みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、千葉県鴨川市にある亀田クリニックで、産後のリハビリテーションに取り組んでいる理学療法士の須貝朋さんにお話を伺いました。
この記事では、須貝さんが情熱を注ぐ産後のリハビリテーションの活動や、リハビリテーションを実践するうえで大切にしていることについてご紹介します。
※ 亀田メディカルセンターリハビリテーション部門の紹介記事はこちら
理学療法士・須貝朋さん
◆ 須貝朋 (すがい・とも)さん
亀田クリニックリハビリテーション室 理学療法士 / ガスケアプローチ周産期ペリネ教育ラベルアドバイザー
千葉県松戸市出身。2011年に昭和大学を卒業後、亀田メディカルセンターに入職。理学療法士として、急性期、回復期、維持期の幅広いリハビリテーションを経験した後、2016年の長女出産を機にウィメンズヘルスに関心をもつ。育児休暇から復帰した2018年より、産後のリハビリテーションに本格的に取り組む。現在は、産後の女性に寄り添いながら骨盤ケアを中心とした活動に注力している。
現在、産後のリハビリテーションに情熱を注がれている須貝さんですが、理学療法士という道を選ばれたきっかけについて、ぜひお聞かせください。
私が理学療法士を目指したきっかけは、中学2年生から高校生の間に経験した膝の手術とリハビリでした。
水泳部で飛び込み競技をしていたのですが、生まれつき円盤状半月だったこともあり、怪我をしやすい体質でした。膝の手術を合計3回受け、術後は長い間、リハビリに通い続けたんです。
リハビリの日々を過ごす中で、「理学療法士って素敵だな」と漠然と感じるようになり、自然とその道を目指すようになりました。親の後押しもあり、高校に入る頃には進路を決め、必要な授業や科目を選びながら目標に向かって準備を進めていきました。
大学時代は、1年目は寮生活、2年目からは自宅から片道2時間半をかけて通学。正直、大変なことも多かったですが、「理学療法士になる」という明確な目標があったので、乗り越えることができました。
実際にリハビリテーションを受けたご経験が、進むべき道を見つけるきっかけになったのですね。
理学療法士としての第一歩を踏み出された亀田メディカルセンターには、どのような経緯で入職されたのでしょうか?
実は、最初は亀田に就職することは全く考えていませんでした。
スポーツには興味があったのですが、いきなりスポーツ整形に進んで知識が偏るのは避けたいと思い、松戸の実家から通える範囲で総合病院や大学病院を探していたんです。
そんな中、学校で亀田の求人情報を見つけたり、先輩が就職したことを知ったりして、「小旅行がてら、先輩に会えたら」という軽い気持ちで、病院見学に行くことにしました。
ところが見学当日、前日の悪天候で倒木があり、列車が途中で止まってしまったんです。慌ててタクシーに乗り換え、病院に向かいました。
その時、タクシーの運転手さんが亀田病院でお世話になったエピソードをたくさん話してくださり、「素敵な病院なんだな」と感じたのを覚えています。
病院に着くと、天候の影響で見学者は私を含めて2人だけ。そのおかげで、リハビリ事業部の村永部長と直接お話しする時間をいただきました。「よく来たねえ」と温かく迎えてくださったのが、とても印象に残っています。
さらに、病院の13階から見た海の絶景や、見学後に先輩から聞いた職場の雰囲気に惹かれ、見学が終わる頃には「ここで働こう」と心に決めていました。
入職後は同期が37人もいて、毎日がとても楽しかったです。
妊娠・出産・育児を経て
就職してからこれまでの歩みや、妊娠・出産・育児を経験された中で感じたことなど、ぜひお聞かせいただけますか?
亀田のリハビリ部門では、セラピストのローテーション教育が行われています。
私は入職当初から「いつか水泳に関わりたい」という思いを抱き、そこに関わることのできる「亀田クリニック」を第一希望に書き続けていました。
安房地域医療センター(出向)、亀田総合病院、亀田リハビリテーション病院での経験を積み、入職して4年目にしてようやく念願が叶い、亀田クリニックで働くことができたんです。
クリニックでの毎日は、まさに「修行」でした。毎朝、自主的に勉強会を開き、モチベーションの高い仲間たちと切磋琢磨する日々。「治せないなら患者さんの前に立つべきではない」という、あたり前なのですが、当時の私にとっては厳しい空気感もありました。
しかし、そのプレッシャーがかえって私の学びやスキルアップへの大きな原動力になっていたように思います。
そんな充実した日々の中で、妊娠が発覚しました。
子どもを授かった喜びはとても大きかったのですが、産休が近づくにつれて次第に不安が膨らんでいったのを覚えています。「1年間休む間に、スキルや知識が止まってしまうのではないか」「周りは成長を続けているのに、自分だけが取り残されるのではないか」と、焦りを感じずにはいられませんでした。
出産後も、同期で理学療法士の夫が普通に仕事に行く姿を見て、「いいな、羨ましいな」と思うこともありました。でも、それ以上に子どもがとても可愛くて、自然と気持ちが吹っ切れました。
「この子との時間を大切にしよう」と心から思えるようになり、前向きに育児と向き合えるようになりました。
そんな学びに対する意欲が旺盛な私は、育休中もどこかストイックなところがあって、「育児休暇中に何かを得たい」という思いが強くありました。
産後3ヶ月頃には地域の子育て支援室に通いはじめ、手帳が予定でびっしり埋まるくらい動き回っていました。その中で、地域の先輩ママたちが声をかけてくださり、次第に新しいつながりが広がっていきました。
子どもがいなかったら出会えなかった方々との新たな世界は、とても新鮮で、毎日が本当に楽しかったです。
また、目の前で子どもが大きく成長していく姿を見守る喜びは格別で、復帰までの時間は「子どもと過ごす時間」を何より大切にしました。育休期間中は、特別な思い出として今も胸に残っています。
産後のリハビリテーション
妊娠当初の焦りを抱えながらも、目の前の状況を楽しみ、前向きに歩まれている須貝さんのお姿がとても印象的でした。育休中にも積極的に地域の活動に参加されていたことが、新しい世界を広げるきっかけになったのですね。
そんな須貝さんが、産後のリハビリテーションに関心を持たれるようになったのは、どのようなきっかけだったのでしょうか? ぜひお聞かせください。
育休中に出会った地域のママたちは、みなさん子どもを最優先に考え、自分の身体の不調や痛みを我慢したり、「お産後だから仕方ない」と諦めている様子がとても印象的でした。
私が理学療法士であることを話すと、「骨盤ベルトの正しい使い方を教えてほしい」「腰の痛みはどうすればいいの?」と、たくさんの質問や相談をしてくれたのです。しかし、当時の私には十分な知識がなく、答えられないことが多く、とても悔しい思いをしました。
「私がもっと学んでいれば、この方たちの力になれたのに」と強く感じたのとともに、「ここはまだ理学療法士が十分に入っていない領域だ」とも気づきました。この経験が、私が産後のリハビリテーションに力を入れたいと思ったきっかけです。
その後、実際に学んでいく中で出会ったのが「ガスケアプローチ(※)」でした。ガスケアプローチは、姿勢や呼吸を通じて骨盤底筋に働きかけるフランス発のメソッドで、運動学や解剖学に基づいているため、理学療法士としても納得できる内容でした。
マタニティヨガや産後ヨガも試してみましたが、もっと専門的な視点で学びたいという気持ちが強くなり、「ガスケアプローチ周産期ペリネ教育ラベルアドバイザー」の資格取得を目指したのです。
※ ガスケアプローチ(ガスケ・メソッド)
フランスの女性骨盤底領域の第一人者であるベルナデット・ド・ガスケ医師が提唱する、人体の生理的機能とバイオメカニクスを尊重した姿勢と呼吸からのアプローチ。ペリネ(骨盤底筋)や腰部や背骨を保護する安全で効果的な方法として、周産期やスポーツをはじめさまざまな分野で活用されている。
骨盤ケアの取り組み
「もっと役に立ちたい」という須貝さんの強い思いが、新たな道を切り拓くきっかけになったのですね。育休中の資格取得に向けた挑戦、本当にかっこいいです。
現在、実際の臨床現場ではどのような取り組みをされているのでしょうか? 復帰後からこれまでの歩みについても、ぜひお聞かせいただけると嬉しいです。
育休からの復帰直後、同じく産前産後の女性の骨盤ケアに情熱を注ぐ、当院消化器外科の高橋知子先生と出会いました。そして、リハビリ事業部の村永部長や同僚のみなさんの協力を得ながら、高橋先生の外来に帯同し、研修を積む日々が始まります。
研修開始から半年ほど経った頃、亀田クリニックで「骨盤底メディカルフィットネス外来(自由診療)」を担当させていただく機会をいただきました。ここから、本格的に産後のリハビリテーションとして骨盤ケアに取り組むようになります。
その後、助産師の三國さんや理学療法士の安倍さんがチームに加わり、「骨盤底ケアチーム」が発足。2019年4月には、亀田京橋クリニックで「産後骨盤トラブル外来」がスタートし、骨盤ケアに特化した、チームでの診療がスタートしました。
医師や助産師と連携しながら診療に携わる経験は本当に貴重で、理学療法の枠を超えた視点や知識を学ぶ機会が多くあり、毎日が新しい発見の連続でした。
次女の出産後は、京橋での外来には帯同していませんが、現在も亀田クリニックの高橋先生の外来に参加し、新たな知識を吸収し続けています。
また、骨盤ケアチームの一員として、地域で開催される「産後骨盤ケア教室」でもお話させてもらう機会をいただくなど、さまざまな現場で活動の輪を広げています。
復帰後すぐに行動を起こし、骨盤ケアの取り組みを本格的に広げてこられたのですね。
骨盤底メディカルフィットネス外来やチームでの診療、地域での教室など、思いを着実に形にしていく須貝さんのパワーが本当に素晴らしいです!
2024年3月からは、当院産科病棟で「産後骨盤底ケア教室」もスタートしました。
この教室は、当院で出産された方全員を対象としています。出産後の入院期間中(通常5日間、帝王切開の場合は7日間)に実施します。
内容としては、骨盤底への負担を軽減する動作や姿勢の指導、排便時の腹圧調整、骨盤ベルトの正しい使用方法、臥位や座位で行う簡単な運動、呼吸法の指導など、日常生活で役立つ具体的なことをお伝えしています。
産後は身体がゆるんでいる時期で、この時期に間違った姿勢や動作を続けると、腰痛や尿漏れ、骨盤臓器脱といった長期的な不調につながるリスクがあるため、全員にお伝えさせてもらっています。
平日の週3回、30分のセッション形式で行い、産後2〜3日目から退院前日までのいずれかのタイミングで受講いただけるよう調整しています。
出産後すぐのママたちは、授乳などの赤ちゃんのお世話や、自身の体の痛みも重なり、とても大変です。そのため、まずはこの時間を通してリラックスしていただくことを大切にしています。
入院中に全てを覚えることが難しくても、「あの時、教室で教えてもらったことがあったな」とあとから一つでも思い出していただけるよう、丁寧にサポートしています。
女性の未来に輝きを
須貝さんがリハビリテーションに取り組む中で、特に大切にされていることはなんでしょうか? また、どのような瞬間に喜びややりがいを感じられるのか、お伺いできると嬉しいです。
私がリハビリテーションを実践する上で大切にしているのは、「フラットに受け止めること」です。
自分の価値観や考えを一旦置き、相手の想いを否定せずに受け止めること、そして相手の立場に立って想像することを心がけています。
こうした姿勢が、安心感や信頼感につながると考えています。そのため、表情や声のトーンといった細部にも気を配りながら、心の機微を感じ取れるよう、一人ひとりに寄り添うことを意識しています。
リハビリテーションをする上で喜びややりがいを感じるのは、やはり、患者さんから「心も身体も楽になりました」「知れてよかった」「ありがとう」といった言葉を頂けたときでしょうか。
その瞬間は本当に嬉しくて、「これからも頑張ろう!」という原動力にもつながります。
実際に須貝さんとお話をさせてもらっていると、その温かく穏やかな雰囲気にとても安心感を覚えます。きっと臨床でも、多くの患者さんが須貝さんに癒され、元気をもらっているのだろうと感じました。
最後に、これから挑戦してみたいことがありましたら、ぜひお聞かせください。
「いつか産後の方々に骨盤ケアを伝えられるようになりたい」と思い描いていた夢が、今こうして実現し、多くの方にお伝えできる場があることに、心から感謝しています。
産後のママたちが、「不調は改善できる」「痛みが当たり前ではない」「もっと良くなれる」と気づき、少しでも快適な生活を送れるようになってほしい――そんな思いを胸に、これからも活動を続けていきます。
今後は、産後のリハビリテーションをさらに広めていくために、自分自身の学びを深め続け、この分野を一緒に盛り上げていける仲間を増やしていきたいです。そして、より多くの女性に寄り添い、支えとなる体制を築いていけるよう努めていきます。
自身の経験を活かしながら、新しい挑戦にも積極的に取り組み、これからも多くの女性が前向きに、自分らしい生活を送れるよう力を尽くしていきます。
産後の女性たちに寄り添いながら、確かな専門性と温かい想いでサポートを続ける須貝さんの姿に、大きな感動を覚えました。
「不調は改善できる」「もっと良くなれる」という希望を届け、女性たちの未来を明るく照らすその取り組みは、多くの方々にとってかけがえのない力になっていると思います。
これからも、理学療法士として学びを深めながら、新しい道を切り拓き続けていかれる須貝さんを、リハノワは心から応援しています。
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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以上、今回は千葉県鴨川市にある亀田クリニックで、産後のリハビリテーションに取り組んでいる理学療法士の須貝朋さんを紹介しました。
ひとりでも多くの方に、須貝さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
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