【当事者の声】車椅子生活となり13年、いまの私と新たな挑戦|高橋尚子さん

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

今回は、2020年11月に取材した頸髄損傷者の高橋尚子さんにお会いするために、約3年ぶりに熊本を訪ねました。尚子さんは、17歳当時の事故で頸髄を損傷し車椅子生活となるも、懸命なリハビリに取り組まれ、現在はサポートをうけながら歩行器で歩けるようになっています。

本記事では、尚子さんの現在のリハビリの様子や、リハビリのモチベーションを維持するための秘訣、今後チャレンジしたいことについて紹介します。

※尚子さんの受傷当時から2020年までの歩みはこちらの記事にまとめています

高橋尚子さんの歩み

◆ 高橋尚子(たかはし・しょうこ)さん
株式会社CREIT 代表取締役

<略歴>
1993年熊本県出身。幼少期から卓球をはじめ、全国の舞台で活躍していた。2011年(17歳当時)に不慮の事故で頸髄を損傷(C6B2)し、四肢麻痺となる。2013年にリハビリ病院を退院後、単身で東京に行き、ひとり暮らしをしながら脊髄損傷者専門トレーニングスタジオ「J-Workout 」に通い、リハビリに励んだ。2014年に熊本へ戻り、自動車免許を取得。その後、Webデザイナーとして働く傍ら、2019年より YouTube「しょうこちゃんねる」の運営を開始した。2021年3月に株式会社CREITを設立、代表取締役に就任。一人ひとりの胸に“心のバリアフリー”が宿る世界を目指し、心地よいモノづくり・コトづくり・関係づくりに取り組む。著書に『生きる 一歩一歩前へ』(評言社、2022年)

歩くリハビリへの挑戦

かわむー
かわむー

前回取材に伺った2020年は、短下肢装具をつけて平行棒内で立つ練習に取り組まれていた尚子さんですが、現在はキャスター付き歩行器を使って歩く練習に取り組まれているようですね!

尚子さんの現在のリハビリの目標や、実際に行われているメニューを教えてください。


尚子さん
尚子さん

私は現在、熊本市にある武蔵ヶ丘病院に週1回リハビリに通っています。

今のリハビリの目標は、「サポートなしで歩行器を使って歩くこと」です。今はまだ前後からサポートしてもらっている状態なので、もっと安定して歩けるようになりたいです。

リハビリは、以下のようなメニューに取り組んでいます。

1) 背中のストレッチ
プラットフォーム上で、ストレッチポールを使った肩甲骨・肩関節周辺のリラクゼーションをおこないます。

2) 車いすに移って装具着用
装具は長下肢装具の「Primewalk」を装着します。

3) 歩行器歩行練習
キャスター付き歩行器(前後輪)を使用し、片道10mの歩行練習を3回おこないます。歩行器には、床との摩擦や腕の筋力をふまえて、左右それぞれ違う重さの重錘をつけて調整しています。

尚子さんが使用している内側単股継手付き長下肢装具「Primewalk」。継手の仮想軸が上方に位置する、脊髄損傷者の立位・歩行訓練等に使用される長下肢装具の一種。
内側単股継手


かわむー
かわむー

3年前からリハビリをずっと続けてこられたかと思いますが、かなり順調に進んでいるようでびっくりしました。本当に素晴らしすぎます!外来リハビリ以外にも、何かトレーニングしているのですか?


尚子さん
尚子さん

週に1回の歩くリハビリ以外は、特にこれといって力を入れていることはありません。

ただ、週に1〜2回は寝る前に30分程度うつ伏せをとるようにしています。これは、股関節の前面の凝り硬まった筋肉をストレッチするためです。車椅子に座っている時間が長いと、どうしても硬くなってしまうんです。

普段はひとり暮らしで介助が得られないので、時間に余裕がある時や疲れていない時の限定にはなってしまいます。平日のお昼前から夕方までは、リハビリがない日はいつも自宅で仕事をしています。


目標ができたことの強み

かわむー
かわむー

この3年間で、ここまで歩けるようになったきっかけやターニングポイントなどは、何かあったのでしょうか。


尚子さん
尚子さん

正直、3年前は歩行器で歩けるようになるとは思ってもいませんでした。

いつか歩きたいという目標はあったものの、それが具体的にいつまでとか、そこに向けた細かいリハビリの目標設定はできていませんでした。

大きな転機となったのは、2021年12月にスタートした「しょこスマ」でした。

しょこスマとは「しょうこ限界へスマッシュ」の略で、外来リハビリで通っている武蔵ヶ丘病院と、脊髄損傷者専門トレーニングスタジオJ-Workoutが連携して、私の回復をサポートするというリハビリ企画です。

この企画は、病院でのリハビリテーションと保険外トレーニングの連携実例を作ることも目的としていました。


かわむー
かわむー

病院(保険内リハ)と民間施設(保険外リハ)が連携したプロジェクトというのは確かに珍しいですね。どのように進められたのですか?


尚子さん
尚子さん

スタートから1年後の2022年12月を最終成果発表会に設定して、「歩行器でサポートなしで歩く」と「立って卓球する」という目標を掲げてリハビリに取り組みました。

武蔵ヶ丘病院のセラピストの方とJ-Workout福岡スタジオのトレーナーの方がお互いの施設でのリハビリを見学したり、定期的に私も含めた情報交換会を行いながらリハビリをすすめました。

私は定期的にどちらの施設にも通ってリハビリに励んでいたのですが、2022年秋に褥瘡のため入院することになってしまい、企画は中断しました。

しかし、この企画をきっかけに初めて明確な目標を設定することができたので、その後のリハビリもそこに向かって取り組むことができています。前向きになれる、とても良い機会でした。


自分のご機嫌の取り方

かわむー
かわむー

改めて、リハビリテーションを続けるためには目標設定が重要だというのを感じました。

いつも明るくて前向きな尚子さんですが、うまくいかないことがあって元気が出ないことや、辛いと感じること、モチベーションが保てないことなどはあるのでしょうか。もしあれば、そういったときの乗り越え方や向き合い方について伺ってみたいです。


尚子さん
尚子さん

そうですね、最近は辛くてへこんだり落ち込んだりすることはなくなりました。2022年の秋に褥瘡ができたときも、「今は休めってことなのかな」と比較的前向きに捉えることができていました。

どうしてもモヤモヤすることがある時は、ノートに文字を書くようにしています。モヤモヤしている原因はなんなのか、書きながら考えるんです。人に見せられるようなものではないですが、私の頭の中を整理する大切なノートです。

こういったクセがついたのは学生時代です。卓球をしていたときは、毎日「卓球ノート」を書いていました。毎日寝る前に、練習したこと、良かったこと、反省点、それを踏まえたアクションプラン(明日はこんな練習をしよう等)を書くんです。

障害をおってからはしばらく書いていなかったのですが、3年ほど前に再開しました。

つけ始めたらめちゃくちゃ良くて、たとえば、ネガティブになっていることだけではなく、今後やりたいことなど未来に描く夢や目標も書いています。


かわむー
かわむー

私も昔テニスをしていたときは、毎日「テニスノート」を書いていました。文字を書くって思考が整理されて本当に良いですよね。いつも前向きな尚子さんの、ご機嫌でいる秘訣にふれられて嬉しいです。


服作りにチャレンジ!

かわむー
かわむー

先ほど、今後やりたいことなど未来に描く夢や目標をノートに書いているとおっしゃられていましたが、もし良ければ、お話できる範囲で今後チャレンジ予定のことについてお話いただけませんか。


尚子さん
尚子さん

いまは、私が代表を務めるCREITで新たなブランドを立ち上げ、そこでの服作りに注力しています。

以前からファッションに興味があったので、いつか自分でブランドを立ち上げて服を作りたいとは思っていたのですが、ちょうど1年くらい前に地元のデニム縫製工場さんと知り合ったことがきかっけで、プロジェクトとして進めていくことになりました。

今回のプロジェクトは、会社のメンバーでファッションリーダーでもある池澤菜香さんと一緒にすすめています。

私たちは、健常者や車椅子ユーザーが抱えるさまざまな悩みを解決しながらも、1枚で様になる、デザイン性のあるデニムパンツを開発しています。

障害がある人もない人も、「オシャレだから欲しい」「好きなデザインだから着たい」と思うような服作りをしています。

新ブランド「Afiiru(アフィーリュ)」は、ecru(そのものの色/お客さん)、attacher(添える/商品)、fil(糸口/CREIT)をあらわした言葉。「その人その人が歩んできた唯一無二の人生の”色”に、CREITの商品による新たな”色”を添えることで、より素敵になりますように。その素敵な出会いのきっかけ(糸口)を私たちが作れたら…」という願いが込められている。
デニムの産地・広島県福山市にある製織業者「篠原テキスタイル」さんで、生地を選んでいる尚子さんと池澤さん(2023年9月)
実際に生地ができる過程を見学中


尚子さん
尚子さん

私は普段、座っている時間が長いので「座ったときにも可愛く見える」のがいいなと思い、デザインで解決しようと取り組んでいます。

ついに先日、トワルができあがりました。個性的ながらも、攻めすぎていない女性らさを大切にしながら、現在は微調整をおこなっています。

ゆくゆくは、いろんな方の服に関する悩みや意見を聞きながら、それを形にしていきたいと考えています。

私たちはアパレルブランドというよりかは、ライフスタイルブランドとして打ち出していきたいと考えているので、服のみならず、インテリアやバッグなど、さまざまなモノづくりに取り組んでいきたいと考えています。


かわむー
かわむー

「Afiiru(アフィーリュ)」という新ブランド、立ち上げ本当におめでとうございます!コンセプトがとても素敵ですね。尚子さんと池澤さんがモノづくりをしていることにより、障害者と健常者の線引きをしないブランドというのが実現されていて魅力的だと感じました。

デニムの完成が待ち遠しいですね。(完成したら是非、私も履かせてください…!)


おすすめグッズの紹介

かわむー
かわむー

素敵なモノづくりに取り組まれている尚子さんですが、最後に、現在尚子さんが普段使われている生活の便利グッズやリハビリグッズなどがあれば、ぜひ教えてもらえないでしょうか。


尚子さん
尚子さん

もちろんです!日常生活やリハビリの便利グッズを、2つご紹介させていただきます。


1つ目は、「アクティブハンズ」というグリップエイド(握力補助具)です。

これは、握力が弱い人には是非おすすめしたい製品です。私は、料理をする時やヘアアイロンをする時などに使っています。また、リハビリの時はこれ使うとダンベルなどをしっかりと掴むことができるので、筋トレするのに便利です。私が買ったときは海外から取り寄せましたが、今は日本でも売っています。


2つ目は、「ワイヤレス充電器」です。


スマホを充電するときに、置くだけなのでとても便利です。充電器を抜き差しするとき、手が使いづらいとどうしてもコードを引っ張らないといけないで、これまでコードをすぐにダメにしていました。これならストレスなく充電することができます。

みなさん既に持っていらっしゃる方もいるかもしれませんが、ぜひ参考になりそうであれば見てみてください。


かわむー
かわむー

尚子さん、便利グッズの紹介をありがとうございます。「なるほど!」というお悩み解決策を聞けて、とても勉強になりました。ぜひ、尚子さんと同じような悩みを抱えている方や、身近にそのような方がいましたらご覧になってみてください。

改めて、尚子さんの現在のリハビリの様子や、ここまで順調にすすんでいったきっかけ、前向きになるための秘訣や今後の挑戦など、さまざまなお話を聞きながらとてもパワーをいただきました。本当にありがとうございました。

たくさんの方に笑顔と希望を与え続ける尚子さんのご活躍を、リハノワはこれからも全力で応援させていただきます!

本日は貴重なお話をたくさんお聞かせいただき、ありがとうございました。

取材にご協力いただいた武蔵ヶ丘病院の皆さま、ありがとうございました。



かわむー
かわむー

<尚子さん関連情報>
2020年リハノワ取材記事
・著書『生きる 一歩一歩前へ』(評言社、2022年)
・YouTube『しょうこちゃんねる
Instagram
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株式会社CREIT

<尚子さんの通院する武蔵ヶ丘病院の関連記事>
武蔵ヶ丘病院リハビリテーション科
リハビリ科医・田中慎一郎さん
理学療法士/主任研究員・藤井廉さん
理学療法士・田宮史章さん


ぜひ合わせて御覧ください。


写真提供:松原亮太


以上、本記事では頸髄損傷者の高橋尚子さんをご紹介しました。

一人でも多くの方に、尚子さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。

この取材は、ご本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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