介護経験から服づくりに挑戦!言葉にならない感情に寄り添い続ける科学的 “ケア衣料”の出発点|笈沼清紀さん

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

本日は、東京都を拠点に活動されている株式会社ケアウィルの代表「笈沼清紀(おいぬま・きよのり)さん」をご紹介します。

笈沼さんは、ご自身のお父様の介護経験から、現在は服に不自由を感じている人に向けた「ケア衣料」の事業に取り組まれています。

実際に事務所にお邪魔し、服づくりの過程や製品、創業のきっかけや服づくりに対する熱い思いを伺ったので、写真も交えながらその魅力をお伝えしていきたいと思います。

(ケアウィル紹介記事はこちら

ケアウィル代表・笈沼清紀さん

◆ 笈沼清紀(おいぬま・きよのり)さん
1981年東京都出身。株式会社ケアウィル代表取締役。学習院大学経済学部経済学科卒、Hult International Business School MBA(経営学修士)。新卒で日本総研にてITコンサルティング、SMBC日興証券にてM&Aアドバイザリーに従事し、楽天に入社。ケンコーコムへ出向、執行役員として事業マネジメントに従事。その後は、ジンズ執行役員として経営企画、事業開発を管掌、KDDI革新担当部長としてEコマース戦略立案・実行に従事。マネジメントの傍ら、父とともに認知症による13カ月間の入院、5年の介護、20年の闘病の日々を過ごす。そこで提供された商品・サービスに違和感を抱き、父の死後、デザインと機能を兼ね備えたケア衣料の開発を服飾講師である母と開始。2019年9月(株)ケアウィル設立。

服作りの原点と介護経験

かわむー
かわむー

ビジネスマンとして第一線でご活躍された後に、お父様の介護がきっかけでケアウィルを創業された笈沼さんですが、なぜ服づくりだったのでしょうか。


笈沼さん
笈沼さん

服づくりの原点は、私の母が服飾学校の教員をしていたことにあります。私は幼少期の頃、自宅で古いミシンやトルソー、たくさんの服に囲まれた環境で育ちました。毎晩遅くまで服づくりに励む母の姿を見ていたので、服づくりはとても身近なことでした。

大学卒業後は服づくりとは全く違う世界に飛び込みますが、父の介護がきっかけで母と一緒に起業することを決意しました。


かわむー
かわむー

大きなきっかけとなったと思われるお父様の介護について、可能な範囲でお聞かせいただいても宜しいでしょうか。


笈沼さん
笈沼さん

父は、私が高校生の頃からある精神病を患っていました。病気を発症してしばらくは母や私が支えとなり自宅で生活していましたが、私が30歳を迎える頃、父は介護が必要な状態となり介護施設へ入所することになります。

入所して5年が経過した頃、アルツハイマー型認知症を発症したことがきっかけで自宅近くの精神病棟に入院することになりました。不安定な感情の起伏からくる言動や徘徊に、介護施設では対応できなくなったのです。

入院後、父の状態は徐々に悪化。そして、13ヶ月が経過した2019年の1月2日、父は75年間の生涯を終えました。

父が亡くなった後、1年以上病院に通い続けた私と母には、一つだけ心残りがありました。それは、入院中に着る服のこと。父が病院から与えられた無機質で画一的な病衣は、当時の私達の目には囚人服のように映っていました。


多くの “あきらめ” からの出発

かわむー
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入院後、徐々に状態が悪くなるのを間近で見られてとても辛かったことと思います。

お父様の着ていた病衣に違和感を感じた、囚人服だと感じられた具体的なエピソードがあれば教えてください。


笈沼さん
笈沼さん

父が精神病院に入院して最初の2か月間、母は父が好む着替えやすい服を病室に届けていました。

「襟を広く仕立て直したセーター」や「前開きのボタンシャツ」「オムツでも着られるような大きめのサイズのウェストを直したズボン」を持ち、母はバスを2本乗り継いで片道50分かけて父の病室に通いました。届けては回収し、洗濯してはまた届けるというのを続けたのです。

そんなある日、病院長が変わり「レンタル着のご案内」という手紙が家に届きました。そこには「なお、お申し込みされない方は、感染予防のため、衣類の洗濯物の回収•補充を毎日お願いします」と書いてあります。

離れた場所に暮らす家族が、毎日服の回収・補充をすることは容易ではありません。

当初、母は「父が着たい服を着させてあげたい。家にいた時の服だから元気になるでしょ!」と言い頑なでしたが、私は母の負担を考え、「レンタルを利用した方があなたが楽になる。あなたに身体を壊されては困る」と伝えました。

私たちは、父に着たい服を着てもらうことを ”あきらめ” ざるを得ませんでした。

それをきっかけに、母の父への訪問は半減します。



かわむー
かわむー

病院に入院するとどうしても様々な制限がでてしまうため、「せめて服だけは!」とお父様のことを想い、毎日通い続けられたお母様の気持を思うと、とても胸が痛みます。


笈沼さん
笈沼さん

病衣になって以降、父を見舞うために病院に伺った際、私は驚きました。ほとんどの患者さんが同じ服を着て過ごしているため、遠目に見ると父ということに気づけないのです。

父の状態は日に日に悪くなりました。入院して7カ月が過ぎた頃、認知症に統合失調症の悪化も重なり、面会しても3回に1回は私のことを誰だか分からない状態になりました。目の前で何かを掴むようなしぐさや幻覚を訴えるようになり、会話は成り立ちません。

9カ月を過ぎた頃からはさらに症状が悪化。私と母のことは全く分からず、戦時中の出来事や歴史上の人物の話を脈略無くつぶやくという状態になりました。食べ物も徐々に飲み込めなくなり、流動食になります。

さらにその1カ月後には流動食も飲み込めなくなり、医師のアドバイスにより点滴に切り替わりました。排泄や着替え、歩行も困難となり、ヘルパーさんの介助なしでは生活ができません。

そしてこの頃から、病衣は「つなぎ服」に変わります。

色はグリーンのチェック。本人がジップを開かないように、首もとでロックされていました。

私は、つなぎ服を着た父を見てとても悲しくなりました。父の尊厳が、点滴や胃ろうに加え、着ている服により奪われていく気がしたのです。

あの時の悲しみを、私は一生忘れることはありません。



かわむー
かわむー

私も病院に勤務していたため、やむお得ず服が変更された状況というのは推測できますが、笈沼さんのつなぎ服に対する違和感悲しみというのも本当に痛いほど分かります。

病気があろうと、会話が通じなかろうと、笈沼さんやお母様にとってお父様は変わらずとても大切な存在。そんな大切な人の尊厳が奪われていく状況を、医療従事者としても何とかしなくてはなと感じました。


笈沼さん
笈沼さん

つなぎ服姿の父との面会を終えた帰り道、私はFacebookで「自分のみ」の非公開投稿で以下のメモを残しました。

人の尊厳を守り、生きることを諦めさせない服。自分を前向きにさせる色、形、それは視覚にとどまらず、素材、触感、重さ、複合的に、気持ちに作用する。心に訴える、無機質な病棟に、生きる楽しさを感じ、家族とつながれる服

私は気がついたら、スマホに思うままに書き綴っていました。このメモこそが、その後、ケアウィルの製品に変わってゆくこととなります。


はじめの第一歩

かわむー
かわむー

笈沼さんの原点をお聞きし、ケアウィルが人の負(服の不自由)の部分に誠実に寄り添い続けられる理由が分かりました。時間はかかるけれど、それを少しずつ解消しながら当たり前の状態に近づけていこうとするスタンスがとても素敵です。

ケアウィルを起業されてからの歩みを教えてください。


笈沼さん
笈沼さん

私は、ケアウィルは「ご本人の意思を大切にしながら共に日々の自信と自分らしさを取り戻し、希望が育まれていく」そんなブランドでありたいと思っています。

母とともに立ち上げた事業は、2019年「オーダーメイドの服づくりみんなの入院着)」からスタートしました。ケアウィルが大切にするクラフトマンシップの原点でもあります。

しかし2020年初頭、新型コロナウィルス感染症の第一波が到来。対面での採寸やヒアリングを行うことができなくなったことから、オーダーメイドの形態を継続するのが難しい状況となります。

さらに、服の不自由を抱えている方のオーダーメイドを行う中で、私は傷病に関わらず上着の着脱には共通の不自由があるということに気がつきました。市場調査を進める中で、それはより明確なものへと変わっていきます。

そのような状況から、労働集約的ではない「量産品」を新たな事業の柱にしようと戦略を転換することにしました。


ゆとりを基調とした「アームスリングケープ」
主に回復期・生活期にある片麻痺、肩亜脱臼、腱板断裂・損傷、重度の肩痛対象とする。
固定を基調とした「アームストラップシャツ」
主に急性期・回復期(前期)にある片麻痺、肩亜脱臼、腱板断裂・損傷、重度の肩痛、腕・肘・手首・鎖骨の骨折を患う方々を対象とする。


かわむー
かわむー

そのような状況から、現在の製品である「アームストラップシャツ」「アームスリングケープ」「カスタムTシャツ」の開発が始まったのですね。

ケアウィルの製品は対象・用途が明確化され尚且デザインにこだわられているので、とても凛としていて素敵だなと感じます。製品のアイデアは、どのようにして生まれているのですか?


笈沼さん
笈沼さん

今までの服のアイデアは私がすべて発案しています。ノートにラフな絵を描くことから全てが始まります。ただし私の場合、アイデアは事実をもとに論理的に考えます。事実とは、傷病と服の着脱にともなう動作の深い観察から見えてくるものや、仲間が行う研究の結果です。

また、開発では製品を作りこまずにトワルの段階でエバンジェリストユーザー(服の不自由に悩む傷病を抱えた方々)に試着してもらい、厳しい意見をもらうことも大切にしています。それにより、アイデアはより具体的な機能、意匠(デザインの工夫)に昇華します。

ケアウィルの服づくりでは、服飾のパタンナーやデザイナーに加え、作業療法士・理学療法士・看護師・介護福祉士などの医療介護専門職も関わっています。


戦略は転換しましたがオーダーメイドの事業も継続しています。この事業は私の原点であり、ハートのありかを常に感じられるものであることは確かです。

現在、オーダーメイドはケアウィルの関係者やそのご紹介で注文をいただいています。今でも変わらず、私の母と教室の生徒が丁寧に作りお客様へお届けしています。「アームスリングケープ」「アームストラップシャツ」といった量産品とは違い一着一着にストーリーがあります。


専門家を驚かす “変態力”

かわむー
かわむー

ケアウィルでは、各領域のスペシャリストと服の不自由を抱える当事者の方とともに開発を進められているのですね。感性が重視されていそうなアパレル界で、論理的な服づくりをされているというのは個人的に非常に興味深いなと思いました。

さらに、動作観察を仕事とする理学療法士としては「傷病と服の着脱にともなう動作の深い観察」というのも非常に気になります。


笈沼さん
笈沼さん

エバンジェリストユーザーの方々は、この動きで痛みがあるということを丁寧に教えてくれます。しかし、多くの方が服としての解決策は持ち得ていません。そのため、彼・彼女らの動作をじっくりと観察しながら、分析していく必要があるのです。

各関節がどの角度の時に痛みが発生するのか、複合的にじっくりと観察します。そのため、私は骨や筋肉などの解剖学を一から勉強しました。勉強は苦ではなく、ユーザーさんのことを思っていたら自然と学んでいました。

多くの方のヒアリングと動作観察の結果は、いくつかのグラフに落とし込み分析していきます。



かわむー
かわむー

まさに、されていることは理学療法士や作業療法士と同じですね!びっくりしました。(肩関節の機能解剖や運動学は難易度が高いのに、本当すごすぎます。。。)

製品に対するこだわりや情熱、とことん追求される姿はまさに良い意味で変態的。非常に魅力的です…!


笈沼さん
笈沼さん

ありがとうございます(笑)変態というのは最高の褒め言葉だと思っています。論理的に考えたり分析したりするのは、もともと金融やビジネス畑にいたので割と好きだし得意な方です。

ただ、面白いのは他のところにもたくさんあります。「ユーザーが答えを持っている」という言葉がありますが、私自身、エバンジェリストユーザーの方々と話す中で目から鱗な出来事がたくさんありました。新たな着眼点が増えたりアイデアが生まれたりするのです。

“当事者の声・アイデア・工夫といったところにしっかりとフォーカスしていきたい”

私はリハビリ専門職でも何でもないので、このようなコメントをするのは大変恐縮ですが、「本人らしさ」とか「自立性」をどう尊重するか、この考えこそがリハビリテーションにおいても大切な一面になるのではないかと考えます。

私は、服づくりを通してそこに真摯に向き合い続けていきたいです。


服づくりとリハビリテーション

かわむー
かわむー

笈沼さんがケアウィルの服づくりを通して目指す世界や考えそのものが “リハビリテーション” であり、関わる人の人生をより豊かなものにするのだろうなと可能性を感じました。

2019年に起業し服づくりをすすめてこられた中で、やりがいやを感じたエピソードや原動力となっていることなどあれば教えて下さい。


笈沼さん
笈沼さん

製品の開発段階や購入後に、服の不自由を抱えているご本人・ご家族さんからお電話やお手紙を通じて、「こんな服があるとは思わなかった」という驚きや、「リハビリに行く時に、これを病院の人達に紹介してあげている」「やっと形になりましたね!」という声をもらった時は、ものづくりの一体感を感じられてとても嬉しいです。

また、当初驚いたのが「私たちの声を聞いてくれたありがとう」という感謝返しの声です。私が感謝するのは当然なのですが、まさか感謝の言葉をいただけるとは思ってもいませんでした。作り手冥利につきます。

私のデザインに対する評価基準はシンプルで、服の不自由を抱えた方が「良い」と言ってくれればそれが全てです。その評価こそが、原動力になっています。



かわむー
かわむー

ユーザーさんからの愛が感じられて、私まで嬉しくなりました。

SNS等での発信も通して、ケアウィルは仲間同士の愛や繋がりも非常に良さそうだなと感じています。笈沼さんがケアウィルの組織づくりで工夫されている点は何ですか?


笈沼さん
笈沼さん

その人の「意思」をとにかく尊重するようにしています。

今のフェーズは、特に創業者の想いや熱量が事業を前進させる原動力になることは当然なのですが、「笈沼と一緒に働きたいから」という私へ向いた動機ではなく「ケアウィルのビジョンや取り組みに共感している」という根っこがあり、その上でケアウィルが求めている仕事とその方が挑戦したいことがマッチすることが大切だと思っています。

また、私は代表としても組織づくりおいても「あけっぴろげ」にするのが一番大切だと考えます。もちろん厳秘事項もありますが、内部ではslackや時にはtwitterを通じて、私が日々何を考えどう行動していて、何を感じたかをタイムリーに共有しています。

もちろんその内容の全てが伝わっているとは思いませんが、良いことも悪いことも全てオープンにしています。それによってメンバーからのアドバイスが得られ、私が偏った判断をするリスクを抑えられます。「経営者」として成長することができます。


今後の展開

かわむー
かわむー

最後に今後の展望を教えてください。


笈沼さん
笈沼さん

ケアウィルは、確実な機能性と着心地の良さを基本に、幅広い人に対応するフレキシブルなデザインの提供、品質と価格の安定を目指した量産化、そして将来的にはレンタルも含めたサービスの整備をしていきたいと考えています。

また、ケアウィルでは縫製技術を持つ高齢者の方々を組織的に雇用することも目指しています。

1976年以前に服飾学校を卒業した方々は、高度な縫製技術を持っているにも関わらず中卒扱いでした。技術を使って仕事をしたいと思っても、専門学校卒の資格がないので職に就けなかった、もしくは正当な雇用条件の仕事に就けなかったのです。人生100年時代、私はそこを少しずつ変えていきたいと考えています。

まだまだ模索段階のこともありますが、 多くの方と手を取り、服づくりを通じて人々が現在の社会にあるさまざまな限界や境界線を感じることなく、自由に過ごせる環境を整えていきたいです。


かわむー
かわむー

縫製技術を有する高齢者の方々の現状は知りませんでした。多くの社会課題に対する取り組み、今後の展開も非常に楽しみです!

私自身、服には言葉では伝えられない感情を表現したり、目に見えない力が宿ったりすることがあると感じます。今回話しをお聞きしながら、ケアウィルの「ユーザーの言葉にならない感情に寄り添う」そして「作り手の想いが込められた服づくりを行う」姿勢にとても魅力を感じました。


笈沼さんのTwitterや公式noteでは色んなことを「あけっぴろげ」にされているので、これからもケアウィルの動向をチェックさせていただきたいと思います!

笈沼さんはじめ、ケアウィルに関わる全ての方の今後のさらなるご活躍を祈念しております。本日は、ありがとうございました。


かわむー
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笈沼さんとケアウィルのSNS・関連情報

リハノワ記事_ケアウィル(会社紹介)
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・ケアウィルHP
・ケアウィルnote
・ケアウィルTwitter
・ケアウィルYouTube
・ケアウィルFacebook

ぜひ合わせて御覧ください



写真提供:ひろし(カメラマン/理学療法士)


以上、本日は株式会社ケアウィルの代表「笈沼清紀さん」をご紹介させていただきました。


一人でも多くの方に、笈沼さんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。




この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。


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※取材先や取材内容はリハノワ独自の基準で選定しています。リンク先の企業と記事に直接の関わりはありません。

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