みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、つくば公園前ファミリークリニックの院長で、小児整形外科医の中川将吾さんを取材しました。
中川さんは、小児整形外科医として病院での診療や小児リハビリの研究に携わられた後、2022年に遊ぶことが健康につながるクリニック「つくば公園前ファミリークリニック(通称 ファミリハつくば)」を開院しました。
本記事では、中川さんが感じていた小児医療現場の課題やファミリハつくばの誕生秘話、これからの小児医療やリハビリテーションに対する熱い想いを紹介します。
医師・中川将吾さん
◆中川将吾(なかがわ・しょうご)さん
1983年生まれ、石川県能登半島出身。2003年に筑波大学医学専門学群医学類に入学し、2009年に医師免許を取得。京都の病院で初期研修修了後、筑波大学整形外科に入局。2016年に整形外科専門医を取得した。2020年より茨城県立医療大学講師を経て、2022年につくば公園前ファミリークリニック開設、院長に就任。
現在、地域に密着したクリニックの院長として大活躍中の中川さんですが、そもそも医師を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
兄が放射線技師として病院で働いたのがきっかけです。少しずつ医療に興味を持つようになり、理学療法士、薬剤師、医師、いろんな職種を知る中で、自然と医師を目指すようになりました。
整形外科を志望したのは高校時代に取り組んでいた陸上競技がきっかけです。陸上では八種競技という、走る、投げる、跳ぶなど、多くの身体能力が求められる種目を専攻していました。怪我が多く、特に繰り返し起こる足首の捻挫には悩まされました。
大学は陸上部が強いという理由から、筑波大学の医学部に進学。大学入学後はとにかく部活動に励む日々を送りました。
八種競技は、100メートル競走、200メートル競走、100メートルハードル、走り幅跳び、砲丸投げ、やり投げ、走り高跳び、1500メートル競走の合計点で競う競技。
八種競技に取り組む中で、体の動かし方や使い方についてたくさん向き合われたご経験は、いま、子どもたちの運動発達に関わる中でかなり活かされていそうですね。
整形外科を志望して大学に進学された中川さんですが、小児領域に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
学生時代、小児科志望の友人の話を聞く中で、小児医療に興味を持つようになりました。
子どもたちのためのボランティア活動に参加したり、整形外科領域の子どもの疾患ってどんな感じだろうと小児整形外科学会に参加したりしました。学会では、大学で習わないようなことがたくさん議論されており、もっと学びたいと感じるようになります。
医学部6年生の時には、小児整形外科で有名なこども病院に見学に行きました。そして、大学を卒業する頃には「走りたくても走れない子どもたちを救いたい」と、小児整形外科医を志望するようになります。
初期研修先には、小児整形外科で有名な先生を訪ねて京都の病院を選びました。その後、筑波大学の整形外科に入局し、まずは外傷チームで約5年間トレーニングを行いました。忙しい日々でしたが、とても充実していたように思います。
2016年に整形外科専門医を取得し、小児整形外科を専攻。少しずつ、小児整形外科医が専門とする股関節脱臼や斜頸、側弯症の診療にあたるようになりました。
遊ぶことが健康につながる
2016年頃から本格的に小児整形外科医として活躍されるようになった中川さんですが、当時、臨床で感じていた課題や、リハビリについて考えるきっかけとなった経験などがあれば教えて下さい。
小児整形外科医として歩みだした当初は、「小児整形外科医として手術で1番になる!」と意気込んでいました。しかし、医師8年目で大学院にいった際にいろんな論文を読む中で、次第に「手術の成績が子どもの人生に与える影響はそんなに大きくないかもしれない」と感じるようになります。
大学院の研究テーマはリハビリにしました。茨城県つくば市に本社のあるCYBERDYNE(サイバーダイン)のロボットスーツ「HAL®(Hybrid Assistive Limb®)」を使って、脳性麻痺の子どもへの適応について調査したのです。
低年齢児に対する小型のHAL®ができて間もない時期だったので、その研究は私が一人目でした。研究の結果、HAL®を着用した歩行練習後は長期間にわたり効果が持続することや、小型のHAL®も安全に使うことができ、効果が得られることが明らかとなりました。
脳性麻痺の子どもの訓練前後の歩行動作の違いを比べると、感覚とリズムの取り方に違いがあることが分かりました。子どもの自発的な運動の調整を行っていたのが、HAL®だったのです。
だとすると、「外から力を加えている運動方法では効果は得られづらい。子どもにとって、リハビリは自発的に動くことが重要だ」と考えるようになりました。
子どもに自発的に動いてもらうには、「遊び」がポイントとなります。
「遊ぶことが健康につながる」という、ファミリハつくばのコンセプトの原点が見えたような気がします。
赤ちゃんや子どもを対象としたリハビリというと、やはりコミュニケーションの難しさが生じてくるかと思います。子どもが自発的にリハビリできる環境の実状はいかがでしょうか。
以前、私がかかわっていたある病院で、リハビリを受ける子どもが装具で関節をガチガチに固めた状態で歩いているのを目にしました。それが原因で関節を痛め、その後、手術になったケースもあります。
きっと、手術まではいかないにせよ、このような状況は全国各地でも起きているのではないかと思いました。
「本当は無理なく動きを練習すれば装具は必要ないはずなのに…」「手術にならないと自分の力を発揮できないなんて…」と、私は次第に手術一辺倒な病院での働き方に悶々とするようになります。
そして、このような現状をなんとか変えたいと、2020年、「遊ぶことが健康につながるクリニック」を開業することを決意しました。
ファミリハつくば誕生
ファミリハつくばの開院にあたり、中川さんが大切にされたポイントなどあれば教えて下さい。
どうやったら子どもやその家族が通いやすい場所になるのか、仲間を集めてたくさん議論しました。この過程がとても大切だったように思います。
医療機関がつらく怖い場所ではなく、子どもたちが「またあそこに行きたい!」と思えるような、病院っぽくない空間にしたい。働くスタッフたちも楽しくなるような仕掛けづくりがしたい。そのような思いで、じっくりと話し合いをすすめました。
最終的には、「子どもと大人が一緒になって体を動かし遊ぶことが健康につながるクリニック」にしようと決まりました。
「BE PLAYFUL!(夢中になろう!)」を合言葉に、公園や遊園地のようなメディカルテーマパークの実現を目指し、2022年5月、茨城県つくば市にクリニックをオープンしました。
実際にクリニックにお邪魔して、その空間の居心地の良さに大変感動しました。空間づくりでこだわられたポイントはどういったところでしょうか。
また、現在力を入れられているリハビリや外来での取り組みもあれば教えて下さい。
待合室に関しては、待つ時間が楽しくなるように、どこに座ってもいいし動いてもいい、誰にとってもそれなりに心地よい空間づくりを心がけました。
くぼんだ芝生の本棚では、寝転んで本が読めるようにしたり、階段下の秘密基地には、おもちゃや本を持ち込んで自由に遊べるようにしました。また、赤ちゃんが自由に動いたり、ごろごろしたり休んだりできるような小上がりスペースも作りました。
2階にあるリハビリ室は、主体性をもって取り組めるような空間づくりを意識しました。プラットフォームは置かず、スポーツジムのようなトレーニングマシーンを多数導入しました。
また、ファミリハつくばの象徴ともいえる柱状のボルダリングは、子どもに大人気です。ここでは、遊びながらボディバランスやボディイメージを鍛えることができます。
保険内の取り組みとしては、小児整形外科やご家族のサポートをメインとした診察とリハビリを行っています。
1時間1500円の保険外リハビリは、小さなお子さんの発達支援、スポーツ障害、産前産後のお母さんのケアを目的としたママリハなどを行っています。
その他、地域の子どもやその家族、子どもを支える方々をサポートするために、月1回の子ども食堂や市民講座、児童発達支援への出張相談や保育士支援、ピアサポートを目的とした親の会の企画運営などを行っています。
(詳しくは施設紹介記事をご覧ください)
地域での暮らしに目を向けて
たくさんの活動に取り組まれている中川さんですが、今後さらに挑戦していきたいことがあれば教えて下さい。
子どもたちを包括的にサポートできる環境を整備したいので、まずはクリニックの近くに保育園を開所したいと考えています。
その他、もっと周囲の自然を活かして遊べるような場所を作ったり、農業や狩猟を体験できる食育の場を作ったり、限られた動きしかしないスポーツではなく、子どもがもっと自由な発想で身体を動かしたいように動かせる場所を作っていきたいと考えています。
最近は、クリニックの運営のみならず、もっとたくさんの子どもたちやその家族にアプローチするために、地域での暮らしの中に健康になる仕掛けづくりをしていきたいと考えています。
また、それらは作って終わりではなく、しっかりと研究もすすめて、学会等で発表して社会にアピールしていくことが重要だと考えています。
やりたいことがたくさんあるので時間が足りないくらいですが、ひとつずつ、できるところからしっかりと取り組んでいきたいと思います。
中川さんが思い描かれていることは、まさに「まちづくり」そのものですね。地域を変えていく壮大なチャレンジですが、それらを楽しみながら進めているのがとても印象的でした。周りのスタッフさんも本当に素敵な方々です。
リハビリに励む方へ
最後に、リハビリに励んでいるお子さんやご家族に向けてメッセージがあればお願いします。
子どもたちのリハビリテーションを考える際に私が大切にしているのは、大人が邪魔をしないことです。「こうあるべき」と目の前にいる子の意見を無視した方向に誘導してしまったり、あれもだめ、これもだめと抑え込んでしまったりしないようにすることが重要です。
親御さんにはぜひ、子どもたちが楽しんでやっていることを、ゆっくりと見守って欲しいです。
リハビリテーションとは、子どもの成長過程や人生そのものに向き合うことだと考えています。周りの人とも協力しながら、子どもの力を目一杯引き出し、道を示してあげたいですね。
子どもたちには、一言。
「自由に楽しむ!」
これを大切にして欲しいです。
子どもの可能性を信じて、余裕を持つことが大切なのですね。
実際に2人のお子さんを持つお父さんでもある中川さん。診療のときも、親御さんの目線に立ってお話される姿や、子どもたちに優しく話かけ、一緒になって遊んでいる姿がとても印象的でした。
「こんな施設、あったらいいな」を実現しようと走り続けているファミリハつくば。今後のさらなる挑戦が楽しみでなりません。
リハノワはこれからも、地域から愛されるファミリハつくばさんを心から応援しています。
本日は、貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
<関連記事>
・ファミリハつくば紹介記事
・作業療法士・鳴海勝太さん
ぜひ合わせてご覧ください。
撮影:ひろし
以上、今回はつくば公園前ファミリークリニックの院長で、小児整形外科医の中川将吾さんを紹介させていただきました。
ひとりでも多くの方に、中川さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
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