運転再開に向けたリハビリと移動支援の実情|中伊豆リハビリテーションセンター

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

今回は、静岡県伊豆市にある中伊豆リハビリテーションセンターさんを取材しました。

中伊豆リハビリテーションセンターは、全国でも珍しい自動車運転コースを備えた病院で、2024年4月には新たにパーソナルモビリティの練習コースも整備されました。「運転支援」や「移動支援」に力を注ぐこのセンターで、運転再開を目指してリハビリに励む患者さんや、それをサポートする作業療法士さんにお話を伺いました。

本記事では、中伊豆リハビリテーションセンターさんの運転支援および移動支援の取り組みについて紹介します。

中伊豆リハビリテーションセンター

静岡県伊豆市にある中伊豆リハビリテーションセンターは、1973年に全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)の支援を受け、交通事故などで障害を負った方々の社会復帰をサポートするための施設として開設されました。現在では、交通外傷だけでなく、脳卒中や脊髄損傷など脳や神経系に障害を持つ方々も多く入院しており、社会復帰に向けたリハビリテーションが積極的に行われています。

中伊豆リハビリテーションセンターでは、ロボット等を活用した「先進的なリハビリテーション」や、障害を持つ方々の自動車運転の再開に向けた「運転支援」、運転中断となった方々の「移動支援」などに力を入れています。入院から在宅まで切れ目のないサービスを提供することで、自立した生活を送れるようにサポートしています。

自動車の運転支援

センター内には、実車での運転評価が可能な「自動車運転コース」が整備されており、3種類の特色あるドライビングシミュレーターも導入されています。ここでは、具体的な自動車運転支援の流れや体制、教習所との連携についてご紹介します。

病院に併設された自動車運転コース

対象者と支援体制

中伊豆リハビリテーションセンターでは、主に脳血管障害や整形外科疾患をお持ちの方々を対象に、自動車運転の再開に向けた支援を行っています。対象者の割合は、脳血管障害の方が約8割、整形外科疾患やその他の方が約2割です。年齢は、74歳以下の方が60%以上となっており、全国平均と比較すると若い方が多く入院しています。7名の作業療法士が「運転支援チーム」を結成し、一人ひとりの特性に合わせた支援を行っています。

運転支援チームで活動する、作業療法士の那須識徳さん(取材記事はこちら)
かわむー
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中伊豆リハビリテーションセンターさんでは外来での自動車運転評価もされているようですが、対象となるのは「中伊豆リハビリテーションセンターの回復期病棟を退院した方」か、「連携先の急性期病院から紹介された方」だそうです。

詳しくは、記事下部にある「施設概要」をご覧ください。


運転支援の流れ

運転支援は、以下のようなステップで進められます。

① 機能的リハビリテーション
② 身体評価と神経心理学的検査
③ ドライビングシミュレーターによる評価
④ 院内コースでの実車評価
⑤ 自動車教習所での 実車評価
⑥ 安全運転指導や運転中断支援など 
⑦ 退院 
⑧ フォローアップ

機能的リハビリテーション

筋力強化、関節可動域練習、動作練習、高次脳機能のリハビリなど、一般的な回復期リハビリテーション病棟で行われているような練習を理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などとともに行います。

身体評価と神経心理学的検査

機能的リハビリテーションが進んだタイミングで、自動車運転に必要な「身体評価」や「神経心理学的検査」を行います。

身体評価
身体評価では、視力や色彩識別能力、有効視野といった「視覚」に関する検査を行います。また、関節可動域や筋力、操作の滑らかさや速度、感覚、痛みの有無、震え、ブレーキの踏み込みや踏み変えが1秒以内にできるかといった「身体機能」のチェックも行います。さらに、座位保持や移乗動作、後方確認ができるかなど、運転に必要な「動作能力」も評価します。

脳血管疾患などで右半身に麻痺がある方は、ドアの開閉やウインカー、ライトのスイッチ操作ができるか確認します。一方、左半身に麻痺がある方は、パーキングブレーキやワイパーのスイッチ操作、クラッチが踏めるかを確認します。

神経心理学的検査
認知機能を評価するための「ミニメンタルステート検査(MMSE)」や、構成障害や視空間障害を評価する「Kohs立方体組み合わせテスト」、注意障害等を評価する「Trail Making Test(TMT)」、空間構成能力や視覚的記銘力を評価する「Rey-Osterrieth複雑図形模写検査」など、対象者に合わせて複数の検査を組み合わせながら実施します。

検査は作業療法室で行います。
作業療法室では、ハンドル操作の練習もできます。

3種の運転シミュレーター

中伊豆リハビリテーションセンターには、特性の異なる3種類のドライビングシミュレーターが導入されています。それぞれの特徴を紹介します。

◆ 三菱プレシジョン DS-2000R
このシュミレーターは、ハンドルやアクセルブレーキの位置関係が実車に近く、手動装置や左アクセルペダルなど、障害に応じた運転操作が可能です。操作練習や危険予測体験を中心に使用されています。


HONDA セーフティナビ
反応検査や簡易的な視野検査などの適性検査に使用されるシミュレーターです。豊富な危険予測体験が可能で、危険予測の評価の一部としても使用されています。


@ATTENTION ドライビングシミュレーター
このシミュレーターは、運転操作中の頭部の動きと視線の計測が可能です。また、ハンドルやアクセル・ブレーキの操作ログを記録・分析することで、認知、判断、操作の一連の流れを評価することができます。

実車評価(院内・教習所)

院内コースでの実車評価

リハビリテーション室から徒歩5分の場所に、広々とした自動車運転コースが整備されています。練習用車両として、小型乗用車のトヨタ「ヴィッツ」と、普通乗用車の「カローラフィールダー」の2台の改造車が用意されています。患者さんは運転支援チームの作業療法士さんと一緒に、実際の自動車運転を行います。

中伊豆リハビリテーションセンターの自動車運転コース。信号機もある。
改造車の車内。手でアクセル・ブレーキを操作する手動装置や、片手でハンドル操作するためのグリップ、ウインカーのスイッチなどが設置されている。
身体の状態にあわせて一部取り外しも可能。
作業療法士さんが助手席でサポートしながら実施する。
自動車運転コースでは、S字やクランク、駐車などが練習できるようになっている。


自動車教習所での実車評価
院内コースでの実車評価をクリアした方は、次に自動車教習所での実車評価に進みます。中伊豆リハビリテーションセンターは「伊東自動車学校」と連携しており、入院患者さんはリハビリの時間を使って、作業療法士さんとともに教習所へ向かいます。(外来患者さんは現地集合です。) 教習所では、教官が同乗し、公道での運転評価を行います。この時、患者さんは教習所の保険に加入し、安全を最優先にして実施されます。


自動車教習所での実車評価後
自動車教習所での実車評価が終了した後、以下のプロセスを経て運転に関する判断が行われます。

① 運転報告書の作成 
② 診断書作成のため、担当医を含めた担当者会議を開催 
③ 診断書の作成 
④ 医師の診断をもとに「免許センター」または「最寄りの警察署」で臨時適性検査を実施 
⑤ 「運転再開」または「運転中断」

「運転再開が可能」と判断された場合は、病状に応じた安全運転の助言やフォローを行います。一方、「運転中断」と判断された場合は、ご本人の運転再開希望を確認しながら、その後の生活支援や移動手段の検討をサポートします。

移動支援

中伊豆リハビリテーションセンターでの自動車運転再開率は約50%で、約半数の方が運転を見合わせる状況となっています。

運転再開が難しい場合でも、退院後に「やりたいことを続ける方法」や「苦手なことを安全に行う工夫」を一緒に考えることを大切にしています。ここでは、地域の移動資源を紹介する取り組みや、パーソナルモビリティに関する取り組みを紹介します。

地域の移動資源の紹介

運転を中断することで地域での生活が制限されると、心身機能の低下や要介護度の上昇といった問題が生じやすくなります。日常生活での活動制限を防ぐためには、地域の移動資源を活用することが重要ですが、これらの資源は十分に整理されておらず、必要な情報にアクセスしにくい状況があります。そこで、中伊豆リハビリテーションセンターでは、近隣の市町と連携して、地域移動資源を整理した「パンフレットの作成」に取り組んでいます。 

パーソナルモビリティ

パーソナルモビリティとは、歩行者と既存の乗り物の間を補完する目的で開発された個人向けの移動ツールで、1~2人乗りのコンパクトな車両のことを指します。中伊豆リハビリテーションセンターでは、さまざまなタイプのモビリティが取り揃えられており、試乗することができます。患者さん一人ひとりに合った移動手段を見つけるサポートをしています。

次世代型電動車椅子「WHILL」
電動アシスト付自転車「リベルタ」
「スズキセニアカー」


パーソナルモビリティ練習コース
2024年4月に、シニアカーや電動車いすなどのパーソナルモビリティの練習コースが新しく整備されました。運転を中断しても地域での移動が困難にならないように、このコースを使って練習を行っています。

自動車運転コースに隣接する、パーソナルモビリティの練習コース
斜めになった歩道の練習エリア
線路などのレールを想定した練習エリア
小さな段差の練習エリア
段差解消のために盛り上がった部分の練習エリア


施設内ツアー

センター内を案内してもらったので、リハビリに関するエリアを紹介します。

作業療法室
動作解析を行うエリア。3次元動作解析装置が設置されている。
日常生活動作の練習を行うADL室
調理練習エリア
理学療法室
コミュニティホール
コミュニティホールの一角に設置された入浴練習エリア
中伊豆OT農園
園芸療法が実施されている

施設概要

■ 社会福祉法人農協共済中伊豆リハビリテーションセンター
センター長 吉野 邦英さん

■ 設立
1973年(昭和48年)

■ 事業

・医療:回復期リハビリテーション病棟(病床数:110床)
・福祉:自立訓練、生活介護、施設入所支援、就労継続支援B型、相談支援
・介護:訪問看護ステーション、訪問リハビリテーション、通所介護、居宅介護支援、ヘルパーステーション

経営理念
想いに寄り添い 心と技術でささえ 地域と未来につなぐ

■ セラピスト
理学療法士(32名)

・修士号取得者 4名
・認定理学療法士 11名
・回復期リハビリテーション病棟協会セラピストマネージャー 1名

作業療法士(25名)
・博士号取得者 3名
・修士号取得者 2名
・認定作業療法士 1名
・回復期リハビリテーション病棟協会セラピストマネージャー 1名

言語聴覚士(14名)
・博士号取得者 1名
・修士号取得者 2名

■ 自動車運転評価外来

対象:中伊豆リハビリテーションセンター回復期リハビリテーション病棟を退院した方、連携先の急性期病院から紹介された方(回復期リハビリテーション病棟へ転院せず、リハビリテーション評価を受ける機会がなかった方)
診察日:水曜日(初回のみ)※完全予約制 
実施期間:
・介護保険に該当する方:2〜3ヵ月で全3〜5回の外来で実施します(1回2時間、月上限2回)
 ※ただし、現状利用しているサービスとの兼ね合いで調整が必要な場合があります。詳しくは、下記の窓口までお問い合わせください。
・介護保険非該当の方:2〜3ヵ月で全3〜5回の外来で実施します(1回2時間、月上限2回)
窓口への相談:
・中伊豆リハセンターを退院した方:0558-83-2204(作業療法科)
・新規相談の方:0558-83-2111(運転外来)

■ 所在地
〒410-2507静岡県伊豆市冷川1523-108
TEL:0558-83-2111
FAX:0558-83-2370

■ アクセス
伊豆箱根鉄道「修善寺駅」から無料送迎バス(※)またはタクシーで約25分
※無料送迎バスに関する情報はこちら

■ 問い合わせ

こちらのフォームからお問い合わせくだい

■ 関連情報
病院HP

伊豆箱根鉄道「修善寺駅」にある無料送迎バスのりば
無料送迎バスが病院と駅をつないでいる。所要時間は25分。


かわむー
かわむー

中伊豆リハビリテーションセンターでの運転支援や移動支援の取り組み、そしてリハビリの現場を見学させていただきました。静岡県伊豆市は「車社会」といえる地域であり、障害者や高齢者の移動支援は非常に重要な課題です。そんな地域で実践されている、最先端の支援の数々は非常に印象的で、大変勉強になりました。

素晴らしい施設環境と、熱い想いをもったスタッフの方々がとても魅力的でした。リハノワはこれからも、中伊豆リハビリテーションセンターのみなさんのご活躍を心から応援しております。

取材に協力いただいた作業療法士の那須さん、リハビリに励まれていた池田さん、リハビリスタッフのみなさま、そして今回ご紹介いただいた永島さん(株式会社ジョシュ 代表)、貴重な機会を本当にありがとうござました。


かわむー
かわむー

<関連記事・情報>

運転リハビリに励む患者さんの声
那須識徳さん(作業療法士)インタビュー記事

ぜひ合わせてご覧ください。



以上、今回は静岡県伊豆市にある中伊豆リハビリテーションセンターさんをご紹介しました。

ひとりでも多くの方に中伊豆リハビリテーションセンターさんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。

この取材は、施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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