みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、広島県広島市西区にある訪問看護ステーションリライフ井口で働く、理学療法士の中村翔さんにお話を伺いました。
中村さんは、シニアや障害のある方の外出・旅行をサポートをする「リハビリ旅行療法士」 としてもご活躍されています。
この記事では、リハビリ旅行療法士の活動やその裏にある思い、理学療法士として大切にしていることについてご紹介します。
理学療法士・中村翔さん


現在は、シニアや障害のある方の外出・旅行支援に力を注がれている中村さんですが、もともと理学療法士の道に進まれたきっかけは何だったのでしょうか?

最初に理学療法士という職業を知ったのは、サッカーをしていて靭帯を痛めた時でした。そのリハビリをする中で、理学療法士の方と初めて関わりました。
その後、決定的に「理学療法士になりたい」と思うようになったのは、高校時代に祖父が脳出血になったことがきっかけです。
祖父は人工呼吸器の管理が必要なくらい重症でした。重度の運動麻痺や失語症もあり、毎日一生懸命リハビリに取り組んでいました。
ICUに入室している時、祖父が朦朧とする中で「もう米が作れん、、」と話していたのを覚えています。でも、その後「美味しい米をまた孫に食べさせたい!」と田んぼの再開を目標に、一生懸命リハビリを頑張っていたんです。リハビリの成果もあり、祖父は無事家に帰れました。
その過程をずっと隣で見ていて、「リハビリってすごいな」と思いました。
作業療法や言語聴覚療法もある中で、なぜ理学療法士になるということを選んだかというと、祖父が寝たきりの状態だったのに歩けるようになったことにとても衝撃を受けたからです。
その時にサポートしてくれていた方が理学療法士だったこともあり、「理学療法士になりたい!」と強く思うようになりました。

「美味しい米をまた孫に食べさせたい」といって、辛いリハビリも一生懸命頑張られていたお祖父様。孫としてこんなに嬉しいことはないですね! 中村さんの原体験に触れられて、とても温かい気持ちになりました。


免許取得後の歩みや、現在の専門領域について教えてください。

理学療法士になって10年以上経ちますが、その半分以上は訪問リハビリに携わっています。
はじめは、学生時代から興味があった脳卒中を専門とする病院に就職し、そこで7年間、急性期から生活期までじっくり経験を積みました。特に前半の4年間は、発症直後の急性期から回復期のリハビリに注力し、5年目以降は訪問やデイケアなど、生活期のリハビリに従事しました。
そして今は、訪問看護ステーションに勤務し、利用者さんのご自宅でその人らしい生活を支えるお手伝いをしています。

急性期から回復期、そして生活期まで、本当に幅広くご経験されているのですね。
訪問リハビリに興味をもたれたきっかけは何だったのでしょうか?

きっかけは、上司に「訪問リハビリをやってみないか?」と聞かれたことから始まります。
病院内はホーム、病院外はアウェイみたいな印象が強かったため、最初はものすごく不安でした。でも、「病院の看板を背負って外に出るってことは、それだけ期待されてるってことかも?」と、自分なりに前向きに解釈して、「やります!」と即答したのを覚えています。
訪問リハビリでは、入院中とは違い、利用者さんの暮らしそのものに関われるのが大きな魅力です。しかも、利用者さんには事業者や担当者を選ぶ選択肢があります。その中で「この人にお願いしたい」と選んでもらえる存在でありたい、そんな思いが強くなりました。
緊張感は常にありますが、利用者さんのご自宅に伺い、その方の暮らしを支援できるのは、何より楽しく、やりがいを感じています。

たしかに、病院では「この人にお願いしたい」と思っても、実際に選べることってほとんどないですよね。
そんな中で、「選んでもらえる人になりたい」という思いを持ってリハビリに取り組まれているのは、本当にプロフェッショナルでかっこいいなと感じました。
中村さんのお話を聞いていると、やわらかくて温かいお人柄の中に、利用者さんへの深い思いや、まっすぐな行動力を感じます。


リハビリ旅行療法士とは

中村さんは「リハビリ旅行療法士」としてもご活躍されていますが、「リハビリ旅行」とは、一体どういったものなのでしょうか?

「リハビリ旅行」とは、障がい者≒バリアフリーというように単にバリアを排除するのではなく、利用者の方と立てたプログラムを電車・駅・温泉施設などを利用しリハビリの場として提供するものです。
「リハビリをしてから旅行に行く」のではなく、「リハビリをしながら旅行に行く」のです。
「リハビリプログラムを取り入れたオーダーメイドの旅行」みたいなイメージですね。
リハビリ旅行の最大のポイントは、医療従事者が携わっていることです。
旅行中に過介護になりすぎると、利用者さんの「自分の力や自分のペースで旅行をしたい」という意欲を奪うことになりかねません。そのため、普段からその方の身体の状態を把握しているスペシャリスト(医療従事者)が同行し、支援するというのに意義があると感じています。

バリアを逆手に取り、旅先でのリハビリの道具にしてしまおう!というのは非常に面白いですね。
「リハビリで機能が回復したら、また旅行に行きたい!」というのがモチベーションになっている方は非常に多いように感じます。「リハビリしながら旅行に行く」という発想がなかったので、非常に新鮮でした。
中村さんが資格をとられた「リハビリ旅行療法士」とは、リハビリ旅行を支援するセラピストということでしょうか?

「リハビリ旅行療法士」とは、リハビリ推進センター株式会社がリハビリ旅行を広めるため、その人材育成のシステム構築として作った民間の資格です。2013年の3月から理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師を対象に研修が開始となりました。
現在(2020年4月)は全国に80名ほどのリハビリ旅行療法士がいて、僕のいる広島県には、僕を含め2名の療法士がいます。
資格を取得するためには、在京研修と現地研修の2研修を終える必要があって、現地研修では実際に伊豆稲取温泉へ行きました。旅行に行く前の段取りから、実際の公共交通機関や旅館での対応・当事者になる体験などを通して、非常に多くのことを学ぶことができました。
資格を取得して、実際に「リハビリ旅行」の支援を行いましたが、今のところ日帰りでの企画がほとんどです。今後は利用者さんからの希望があれば、宿泊旅行にもチャレンジしていく予定です。

旅行を通じて主体性を引き出す

リハビリ旅行療法士として活動する中で、苦労したことや大変だったことはありますか?

旅行支援の際に大変なのは、旅館やホテル側との連携です。旅行前に問い合わせてみると、「和室が傷つくので車椅子は遠慮してほしい」「バリアフリーが整っていない」などという理由から、はなから断られることも少なくありません。
受け入れ側としては、ハード面はもちろんのこと、受け入れることへの不安が大きいのだと思います。そんなときは、「環境が整ってなくても、バリアがあってもいいですよ」「バリアがあるからこそリハビリの目標になりますよ」ということを伝えるようにしています。専門のスタッフがいればできることを、現場とすり合わせます。
また、利用者さんは旅行に行く直前や1週間前に緊張することが多く、体調を崩されることもあります。そのため、安心して参加してもらえるように精神的なフォローも欠かせません。
旅行会社、旅館やホテルのスタッフ、往診してくれる先生、ケアマネジャー、福祉用具専門員、いろんな方と連携しながらプランを立てる必要があるので、決して簡単なことではありませんが、利用者さんの旅行を終えた時の笑顔を見たときは「頑張って良かったなぁ〜」と、とてもやりがいを感じます。

旅館やホテルの方々も、「環境が整ってなくても、バリアがあってもいいですよ」と言ってもらえるのは、かなり心強いのではないかと思いました。
中村さんは、リハビリ旅行を通じて「利用者さんがどうなったらいいな」と思われますか?

「旅行に行くことができた」という事実が大きな自信となり、その人らしさや社会参加をどんどん広げていってもらいたいです。
以前、利用者さんが日帰りで家族旅行に行ったという話を聞きました。ただ本人は、「惨めだった」「ここまでしてもらって旅行に行きたくなかった」と言われていました。これまで一家の大黒柱だったプライドのある方なので、介護を受けながら行った旅行に、そう感じてしまったのかもしれません。せっかくの旅行なのに、そうなってしまうのは悲しいことですよね。
僕は、「本人が主体的に旅行に行って欲しい」と思っています。それに向けて、リハビリのプログラムを立て旅行に備えます。この準備が本当に大変なことなんですが、ここを念入りに本人や周りの人と行うことで、旅行後の達成感を共有することができます。
「旅行に行くことがすべてではなくて、その先を見据える」
これが一番大事なことだと思っています。
「行けるところ」へ行くのではなく、「行きたいところ」に導くのがリハビリ旅行です。旅行を通じて、その方の生きがいを見出すひとつのきっかけになればいいなと思っています。

旅行の準備段階からその先を見据えてプランを立てていかれているのですね! リハビリ旅行、非常に奥が深くてやりがいがありそうです。
リハビリ旅行を通して利用者さんに生きがいを与え、その人らしさを追求されている中村さんの姿、とっても素晴らしいです。
今後さらにリハビリ旅行のスペシャリストが増え、全国各地で連携が強化されると、県をまたいでの旅行も安心してできそうですね。

諦めなくてもいい社会を目指して

中村さんがリハビリテーションを提供するうえで、やりがいを感じるのはどんな瞬間ですか? エピソードもあれば合わせて教えてください。

僕は、その方の可能性を見出し、一歩を踏み出すきっかけを作り、「諦めていたこと」が実現した瞬間にとてもやりがいを感じます。 「その人らしさ」を引き出せた瞬間というか。
以前、50代で脳梗塞になった男性を担当しました。重度の右片麻痺が残り、車椅子生活で閉じこもりとなっていました。もともとデザイン関係のお仕事をされていましたが、それも辞め、はじめは口もきいてくれないぐらい暗くなっていました。
その方との信頼関係が少しずつできてきた頃、ふとした瞬間にその方の「人生」について聞いてみたんです。
すると、昔はロックが好きだったことが分かりました。そして、「またライブに行きたい」と言われたんです。僕はすごく嬉しくなって、すぐコンサートに行けるように動きました。気づいたら体が勝手に動いていましたね。
時間が空くと本人の気持ちも冷めてしまうと思って、すぐに主治医やケアマネジャー、コンサート会場に連絡を取りました。その日のうちに全て段取りを終え、車椅子でも行けるか会場の下見にも行きました。
それから、訪問リハビリの時間で外出練習をして、最終的に本番のコンサートにはその方1人で行くことができました。
その方はその経験が成功体験となり、その後、ひとりで野球観戦などにも行くようになりました。そして、訪問リハビリは卒業することになります。


このイラストは、その方が最後の日にプレゼントしてくれたものです。
右麻痺があるので、非利き手である左手を使って鉛筆一本で描いてくれました。
これは、僕の宝物です。この経験が、僕がリハビリ旅行療法士を目指すきっかけにもなりました。

その方の「その人らしさ」を引き出せた、とても感動的なお話ですね! お話を聞きながらその情景が目に浮かび、私もとても嬉しくなりました。
プレゼントしてくださったイラストも、中村さんにとっても似ていますね! これを非利き手で描いただなんて驚きです。
中村さんとその方との信頼関係の強さ、そして、その人らしさを引き出すための中村さんの行動力に心を打たれた人は多いのではないかと思います。

後悔のないように今を生きる

最後に、中村さんがセラピストとして「大事にしていること」や「モットー」などがあれば教えてください。

「主体的に動く」ということを大事にしています。「心が動けば身体も動く」という言葉があるように、まずは「○○したい」という本人の気持ちを一番に考えます。
自分自身としては、「後悔のないように生きる」というのが人生のモットーです。災害支援に携わったことや、母親が急に亡くなったことをきっかけに、「死」というのがものすごく近いものになりました。当たり前だと思っていたことが 、実はそうじゃないことがわかったんです。
「感謝の気持ちを忘れない」そして、それを「相手に伝える」って本当に大切だと思います。
「いま、余命宣告を受けたらどうだろう?」と常に問いかけながら、日々を生きていくことを人生のテーマとしています。

これまでさまざまな経験をされてきた中村さんだからこそともいえる、「後悔のないように生きる」という人生の大きなテーマ。
私も、いまを精一杯に生きていかなければな!と、とても勇気をもらいました。
リハノワこれからも、中村さんのご活躍を心より応援しています!
中村さん、本日は本当にありがとうございました。


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・訪問看護ステーションリライフ井口
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以上、今回は広島県広島市西区にある訪問看護ステーションリライフ井口で働く、理学療法士の中村翔さんを紹介させていただきました。
ひとりでも多くの方に、中村さんの素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。

この取材は、本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
コメント
[…] 管理者でもある作業療法士の小野誠三さんは、非常に熱い思いを持った大変素敵なセラピストでした。患者さん・利用者さんのニーズは “果たして本当に本人のものだろうか?” “本当は何をしたいんだろうか?” と常に繰り返し問いながら、本人の本当のニーズを引き出していくことを大事にされているそうです。“本物と偽物を区別できるようにセンスを鍛える” とお話されていたのが非常に印象的でした。一人一人違う、オーダーメイドのサポートを行うために大切な信念を、たくさん教えてくださいました。スタッフの中村翔さんもとっても素敵な思いを持ったセラピストです。非常に優秀で魅力的なスタッフが揃っているリライフ井口さん。素晴らしいですね! […]
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