関係づくりの新たな扉『似顔絵セラピー』|イラストレーター・村岡ケンイチさん

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

本日は、医療機関で似顔絵セラピストとして活動されているイラストレーターの「村岡ケンイチさん」をご紹介します。

ケンイチさんは、15年前に似顔絵セラピーの先駆者として活動を開始し、これまで延べ150を超える病院・施設で3000人以上の似顔絵を描いてこられました。

実際に似顔絵を描かれている様子も見学させていただいたので、写真も交えながらその魅力をとことんお伝えしていきたいと思います!

村岡ケンイチさん

◆ 村岡ケンイチさん
1982年広島県出身。東京都在住。2004年名古屋芸術大学イラストレーション科を卒業後、上京。2006年に県立広島病院にて「似顔絵セラピー」を発表し、似顔絵セラピストとして医療施設・介護施設を中心に似顔絵を通して「心のケア」を提供する活動を開始する。日本テレビ「スッキリ」特集やNHK「日曜美術館アートシーン」「今夜は絵顔で眠りたい!」で紹介されるなど、メディアにも出演。2012年似顔絵セラピーの効果が、医学論文として日本農村医学会雑誌「第6 0 巻第4 号」に掲載。日米韓の三か国で行われた似顔絵国際大会・白黒部門5連続優勝。現在は、病院内の壁画を描くホスピタルアーティストとし大学病院等でアート空間プロデュースや、全国の病院で似顔絵セラピーの活動や講演会を開催する。

似顔絵セラピーとは

かわむー
かわむー

ケンイチさんが取り組まれている「似顔絵セラピー」とは、どのような活動なのでしょうか。


ケンイチさん
ケンイチさん

私が行う「似顔絵セラピー」は、医療従事者とともにチーム医療の1つとして行っています。

患者さん一人一人が持っている個性を、絵描きがコミュニケーターとなり似顔絵として表現します。病気をされている今の状況を描くのではなく、患者さんの過去・現在・未来すべてをお聞きしながら作家のフィルターを通し、絵に表現するのです。

15年前から活動を始め、これまでに訪問した施設は延べ150、描いた人の数は3000にのぼります。似顔絵セラピーを取り入れるのは、主に総合診療科や緩和ケア科、精神科、小児科などです。



かわむー
かわむー

元気だった時を想像し、好きだった事や夢、仕事、家族との思い出など、あらゆる角度からその方を見つめて表現されているのですね。

私たちリハビリスタッフも、患者さんのお話をじっくりと聞きながら “その人らしさ” の支援をするので、とても近しいなと感じました。


ケンイチさん
ケンイチさん

人生を引き出してアプローチするといった点で、似ているかも知れませんね。

似顔絵は、話を聞きながらその場で描くため難しさはあります。しかし、似顔絵セラピーが患者さんご自身やご家族、医療従事者の癒やしとなった時はとてもやりがいを感じます。完成した似顔絵が、新たなコミュニケーションツールとなることも多いようです。

病院に訪問した際は、だいたい1日7時間くらい滞在します。看護師さんから事前にピックアップされた患者さんをご紹介いただき、順々にその方々のところに向かいます。

1人につき40分程度かけて似顔絵を描きます。中には、ご家族さんやお孫さんまで来ていらっしゃる方もいて、皆さんに囲まれた中で、その方の人生を聞きながら絵を描くこともあります。

絵を通すことで短時間で患者さんと距離を縮めることができるのが、似顔絵セラピーの良いところであり強みだと思っています。


ある患者さんとの出会い


かわむー
かわむー

これまでたくさんの似顔絵を描いて来られたと思いますが、その中で特に印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。


ケンイチさん
ケンイチさん

似顔絵セラピーは、医療従事者でも介入が難しい方に対して使われることがあります。精神的に辛い思いをされている方に似顔絵セラピーを提供し、40分後に笑顔にするのが私の使命です。

その方は、病院の個室に入院中の60代の男性でした。病気を患ったことで精神的に落ち込んでいいたこともあり、部屋に入った瞬間に「帰れ!」と怒鳴られました。

その時、一旦出ていくことも可能でしたが、私は焦らず、まずはスッと空気に溶け込みました。沈黙を大事にするのです。

そして、じっくりと部屋を見渡し、ゆっくりとその方の人生に触れていきます。過去・現在・未来と、順をおって話を聞いていきまました。すると、その方はまちづくりに詳しい人だということが見えてきました。そこを皮切りに、30年前に現役でバリバリと仕事で活躍されていた時の話をして下さるようになりました。

私は、当時の輝く彼を絵に表現します。

完成してお渡しした瞬間、彼の表情がぱっと笑顔になりました。その喜んでいる表情をみて、医療従事者の方もとても喜ばれていました。その光景を見た私も、とても嬉しくなったのを覚えています。


かわむー
かわむー

40分で相手との関係性を構築し、さらには絵に表現し、そして相手を笑顔にさせてしまうなんて本当にすごいですね。似顔絵セラピーが、医療従事者と患者さんの潤滑剤としても機能しているのだと感じました。

ケンイチさんが似顔絵セラピーをすすめる中で、大切にされていることを教えて下さい。


ケンイチさん
ケンイチさん

私は、相手に合わせて自分の振る舞いを変えることを大切にしています。

似顔絵セラピーは、常に相手の顔を捉えながらすすめているので、わずかな表情の変化も察知しやすい状況にあります。ですので、少しでも変化を感じたらすぐさま会話の内容も変えます。キーフレーズを見落とさないよう、丁寧に丁寧に会話をすすめていきます。

私の手掛ける絵の主人公は、いつだって目の前の患者さんただ一人です。その方が全肯定されるよう、とにかくエネルギッシュな絵を描きます。


医療界での挑戦

かわむー
かわむー

ケンイチさんが似顔絵を描き始めたきっかけは、何だったのでしょうか?


ケンイチさん
ケンイチさん

私が初めて似顔絵にふれたのは、大学2年生のオープンキャンパスの時でした。

1つ上の先輩に誘われ、似顔絵ブースを出店したのです。その先輩は、高校生を相手に次々と似顔絵を描いては渡しています。初めて会う人なのに、関係性が一気に縮まるのを間近で感じ、似顔絵の持つコミュニケーションの力に可能性を感じました。

絵描きは、作品を出版社に納めていくよりも、こうしてライブ感をもって表現し、すぐに相手から反応をもらえる方が幸せではないだろうか。

このような絵描きの価値を再定義するような活動は、当時はあまりされていませんでした。わたしは大学を卒業後、似顔絵専門のプロダクションに所属しました。


かわむー
かわむー

似顔絵セラピーとして、医療界に進出されたきっかけは何だったのですか?


ケンイチさん
ケンイチさん

就職して2年目、24歳の時に色彩セラピーをされている有名な先生と出会いました。そして、医療分野で「似顔絵セラピー」としてやったら面白そうだよねとお話をいただき、医療関係者の方と繋いで下さったのです。

似顔絵セラピーを初めて実施したのは、ある病院の緩和ケア病棟のクリスマス会でした。癌の末期の方に、似顔絵セラピーを提供させていただいたのです。

当時の私は、「似顔絵で人を元気にできる」という自信をもっていましたし、患者さんにもきっと喜んでもらえるだろうと思い病院に出向きました。しかし、病棟に足を踏み入れた瞬間、その自信は一気に崩れ落ちました。私が想像していた雰囲気とは全く違い、急に緊張が走りだします。

「人生の大切な時間を過ごしている方に、似顔絵セラピーをします!と言って私が関わって良いものだろうか」「自分がやろうとしていた事はとてもおこがましいのではないだろうか」と急に不安になったのです。緊張しまくって、筆を持つ手も震えます。

そんな中、患者さんの身体に負担がないよう、なんとか15分で似顔絵を描き上げました。


かわむー
かわむー

私も緩和ケア病棟でリハビリをしていた経験もあるので、当時のケンイチさんの心境が痛いほど分かります。筆を持つ手が震えるほど、緊張されたのですね。


ケンイチさん
ケンイチさん

似顔絵描きの精神状態って、本当絵に現れるんですよね。

仕上がった似顔絵は、かなりひきつっていました。線は乱れているし、自分の余裕のなさが感じ取れました。緊張するわたしに「大丈夫?」と声をかけて下さる病棟スタッフの皆さんから、逆に私がセラピーを受けているような感覚です。

そんな緊張しまくった初の似顔絵セラピーを終えたあと、私は「これは無理、やめよ」と思いました。

しかし、緩和ケア科の医師から「良かったよ」と声をかけていただきました。私の描いた似顔絵から、自然な笑顔が生まれていたよと言っていただいたのです。みんなで笑顔の共有ができるのは、とても素晴らしいことだよ、と。

その言葉に救われら私は、その後も活動を継続することとなります。

一筋縄にはいかなくて

かわむー
かわむー

その後、似顔絵セラピーの先駆者としてテレビや新聞などで取り上げられ一躍有名になられたケンイチさんですが、活動を続けていく中で大変だったことや苦労したことなどあれば教えて下さい。


ケンイチさん
ケンイチさん

最初に入ったプロダクションを3年で辞めた私は、その後、似顔絵セラピーで独立しました。

似顔絵セラピーとしう新しい文化を伝えるには講演活動が必要で、最初のうちはその慣れない講演活動に苦戦しました。また、似顔絵セラピーだけでは食べていけなかったため、普通のイベントで絵を描きながらなんとか食いつなぎます。

新聞やテレビに出演しても、病院からの依頼が増えることはありません。医療系の学会に参加しながら、口コミで広げていくという地道なネットワーク作りを続けました。病院で似顔絵セラピーを提供することの可能性を信じ活動を続ける一方で、「病気の方を食い物にして、詐欺師なんじゃないか」などと罵られることもありました。

そんな状況の中で、私は独立して5年が経つ頃、突然、似顔絵が描けなくなりました。たくさんの患者さんに向き合っていく自信がなくなり、次第に病院に行くのが怖くなったのです。似顔絵セラピーは、自分(絵描き)にも魔法がかかっていないとできません。きっと、この精神状態で病院に出向いても手が震えて描くことはできないだろうと思い、一旦積極的な活動は休止することに決めました。その期間は、2〜3年に及びます。

その間はイラストレーターに戻り、イラストのプロとして腕を磨くために一生懸命勉強を続けました。


かわむー
かわむー

目の前の人を笑顔に変えるパワーのある、明るくて前向きなケンイチさんにも、そんな辛い時期があったのですね。医療現場で新しいことを広めていくことの大変さは、私も非常によく分かります。

活動を再開したきっかけや、やりがい原動力となっていることは何ですか?


ケンイチさん
ケンイチさん

32歳の時に、以前から知り合いだった志摩市民病院の院長・江角祐太先生にお声がけいただいたのがきっかけで、似顔絵セラピーを再開しました。私は、徐々に自信を取り戻していきます。

似顔絵セラピーの活動でやりがいを感じるのは「自分が存在する意味」を感じた瞬間です。

医療従事者の方と患者さんの関係が絵をきっかけに変わった時や、メンタル面で患者さんの支えになれた時、また、なかなか聞き出せなかった事を私が聞き出せて、それが治療に繋がった時などはとても嬉しいです。

自分の得意とする大好きな絵が、その力になれていると思うと、とても嬉しですよね。


リハビリ×アートの可能性

かわむー
かわむー

リハビリとアートの可能性について、ケンイチさんがお考えのことがあれば教えて下さい。


ケンイチさん
ケンイチさん

最近では「人の健康」を考える際に、社会的処方やまちづくりなどが大切になるといわれています。

私はそこに、デザインや建築、アートの力は必要不可欠だと考えます。

アートが、人の健康をデザインすることは可能です。例えば、壁に線を描くとそれを追って歩きやすくなりますし、絵を描くことで人に「役割」を与えることもできます。

このように、アートがリハビリに活かせることはたくさんあると思います。動作を誘導したり、色彩により人を元気にしたりすることもできます。

また、似顔絵セラピーを行う中で肝となる「関係づくり」は、リハビリの際にも活かせるのではないでしょうか。その人が主人公である似顔絵アートを一つの手段としてリハビリを展開すると、よりその人らしさに寄り添った介入ができると思います。


かわむー
かわむー

リハビリの入り口では関係性の構築が非常に大切になります。その場面に絵をうまく活用できると良さそうですね。

最後に、今後の展望を教えて下さい。


ケンイチさん
ケンイチさん

今後は、似顔絵セラピーで笑顔になる患者さんをさらに増やしていけるように、魅力的なクリエイターの育成に力を入れていきたいと思います。「医療部門」「プロ部門」「学生部門」などを作って体制も整えたいです。

医療部門に関しては、医療者が主体となってすすめる「似顔絵セラピーチーム」が病院内にできるととても良いですね。

似顔絵セラピーに興味のある方、医療現場の課題をアートやデザインを使って解決したい方は、ぜひお声がけいただけると嬉しいです。一緒に新しい文化を創っていきましょう。


かわむー
かわむー

今回、私も実際にケンイチさんに似顔絵を描いていただきました。

描いてもらう様子をワクワクしながら見ていて、似顔絵セラピーは描くことが決まった瞬間から完成までの過程全てが、まさに「アート」だと感じました。絵をもらった瞬間、ケンイチさんが私のためだけに描いて下さったことがものすごく嬉しかったですし、その絵を宝物にしようと思いました。

「似顔絵」や「描く」という作業を通して、大切な人と心を共有できるのがとても魅力だと感じます。絵の上手い下手に関係なく、描くということ自体が、多くの方の生きがいになるのではないかと思います。

新しい活動を信念をもって広めていかれているケンイチさんを、これからも応援させていただきたいと思います!

本日はありがとうございました。



かわむー
かわむー

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以上、医療機関で似顔絵セラピストとして活動されているイラストレーターの「村岡ケンイチさん」をご紹介させていただきました。


一人でも多くの方に、ケンイチさんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。




この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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