みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、がんのリハビリテーション領域で活躍する理学療法士の古谷直弘さんにお話を伺いました。
本記事では、古谷さんががんのリハビリテーションに興味をもったきっかけや大切にする思い、今後チャンレンジしたいことについて紹介します。
理学療法士・古谷直弘さん
◆ 古谷直弘(ふるや・なおひろ)さん
1991年東京都出身。理学療法士免許取得後、2014年急性期病院に就職。退院後の患者さんの暮らしに興味をもち、2016年訪問看護ステーションに入職。プレイングマネージャーとしてステーションの立ち上げに関与した後、自身の母やがん患者さんの死をきっかけにがんのリハビリテーションに興味を持ち、東名厚木病院に入職。がんのリハビリテーションの立ち上げを行い、現在は急性期リハビリチームのリーダーとして入院中の患者さんのリハビリ業務に従事する。 ※2023年4月から大学院に進学、他県の病院へ転職。
興味と課題感を持って常に前進
現在はがんのリハビリテーション領域で活躍されている古谷さんですが、そもそも理学療法士を目指したきっかけは何だったのでしょうか?
高校時代、バスケットボール中に捻挫をして整形外科に行ったのがきっかけです。そこで理学療法士という仕事があることを知りました。
リハビリに関する様々なことを教えていただくなかで、「かっこ良いな」「私も人の役に立てる仕事がしたい」と憧れを抱くようになり、理学療法士の道に進むことを決意しました。
養成校進学後は、2年生の夏頃から勉強に力をいれるようになりました。特に「老年学」の授業が好きで、担当する先生は今でもとても尊敬しています。
理学療法士となってからは、どのようなキャリアを歩まれたのですか?
養成校卒業後は、急性期病院に就職しました。そこでは、運動器疾患の患者さんに関わる機会が多くありました。
働くなかで、入院中に担当していた患者さんが外来の診察に来られたタイミングで、退院後の生活について話を伺う機会がありました。
その時、「退院したあとにリハビリする場所がないのよね」とお話されたのです。その言葉がきっかけとなり、「退院後、患者さんは家でどのように過ごしているんだろう?」と在宅領域のリハビリに興味を持つようになりました。
そして、理学療法士2年目の冬、訪問看護ステーションへ転職します。
転職先の訪問看護ステーションは立ち上げ直後でもあったことから、リハビリの新規受け入れやセラピストの訪問数の調整など、管理業務も担いました。
プレイングマネージャーとして事業所の立ち上げに関われたことで、利用者さんや職員が過ごしやすい「環境」に目がいくようになったり、「経営」についても考えたりするようになり、視座が一気に高くなりました。
若手のいちセラピストではなかなか経験することのできない、濃い時間を過ごしました。
大切な人の死をきっかけに
在宅領域へ転職した古谷さんが、がんのリハビリテーションに興味を持たれるようになったきっかけは何だったのでしょうか? エピソードもあれば教えて下さい。
がんで闘病していた母や、訪問看護ステーションで関わっていたがん患者さんの死がきっかけです。
母は、私が3歳の時に「軟骨肉腫」という鼻軟骨にできるがんを発症しました。いわゆる希少がんと呼ばれるものです。
嗅覚が鈍くなるという症状から病気が発覚し、しばらくは抗がん剤や放射線にて治療を継続していました。しかし、最期は脳に転移し、その転移した部位から出血を起こしたことで1ヶ月後に病院で息を引き取りました。
母が亡くなったのは、私が訪問看護ステーションに転職してちょうど2年が経過した頃でした。母の死後、とてつもない虚無感に襲われたのを覚えています。
また訪問看護ステーションでも、終末期のがんの患者さんに1年ほど関わらせていただく機会がありました。関わり始めた当初はものすごく元気で、バスに乗って買い物に行けるほどでした。しかしある時、急に病状が悪化して緊急入院。その後は小康状態となり、最期はホスピスで亡くなりました。
このような経験から、「がんの患者さんの標準治療や治療の経過などをもっと深く学びたい」という思いが強くなり、がんのリハビリテーションに携わることのできる病院に転職することを決意しました。
20代にしてまさかの2回目の転職になりましたが、その時はがん患者さんに貢献したいという強い使命感でいっぱいでした。
度重なるつらい経験が新たなパワーとなり、古谷さんの背中を押し続けているのですね。常に前を向いて行動にうつされる姿が素晴らしいと感じました。
再び病院に就職した後は、いかがでしたか?
入職して最初のうちは、いろんな疾患の患者さんを担当しました。急性期病棟の2つあるリハビリチームのうち、1つは私がリーダーを任されました。
東名厚木病院は2020年にがん診療連携指定病院に認定されました。医師1名、看護師2名、理学療法士2名でがんリハビリテーションの研修を受け、2022年の1月より正式にがんのリハビリテーション(算定)を開始しました。
その取り組みが始まる前には、キャンサーボードと呼ばれる会議で大勢の先生方を前にして、算定を開始することや算定にかかる要件、対象患者さんの説明などを行いました。これが一番、汗をかいたかもしれません。
がんのリハビリテーションが円滑に実施できるよう、組織や環境づくりにも力をいれました。
意思決定を尊重し、実現へと導く
がん患者さんのリハビリテーションに取り組むなかで、やりがいを感じるのはどういった瞬間でしょうか。
患者さんが無事に自宅退院できた時でしょうか。
患者さんには、スムーズに自宅退院できる方、治療による様々な合併症を乗り越えて自宅に退院される方、緩和ケア病棟へ入棟して症状のコントロールを行ったのち、家族や社会資源を活用しながらなんとか自宅に退院される方など、いろんな方がいらっしゃいます。
以前、「おうちに帰りたい」と話す患者さんと自宅退院に向けてリハビリや自宅の環境調整を行っていましたが、退院日の前日にお亡くなりになられた方がいらっしゃいました。
また、本当は帰りたくても家族には言えないと話す方や、意思決定のすり合わせに時間がかかり間に合わなかった方など、これまでいろんな方をみてきました。
厚生労働省のデータでは、自宅で最期を迎えたい人は60%ほどいるのに対し、実際に自宅で最期を迎えることができた人は15%ほどしかいないという報告があります。
本人や家族の希望通り家に帰れることが、リハビリスタッフである私の一番の原動力になっています。患者さんが自宅に帰れたときは「よかったなぁ」と心から思います。
一瞬タイミングが遅れることで、本人の願いが叶わないというのも現実的にあるのですね。本人、家族、医療従事者をはじめ、在宅でサポートする全てのステークホルダーが同じ方向を向いて歩むことの重要性を感じました。
古谷さんが、がんのリハビリテーションに関わるなかで大切にしていることは何でしょうか?
患者さんの意思決定を尊重し、実現することです。
意思決定には意思形成支援、意思表明支援、意思実現支援の3つがあると言われていますが、理学療法士が関われる最も大きな部分は「意思実現支援」だと思います。
患者さんが、医療職から適切な説明を受けた上で、安心した環境で意思を表明し、その意志を実現する。
この実現の部分には、身体機能や活動、環境設定が深く関わってきます。
患者さんの意思を実現するためには、自分の力のみならず多職種の力がなにより必要ですので、多職種連携も大切にしています。
今後の挑戦とメッセージ
最後に、がんのリハビリテーションを受けられている患者さんや、がんのリハビリテーションに興味をもっているセラピストに向けて、メッセージがあればお願いします。
がんの患者さんにとって、入院や手術は「人生における大きなイベント」です。
その大きなイベントの前後で、理学療法士などのリハビリテーション専門職が関わらせてもらっています。手術後に早く起きて動き出すことは、元の生活に戻るためには重要なプロセスです。大変かと思いますが、一緒に頑張りましょう。
がんのリハビリテーション領域で活動するセラピストは、まだまだ少ない印象です。しかし、今やがんは2人に1人がかかる病気です。がんを患っていた人、患っている人はたくさんいらっしゃいます。
がんは、発症する部位によって症状が異なりますが、昨今課題となっているサルコペニア・フレイル、栄養障害なども関与してくる疾患です。ぜひ学んで、関わっていただけると嬉しいです。
私自身は、2023年4月から大学院に進学します。医療現場で運動療法を介して直接的にがんの患者さんを支援するのは当然大切だと考えています。一方で、臨床研究を通して患者さんを支援する事もできるのではないかと考えるようになりました。
大学院で臨床研究について学び、がん患者さんの支援の一助になれば良いなと思っています。
これからも日々学び続け、がんの患者さんに貢献できるように頑張ります。
古谷さん、がんのリハビリに取り組まれている患者さんやセラピスト、それぞれに向けたメッセージをありがとうございました。
また、古谷さんご自身は、今後さらなるステージへいかれるのですね。常に自身で課題をみつけ、行動をおこしていく姿勢を本当に尊敬します。
リハノワは、これからも古谷さんのご活躍を心から応援しています!
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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・古谷さんが担当する患者さんの声
・東名厚木病院
ぜひ合わせて御覧ください。
撮影:ひろし
以上、今回はがんのリハビリテーション領域で活躍する理学療法士の古谷直弘さんを紹介しました。
一人でも多くの方に、古谷さんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
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