みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、玉野総合医療専門学校(岡山県)のリハビリ学生の授業にお邪魔し、講師を務める車椅子の看護師・三井和哉さんと入院中にリハビリを担当していた作業療法士の赤澤壮介さんにお話を伺いました。
本記事では、脊髄損傷における「自動車運転リハビリの現状」や三井さんが取り組まれた「実際の運転リハビリ」について紹介します。
※三井さんのこれまでの歩みや入院リハビリ、現在力をいれている教育に関する取り組みはこちらの記事で紹介しています。
車椅子の看護師・三井和哉さん
◆ 三井和哉(みつい・かずや)さん
1989年生まれ、鳥取県出身。幼少期から運動神経が良く、中学校から始めたバスケットボールでは、178cmの高身長も活かされ全国大会に出場。腕を骨折して理学療法士にお世話になったことから医療業界に興味をもち、高校卒業後は看護師の養成校に進学。2012年看護師と保健師免許を取得し、鳥取県の病院に就職。救急医療を学びたいという思いからICUへの配属を希望し、新卒1年目から重症患者さんの看護にあたった。同8月中旬、事故により頸髄損傷(C6BⅡ)を受傷し自身の働く病院に搬送、治療を受けた。その後、岡山県の脊損専門病院に転院し、2014年3月に退院。1年程自宅療養した後、2015年より看護師として勤務を再開。2017年から現職(事務職)。2019年より看護専門学校での非常勤講師を担当し、2021年からはリハビリ学生への授業も担当している。2021年9月YouTube「みついちゃんねる」を開設し、医療者と患者、両方の視点から脊髄損傷に関する情報を発信中。
作業療法士・赤澤壮介さん
◆ 赤澤壮介(あかざわ・そうすけ)さん
1982年生まれ、岡山県倉敷市出身。2005年作業療法士免許取得後、岡山の脊髄損傷専門の病院に就職。脊髄損傷の方のリハビリや福祉用具の開発に従事。2019年より広島県福山市の鞆の浦にある介護事業所「さくらホーム」に転職し、地域共生のまちづくりについて勉強中。放課後等デイサービス、小規模多機能型居宅介護にて利用者さんのケアに従事する。
運転リハビリのすすめ方
運転リハビリとは
脊髄損傷のリハビリを専門とされていた作業療法士の赤澤さんにお話を伺います。
脊髄損傷の方に対する、運転リハビリの現状について教えて下さい。
脊髄損傷の方の社会復帰を支援するうえで、自動車運転の自立は必要不可欠と言っても過言ではありません。
生活範囲の拡大、スポーツへの参加、通勤手段の獲得など、QOL(Quality of life;生活の質)に直結することばかりだからです。
三井君のようにC6レベルの頸髄損傷であっても、車椅子から運転席への移乗動作の自立が期待できれば、既存の自動車をベースに必要な改造をすることで自動車運転が可能となる場合が多いです。
ただし、経験的には医療機関における限られた入院期間内で自動車運転の自立が見込めるのは、合併症がある場合を除き、Zancolliの残存機能分類でいうとC6BⅡ以下の方です。
これより高位(重度)の方になると、動作獲得には更に時間がかかるため、退院後に障害者支援施設に入所して継続した支援を受ける必要があります。
<脊髄損傷専門の医療機関の例>
・総合せき損センター
・吉備高原医療リハビリテーションセンター
・兵庫県立総合リハビリテーションセンター
・中部労災病院
・神奈川リハビリテーション病院
・北海道せき損センター など
<重度センターと呼ばれる障害者支援施設の例>
・国立別府重障がい者センター
・国立障害者リハビリテーションセンター など
三井さんと運転
実際に、三井さんの自動車運転リハビリはどのように進められたのか教えてください。
三井君の残存機能レベルは、C6BⅡ/C6BⅢでした。
若年であり、合併症などがなければ一般的には十分に自動車運転含め移動の自立を目指せるレベルです。
ただ、入院中に自立できるかどうかはギリギリでした。他部署のスタッフからは先ほど紹介した重度センターを推す声もありましたが、「家に帰る!」と決めていた三井君は、決められた期間で挑戦することにしました。
住宅改修や車の車種など、決めなければならない事は多かったですが、「やる!出来る!」を合言葉に、お互い一生懸命に取り組みました。
実際の流れ
実際の運転リハビリは、基本動作(移乗動作など)が習熟した頃を目処に開始します。
特に「斜方移乗」ができる目途が立ってきた頃から、他のADL練習と並行して自動車シミュレーターを使った移乗練習を開始します。
C6レベルの方だと、ここまでくるのに早くても6ヶ月程度はかかります。三井君も、入院後8ヶ月頃から運転リハビリを開始しました。
シミュレーターから練習を始め、実車にて全て自力で出来るようになるまでには、約6ヶ月を要しました。
全体の流れのイメージは、以下のとおりです。
1)運転席への移乗方法の検討と動作練習
2)車椅子を車内に積載する動作練習
3)環境調整を確認
4)車種の検討および必要な改造の検討
5)納車後、実車での移乗練習や改造業者と打ち合わせ
6)敷地内・公道での実車練習
※施設では禁止しているところが多い
移乗に関しては、ベッドへの斜方移乗が難しくても自動車であればできることがあります。
車への移乗では、ドアに頭をつけることで前への倒れ込みが防止できるからです。三井君の場合は、斜方移乗は車の方がスムーズに行えました。
その他、この時期には車椅子のオーダーも進めていきます。C6レベルの頸髄損傷者の場合は、車椅子のパーツやセッティング(フレームの形状、幅、バックレスト高等)によっては、出来る・出来ないが左右される事があるからです。
車椅子は、担当理学療法士と一緒に検討しました。
環境調整
移乗練習や車椅子の車載練習が進んできた後の「環境調整」についても教えて下さい。
実際に三井君が一人で運転できるようになるために、以下のような環境調整を行いました。
・手動アクセルブレーキ装置の導入
足によるアクセルブレーキ操作が難しいので、手で操作するための装置
・ウインカーレバーの延長
・窓開閉のボタンを押すためのレバー設置
・トランスファーボード導入
運転席と車椅子間の隙間を埋め、臀部を乗せて移乗を容易するもの
・ハンドル旋回装置
手をハンドルに固定し、ハンドルを握らなくても旋回操作を可能にするための装置
・ドアの内側にベルトを設置
ドア開閉時、車内からドアを引っ張れるように
・車椅子車載装置(オートボックス)の設置
※トヨタの純正オプション
・体幹を安定させるためのクッション導入
ハンドル旋回動作やカーブ走行の際に体幹の左右のバランス保持に不安があったため
車種の選択
実際にどのようにして車種を選ばれたのか、教えて下さい。
今回、三井君は新車を購入しました。自動車は入院中に購入される方が多く、三井君もその一人です。
車種は、一緒に検討した結果「トヨタのカローラフィールダー」にしました。
ウェルキャブ(福祉車両)シリーズ対応車種で、ハンドル旋回時の軽さや車高の設定、オートボックス(車椅子車載装置)など、三井君に合わせたカスタマイズがしやすかったためです。
三井君は車椅子の車載動作は行えるレベルですが、オートボックスの存在を知り「自力ではやらない」ことを選択しました。体力的にキツい、車内や服を汚したくないという理由です。
本人が考えて、積極的に「楽をする工夫」を選択するのはとても良いことだと思っています。
※令和5年1月時点:カローラフィールダーは、オートボックス(車椅子車載装置)の設置可能な対応車種から外れています。
自動車運転の可能性
三井さんにも運転リハビリのお話を伺ってみたいと思います。
運転リハビリをする上で大変だったことや、その後、できるようになって良かったことなどあれば教えて下さい。
運転に関連したことで一番しんどかったのは、運転開始当初、血圧が下がりフラフラしていたことです。
頸髄を損傷すると血圧のコントロールが難しくなり低血圧になりやすいのですが、運転を開始して間もない頃は、よく低血圧のため頭がフラフラしていました。手の筋肉に酸素が持っていかれて、頭に酸素がいかないようなイメージです。
姿勢も車椅子とは違ったため、慣れるまでには時間がかかりました。退院後運転をはじめて1ヶ月くらいは、しんどさや怖さがあったと記憶しています。
今はフラフラすることはなく、長距離運転もできています。
入院中、約3ヶ月で運転動作を獲得するのは大変ではありましたが、退院後の生活の質(QOL)はとても上がりました。
仕事や日常生活など社会生活を送る上で「自分で移動できる」というのは、可能性を広げるための重要なエッセンスだと思います。
三井さんはご自身のYou Tubeチャンネル「みついちゃんねる」でも運転の様子について発信されています。
かなり分かりやすく運転の様子について紹介されているので、ぜひそちらの動画も御覧ください。(URLは記事下部にリンクしています)
三井さん、ありがとうございます!
三井さんへのメッセージ
最後に、赤澤さんからメッセージをいただきました。
私は、三井君の人生で一番しんどい時期の一部をセラピストとして関わらせて頂きました。
リハビリ以外は病室で引きこもる辛い時期もありましたね。今は学生さんに向けて授業をしたり、YouTubeで発信を続けたりする三井君を見てとても嬉しく思っています。
医療者としての視点をもって自身の経験や気づきを発信してくれることは、私たちにとっても学びが多いです。玉野総合医療専門学校で一緒に授業を受け持つにあたり、当時を一緒に振り返れたことは私の財産となりました。
今後も三井君の活動に勇気づけられる方は多いと思います。退院後に出来るようになった事も多く、小さな自信を積み重ねて自分らしさを取り戻していった事がよく分かり、皆共感できるのだと思います。
これからも応援しています!
赤澤さん、脊髄損傷の運転リハビリや実際の三井さんのリハビリの流れについて丁寧に教えて下さりありがとうございました。
私自身、なかなか脊髄損傷を専門とした方にお話を伺うことはなかったので、大変貴重な機会となりました。
今回の取材にあたり協力して下さった赤澤さん、三井さん、玉野総合医療専門学校の関係者の皆様、ありがとうございました。
<関連記事・情報>
・三井さんインタビュー記事(リハノワ)
・実際に運転する様子についてまとめらた動画(YouTube「みついちゃんねる」より)
・三井さんInstagram
ぜひ合わせて御覧ください。
写真提供:くらしフォトグラファー・しんたろう
以上、本記事では車椅子の看護師・三井和哉さんと入院中にリハビリを担当していた作業療法士の赤澤壮介さんに「自動車運転リハビリ」についてお話を伺いました。
一人でも多くの方に、三井さんと赤澤さんの取り組みや素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
リハノワは、株式会社HAPROT・他パートナー企業、個人サポーター、読者の皆さまの応援のもと活動しています。皆さまからのご支援・ご声援お待ちしております。
※取材先や取材内容はリハノワ独自の基準で選定しています。リンク先の企業と記事に直接の関わりはありません。
コメント