「おでかけを諦めない」座談会レポート 〜誰もが居心地のよい社会を目指して〜

2024年2月13日、重症児デイサービスあべに〜る(広島県広島市)とリハノワは、「おでかけを諦めない」をテーマとしたオンラインイベントを開催しました。本イベントは、病気や障害があっても気軽におでかけするために必要なエッセンスについて考えることを目的に、車椅子ユーザー、建築士、デザイナー、リハビリ旅行療法士の4名からそれぞれお話をいただきました。

さまざまな視点からのお話を同時に聞ける機会ということもあり、会場は終始熱気に包まれ、多くの気付きや発見が得られる時間となりました。この記事では、それぞれの登壇者からのメッセージや当日の会場の様子をお伝えします。

イベント情報

開催日:2024年2月13日(火)19:30〜21:00
会場:Zoomによるオンライン配信
登壇者:
・高橋尚子さん(車椅子ユーザー)
・内野康平さん(一級建築士)
・内野いずみさん(デザイナー)
・中村翔さん(リハビリ旅行療法士)
主催:重症児デイサービスあべに〜る 小柳翔太郎
協力:リハノワ 河村由実子


ゲストトーク

心のバリアフリーの大切さ 〜当事者の目線から〜

はじめに、車椅子ユーザーを代表して、高橋尚子さんから「心のバリアフリーの大切さ」についてお話がありました。17歳のときに不慮の事故で頸髄を損傷し車椅子ユーザーとなった高橋さんが、「もっと外に出ていこう」と思えるきっかけとなったエピソードを紹介します。

厳しい日差しが照りつけるある夏の日、高橋さんは「美容室に行きたい」と思い立ちました。車椅子でない人も、初めての美容室は少し緊張するかと思います。車椅子で美容室に行くにあたり、高橋さんは「シャンプー台への乗り移りはどうしようか」「車椅子がそもそも受け入れられるのだろうか」とても不安だったといいます。

美容室は、お姉さまが予約をとってくれました。当日、現地に到着した高橋さんは驚きました。なんと美容室は2階にあったのです。エレベーターもありません。美容師さんが1階までおりてきてくれましたが、不安になった高橋さんは、「今日はやっぱり帰ります」と伝えて帰ろうとしました。

しかしその時、美容院の方が「男手はたくさんあるから、もし手伝ってよければ、2階までお連れしてもよろしいでしょうか?」と声をかけてくれたのです。階段の移動やシャンプー台への乗り移りなどを丁寧にサポートしてくれました。帰り際、髪もすっきりして笑顔になった高橋さんに向けて、美容師さんは「また遊びにきてね」と優しく伝えてくれたそうです。

その日をきっかけに、高橋さんは積極的に外に出かけるようになりました。

「車椅子になって一人で自由に出かけられないのは悲しかったけど、支えてくれる人の『心のバリアフリー』を感じて、人生観が変わりました。誰かが手を差し伸べてくれることで解決するバリアがあるということを、心のバリアフリーの大切さを、私はこれからも伝えていきたいです」と力強いメッセージが伝えられました。

京都へ旅行した際の高橋さん。YouTube「しょうこちゃんねる」では、やさしさの輪が広がるように、心のバリアフリーについても多数発信されています。

設計・デザインの視点から考える「おでかけ」〜設計士・デザイナーの目線から〜

「おでかけを諦めない」をテーマに、ハード面からお話をしてくれたのは、設計・デザインを行う株式会社IS NEARの内野康平さんといずみさんです。おふたりは、現在、広島県広島市に建設中の革新的な重症心身障害児者支援施設「core」の設計・デザインを担当しています。

まずは、一級建築士の内野康平さんから、coreを例に、どんな方でも過ごしやすい設計についてお話がありました。

coreの完成イメージ

coreは、広島市中区にあった旧介護老人保健施設の1階部分をリノベーションして創られる総合的な支援施設です。フリースペースや食品製造業、飲食業が行えるように設計し、障害のある方やその家族への切れ目のない支援体制を構築しています。

coreの設計にあたり、内野さんは「未知なる使われ方を妄想しながら『設計を決めすぎない』ことを大切にした」といいます。変わっていける余白を設けることを重視し、設計するにあたっては障害を持つお子さんの親御さんにたくさんヒアリングを行いました。

ヒアリングでは、「福祉っぽくないのがいい」という声が多数聞かれました。「福祉っぽさとは、何だろうか」「福祉っぽくないとは、何だろうか」、内野さんの追究がはじまりました。誰もが過ごしやすい空間の設計にあたり、色、音、光(自然光やライト)、匂い、温度、手足からの感覚など、丁寧に考えていったそうです。

coreの完成イメージ


続いて、デザイナーの内野いずみさんからは、デザインの「無意識で感じる分かりやすさ」「かっこよさ」について実例も挙げながらお話いただきました。

「快適に過ごせる空間づくりとは」という問いに対して、「バリアフリーって余白なのかなと思っています。高橋さんのお話にもあった『心のバリアフリー』も、心に余白がないと気づけないし、行動にも移せない。余白が生まれ、やさしくなれる。そんな時間が流れる空間デザインを意識しています」と熱い思いが伝えられました。

内野ご夫妻が手掛けた種子島にある「暮らすように泊まる宿カモメ」。ここは、車椅子の方も来れるように空間を広く使い「バリアフリーのお宿」としてデザイン・設計が進められましたが、オープンしてみると、その設計・デザインがさまざまな方の使いやすさや過ごしやすさにつながりました。「誰もが快適に泊まれるという心地の良さが、お客さんの満足度の向上につながっています。バリアフリーは当たり前。そんな世界が広がっていくといいなって思っています」(内野康平さん)

車椅子で行けるおすすめ観光スポット〜リハビリ旅行療法士の目線から〜

「おでかけを諦めない」をテーマに、移動支援の観点からお話をしてくれたのは、HITひろしま観光大使(広島の魅力を発信するアンバサダー)として活躍する、リハビリ旅行療法士の中村翔さんです。

中村さんは、訪問看護ステーションに所属し、理学療法士として在宅でのリハビリテーションに携わる傍ら、旅行会社協力のもと旅行支援を行っています。また、中村さんが運営する広島の観光案内サイト「広島を旅する。」では、誰もが安心して外出や旅行を楽しめるような情報発信を行っています。

今回は、実際に障害のある方々が広島・宮島を旅する際のおすすめスポットや過ごし方、移動について紹介がありました。

まずは、広島市内から宮島までの行き方についてです。車やタクシー、路面電車(広島電鉄)、JR、フェリーを使って行くパターンが紹介されました。車椅子ユーザーの方の移動として、中村さんのおすすめは「路面電車」か「車」移動とのことです。路面電車には低床車両があり、電光掲示板にも車椅子マークが表示されます。宮島口駅から宮島へ渡るフェリーについては、2社(JR、松大汽船)の違いについて説明がありました。

続いて宮島での過ごし方として、厳島神社の観光、もみじ饅頭手焼き体験、TOTO宮島おもてなしトイレでの休憩、宮島水族館(みやじマリン)での娯楽、みやじま杜の宿や水羽荘での食事情報が紹介されました。車椅子やベビーカーでの移動、多目的トイレ、休憩室、食形態の変更に関するポイントについても説明があり、参加者からは「行ってみたい!」「知らなかった!」などの声が聞かれました。

質疑応答タイムでは、中村さんに対する質問が多数寄せられました。

旅行支援をする際に心掛けていることに関して、「以前、家族が良かれと思って外出したけれど、実は本人は乗り気ではなかったというケースがありました。本人の意志や思いに寄り添うことが何より大切です」と、ご本人との信頼関係の重要性が示唆されました。思いの押し付けではなく、その先にある人の想いを尊重することについて考えさせられる時間となりました。

広島市内から宮島口を走る路面電車(低床車両)

参加者の声

イベントに参加した方からは、

「障害や病気があっても、こうやったらおでかけできるんだ!」
「宮島、観光してみたい!」
「このような空間デザインや配慮をすることで、誰もが自然と集える場所になるんだ!」
「バリアフリーって余白なんだということに改めて気付かされました」

といった声が聞かれ、ハード面やソフト面からのアプローチについて幅広く学ぶ機会となったことが伺えました。

まとめ

今回のトークイベントでは「おでかけを諦めない」をテーマに、車椅子ユーザー、建築士、デザイナー、リハビリ旅行療法士、それぞれの視点からお話をいただきました。障害の有無に関わらず、誰もが自然と集まる場所やコミュニティの要素として、「心のバリアフリー」や「余白」「無意識で感じる分かりやすいデザイン」が大切になることが分かりました。


今回、共同開催いただいた重症児デイサービスあべに〜るは、広島県広島市に革新的な重症心身障害児者支援施設「core」を作るために勢力的に活動されています。「core」は、健常者が障害者と関わる機会が少ない日本社会や諦めざるを得ない状況を変え、障害の有無に関わらず、誰にとっても居心地の良い社会の実現を目指しています。重い障害をもつ子どもとその家族が気軽にお出かけができたり、重い障害をもつ子どもが生まれても親が自分のキャリアを諦めたりしなくてよい社会、それはきっと、どんな方にとっても生きやすい社会だといえるでしょう。2024年の夏に完成予定ですので、広島を訪れた際にはぜひお立ち寄りください。

リハノワは、「core」がたくさんの人に愛され、一緒になって成長していく豊かな場所になることを心から願っています。

広島市中区にある原爆ドーム
広島名物のお好み焼き



登壇者プロフィール

◆ 高橋尚子(たかはし・しょうこ)さん
株式会社CREIT 代表取締役 

1993年熊本県出身。幼少期から卓球をはじめ、全国の舞台で活躍していた。2011年(17歳当時)に不慮の事故で頸髄を損傷(C6B2)し、四肢麻痺となる。2013年にリハビリ病院を退院後、単身で東京に行き、ひとり暮らしをしながら脊髄損傷者専門トレーニングスタジオ「J-Workout 」に通い、リハビリに励んだ。2014年に熊本へ戻り、自動車免許を取得。その後、Webデザイナーとして働く傍ら、2019年より YouTube「しょうこちゃんねる」の運営を開始した。2021年3月に株式会社CREITを設立、代表取締役に就任。一人ひとりの胸に“心のバリアフリー”が宿る世界を目指し、心地よいモノづくり・コトづくり・関係づくりに取り組む。著書に『生きる 一歩一歩前へ』(評言社、2022年)


◆ 内野康平(うちの・こうへい)さん
一級建築士

種子島生まれ/博多育ち/ハンドボール元U日本代表
福岡大学工学部建築学科卒
九州大学芸術工学府デザインストラテジー専攻在学中
積水ハウス勤務後、設計事務所にて勤務
——-
2018年 一級建築士事務所株式会社studioKANRO代表取締役
2020年 令和2年新進海外芸術家研修制度調査員
2022年6月 株式会社ISNEAR代表取締役

◆ 内野いずみ(うちの・いずみ)さん
デザイナー

鹿児島県生まれ/九州造形短期大学クラフトデザイン科染色コース卒業
福岡東京などでグラフィック/パッケージデザイン事務所勤務後
鹿児島県の種子島にてフリーランスでの活動開始

2022年6月 株式会社ISNEAR代表取締役
JPDA日本パッケージデザイン協会会員


◆ 中村翔(なかむら・しょう)さん
HITひろしま観光大使 / リハビリ旅行療法士 / 理学療法士

理学療法士免許を取得後、急性期および回復期病棟にてリハビリ業務に従事。現在は訪問看護ステーションに勤務する傍ら、リハビリ旅行療法士・HITひろしま観光大使として旅行会社協力のもと旅行支援を行っている。広島の観光案内サイト「広島を旅する。」を運営。 障がいの有無にかかわらず、誰もが安心して外出・旅行を楽しめるように、ブログを通して「情報のバリアフリー化」を目指している。





以上、今回は2024年2月13日に開催された「おでかけを諦めない」をテーマとしたオンラインイベントの様子をお伝えしました。

誰もが居心地の良い社会について、考えるきっかけとなれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!

かわむーでした。


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