みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
本日は、一般社団法人ICTリハビリテーション研究会の代表理事で作業療法士の「林 園子さん」をご紹介します。
林さんは、デジタルファブリケーション(デジタル工作機械を使ったモノづくり)×作業療法の第一線を走り続けておられるパイオニアです。世界で唯一の作業療法士のいるファブラボ「ファブラボ品川」のディレクターとして、現在は東京を拠点に活動をされています。
実際にファブラボ品川にお邪魔させてただき、施設内の見学や起業ストーリー、また今後に思い描くことについてお聞かいただいたので、写真も交えながらその魅力をお伝えしていきたいと思います!
作業療法士・林園子さん
◆林園子(はやし・そのこ)さん
一般社団法人ICTリハビリテーション研究会 代表理事
ファブラボ品川 ディレクター
<資格>
作業療法士
<プロフィール>
新潟県長岡市出身。1997年作業療法士免許取得後、神奈川県の総合病院に勤務。その後、デイサービスやデイケア、老健や特養、訪問リハビリなど介護領域のリハビリテーションに従事した後、2018年1月一般社団法人ICTリハビリテーション研究会を設立、代表理事に就任。同4月ファブラボ品川ディレクターに就任。2021年4月より慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程に在学中。3Dプリンタなどのデジタル工作機械を介護やリハビリテーションの現場で活用するためのワークショップを展開している。著書に、2019年8月「はじめてでも簡単!3Dプリンタで自助具をつくろう(三輪書店)」、2021年6月「無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集(三輪書店)」がある。
他業界との架け橋に
林さんが作業療法士(OT)を目指されたきっかけを教えて下さい。また、学生時代はどのように過ごしていらっしゃいましたか。
作業療法士になろうと思ったのは、高校時代に母のすすめがあったからです。作業療法士ってなんだかいい仕事だなと思い、地元新潟の養成校に進学しました。
学生時代は、とにかく厳しい環境の中で勉強に励みました。全寮制の学校で、ものすごく体育会系だったんです。先輩と同じ部屋で、なにか失態をおかすと一緒に怒られるようなルールがありました。
資格取得後は神奈川県鎌倉市にある総合病院に就職。学生時代、厳しい環境で過ごしていたこともあり、最初から割と思い悩むことはなく楽しく働くことができました。
全寮制とは、まるで強豪校の部活動のようですね! 寮生活もさることながら、勉強や実習なども厳しかったことが容易に想像できます。
私自身、作業療法はすごく奥が深い学問だと常々感じています。林さんも最初は「なんだかいい仕事だな」と思って選ばれた道のようですが、それが確信に変わったタイミングはいつ頃でしたか?
作業療法のコンセプトの理解にはものすごく時間がかかりました。高校で進路選択をした時はもちろん、養成校を卒業しても、就職してもまだ、本質的なことは分からないままだったと思います。
自分の中で作業療法の理解が深まってきたのは、違う分野で活躍する人と関わるようになってからです。その方々とディスカッションするにあたり、私自身が作業療法士についてより深く理解する必要がありました。
改めて作業療法という学問に向き合う中で、面白みがより増してきましたし、大切にしなきゃいけないとより思いましたし、この学問を多くの人に伝えたい!と使命感にかられました。
作業療法の「個々人にとって意味ある作業の、主観的満足度や主観的遂行度が向上する経験の積み重ねで、人が元気になる」というコンセプトは、本当に素晴らしいと思います。
これは、どの業界に持っていっても必ず良いと言われます。「これからは、作業療法的な考え方を大切にしなくちゃいけないよね」と、この前もあるデザイナーさんと盛り上がりました。
本当に大事なことは一見複雑で分かりづらいのですが、分かった瞬間、自転車に乗れた時のように一気に自分のものになるんです。
作業や役割を通して、ワクワク感や使命感が向上し、みんなが元気になる社会。そんな世界観がとっても好きだなと思いました。
モノづくりの原点の課題感
現在は3Dプリンタでモノづくりをしたり、臨床時代は自助具製作に携わられたりしたかと思いますが、林さんがモノづくりに興味をもった原点について教えて下さい。
そうですね、私は昔からモノをつくる事が好きだったように思います。幼稚園の頃、近所の山奥に入って粘土を採取し、縄文式土器を作ったことを覚えています。本で見て、実際に試してみよう!と思ったんでしょうね。
粘土を細い紐状にして、それを積み上げるという方法で形を作り、最後は縄目の文様も自分でつけたりしていました(笑)今思えば、その時の縄文土器って3Dプリンタの作り方と全く同じなんですよね。不思議だなと思います。
また最近では、ソーセージを腸詰めから作ることにも挑戦しました。完成品を買うよりはコストも手もかかりますが、とにかく作る過程がワクワクします。
作り方はネットで調べればすぐに出てくるし、材料も簡単に手に入るので、最近は気軽に「作る」ことを楽しめていいなと思います。
自分で作る中で、普段食べるものより美味しいものができたり、美味しくなかったとしても何がいけなかったのかと次なるステージにむけて試行錯誤するのがとても楽しいです。
作るプロセスそのものや、自分で応用を効かせることができる、そんな広がりがあることに楽しさを感じていらっしゃるのですね!幼稚園の時、既に3Dプリンタでのモノづくりに近いことをされていたのにも驚きました。
作業療法士さんといえば、自助具製作のエキスパートかと思いますが、臨床で感じていたモノづくりに関する課題感などあれば教えてください。
作業療法士の自助具製作はずっと昔から行われていることですが、それも所属先の管理者や経営者の意向に左右されることがほとんどです。
みんなが自助具を作り、それを提供している雰囲気だったら「自分もやってみよう」となるかもしれませんが、そもそもその文化がないと、作業療法士自身も自助具製作をする機会はさほどないと思います。
いろんな作業療法士さんに話を聞く中で、上司や仲間から「何を渡してるんだって言われるので、こっそりやっています」という人は結構います。
少なくとも、弱い立場ではなく「やって良い行為」だと堂々とモノづくりができるように、効果があると認められるように、準備を進めていく必要があると思っています。
最近では、必ずしもそれはケア現場から広げていかなくてもいいのではないか、と考えています。例えば、生活用品を扱う企業など、そういったところから3Dプリンタで自助具製作をする文化が広められたら良いですよね。
アプローチは色々あるので、まずは響くところからやっていって社会的な波をつくりたいです。
デジタルファブリケーションと作業療法
現在取り組まれているデジタルファブリケーションに出会われたのは、どのようなきっかけだったのですか?
2016年から、週末に近所のカフェの一角を借りて「プログラミングカフェ」というイベントを運営していました。
訪問リハビリの現場で働く中で、利用者さんの「社会参加」が非常に限られていることにずっと悶々としていました。そこで、まずは自分で解決できることからチャレンジしてみようと思い立ったのです。
毎月1回開催するプログラミングカフェは、高齢者や障害者だけではなく色んな人が集まって活動できるように設計しました。スクラッチというソフトを使って、学んだり教えあったりしながら、カフェの一角で1時間程度わいわい楽しく活動しました。
実際にカフェは、子どもから高齢者、介護を受けている方までたくさんの方が来て下さいました。カフェの運営は3年ほど継続し、現在は別団体の方にお任せしています。
3Dプリンタの活動を始める前は、社会参加を目的としたプログラミングカフェを運営されていたのですね!日頃現場で感じている課題を解決しようと、実際に行動に移されていることが本当にかっこいいです。
3Dプリンタを始められたきっかけは、何だったのですか?
現在、ファブラボ品川を一緒に運営している建築士の濱中直樹さんとの出会いがきっかけです。最初の出会いは、濱中さんがプログラミングカフェに手伝いに来て下さった時でした。
濱中さんは2016年から3Dプリンタを使ったパーソナルファブリケーションスペース(3Dプリンタ等のデジタル工作機械を備えた工房)の運営をされていました。そこの取り組みや3Dプリンタの世界の話をお聞きする中で、ものすごくワクワクしている自分がいました。
3DプリンタやICTなどの最新技術を、もっと臨床現場で活用して自由にモノづくりをすることができたとしたらどんなに素晴らしいだろうか。長い間バリエーションを増やせずにいた作業療法おける「作業としての創作活動」や「自助具製作」は、幅を広げることができるのではないだろうか。リハビリテーションやケアは、もっとクリエイティブで喜びに満ちたものになるのではないかと、これからの未来に対する可能性にワクワクしてきたのです。
それまで濱中さんが運営されていたパーソナルファブリケーションスペース「アトファブ」を、世界初の「作業療法士のいるファブラボ」として新しく一緒に運営していこうという話になり、2018年4月に「ファブラボ品川」を開設しました。
以後、私はディレクターとして、3Dプリンタを活用した自助具などのものづくりの発信を続けています。
実際の体験者と可能性
新たな道を切り開かれてきた中で、あの時のこれは大変だったと感じることや、苦労したことはありますか?
新しいマーケットやコンセプトを拡げることはいつでも大変ですし辛抱強さも必要ですが、それも含めて楽しみながら活動しています。
私たちは、ただ3Dプリンタを使って自助具を作るだけの団体に見られることもあるのですが、本当はそれだけではなくて、利用者さんの「なにか創りたい」という自己実現の場や、「楽しいから創る」というレクリエーションの機会としても機能するように、モノづくりの過程を大切にしています。
一方で、自助具を作るだけではないと言ってしまうとコンセプトがぼやっとして逆に伝わりにくくなるので、そのあたりのジレンマは正直あります。
私たちの描く世界観をどうやって人に伝えたらよいかなと、表現はいつも考えながら発信しています。
週末プログラミングカフェを始めたときの想いを、今も大切に温められているのですね。当時の課題感に対し、もっともっと大きなスケールで取り組まれていく作業療法士としてのプロフェッショナルな姿勢にとても胸を打たれました。
林さんが活動を続ける中での原動力は何ですか? また、やりがいを感じたエピソードなどもあれば教えて下さい。
私の原動力は、想いを同じくし、一緒に取り組んでくれている仲間の存在です。それは、日本だけでなく世界中にいます。3Dプリンタを使って最初に作った自助具を、世界中の人にダウンロードしてもらえた時はとても嬉しかったですね。
やりがいを感じたエピソードとしては、ファブラボ開設当初から今も週に1回通い続けてこられる60代のKさんをご紹介します。
Kさんは40代で脳出血を発症され、以後、片麻痺の後遺症のため一生懸命リハビリに取り組まれています。自宅に退院した後、Kさんは次々と新たな挑戦を始めます。
まずはパソコンも使ったことがない状況からパソコン教室に通いはじめ、ワードやエクセルの使い方をマスターしました。その後、プログラミングや3Dプリンタを使ったモノづくりにも挑戦されるなど、次々とステップを上っていきます。
イベントのポスターや家族の年賀状製作を頼まれるようになるなど、家族や社会の中で次第に役割を持つようになりました。さらには、年に1回開催される「Scratch」というプログラミング言語業界のトップランナーが集うイベント@六本木で、私と一緒に大勢の前でプレゼンもしました。
ICTの活用やモノづくりを通して、Kさんの笑顔がどんどん輝いていくこと、また、「つくる」を楽しみながら何にでも挑戦されるKさんの姿に、デジタルファブリケーション×リハビリテーションの可能性を感じました。
彼の活き活きしている姿を見ることは、私のやりがいにもなっています。
喜び溢れる未来のために
最後に、林さんが今後チャレンジしたいことや未来に思い描いていることを教えて下さい。
ビジネスも、ケアも、デザインも、立場をひっくり返して考えるのは簡単ですが、意味はないと思っています。
提供者側が偉いのでも、提供してもらう側が偉いのでもないはずで、それはインクルーシブな社会とはいえません。提供者がシーズを出して、提供してもらう側がニーズを訴えるのはディスカッションだと考えます。
私たちはディスカッションではなく「ダイアローグ」ができないと、この取り組みは上手く回せないと思っています。
「皆んなで共によりよい道具や環境をつくりあげる」取り組みが、経済や社会の仕組みの中にしっかり組み入れられ、回っていくことを目指したいです。
それは、私の中ではビジネスであり、ケアであり、デザインです。
そんな仕組みや循環を創ることができたら、世界はもっと平和になると考えます。
林さんが描く世界観、素敵ですね!具体的には、どのようなことに取り組まれていくのでしょうか。
現在、ファブラボ品川のサイト上にある「自助具 3D モデルデータ共有プラットフォーム」は、誰でも自由に3Dモデルをダウンロードできるようにしています。
この件に関して、時折、諸先輩方からは知財をとった方がいいと繰り返しご心配とアドバイスを頂きますが、人が真似して作ってくれなくなることは望んでいないので、それはあえてしていません。セラピストも、クライアントも、全ての人が敬意とともにアイデアと実践のデータを共有する未来のリハビリテーションを創っていきたいのです。
私たちは、100円ショップに自分たちのアイデア道具が並ぶことではなく、長期的に人々の役に立ち、文化の醸成に貢献できるようなもっとインパクトがあることをやっていきたいと考えています。
また、いち作業療法士として、誰もがコソコソとせずに自信をもって自助具製作ができるようにガイドラインを作りたいとも思っています。ケア関連の業界のみならず、デザイン業界にも、わかりやすく作業療法のコンセプトが活かせるようなコンテンツを届け、貢献できたらなと思っています。
チャレンジしたいことは、本当にたくさんあります。ですので、他業界の方とも手を取り合いながら、新しいステージへと挑戦を続けていきたいと思っています。
「可能性を信じ、気づいた人から行動する」のみ。
私はこれからも信念をもって歩み続けます。
いずれは、全国の人が身近なところで材料を調達し、3Dプリンタで自由にモノづくりができる環境や文化ができていくんだろうなと、お話をお聞きしながら感じました。 林さんの描く世界観を、私も応援したいと思います!
インターネット時代といわれる現代社会で「デジタルファブリケーションと作業療法」を掛け合わせたチャレンジを続けられる林さんの、これからの益々のご活躍を心より楽しみにしています。
本日は、ありがとうございました。
「ファブラボ品川」さんの紹介記事はこちら。
林さんの著書
・『はじめてでも簡単 ! 3Dプリンタで自助具を作ろう』(三輪書店、2019年)
・『無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集』(三輪書店、2021年)
写真提供:ひろし(カメラマン/理学療法士)
ぜひ合わせてご覧ください。
以上、本日は一般社団法人ICTリハビリテーション研究会の代表理事で作業療法士の「林園子さん」を紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、林さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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