写真の力をリハビリ現場に!新たな価値創造に挑戦する整形外科医|山本夏希さん

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

今回は、リハビリ現場でフォトグラファーとして活動する医師の山本夏希さんを紹介します。

山本さんは、大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(整形外科)に所属して医師として働く傍ら、リハビリ現場でフォトグラファーとして活動したり、写真がリハビリ意欲に与える影響について研究したりしています。また、リハノワでも一緒に活動してくださっています。

山本さんが医師を目指したきっかけや、リハビリ現場における写真の可能性ついてお話を伺いました。

医師・山本夏希さん

◆ 山本夏希(やまもと・なつき)さん
1990年生まれ、広島県広島市出身。2015年に大阪大学医学部医学科卒業後、関西労災病院にて初期研修を修了。2017年に大阪大学整形外科に入局し、手外科グループとして活動。2022年より大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学にて、リハビリ現場における写真の与える影響について研究している。

かわむー
かわむー

現在は整形外科医として働く傍ら、リハビリ現場でカメラマンとして活動したり、写真がリハビリ意欲に与える影響について研究したりと精力的に活動されている山本さんですが、もともと医師を目指したきっかけは何だったのでしょうか。


山本さん
山本さん

陸上競技で怪我をしたのがきっかけです。

私は、小学生からはじめた陸上競技で短距離走を専門としていました。中学1年生のときにシンスプリント(脛骨過労性骨膜炎)を発症し、整形外科の外来に通いリハビリに取り組みました。

中学生になり「これからだ!」と思っていた矢先の故障だったので、1ヵ月の休息は精神的なダメージがとても大きく、見た目上は何も問題のないのに走ると痛みが生じる状況に、腹立たしくてしょうがありませんでした。1ヶ月は走ることは控えて筋トレをしたのですが、1ヵ月後も完全に痛みがなくなることはありませんでした。

「ちゃんとリハビリして走ることも控えていたのに、すっきり治らないのはなぜ!?」と悶々としたのと同時に、同じような状況の人を助けられるような整形外科医になろうと決意したのでした。

その後も怪我と付き合いながら、高校3年生まで陸上を続けました。


かわむー
かわむー

私もテニスで同じように怪我をしたことがきかっけで医療の道を目指したので、当時の山本さんの気持ちが痛いほどよく分かります。

陸上は高校3年生まで続けられたとのことですが、医学部進学に向けた勉強はどのように進めていかれたのですか?やると決めたことは必ずやり遂げる山本さんですが、当時、原動力となっていたこともあれば教えてください。


山本さん
山本さん

高校3年生の6月に陸上の最後の大会が終わり、そこから本腰を入れて勉強を開始しました。ただ、当時それなりの成績ではあったものの、大阪大学の医学部に行けるレベルでは到底ありませんでした。担任の先生からは「現実を見ろ」とも言われましたが、両親だけは違いました。

「すごいじゃん!応援するよ!」と、全力で背中を押してくれたのです。

高校3年生の春、たまたま母と大阪に行った時に見た大阪大学医学部キャンパスの見事な桜並木が忘れられず、「絶対にこの大学に通う!」と心に誓っていたのでした。

辛い勉強を頑張れたのは、いつも私の突拍子もない挑戦を否定せず、心から応援してくれる両親がいたからだと思います。常に子どものことを一番に考え、私自身の意志を尊重してくれる二人を、私は世界一の両親だと思っています。

クラスに大阪大学工学部を目指す友人もいたので、お互いに支え合いながら受験勉強に励むことができました。


整形外科医としての歩み

かわむー
かわむー

医学部進学後、そして医師として働くようになってからの歩みについても教えてください。


山本さん
山本さん

大阪大学の医学部に合格した私は、広島から大阪に出てひとり暮らしをはじめました。医学部はとても閉鎖的だったため、ラクロス部に入って週5で部活動に励んだり軽音部でも活動したりするなど、さまざまなコミュニティに所属しながら充実した学生生活を送りました。

そのような調子で学生生活を送っていたので、医師国家試験を目前にまたもやピンチが訪れます。医学部6回生の夏に受けた模擬試験はとても悲惨な結果でした。このままでは医師国家試験もさすがに落ちると思い、必死に勉強しました。この時も、医学部受験のときと同様、周りで頑張る友人たちに支えられながら、なんとか乗り越えることができました。

初期研修先には、関西労災病院を選びました。初めて配属された救命救急科に魅力を感じますが、初志貫徹をと思い、修了後は大阪大学の整形外科に入局します。

入局してからは、半年から1年ごとにローテーションをおこない計7つの病院で働きました。入局して3年目で手外科を専攻し、外傷をメインにいろんな患者さんを診てきました。手外科は、骨、筋、腱、神経など多くのことを学べるグループです。

患者さんにとっても手が使えないというのはQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)に直結するので、術後に患者の笑顔が見られた時はとても喜びを感じます。


かわむー
かわむー

人に恵まれているのだと謙遜しながらも、目標とすることは毎回必ずやり遂げる姿を本当に尊敬します。私ももともとICUで理学療法士として働いていたので、救命救急科に興味を持たれたり、整形外科に入局されたりしているところに親しみを感じました。

手外科の手術はすごく難しい印象があったので、そこにチャレンジされているのもカッコイイなと思います。


リハビリテーションの重要性

かわむー
かわむー

現在、リハビリ現場でフォトグラファーや研究者として活動されている山本さんですが、整形外科医として働くなかで、リハビリテーションに興味を持ったきかっけを教えてください。


山本さん
山本さん

リハビリテーションの重要性を意識した印象深いできごとは2つあります。

1つ目は、私が整形外科医1年目のときでした。10代の脊髄損傷患者さんが急性期を脱して回復期病棟に入院していたときに、指導医とともにその方を担当しました。脊髄損傷後のリハビリや退院後の生活について、当時まだまだ勉強不足なこともあり、イメージできていない状況でした。

無力さを感じながらも毎日顔を見に病室に通い続けていたのですが、転院日に挨拶に伺ったときに、その患者さんが「先生も大変だと思うけど頑張ってくださいね」と声をかけてくれたのです。患者さんからその声をもらった時に、私はもっとリハビリテーションに関する知識や経験も積んでいかないといけないと思いました。

2つ目は、患者さんの術後経過に違いを感じたときです。同じ年齢の方に同じ手術をしても、その回復過程に違いがあるのです。もともと備わっている身体機能はもちろん、それ以上にリハビリ意欲など「気持ち」の面は大きく影響することを実感しました。

前向きな人は術後経過も良く、早く良くなることが多い一方で、後ろ向きな人はその回復過程もゆるやかでした。手術はゴール(完治)ではありません。術後どれだけリハビリを頑張れるかが重要になることを学びました。


かわむー
かわむー

手術が終わって、やっとリハビリができるスタートラインに立てるといった感覚でしょうか。整形外科の場合は特に、術後のリハビリが重要ですよね。山本さんが考えるリハビリテーションとは、一体何でしょうか。


山本さん
山本さん

単なる機能の回復だけではなく、その人がその人らしさを取り戻す、その過程であると思っています。機能の回復だけではなく、精神的にも社会的にもその人らしくいられることが重要だと考えます。

整形外科医になりたての頃、私は手術の手技はもちろん、荷重スケジュールやプロトコルばかり勉強していました。しかし、尊敬する整形外科の先生は、「この患者さんの場合は、家に早く帰ることが幸せに直結するから、こういったメニューにしよう」など、その方の希望や背景を加味した手術や治療を選択していました。

病気ではなく、人を診るってこういうことなのだと、医師5年目くらいからようやく気づき始めました。怪我や病気はなんのために治すのか、とても考えるようになります。


写真の持つ力を医療現場に

かわむー
かわむー

現在おこなわれている写真の活動は、いつ頃から始められたのですか? 写真のもつ力や、山本さんが感じる写真の魅力について教えてください。


山本さん
山本さん

本格的に写真を撮りはじめたのは、研修医のときです。初任給でプレゼントした家族旅行をきっかけにカメラを購入したのですが、まったくもって思い描く写真が撮れず悔しい思いをしました。

その後、上手に写真が撮れるようになりたいと写真のワークショップに参加しました。同世代の写真仲間ができ、お互いに腕を磨いていくなかで次第に自分の理想としている写真が撮れるようになりました。コミュニティもどんどんと広がり、いろんな情報を入手できるようになります。

私が感じている写真の魅力のひとつに、「その時の感情を切り取って残せる」ということがあります。どれだけ楽しかった思い出も、時間とともにその記憶は少しずつ薄れていきます。しかし、写真として視覚的に残すことができれば、そのときの感情や想いは一気に掘り起こすことができるのです。

さらに写真は、「ニュートラルに被写体に寄り添える」ことが大きな強みだと考えています。そのとき、その一瞬のありのままを受け入れて、寄り添っている感じがとても好きです。

その人自身の内面から湧き上がってくる感情やパワーを感じとり、その一瞬を逃さないようにシャッターを切ることを心がけています。


かわむー
かわむー

「ありのままの今のあなたを写します」「頑張ってもいいし頑張らなくてもいいし、ただただ私は、いまこの瞬間のあなたを受け入れる」というスタンス、とっても素敵ですね。レンズ越しにその方に寄り添う山本さんの優しさが伝わってきました。

写真とリハビリの可能性についても、山本さんの考えをお聞かせいただきたいです。


山本さん
山本さん

以前、私は90代の患者さんを担当していました。怪我に対する手術後、リハビリがなかなか進まず元気をなくしたその方は、「先も短いのに、リハビリなんてする意味がない」とお話されていました。

重く響く言葉を傾聴しつつも、私はなんとか前向きになってほしいと思い、「リハビリをされているところ、撮らせてもらっても良いですか?」とお声がけしました。

リハビリに励まれる姿を写真におさめれば、ご自分でその姿を肯定的に見ることができるのではないかと考えたのです。

私のおかしな申し出にはじめはびっくりされていましたが、撮影を了承されると、期待していた以上にリハビリに励まれるようになりました。

撮影当日はお化粧やおしゃれをされ、それまでできなかった段階まで披露してくださいました。後日、現像した写真をプレゼントすると、「こんな写真、撮ってもらったことがない!」と涙を流して喜んでくださいました。その後も順調に回復し、元気に退院されました。

写真の力は、医療現場を変えるかもしれない」そう思った瞬間でした。


山本さんが実際に撮影した患者さんの写真(写真=山本さんより提供)
撮影者である山本さんとの信頼関係の良さも伺える(写真=山本さんより提供)


山本さん
山本さん

実は、私は2017年に自身の大きな手術も経験しました。術後は痛みや思うように動けない身体に苦しみましたが、なんとか回復に努めようと必死の思いでした。

そのときの様子を写真におさめてもらっていたのですが、今でもその写真を見るたびに、「あの時の私、がんばっていたな」と、今の私を奮い立たせてくれます。

あの時の苦しさは今となっては鮮明に思い出すことはできませんが、自分が頑張っている姿を写真で見ることで、とても元気が湧いてきます。


リハビリに励むすべての方へ

かわむー
かわむー

最後に、リハビリに励まれている当事者の方へ向けて、メッセージがあればお願いします。


山本さん
山本さん

私が担当した患者さんも、「リハビリしても良くならない」「私なんかもうダメだ」とお話される方がいらっしゃいます。

しかし、「病気や怪我をして苦しい状況にあるにもかかわらず、リハビリに取り組もうとしていることだけで本当に素晴らしいことですよ」といつも全力でお伝えするようにしています。

いま、つらい状況にも負けずにいる自分を受け入れて、まずは全力で褒めてあげてほしいです。

前向きに頑張られている方の姿は、周りの人にも励みを与えます。私が以前、写真を撮らせていただいた90代の患者さんの写真は、その後も多くの方々に勇気や希望を与えてきました。

許可をいただき個展に展示した時は、「この写真をみて頑張ろうと思いました」と本当にたくさんの方が声をかけてくれました。

「なにもできない」「私はダメだ」と思わないでほしい。あなたが前向きに歩み続けるその姿は、周りの人に勇気や希望を与えていることを知ってほしいです。


かわむー
かわむー

山本さん、とっても胸に響く素敵なメッセージをありがとうございます。山本さんの言葉は、リハビリに励んでいる方々の心に希望の灯をともし、明日への一歩を踏み出す勇気を与えてくれたと思います。

山本さんはこの活動をさらに広げていくために、クラウドファンディングにも挑戦されました。仲間も大募集とのことなので、興味のある方は是非こちらのページを見てみてください。

山本さんの活動が今後ますます広がっていくことを心より応援していますし、リハノワとしても一緒に頑張っていきたいです。

山本さん、本日は貴重なお話をお聞かせいただき本当にありがとうございました。



かわむー
かわむー

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クラウドファンディングページ
山本さんが撮影担当されたリハノワ記事

ぜひ合わせてご覧ください。



撮影:ひろし


以上、今回はリハビリ現場でフォトグラファーとして活動する医師の山本夏希さんを紹介させていただきました。

ひとりでも多くの方に、山本さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。

この取材は、本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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