みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、広島県呉市大崎下島にある「訪問看護ステーションうらにわ」で働く、作業療法士の中村玲子さんにお話を伺いました。
本記事では、中村さんが病院から地域に飛び出したきっかけや作業療法士として大切にする思い、今後チャンレンジしたいことについてご紹介します。
作業療法士・中村玲子さん
◆ 中村玲子(なかむら・りょうこ)さん
横浜市出身。広島大学学校教育学部卒業後、小学校に3年間勤務。その後、作業療法士養成校へ進学し、免許を取得。病院に入職して約20年間、入院における回復期や療養病床、通所や訪問など様々な部署で作業療法業務に従事した。2021年、訪問看護ステーションうらにわを運営するNurse and Craft合同会社に参画。人口1670人・高齢化率67%の大崎下島を舞台に、現在は、訪問看護ステーションのリハビリスタッフとして在宅における作業療法を実践している。
ありたい姿の実現に向けて
中村さんが、作業療法士を目指したきっかけを教えてください。
高校時代に友人が交通事故に遭い、リハビリを受けていたのがきっかけです。
事故で頭を強打した友人は、その後も長い期間、様々なリハビリを受けていました。そのような友人の姿を間近でみている中で、次第に、事故や病気で障害を負った方が社会復帰するのをお手伝いしたいと思うようになりました。
最初は障害児教育の領域に興味をもち教育分野に進みましたが、病院で直接患者さんに関わる仕事をしたいと思い、作業療法士の道に転向しました。
作業療法士免許を取得後は、広島の病院に就職し、20年ほど勤務しました。療養病棟や回復期病棟で入院患者さんのリハビリを担当したり、当時はまだ介護保険制度のない時代でしたが、病院が運営するデイケアや訪問で作業療法士として働いたりしました。
様々な領域を幅広く経験してこられたのですね。病院勤務時代に、特に印象に残っているエピソードはありますか?
療養病棟で働いた時に、パーキンソン病の方を担当しました。
介入当初は体調も優れず、「何もしたくない」とおっしゃられることが多くありましたが、雑談をしているなかで縫い物の話に興味を示されたので、刺し子キットをお渡ししてみました。
すると、どんどん熱中して作業に取り組んでくださるようになり、「次は何作る?」と明るい笑顔もみられるようになったのです。
よくよく話を聞くと料理も好きだったそうで、一緒にチャレンジしてみることにしました。普段は立つことも難しい状況でしたが、いざ料理をするとなると元気よく流し台に立って作業をされていました。
この時、作業の持つ力は大きいと改めて実感したのでした。
患者さんの声や表情など、ちょっとした変化にも気付けるよう常にアンテナを張ってお仕事されているのだなとプロフェッショナルさを感じました。
病院でやりがいを感じながら働かれていた中村さんが、島での在宅医療に興味を持たれたのは何故だったのでしょうか。
以前、療養病棟で担当していた方が、「おでんが食べたい」「お酒が飲みたい」とお話されていたのですが、その願いを実現できないままに体調が急変し、お亡くなりになられてしまったことがありました。
病院ではどうしても制約が多くなってしまいます。「もう少し早く、何とかして願いを叶えてあげられなかったものか」ととても胸が苦しくなったのを覚えています。
一方で、入院治療で体調が回復しても、退院後の生活において「その人らしい暮らし」ができている人は本当に少ないということも知りました。
そのような状況から、最後まで諦めることのない、その人のありたい姿を実現できるような支援を病院以外の場所で実践したいと思ったのです。
地域の中に入り込むことで、作業療法の可能性もさらに追求できるのではないかと考えました。
プライベートの関係で呉市に引っ越すことになり職場を探していたところ、Nurse and Craftの存在を知りました。代表の深澤さんに、「作業療法士として何か力になりたいです」ということを伝え、立ち上げメンバーとして参画することになりました。
島での新たな挑戦
100万人都市である広島市から人口1700人の大崎下島に移って、人や暮らし方など、どのような所に違いを感じましたか?
呉市街地から大崎下島までは橋があるため陸続きではあるものの、島の中で生活が成り立つように近所の人同士で助け合ったり、自分たちで何とかしようという意識を持って生活したりしている人たちが多いように感じます。
島の主要産業は柑橘栽培ですが、山へ登ることが難しくなった方は家で農業をしているケースが多くあります。みなさん本当にお元気で、90歳や100歳でもひとり暮らしをしている方がいらっしゃるほどです。
「子どもに大変って言ったら島の外に連れて行かれるから」「一度、病院にかかると島に帰ってこれないかもしれないから」と、なんとかひとり暮らしが継続できるように健康に気をつけたり、極力病院に行くことを拒んだりする方が多いような印象です。
「最後までこの島で暮らしたい」という言葉は、島の方々からよく聞かれます。
90歳や100歳でもひとり暮らしをされているとは驚きです。大崎下島の高齢化率は67%だと伺いましたが、リハビリテーションの潜在ニーズもかなりあるのではないかと感じました。
訪問看護ステーションの立ち上げ当初は、どのようにして島の方たちと関わられていったのですか?
立ち上げ当初、まずは住民や医療介護従事者との信頼関係をつくるところから始めました。
すれ違う人には挨拶をして、自分たちのやっていることを知ってもらえるように様々なところに足を運びました。
また、ケアマネや医師との連携も丁寧に進めていきました。「島に訪看がほしかった!」と積極的に協力してくださる方々もいて、とてもありがたかったです。
リアルな声に耳を澄ませる
島唯一の訪問看護ステーションで働く中で、中村さんがやりがいを感じる瞬間や、作業療法士として大切にしていることなどがあれば教えてください。
利用者さんが喜んでくれることが、私の何よりのやりがいになっています。
以前、90代の方のリハビリを担当していました。身体を起こすと頭が痛くなってしまうそうで、ほとんど寝たきりの状態になっていました。
お話を伺いながら、環境を調整したり生活のアドバイスをしたりしました。すると、頭痛は徐々に改善し、「寝てばかりじゃなくて、外に出なくちゃだめだよね」と前向きな言葉が聞かれるようになったのです。
ある日、仕事を終えて海岸沿いを自動車で走っていると、たまたま、ヘルメットをかぶって三輪車を漕いでいるその方に出会いました。「桟橋に行ったらいろんな人が声かけてくれるけえね、今から行くところなんよ〜」と笑顔でお話しされていました。
引きこもりになっていた状態から、再び社会との接点を持つきっかけを作ることが出来たのかなと、とても嬉しく思ったエピソードでした。
作業療法士として働く上では、その方との一瞬一瞬の時間を大切にしています。特に、コミュニケーションする中では話をじっくりと聞くことを心がけています。
表出される言葉が本心じゃないこともあるので、表情や声のトーン、会話の間など、いろんなところに気を付けながら話を聞いています。
利用者さんが、自分の言葉で自分の本当の気持ちを表現できるように、丁寧にサポートしています。
“最期までこの島で” を叶えるために
最後に、今後中村さんがチャレンジしたいことがあれば教えて下さい。
「最後までこの町で、自分のありたい姿で暮らす」ためのサポートに、さらに力を入れていきたいと考えています。
例えば、個々人がおこなっている健康の秘訣や暮らしの知恵袋などを伝える機会や場所を設けたいと考えています。住民のみならず、島しょ部の医療に携わる専門職の方々とも情報交換や交流できる機会を作っていきたいと考えています。
また、地域ケア会議などを通して、島には訪問リハビリのニーズがとても多くあると感じています。しかし、島ではまだまだ「リハビリ=機能訓練」のイメージが根強く残っています。
リハビリを必要とするより多くの方々に必要なリハビリが届けられるよう、まずは、リハビリテーションや作業療法の効果を本人や関係者に実感していただけるように、根気強く活動をつづけていきたいと思います。
高齢者や障害をもった方が、生まれ育った島で最後まで豊かに暮らすためには、地域社会のリハビリテーション(再構築)も必要なのだと改めて感じました。
島ならではの環境や人とのつながり、コミュニティ、歴史、文化など、あらゆるものを活かしながら次々と新しい取り組みにチャレンジされていく姿がとてもかっこいいです。
時代の変化を感じ取りつつも、町との丁寧な関わりを大切にしながら歩み続ける中村さん、Nurse and Craftのみなさんのこれからのご活躍を心から応援しています!
本日はありがとうございました。
<中村さんの関連記事/SNS>
・Nurse and Craft 紹介記事
・公式HP
・facebook
・Instagram
ぜひ合わせて御覧ください。
撮影:くらしフォトグラファー・しんたろう
以上、今回は訪問看護ステーションうらにわで働く作業療法士の中村玲子さんを紹介しました。
一人でも多くの方に、中村さんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、ご本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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