みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、東京都昭島市にある東日本成人矯正医療センター(医療刑務所)で働く理学療法士のモックさんを取材しました。
本記事では、モックさんが医療刑務所で働くことになったきかっけや現在の仕事内容、リハビリの現状について紹介します。
※東日本成人矯正医療センターに関する情報はこちらの記事で紹介しています
理学療法士・モックさん
◆ モックさん(ペンネーム)
2000年に理学療法士免許を取得。総合病院で8年間勤務した後、フリーランスとして独立。在宅や福祉施設、市役所、医療刑務所などさまざまな現場を経験し、2016年八王子医療刑務所に正職員として入職。現在は、東京都昭島市にある東日本成人矯正医療センター(2018年に移転・改称)の法務技官としてリハビリ業務に従事する。
モックさんが理学療法士の道を目指したきっかけを教えてください。
私はもともと、母の入院経験から医学知識を身につけるべく看護師になりたいと考えていました。
知り合いの看護師に相談したところ、まずは実際に看護師のいる現場で働くことを勧められ、近所の医療機関に就職しました。
一緒に働いていた医師から、「これからはリハビリの仕事が重要になる」と聞き、そこで初めて理学療法士という仕事があることを知りました。
早速、理学療法士について調べ、理学療法士が働いている関連病院に1週間ほど研修に行かせてもらいました。リハビリ助手として現場を経験し、障害のある方の機能回復をサポートすることに面白みを感じました。
幼少期からバレーボールをしており、身体を動かすことも好きだったので、理学療法士という仕事が性にも合っていたのだと思います。その後、都内の理学療法士養成校に進学しました。
医療専門職の仕事に興味を持ったときに、まずは現場で働いてみよう!と行動されているのが素晴らしいと思いました。免許取得後は、どのような現場でお仕事をされたのですか?
いろんな領域のリハビリを学びたいと思い、500床規模の公立病院に就職しました。ここでは8年間勤務し、脳卒中、神経難病、整形外科、呼吸、緩和ケア、感染症など幅広い領域のリハビリを経験しました。
その後、理学療法士として地域で活動することに興味を持ち、思い切って病院を飛び出しました。
フリーランス理学療法士として、訪問リハビリや障害者施設、市役所の非常勤職員として健康増進に関する取り組みを推進するなど、自分が興味のある仕事は積極的に経験しようとさまざまな現場で働きました。
その中の一つに、医療刑務所も含まれます。たまたまお声がけがあり、週1回から関わり始めました。
矯正行政の世界へ
フリーランスとして活動する中で、医療刑務所にも関わられるようになったのですね。正職員として働くようになったきっかけは何だったのでしょうか。
週1回のアルバイトとして関わるようになってから4年が経過したある日、当時の医療部長から、八王子医療刑務所が昭島市に移転し、「東日本成人矯正医療センター」として開庁する話を伺いました。
そこで、リハビリ部門を拡大するため、常勤として関わらないかとお話をいただいたのです。私は病院での8年と、フリーランスとして働いた7年間で培った経験を、医療刑務所という特殊な環境でのリハビリテーションに活かすことができればと思い、正職員として働くことを決意しました。
さまざまな現場を経験したことで、人や障害を多角的に捉えられるようになったのは良かったと思っています。
医療刑務所でのリハビリ
医療刑務所は、一般の医療機関と比較して異なる点がたくさんあるかと思います。現在の仕事内容や働く環境について、教えていただいてもよろしいでしょうか。
医療刑務所は法務省の所管となるため、診療報酬制度(疾患別リハビリテーションなど)はありません。セラピストは、医師から指示のあった方を対象に、なるべく平等に介入できるよう調整します。
理学療法では、主に脳卒中、整形外科術後(股関節、頸部など)、廃用症候群と診断された方に対するリハビリテーションを実施します。一名ずつ行うこともあれば、同時に複数名行うこともあります。
介入は一人約30分。刑務所では運動時間が1日30分と決められているので、そこを基準に設定しています。
担当患者は平均20名で、1日約10〜12名に介入できるようスケジュールを調整しています。リハビリ介入時は、基本的に刑務官1〜2名の付き添いがあります。
勤務時間は8:30〜17:00です。午前中はリハビリ室で脳卒中や運動器疾患の方を対象にリハビリを実施し、午後は外科、内科、精神科の方を対象にベットサイドでリハビリを行います。
夕飯の準備は16時頃から始まるので、16時以降はカルテの入力作業を行います。業界の特性上、まだまだ現場は紙と印鑑が多く使用されていますが、ようやく少しずつDXが進んでいます。
特殊なルールや環境下でリハビリを実施されていることが分かりました。看護師さんはもちろん、刑務官さん、他機関のスタッフなど多職種・多機関との連携が必要になってくるかと思いますが、連携はどのように図られているのでしょうか。
毎朝ミーティングを行っています。8時30分過ぎに病棟に上がり、夜勤の看護師さんや刑務官さんからの申し送りを受けます。その後、日勤の看護師さんや刑務官さんたちとその日のリハビリ内容や時間について話し合います。
リハビリは一般の病院で行われているような内容を実施しますが、保安上の理由から、杖や紐など長いものをはじめ、道具の管理は徹底して行います。事前に刑務官さんに使用許可をとったり、保安上の問題がある場合には他の物に代替したりするなどの工夫をしながらリハビリを行います。
その他、精神科病棟では定期的に医療スタッフ、刑務官、福祉専門官が集まりカンファレンスを実施しています。治療方針やリハビリ状況などを共有し、今後について話し合います。
治療が終わって社会や一般刑務所などに移る時は、リハビリサマリーを作成して情報提供を行っています。
更生と社会復帰を目指して
医療刑務所で働く中で、悩んだ経験や大変だったことなどはありますか。
医療刑務所で働くようになり15年が経過しますが、矯正施設という環境でリハビリを提供する難しさは常に感じています。
受刑者を対象としているので、一般の病院の患者さんとは関わり方が異なります。
本来、リハビリを実施する上ではラポール形成が重要となりますが、ここでは個人的な繋がりは作らないのが原則です。
また、一般の病院では本人の生活を想定して目標を設定し、ありたい姿に向かって主体的なリハビリを実施しますが、矯正施設は受刑者を再犯させないように管理・教育し、更生を促す役目も加わります。
さまざまな制限がある中で、いかに更生を目指した前向きな後押しができるかが重要となります。
その他、脳卒中の方は、他病院もしくは一般刑務所で2〜3ヶ月程度加療したあとに転院してきます。リハビリ未介入でくる場合も多く、医療刑務所にきて初めてリハビリ開始となる患者もいます。
矯正施設であるためリハビリを行える時間帯は限られているので、その限られた時間でどこまでできるか、質の高い介入が求められます。
矯正施設の「矯正」とは、再犯・再非行防止のための教育や改善指導、職業訓練を実施することで被収容者の円滑な社会復帰を目指すことを意味しています。
そのような特殊な環境下で、適切な目標設定を行い、対象者の背中を押し続けるというのはとても難しいことだと思います。
モックさんが、今、リハビリをする上で大切にしていることはなんでしょうか。
いちセラピストとして、「障害をおっても前を向いて新たな一歩を踏み出して欲しい」という思いと、そこに対する責任感はどこで働こうとも変わることはありません。
私は、その人がその人らしく、心と身体が回復して少しでも前を向いてくれるように、声掛けなどを大切にしています。
更生を目指すためには、心身ともに健康であることが大切です。
当然、良くなる人ばかりではありませんが、患者が良くなっていく、元気になっていく姿を見るとやりがいを感じます。
メッセージ
最後に、読者の方へメッセージがあればお願いします。
これまで、矯正施設にはほとんど理学療法士がいない状況でしたが、最近になって少しずつ配置がすすめられています。
矯正施設でのリハビリには制限もあるかもしれませんが、視点を変えればできることはたくさんあるし、その工夫こそが腕の見せどころとなります。
更生と社会復帰を目指したリハビリテーションは、矯正施設において本当に必要とされています。
最近では、医療刑務所も高齢化が進み、一般社会でいうデイケア的な関わりが必要になってくるのではないかと考えています。
一緒に盛り上げてくれる仲間が一人でも増えることを願っています。
矯正施設は、医療専門施設(全国に4箇所)、医療重点施設(9箇所)、一般施設(163施設)に分かれています。これまで、理学療法士は医療専門施設にしか配置されていませんでしたが、2023年からは医療重点施設にも配置がすすめられているそうです。
今回の取材を通して、今後ますます高齢化が進む矯正施設において、受刑者の更生と社会復帰を目指したリハビリテーションが求められていくことが分かりました。
東日本成人矯正医療センターでは、年に1回、一般社会の方々に広く矯正行政に対する理解と協力を求めることを目的とした「矯正展」というイベントを開催しています。刑務所の中や模擬居室の見学、受刑者の食事も体験することができるそうなので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。
取材にあたりご協力いただいたモックさん、刑務官の皆さま、医療スタッフの皆さま、本当にありがとうございました。
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・作業療法士・昭島OTさん取材記事
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ぜひ合わせて御覧ください。
撮影:ひろし
以上、今回は東京都昭島市にある「東日本成人矯正医療センター」で働く理学療法士のモックさんを紹介させていただきました。
医療刑務所でのリハビリテーションの実際と、そこで真摯に向き合い続けるセラピストがいることを一人でも多くの方に知っていただけると幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、御本人および施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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