハビリテーションを支えています。

運営にあたっては、身体の状態や生活背景が一人ひとり異なるため、プログラムづくりに難しさを感じることもありますが、だからこそ学ぶことも多く、自分自身にとって大切な経験になっています。

地域で直接お話を伺うことで、臨床だけでは見えにくい、リアルな声に触れることも大きな学びです。


パーキンソン病患者会「かつらぎみどりの会」活動の様子(写真提供:ご本人)
参加者として通われていた当事者の方が作曲した「みどりの会のうた」。現在も大切に引き継がれています。(写真提供:ご本人)


支援が行き届く仕組みづくりを

かわむー
かわむー

地域にも活動を広げていらっしゃる中で感じてこられた、難しさや葛藤、そして大切にされていることについて、ぜひ教えてください。


甲斐さん
甲斐さん

パーキンソン病は難病であり、「なぜ自分が」と受け止めきれない思いを抱え続けておられる方も少なくありません。

治療が進歩し、長く付き合っていく疾患となっているからこそ、葛藤やジレンマも多いのだと感じています。

また、医師によって治療方針や薬の使い方が異なることもあり、当事者会などの場では、さまざまな情報が交錯している場面に出会うこともあります。

そうした中で大切にしているのは、「情報」と「対話」です。

その方にとって必要な情報を整理し、すぐに答えを出すのではなく、丁寧に対話を重ねながら、どう伝えるかを考えています。

地域で関わるようになってからは、制度に関する知識の重要性も実感すようになりました。入院の現場では十分に理解できていなかった、暮らしに関わる制度についても学び直し、責任をもって情報をお伝えできるよう心がけています。


かわむー
かわむー

地域に出て初めて見えてくる課題や視点を共有いただき、大変勉強になりました。制度の理解も含めて、関わりの質を高めていこうとされている姿が印象的です。

患者さん一人ひとりにとって本当に必要な情報を、丁寧に届けていく。そのあり方から、プロフェッショナルとしての姿勢を感じました。


かわむー
かわむー

今後、さらにチャレンジしていきたいことはありますか? 


甲斐さん
甲斐さん

地域に出てみて感じたのは、リハビリに関する情報や支援が、必要な方に十分に届いていないという現状でした。だからこそ、どこにどのような支援があるのかを整理し、必要な方に届く仕組みをつくっていきたいと考えています。

2024年からは奈良県難病相談センターさんとも連携し、難病交流会の中で理学療法士の立場からお話しする機会をいただいています。患者さんやピアサポーターの方々に情報を届けることも、大切な役割の一つだと感じています。

今後は行政との連携もさらに深めながら、たとえば難病の方の災害支援など、まだ十分に整っていない領域にも関わっていけるとうれしいです。

加えて、医療機関や専門職同士のつながりを広げる活動も行っています。パーキンソン病に関わるセラピスト同士でオンラインコミュニティを立ち上げ、日々の悩みや気づきを共有できる場をつくっています。

これからも、地域・行政・専門職のつながりを広げながら、より多くの方にリハビリが届く環境や仕組みをつくっていきたいです。



リハビリに励む方へメッセージ

かわむー
かわむー

最後に、リハビリに励まれている方へ向けて、メッセージをお願いします。


甲斐さん
甲斐さん

パーキンソン病に関する情報は、いまはインターネットなどで簡単に調べることができ、リハビリの方法にも触れやすくなりました。

ただ、その方法がご自身に合っているのか、どのように変化しているのかを振り返ることは、簡単ではありません。

そんなとき、ふと誰かと話してみること。ほんの少し視点をもらうこと。それだけで、見え方が変わることがあります。

最近ではオンラインなど、つながり方の選択肢も広がってきました。専門職にも頼りながら、ぜひ「あなたにとって大切な情報」を見つけていただけるとうれしいです。

もし迷いや不安を感じたときには、一人で抱え込まず、誰かと対話してみてください。ご自身にとっての納得できる形が、少しずつ見えてくるはずです。

私たち医療者も、その一つの存在として、そっと隣にいられたらと思っています。少しでも気になることがあれば、どうぞ遠慮なく頼ってください。


かわむー
かわむー

甲斐さん、あたたかく、力強いメッセージをありがとうございました。

病気と向き合う中で、不安や迷いを抱える瞬間は、きっと誰にでもあるのだと思います。そんなときに、そっと寄り添い、言葉を届けてくれる存在がいること。その心強さを、あらためて感じさせていただきました。

西大和リハビリテーション病院は、県外からの入院や外来にも対応されているとのことです。取材を通して、一人ひとりに丁寧に向き合われている様子がとても印象的でした。こうした場があることも、ひとつの選択肢として知っていただけたらうれしいです。

越境しながら、活動の幅を広げ続けておられる甲斐さんの挑戦を、リハノワはこれからも応援しています。

本日は貴重なお話を聞かせいただき、本当にありがとうございました。



かわむー
かわむー

<関連記事 / 関連情報>

・【リハノワ】
西大和リハビリテーション病院 紹介記事
・【リハノワ】パーキンソン外来に通われている患者さまの声

西大和リハビリテーション病院 HP


ぜひ合わせてご覧ください。



以上、今回は奈良県にある西大和リハビリテーション病院で働く、理学療法士の甲斐太陽さんをご紹介しました。

ひとりでも多くの方に、甲斐さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。

この取材は、ご本人様・施設様から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

リハノワは、株式会社Magic Shields様をはじめとするパートナー企業のみなさま、個人サポーターのみなさま、読者のみなさまのあたたかな応援に支えられて活動しています。これからも、リハビリの輪が広がっていくよう、みなさまからのご支援とご声援をいただけましたら幸いです。

※取材先や取材内容はリハノワ独自の基準で選定しています。リンク先の企業様と記事に直接の関わりはありません。

撮影=須崎綾音
取材・文=河村由実子(かわむー)

コメント

タイトルとURLをコピーしました