地域の運転・移動支援に取り組む作業療法士、那須識徳さん|中伊豆リハビリテーションセンター

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

今回は、静岡県伊豆市にある中伊豆リハビリテーションセンターで、運転・移動支援に携わる作業療法士の那須識徳さんにお話を伺いました。

中伊豆リハビリテーションセンターは、全国でも珍しい自動車運転コースを備える病院で、2024年4月にはパーソナルモビリティの練習コースも新たに整備されました。現在、「運転支援」と「移動支援」の分野で革新的な取り組みを進め、多くの注目を集めています。

この記事では、那須さんが情熱を注ぐ移動支援の取り組みや、運転リハビリに取り組む方々へのメッセージを紹介します。

※ 中伊豆リハビリテーションセンターさんの紹介記事はこちら

作業療法士・那須識徳さん

◆那須識徳(なす・さとのり)さん
1982年、北海道岩見沢市生まれ。自衛隊で6年間勤務後、東京医療学院に進学し、作業療法士免許を取得。農協共済中伊豆リハビリテーションセンターに就職し、3年目から運転支援チームに所属。藤田保健衛生大学大学院(現 藤田医科大学)の修士課程では運転支援を、東京都立大学大学院の博士過程では移動支援を専門に研究。現在は、移動支援を中心に学術研究や地域の移動支援活動に注力している。


かわむー
かわむー

現在、障害を持つ方々の自動車運転の再開に向けた「運転支援」や、運転中断となった方などの「移動支援」の領域でご活躍されている那須さんですが、もともと作業療法士を目指したきっかけは何だったのでしょうか。


那須さん
那須さん

福祉施設でのボランティア活動がきっかけです。

私は高校を卒業して、自衛隊に入隊しました。日本で唯一のパラシュート部隊である、千葉県習志野市にある第一空挺団を希望し、そこで日々厳しい訓練に打ち込みました。当時は大きな災害もなく、訓練が終わると週末には仲間たちと飲みに行く、そんな生活を送っていました。

ある時、ふと「自分は人の役に立つ仕事を選んだはずなのに、一体何をしているんだろう」と考えました。どうせ土日飲みに行くならと、発達障害者の方々が暮らすグループホームでのボランティアを始め、朝食の準備や外出のサポートなどを行うようになります。

ある日、そのグループホームに入所している子が、初任給でビールを買ってきてくれました。ビールを渡す瞬間のにっこりとした笑顔が本当に眩しくて、私はとても嬉しくなりました。

「人は、自分の役割が見つかったり、やりたいことができたりすると、こんなにも素敵な笑顔になるんだ」と大変感動しました。

その後、「こんな笑顔に出会える仕事って、何だろう?」と調べていくと、支援員や作業療法士という職業にたどり着きました。

6年間勤めた自衛隊を退職し、25歳のときに東京にある作業療法士養成校に進学しました。


かわむー
かわむー

本当に素敵なお話ですね。そのビールを受け取った瞬間の情景が目に浮かび、私も胸が温かくなりました。

大きなキャリアチェンジを決意した那須さんですが、その後、リハビリテーションの道に進んでからはいかがでしたか?


那須さん
那須さん

学生時代、私は昼間は飲食店や老人保健施設で働き、夜は作業療法の養成校に通う日々を過ごしました。

4年生の長期実習では、中伊豆リハビリテーションセンターにお世話になり、そのご縁で、卒業後は静岡県伊豆市に移住し、同センターで働くこととなりました。


静岡県伊豆市にある中伊豆リハビリテーションセンター
全国でも珍しく、院内に自動車運転コースが整備されている。
ドライビングシミュレーターは、特徴の異なる3種類が導入されている。

自動車運転支援の道へ

かわむー
かわむー

那須さんが運転支援に興味を持ち始めたのは、いつ頃からだったのでしょうか?


那須さん
那須さん

私が入職した当時は、まだ自動車運転コースはなく、ちょうど現在ある3台のドライビングシミュレーターの1台目が導入された時期でした。

2年目の終わり頃に運転コースが完成し、そこからしばらく経った頃、外部の方から「中伊豆にはこんなに素晴らしい環境があるのに、なぜもっと運転リハビリテーションのエビデンス構築に力を入れないのか」と言われたことがありました。その言葉が強く心に残り、「確かにこの環境を活かさない手はない」「中伊豆から発信できるものがある」と思い、運転支援チームに加わりたいと上司に相談しました。

そして、3年目から運転支援チームでの活動を開始しました。大学院の修士課程では運転支援について学びを深め、その世界にどっぷりと引き込まれていきました。


改造車を使って運転支援をする那須さん
那須さんが運転支援を担当している患者さん・池田さん(右)との一枚。池田さんの取材記事はこちら

運転再開が難しい方のサポート

かわむー
かわむー

運転支援に携わって約10年が経ちますが、特に印象に残っている出来事があれば教えてください。


那須さん
那須さん

最初の頃は「運転支援は専門性が高くて、クールでカッコイイ」なんて思って活動をしていましたが、支援を続けていく中で、運転再開が難しい方の多い現実に直面し、そこに課題を感じるようになりました。

運転支援は、必ずしも全員が運転再開できるわけではありません。中伊豆リハビリテーションセンターでも、約半数の方が運転再開を見送らざるを得ない状況です。

以前、運転再開が叶わなかった方のご家族から「退院後、本人がどうしても運転したいと言っている」との電話をいただいたことがありました。時期を開けて再検査を希望され、短期入院にて再検査を実施しましたが、結果は変わらず、本人も家族も非常に苦しい思いをされました。

こうした状況に直面するたび、私は悔しさや無力感を感じます。誰もが幸せになれない状況に立たされたとき、「どうにかしてこの現実を変えたい」という思いが募っていきました。


かわむー
かわむー

伊豆市は「車社会」ということもあり、退院後の社会参加や職場復帰などを考えると、運転再開の判断を下すことは非常に難しそうだと感じます。

運転再開が難しい方に向けて、何か取り組まれていることはあるのでしょうか?


那須さん
那須さん

運転支援を行う上では、「運転を続けるリスク」と「運転をやめることで要介護になるリスク」を考慮する必要があります。いつも非常に悩みながらジャッジしています。

最近では、運転再開が難しい方々のために、運転支援だけでなく「移動支援」にも力を入れるようになりました。

移動支援とは、自由に外出することが難しくなった人々を対象に、公共交通機関の利用支援など、移動に関連するさまざまな支援を行うことです。

2024年4月には、院内に新たにパーソナルモビリティの練習コースが整備されました。パーソナルモビリティとは、歩行者と既存の乗り物の間を補完する目的で開発された個人向けの移動ツールで、1~2人乗りのコンパクトな車両のことを指します。たとえば、シニアカーや電動車いすなどです。

運転を中断しても地域での移動が困難にならないように、このコースを使ってパーソナルモビリティの練習を行っています。

また、近隣の市町と連携して、地域移動資源を整理したパンフレットの作成にも取り組んでいます。


パーソナルモビリティの練習コース
段差や傾斜などの練習が可能

地域で広がる支援の輪

かわむー
かわむー

運転が難しくなった方のための移動支援、その重要性を改めて感じました。今後、那須さんが挑戦していきたいことがあれば、ぜひお聞かせください。


那須さん
那須さん

今後は、先ほどお話した地域移動資源を整理したパンフレットを、伊豆市だけでなく、伊東市、伊豆の国市、三島市、下田市など東部地区全体に広げていきたいと考えています。

また、地域リハ支援課の作業療法士や包括支援センターと協力して開始した市民向けの運転講座も、伊豆市や伊豆の国市を中心に少しずつ広げていきたいと思っています。

こうした活動を通じて、地域ごとに異なる課題を把握しながらニーズを吸い上げ、移動支援サービスをさらに充実させていきたいです。

運転が難しくなっても、その中でどうやって生活を続けていくか、少しずつ支援の輪を広げていければと考えています。

これからは「運転支援と移動支援の橋渡し」が非常に重要になると感じています。地域の生活支援の一環として、IADL(手段的日常生活動作)の支援を含めた、より広い視野での支援活動を展開し、地域を支えていきたいです。


リハビリに励む方へメッセージ

かわむー
かわむー

今後の展望をお聞きして、とてもワクワクしました!ぜひ実現してほしいです。

最後に、運転支援や移動支援を必要としている方に向けて、メッセージがあればお願いします。


那須さん
那須さん

病気や障害を抱えた後の社会復帰や職場復帰、そして地域でこれまで通り暮らしていくためには、移動手段の確保が非常に重要です。

運転のリハビリテーションを受けて、もし再開が難しいと言われたとしても、すべてができなくなるわけではありません。自分のやりたいことを一つでも多く続けるために、できる手段を探っていきましょう。それが、心身機能の維持・向上につながり、結果として運転再開のきっかけになることもあります。

また、地域の移動資源は使わなければ失われてしまうことがあります。地域の巡回バスなどを積極的に活用していくことも重要です。

私は「運転ができなくなって不幸になる人が、ひとりでも少なくなること」を心から願っています。そのための伴走者として、運転ができなくなった後の生活をより良いものにするための活動に力を注ぎたいと考えています。

この課題に静岡県伊豆市で取り組み、これからも発信を続けていきます。



かわむー
かわむー

那須さん、力強いメッセージをありがとうございました。運転再開を望む気持ちを尊重しつつ、「本人が望む生活を送る」ことを一番に考え、支援されていることがよく分かりました。

「地域の移動手段も使わなければ失われてしまうことがある」というコメントにもハッとさせられました。地域資源をみんなで上手に活用していく必要がありますね。

リハノワはこれからも、地域の移動の課題に取り組み続ける那須さんを心から応援しています!

本日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。



かわむー
かわむー



以上、今回は静岡県伊豆市にある中伊豆リハビリテーションセンターで、運転・移動支援に携わる作業療法士の那須識徳さんを紹介しました。

ひとりでも多くの方に、那須さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。

この取材は、本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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