みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、広島県福山市にある猪原[食べる]総合歯科医療クリニックで言語聴覚士として働く、渡辺泉さんを取材しました。
渡辺さんが言語聴覚士を目指したきっかけや、歯科医師と言語聴覚士の連携した「食べるリハビリテーション」の実状についてお話を伺いました。
言語聴覚士・渡辺泉さん
◆ 渡辺 泉(わたなべ・いずみ)さん
広島県広島市出身。言語聴覚士免許を取得後、療養型病院の言語聴覚部門立ち上げに従事。その後、二次救急病院やデイケアで働いた後、猪原[食べる]総合歯科医療クリニックに入職。現在は、訪問リハビリや外来での嚥下評価や指導、口腔機能に関する臨床研究に従事している。
現在は歯科医院で働く言語聴覚士としてご活躍中の渡辺さんですが、もともと言語聴覚士を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
私は姉が理学療法士だったことから、リハビリの仕事に興味をもっていました。高校の進路選択時に姉に相談したところ、「うちの職場を見てみるといいよ」と言われ、当時姉が勤務していたリハビリテーション病院を見学させてもらいました。
実際にセラピストの方々とお話をするなかで、言語聴覚士の失語症に対するリハビリや嚥下のリハビリなどが他のセラピストとは少し違っておもしろいなと興味が湧きました。今後は高齢者も増えるので、言語聴覚士の需要はますます増えていくという話も聞き、言語聴覚士を目指すことにしました。
短期大学で3年間学んだ後、療養型の病院に就職。ここでは言語聴覚部門の立ち上げに携わりました。当時、嚥下障害の患者さんに言語聴覚士が関わるようになって間もない時期だったので、摂食機能療法を提供するための仕組みづくりも行いました。
言語聴覚士さんと出会う機会はそう多くないと思うので、高校時代に実際の現場を見学できたのはとても良い経験でしたね。新卒で部門立ち上げに携わられたのもすごいです…!
どういった患者さんが言語聴覚療法の対象になるのか、患者さんの把握、多職種への周知からのスタートで、部門の立ち上げは想像以上に大変でした。嚥下造影検査(VF)を使った嚥下評価や、看護師さんへの指導、薬剤師さんとも相談しながら体制を整えていきました。
3年ほど働いた後、結婚を機に引っ越すこととなり、病院やデイケアなどさまざまな現場で働きました。デイケアでは、リハビリ科医の先生から脳画像の見方などいろいろと教えてもらったり、症例検討会を通して生活期のリハビリの目標設定について学んだりしました。
その後は、子育ての関係もあり、一度、医療現場から離れようと飲食店のウエイトレスとして働きました。単調な作業なので仕事のやりがいといった面では物足りず、改めて今後のキャリアについて考える日々を送りました。
歯科医師と連携したリハビリテーション
現在の職場である、猪原[食べる]総合歯科医療クリニックに就職されたきかっけを教えてください。
飲食店でパートをしていた2013年、知り合いの言語聴覚士さんの紹介で、現・理事長の猪原健先生と初めてお会いしました。健先生はちょうど歯科医師と言語聴覚士の連携を強化したいと、言語聴覚士を探しているところでした。
猪原[食べる]総合歯科医療クリニックは、食べるリハビリテーションに力を入れています。食べるプロセスを大きく「噛む」と「飲み込む」に分解したとき、噛む専門家である歯科医師と、飲み込みの専門家である言語聴覚士の連携が重要であると考えていました。
健先生の言語聴覚士に対する想いや期待は十分に伝わってきたのですが、私にこのような重要な役割が果たせるのか、荷が重すぎるのではないかと、一度はお断りしようかと考えました。しかし、健先生が熱心にお誘いし続けてくださったことに心動かされ、週一回から働くことにしました。
日本ではなかなか進んでいない歯科医師と言語聴覚士の連携強化に向け、さまざま現場での経験が豊富な渡辺さんの力が必要だったのですね。
猪原健先生も奥様の光先生も、とてもパワフルで素敵な方々ですよね。
おいしく食べるを支えるために
入職後の働き方や、現在の仕事内容を教えてください。
入職後は、精神科の病院の歯科往診に同行し、嚥下内視鏡(VE)も用いた嚥下評価を行うことからはじめました。その後は、訪問リハビリの制度変更(常勤医師の配置要件の追加)にともない、一時的に近隣の訪問看護ステーションに出向して、在宅での食べるリハビリテーションに力を入れました。
現在は、再び歯科医師と一緒に患者さんのご自宅を訪問して、歯科往診の一部としてリハビリを行っています。件数は週に10件程度で、往診のない日は、外来でVE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)を用いた嚥下評価や指導を行ったり、口腔機能低下症の研究補助を行ったり、嚥下を勉強している歯科医師の研修をサポートしたりしています。
嚥下のリハビリやご家族への指導に関しては、本人の飲み込みの状態や、食事を準備するご家族の状況にあわせて内容を変えています。
主介護者が調理に苦手意識がある場合は、ドラッグストアやコンビニでも買える市販の柔らかいお食事や補助栄養を提案しています。一方、主介護者が料理が得意な場合は、普通の料理をムース食みたいにまとめることのできる魔法の粉があるので、それを紹介しています。ご家族の希望があれば、当院の管理栄養士につないで直接ご自宅へ調理指導に行ってもらいます。
食に対して、本人のこだわりが強いことは多くありますが、毎日三食を準備するのは本当に大変なことなので、ご家族の負担にならないように見極めることが重要です。
仕事をする中で、渡辺さんがやりがいを感じるのはどういった時ですか。印象に残っているエピソードなどあれば合わせて教えてください。
これまでいろんな現場で働いてきましたが、訪問に携わるようになって、これまでの経験が活きているなと感じます。いま、仕事をしていてとても楽しいです。
病院でも患者さんとは1対1で関わりますが、訪問リハビリでは相手のご自宅に伺うので、その人のことがより見えてきます。趣味嗜好や環境、これまでの歩みなど、多くの情報が入ってきます。
以前、病院で働いていたときに延髄外側症候群(Wallenberg 症候群)の方を担当したことがありました。ADLは自立しており、飲み込みだけが難しい状況でした。注入なども自己管理されており、私と一緒に飲み込みのリハビリに取り組みました。
その後、私の職場が変わったこともあり会うことはなくなっていたのですが、猪原歯科に就職して再開を果たします。再開した時には、飲み込みの状態はかなり悪くなっており「最期まで口から食べるにはどうするか」という視点で、歯科医師と協力しながら訪問でリハビリ介入し、最期はご自宅でお看取りすることができました。
食べることに向き合うのは、その人の人生の豊かさそのものに向き合うことだと思っています。そのため、食べる瞬間の笑顔に出会えたときは、最高に嬉しいです。あの笑顔が、私の原動力になっています。
「食べる」にかかわるおすすめ商品
先ほど、渡辺さんが普段、ご家族さまにおすすめしているとろみ剤などあるとお話されていましたが、もし良ければどんな商品か教えてもらってもよろしいでしょうか。
猪原[食べる]総合歯科医療クリニックでは、以下のような商品をおすすめさせてもらっています。一部をご紹介します。
◆ とろみ剤
・まとめるこ
・つるりんこ
調理方法の工夫によっては、本当にたくさんの料理をアレンジすることができます。担当患者さんには、とろみ剤を上手に活用して、とんかつ、唐揚げ、おでん、ハンバーグ、焼きそば、煮魚、お刺し身などを作られている方がいらっしゃいました。
◆ 補助栄養
・エンジョイクリミール
・エンジョイゼリー
森永乳業さんのグループ会社なので、乳製品でとても美味しいです。栄養が足りていない人や、体重が減っている人におすすめです。
渡辺さん、ありがとうございます!猪原[食べる]総合歯科医療クリニックさんは、待合室に大きなキッチンがあるのですが、取材日もちょうど管理栄養士さんを中心にスタッフの方々で新しい嚥下食のデザートを開発をされていました。こういった取り組みも本当に素晴らしいと思います。
歯科ならではの強みを活かして
渡辺さんがリハビリテーションを実践する上で、大切にしていることは何ですか。
私が関わる方はコミュニケーションに問題を抱えた方が多いので、ご本人が発信しようとしたら、じっくりと聞くことを大切にしています。伝わりづらかったときは、「もう1回お願いします」と言って、コミュニケーションを諦めない姿勢をとるようにしています。
また、なんとかして笑顔を引き出せるように、その方のツボを探しにいきます。自宅だと笑顔を引き出すためのヒントがたくさんあるので、会話はしやすいかもしれません。さまざまな話題をふって、どんなところにツボがあるのか探っていきます。
「私はあなたの話を聞いていますよ」というメッセージを伝えることを意識されているのですね。実際に訪問診療に同行させていただき、患者さんやご家族と関わられている様子を見学させてもらいましたが、本当に丁寧に関わられていて素敵だなと思いました。
最後に、渡辺さんが今後挑戦したいことなどあれば教えてください。
今後は、口腔嚥下機能が低下する前の予防領域にもっと関わっていきたいと考えています。
いま、猪原健先生の口腔機能低下症の研究を手伝っているのですが、そこではサルコペニアやフレイルなどと関連した、飲み込みにかかわる因子を調査しています。この研究によって因子が明らかになったら、飲み込みと口腔機能を維持するための個別トレーニングを提案できるようになるのではないかと思います。
予防に関わることができるのは、歯科ならではの強みです。町のいろんな人とのつながりも大切にしながら、言語聴覚士の可能性をどんどんと広げていきたいです。
歯科は、病気になる前段階の人に会えるのが大きな特徴であり、強みでもあるかと思います。歯科医師と言語聴覚士が連携した、いつまでも「おいしく食べる」ための予防も含めたリハビリテーションが、全国各地に広がってほしいと感じました。
訪問領域で働く言語聴覚士さんはまだまだ少数だと思います。しかし、在宅の現場で本人や家族の日常に即したリハビリを提供するのはとても面白そうだと、実際の現場を見たり渡辺さんのお話を伺ったりしながら感じました。
渡辺さんのような在宅現場で活躍する言語聴覚士さんが、少しずつ増えていくと良いですね。
リハノワはこれからも、渡辺さんのご活躍を心から応援しております。
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
<関連記事>
・猪原[食べる]総合歯科医療クリニック
・患者さんの声
ぜひ合わせて御覧ください。
撮影:山本夏希
以上、今回は広島県福山市にある猪原[食べる]総合歯科医療クリニックで言語聴覚士として働く、渡辺泉さんを紹介しました。
一人でも多くの方に渡辺さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
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