みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、広島県福山市にある猪原[食べる]総合歯科医療クリニックさんを取材しました。
猪原[食べる]総合歯科医療クリニックさんは、「最後まで口から食べる」をモットーに歯科医師と言語聴覚士が密な連携を図りながら、食べるリハビリテーションに力をいれている歯科医院です。
本記事では、実際のリハビリの様子やこだわりのポイント、猪原先生の声を紹介します。
猪原[食べる]総合歯科医療クリニック
広島県福山市にある猪原[食べる]総合歯科医療クリニックは、1947年から76年続く地域から愛される歯科医院です。2014年に現在の場所へ移転し、世代交代とともに「猪原歯科・リハビリテーション科」として食べるリハビリに力を入れてきました。
歯科医師13名、医師1名(内科、リハビリテーション科)、歯科衛生士14名、言語聴覚士1名、管理栄養士1名など総勢48名のスタッフで、外来および訪問診療を行っています。
2023年10月1日、猪原歯科・リハビリテーション科から現在の「猪原[食べる]総合歯科医療クリニック」へと名称が変更となりました。名称変更の背景には、「おいしく食べる」を支える歯科医院であることをより多くの人に知ってもらいたいという想いがあるそうです。
子どもから高齢者まで幅広い年齢層から愛される、地域にはなくてはならない歯科医院です。
おいしく食べるを支える
いつまでも「おいしく食べる」を支えるために、歯科医師、歯科衛生士、内科医師、言語聴覚士、管理栄養士などがプロフェッショナルチームを結成し、以下の4つのチカラに対してアプローチをしています。
1) 歯のチカラ
歯の痛みを取り除き治す
2)噛むチカラ
失われてしまった噛み合わせを回復させる
3)飲み込むチカラ
飲み込みが難しくなった方へのリハビリを行う
4)栄養のチカラ
身体の健康に良い食事について伝える
それぞれの職種が質の高い仕事ができるように、設備など環境調整にも力を入れています。記事中の「こだわりポイント」で詳しくお伝えします。
歯科医師と言語聴覚士の連携
食べるためには、しっかりと「噛む」ことと「飲み込む」ことが大事となります。そのため、猪原[食べる]総合歯科医療クリニックでは、噛む専門家である歯科医師と、飲み込みの専門家である言語聴覚士が、密な連携を図りながら一人ひとりの「食べる」に向き合っています。
猪原健先生と光先生は、カナダに留学した際に言語聴覚士と連携しながら世界約100カ国の食に向き合いました。
カナダには移民が多く、患者さん一人ひとり文化が違います。そのため、統一の食事は提供されていたものの、それぞれの好みにあった食事が持ち込まれている状況だったそうです。
そのような経験から、光先生は「食べることはアイデンティティなんだ」「食べることに向き合うことは、その人の人生に寄り添うことなんだ」と強く感じ、帰国後は真っ先に、一緒に働いてくれる言語聴覚士を探したそうです。
現在は、言語聴覚士と歯科医師が密な連携を図りながら、食べるリハビリテーションを推進しています。
リハビリテーションの実際
訪問リハビリ
言語聴覚士は、歯科医師とともに患者さんの自宅に訪問し、嚥下や言語の評価、リハビリを実施します。さらに管理栄養士とも連携を図りながら、在宅での栄養指導や嚥下食等の調理指導を行います。患者さんやそのご家族とともに、可能な限り口から食べられるように、チーム一丸となりケアやリハビリテーションを実践します。
外来リハビリ
外来では、嚥下評価や指導を行います。評価では、VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)を実施します。VEは、唾液や喀痰の貯留の有無、食物を飲み込んだ後の咽頭内への食物の残留の有無や気管への流入(誤嚥)などを評価することができます。VFは、バリウムなどの造影剤を含んだ食事をX線透視下で食べてもらい、嚥下運動や適切な食形態を評価・診断することができます。VFの検査ができる歯科医院は、全国的にもかなり稀です。
こだわりポイント
取材をする中で発見した、猪原[食べる]総合歯科医療クリニックさんの魅力的なポイントを紹介します。
◆ 誰もが同じ場所から出入りできる、ユニバーサルデザインな入り口
歯医者では床下に排水管を通すため、25センチ程度床が高くなるのが一般的です。しかし、猪原[食べる]総合歯科医療クリニックの入り口は、みんなが同じ場所から出入りできるようにバリアフリーとなっています。理事長の健先生が東京大学で福祉工学を学んでいる時に、「バリアフリーとは決してスロープをつけることではない」と教わったことがきっかけで、スロープをつけるのではなく、あえて駐車場から嵩上げをする大工事を行っています。建築士を探すのには7年かかったそうです。
開業後、「入り口にあるあの1つの段差が怖くて、これまで歯科への足が遠のいていた」と高齢の患者さんから言われたそうです。また、医療的ケア児のお姉さんが本人と受診した際、「初めて弟が自分の力で入り口から入れた」と涙を流されたエピソードもあります。
◆ 待合室にあるキッチン
クリニックに入ってすぐの待合室には、大きなキッチンがあります。ここは「みんなのキッチン」として地域に開放し、患者さんや地域の医療介護従事者を集めて、食べることに関するさまざまなイベントを開催しています。取材当日は、管理栄養士さんを中心にスタッフの方々で新しい嚥下食のデザートを開発していました。
◆ 広めの歯科ユニット
すべての歯科のユニットは、車椅子のまま入れるように広めの空間となっています。
◆ 担当の歯科衛生士とともに予防歯科を推進
猪原[食べる]総合歯科医療クリニックでは、歯科は痛くなってから来るのではなく未然にコントロールするのが重要であるということを来院者に徹底して伝えています。歯科衛生士専用部屋が4つあり、担当の歯科衛生士さんのもとへ定期的に通います。唾液検査や食事状況のチェックをおこない、必要に応じて医師や歯科医師に繋ぎます。予防歯科の部屋は、ライトを暖色に変え、窓やカーテンもあるので安心感のある居心地の良い空間となっていました。
◆ 医療への架け橋となる
「歯科をきっかけに医療に繋げられるように」をコンセプトに、月に2回内科診察が行われています。歯科受診の際に、「最近体調はどうですか?」「食事はとれていますか?」など積極的に声をかけ、医療にかかるタイミングを逃さないようにしています。歯科受診する本人のみならず、普段は介護で忙しい家族や、従業員も福利厚生として受診することができます。
◆ VF(嚥下造影検査)完備
歯科クリニックを名乗っているところで嚥下造影検査ができるのは、2023年11月現在、日本全国で2箇所だけだそうです。嚥下内視鏡検査とあわせて嚥下機能の検査を行うことができます。
◆ 歯科技工室
クリニックの2階には自前の歯科技工室があります。歯科技工士さんが4名在籍しており、義歯や被せ物を作成をしています。
◆ 多職種連携
部門ごとの毎日のミーティングはもちろんのこと、毎週水曜日は半日を使って全スタッフでカンファレンスを実施しています。問題点を共有したい人をピックアップして、解決に向けて話し合いを行います。多職種での連携を大切にしています。
◆ 職員の働き方改革に注力
職員の働きやすい環境を整備しており、カルテ室には1人につき1台のパソコンとディアルディスプレイが用意されています。また、専属のシステムエンジニアを雇用し、カルテや多職種連携のシステム作りに力をいれています。
猪原先生の声
理事長の猪原健先生と、訪問診療部部長の猪原光先生にお話を伺いました。
◆ 猪原 健(いのはら・けん)先生
猪原[食べる]総合歯科医療クリニック理事長 / 歯科医師 / NPO法人えがおのまちづくりステッキ代表理事
<経歴>
2005年 東京医科歯科大学歯学部 卒業
2009年 東京医科歯科大学大学院 顎顔面補綴学分野 修了(歯学博士号取得)
2010年 日本大学歯学部 摂食機能療法学講座 非常勤医員
2010年 10 月~2011 年 9 月 カナダ・アルバータ大学 リハビリテーション医学部 言語聴覚療法学科 Visiting Professor として留学
2011年 医療法人社団 敬崇会 猪原歯科・リハビリテーション科 副院長
2015年 脳神経センター大田記念病院に歯科を立ち上げ、非常勤医として勤務 (兼務・現職)
2020年 医療法人社団 敬崇会 理事長に就任
2021年 グロービス経営大学院修了、MBA(経営学修士)取得
<資格>
・介護支援専門員
私は、父や祖父が歯科医師だったのをきっかけに歯科医師の道に進みました。学生時代、せっかく医療職になるのであれば「人の人生に関わる仕事をしたい」と考えるようになります。その時に出会ったのが、顎顔面補綴学という学問でした。
顎顔面補綴学では、口腔がんや頭頸部がんなど口腔外科や耳鼻科領域の患者さんに対して入れ歯の技術を応用した装具を作成し、社会復帰を図ります。たまたま私が通っていた東京医科歯科大学に、日本で唯一その分野が診療科としてありました。大学院はそこに進学し、言語聴覚士さんとともにリハビリテーションのマインドをもって装具製作に励みました。
その後、頭頸部がんの方と同じく嚥下障害に困っている脳卒中患者さんの治療に関わっていきたいと考えるようになり、広島県福山市にある大田記念病院という脳卒中の患者さんを多数受け入れている病院で、週1回の訪問診療を開始しました。
大田記念病院に歯科を設立することになりました。また自身の診療所も病院の近くにあった方が良いということで、2014年に現在の場所に移転しました。
大学院時代からセラピストとともにリハビリテーションを学んでこられたのですね。先生が考えるリハビリテーションとは、何でしょうか。
私は、リハビリテーションとは「人間の尊厳の回復」だと捉えています。世間的には、筋肉をつけたり体力をあげることをメインとしたリハビリテーションが浸透していますが、食べることもとても重要です。
大田記念病院で脳卒中の患者さんを診察する中で、歯が弱っている人にたくさん出会いました。食事をするには噛むことと飲み込むことどちらも必要になりますが、噛む専門家である歯科医師と飲み込みの専門家である言語聴覚士は、実際にはなかなか連携できていないのが現状です。
そのため、私のクリニックでは歯科医師と言語聴覚士がしっかりと連携して、食べるリハビリテーションに力をいれています。
また、生活習慣の不摂生は歯に現れます。歯医者は病気じゃない人に関われるのが強みなので、それを活かして、我々は予防医療も推進しています。
歯科をきっかけとして、自分の身体を大切にしないといけないなって気づいてもらう。そうすることによって、猪原歯科を通過した人は、誰一人として脳卒中などの病気にはさせないぞ!と思っています。
◆ 猪原 光(いのはら・ひかる)先生
猪原[食べる]総合歯科医療クリニック訪問診療部部長 / 歯科医師
<経歴>
東京都立大学工学部卒業後、東京医科歯科大学歯学部学士編入学、同大学院高齢者歯科学分野修了。国立感染症研究所研究員、Misericordai Community Hospital(カナダ・エドモントン)留学を経て、猪原[食べる]総合歯科医療クリニック訪問診療部部長として歯科診療に従事。
私は、学生時代に「食べる支援」への興味が深まり、2010年に夫とともにカナダに留学しました。現在は、言語聴覚士さんとともに食べる支援を実践しています。
クリニックを開院(移転)した当初は、なかなか嚥下障害を抱える患者さんに出会うことができませんでした。そのため、私たちはクリニックにあるキッチンを地域に開放しました。そこで、患者さんや医療・介護従事者を集めて、月2回のペースで勉強会を開催しました。
低栄養の問題に対する高カロリー食、とろみ食、見た目の良い嚥下食の勉強会など、さまざまな企画を打ち出しました。開催したイベントは、5年間で100にのぼります。
食を中心にいろんな人が集まり、その輪がどんどんと広がり、今では街のいろんなステークホルダーとともに地域活動をおこなっています。
街の人たちとともに街のために活動していると、「幸せにしたいのはこの人たちだ」と実感するようになりました。
今後は「街と共に生きる歯科医院」として、より良い社会を子どもたちに残せるように、地域の課題解決に取り組んでいきます。
地域住民の健康を予防の観点も含めてしっかりと支えながら、最近では歯科医院のフィールドを超えて、広い視野をもってまちづくりに取り組まれていることに大変感動しました。
率直に「こんな歯科医院が全国各地にあったら、社会はより良くなるのにな」と取材を通して強く感じました。ここまでのパワーをもって事業を推進できるところは、なかなかないと思います。
これからも、猪原[食べる]総合歯科医療クリニックさんのさらなるご活躍を、心から楽しみにしております。
取材に協力いただいた猪原健先生、光先生、言語聴覚士の渡辺さん、スタッフの皆さま、利用者さま、本日は本当にありがとうございました。
施設概要
■ 運営
医療法人社団 敬崇会
理事長 猪原 健さん
管理者 猪原 信俊さん■ 開業
1947年
■ ミッション
「おいしく食べるを、いつまでも。」
■ 診療科目
歯科、歯科口腔外科、リハビリテーション科、内科
■ スタッフ
・歯科医師(外来・訪問)13名
・歯科衛生士(訪問・外来・予防)14名
・内科医 1名
・言語聴覚士 1名
・管理栄養士 1名
・システムエンジニア 1名
・総務 1名
・歯科技工士 4名
・機材担当スタッフ
・受付スタッフ
■ 所在地
〒720-0824
広島県福山市多治米町五丁目28番15号
■ 問い合わせ
TEL:084-959-4601
フリーダイヤル:0120-23-0957
問い合わせフォーム
■ 関連情報
・HP
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撮影:山本夏希
以上、今回は広島県福山市にある猪原[食べる]総合歯科医療クリニックさんを紹介しました。
一人でも多くの方に猪原[食べる]総合歯科医療クリニックさんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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