地域で暮らす高次脳機能障害の方々とともに歩む|言語聴覚士・長尾圭祐さん

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

今回は、千葉県鴨川市にある亀田リハビリテーション病院で、高次脳機能障害のリハビリテーションに携わる言語聴覚士の長尾圭祐さんにお話を伺いました。

この記事では、長尾さんが現在力を入れて取り組んでいることや、リハビリテーションを実践するうえで大切にしていることについて紹介します。

※ 亀田メディカルセンターリハビリテーション部門の紹介記事はこちら

言語聴覚士・長尾圭祐さん

◆長尾圭祐(ながお・けいすけ)さん
亀田リハビリテーション病院リハビリテーション室 副主任 / 言語聴覚士
愛知県名古屋市出身。2009年に愛知学院大学心身科学部心理学科を卒業後、言語聴覚士免許を取得。愛知県内の療養型病院で勤務した後、2012年に千葉県内の回復期病院に入職。2018年より亀田メディカルセンターにて勤務。


かわむー
かわむー

長尾さんは現在、亀田リハビリテーション病院のリハビリテーション室で副主任としてご活躍されていますが、そもそも言語聴覚士(ST:Speech Therapist)を目指されたきっかけは何だったのでしょうか?


長尾さん
長尾さん

もともと心理学に興味があり、高校卒業後はスクールカウンセラーや臨床心理士を目指して心理学科に進学しました。しかし、当時は臨床心理士がまだ国家資格ではなく、その道で生計を立てるのは難しいと聞き、進路について改めて考えるようになりました。

そんな中、大学の制度として、追加で科目を履修すればSTの資格取得を目指せる仕組みがあることを知ったんです。その時点ではSTがどんな仕事をするのか正直あまり分かっていませんでしたが、国家資格という安心感もあり、履修を決めました。

実習を重ねるうちに少しずつSTの面白さを感じるようになり、「この道で頑張ってみよう」と、STとしてのキャリアをスタートさせました。

最初に就職したのは、地元の療養型病院でした。給与面では恵まれていましたが、患者さんの多くが摂食・嚥下のリハビリテーションを積極的に進められる状態ではなく、高次脳機能障害(※)の患者さんも少ない状況でした。

そこで3年間勤務する中で、「言語聴覚士としてもっと幅広い経験を積みたい」という思いが強くなり、結婚を機に千葉へ引っ越したタイミングで回復期病院へ転職しました。


かわむー
かわむー

回復期病院に転職されてからは、働き方などさまざまな変化があったのではないでしょうか。転職後に印象に残っていることなどがあれば、ぜひお聞かせください。


長尾さん
長尾さん

転職先の回復期病院には、経験豊富なSTの先輩やリハビリ科の医師がいらっしゃり、本当に多くのことを教えていただきました。

先輩方や医師から教わり、特に心に残っているのは、「機能だけにとらわれず、生活の視点を大切にすること」や、「退院後のADLやその先の人生を見据えて、リハビリプログラムを考えること」です。

リハビリテーションは、その場だけの成果を追い求めるものではなく、患者さんの人生に寄り添い、長い時間をかけて伴走していくものだと気付かされました。

毎日が新しい発見の連続で、とても充実した日々でした。

※ 高次脳機能障害
脳損傷に起因する認知障害全般を指し、この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれる。

出典:「令和4年版 高次脳機能障害診断基準ガイドライン」(厚生労働省)

高次機能障害とリハビリテーション

かわむー
かわむー

回復期病院でご活躍されていた長尾さんですが、亀田メディカルセンターに入職されたのには、どんなきっかけがあったのでしょうか。


長尾さん
長尾さん

プライベートの事情で千葉県の南部に引っ越すこととなり、そのタイミングで転職先を探すことになりました。

当初は介護領域も視野に入れていましたが、まだキャリア8年目ということもあり、成長できる環境でさらに多くの経験を積みたいという思いが強くありました。そんな中で、幅広い経験を積むことができる亀田メディカルセンターに魅力を感じ、転職を希望しました。

亀田については以前から知っており、組織の規模が大きく、セラピストの皆さんが非常に精力的に働いている印象がありました。正直、やっていけるか不安はありましたが、「そのような環境に身を置くことで、大きく成長できるのではないか」と考え、思い切って挑戦してみることにしたんです。

亀田での勤務は、関連施設である安房地域医療センターへの出向からスタートしました。そこで1年半ほど勤務した後、亀田総合病院に異動し、さらに1年半経験を積みました。そして、3年前に現在の亀田リハビリテーション病院に異動し、勤務を続けています。


かわむー
かわむー

現在、亀田リハビリテーション病院で力を入れて取り組まれていることがあれば、ぜひお聞かせください。


長尾さん
長尾さん

いま、亀田リハビリテーション病院では、千葉県から委託されている「高次脳機能障害支援普及事業の拠点病院」としての取り組みに力をいれています。

この活動を通じて、地域にお住まいの高次脳機能障害の方々やそのご家族とコミュニケーションをとりながら、より良い支援のあり方を模索しています。

高次脳機能障害のリハビリテーションでは、患者さんやそのご家族が生涯にわたって障害とどう向き合い、どのように生活を築いていくかを一緒に考えていくことが重要です。

病院内でのリハビリテーションにとどまらず、地域の中でSTがどのように働きかけ、支援の輪を広げていけるかを考えながら活動しています。

以前勤めていた回復期病院では、目の前の患者さんのことで精一杯でしたが、亀田に来てからは、地域全体を見据えたリハビリテーションのあり方を考えられるようになったと実感しています。

地域で活躍できるST

かわむー
かわむー

地域にお住まいの高次脳機能障害の方やご家族へのサポートを充実させたいという長尾さんの思い、とても素晴らしいと感じました。

長尾さんが、これから挑戦していきたいことがあれば教えてください。


長尾さん
長尾さん

高次脳機能障害支援普及事業の活動を通じて、家族会に関わる中で、退院後の生活について多くの声を伺う機会があります。

入院中はどうしても退院をゴールと考えがちですが、患者さんやご家族にとっては退院こそが新たな生活のスタートです。変化したご本人とどのように暮らしていくかは、退院後に直面する大きな課題です。

こうした課題に対応するためにも、私は「病院の外で活躍できるST」になりたいと考えています。高次脳機能障害について、社会全体で理解を深め、地域の方々を巻き込みながら支え合える仕組みを構築することに挑戦していきたいです。

病院内でのST業務にとどまらず、地域社会全体に目を向けて活動を広げることで、リハビリテーションの新しい可能性を広げていけたらと考えています。


多職種で伴走するために

かわむー
かわむー

日々リハビリテーションに取り組まれる中で、楽しみややりがいを感じるのはどのような瞬間でしょうか?


長尾さん
長尾さん

理学療法士(PT)や作業療法士(OT)の方々と一緒に、患者さんの自宅復帰をどう目指すか、どのようにサポートするかを相談しながら取り組むのがとても楽しいです。

たとえば、「STではこういう課題があるけど、PTやOTの視点ではどうだろう?」といった形で意見交換をすることがよくあります。

そうしたチームアプローチの中で、みんなで力を合わせて患者さんに向き合うことが、この仕事の大きなやりがいだと感じています。

STだけで机上の練習をしていても、患者さんの生活に寄り添った支援にはつながりにくいため、チーム全体で患者さんを支えることが重要です。

特にSTとして関わることが多い高次脳機能障害の分野では、STだけで何とかしようとするのではなく、いかに周りの力を借りて、協力しながらアプローチするかがとても大切だと考えています。


かわむー
かわむー

回復期病院においては、特にチームアプローチが重要になりますよね。現在、リハビリテーション室の副主任としてチームをまとめられている長尾さんですが、リーダーとして日々心がけていることや、大切にされていることがあれば、ぜひお聞かせください。


長尾さん
長尾さん

リハビリテーションの目的は、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることだと思うのですが、そのためにはまず、自分自身が元気でいることがとても大切です。

自分が辛かったり元気がなかったりすると、その気持ちはどうしても患者さんに伝わってしまいます。

だからこそ、スタッフ全員が元気に楽しく働ける環境を整えることが重要だと考えます。特に若いスタッフにとっては、悩みや困りごとを気軽に相談できる雰囲気が欠かせません。そうした環境があってこそ、チーム全体で患者さんを支える力が発揮されると思っています。

リハビリテーションは決してひとりで完結する仕事ではありません。目の前の患者さんだけでなく、亀田グループ全体の患者さんを支えるために、みんなが前向きに仕事に取り組める職場を目指して、これからも努力していきたいと思います。

リハビリに励む方へメッセージ

かわむー
かわむー

最後に、リハビリテーションに取り組まれている当事者の方々へ、長尾さんからぜひメッセージをお願いできますでしょうか。


長尾さん
長尾さん

STは高次脳機能障害の専門家ではありますが、実際に患者さんやご家族と24時間ずっと一緒にいられるわけではありません。それだけに、私たちができることには限りがあると常に感じています。

その中で、私たちが目指しているのは、患者さんやご家族とともに高次脳機能障害について本当の意味で理解を深めていくことです。高次脳機能障害は、運動麻痺のように目に見えるものではなく、非常に分かりづらい部分も多い障害です。

ご家族が十分に理解できていないこともあれば、当事者の方自身が自分の状態を把握しきれないことも少なくありません。

だからこそ、「高次脳機能障害にどう向き合っていくか、どのような解決策があるかを一緒に考えていきましょう」とお伝えしたいです。

私たちは、患者さん一人ひとりのペースに寄り添いながら、その方にとって最適な方法を模索し、伴走し続けます。


かわむー
かわむー

長尾さん、素敵なメッセージをありがとうございました。

「どう向き合っていくかを一緒に考えていきましょう」という言葉がとても印象的でした。

患者さんやご家族とともに悩み、寄り添いながら歩んでいく長尾さんの姿勢は、多くの方に希望と安心を届けていることと思います。

高次脳機能障害の課題に真摯に向き合い、地域とつながりながら新たな可能性を切り拓いていこうとされる長尾さんの挑戦に、大きな刺激を受けました。

リハノワはこれからも長尾さんの取り組みを全力で応援しています。

本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。



かわむー
かわむー

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以上、今回は千葉県鴨川市にある亀田リハビリテーション病院で、高次脳機能障害のリハビリテーションに携わる言語聴覚士の長尾圭祐さんを紹介しました。

ひとりでも多くの方に、長尾さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。

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