みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、広島県福山市で暮らしのデイサービスねっこを運営する、理学療法士の石本貴徳さんを取材しました。
本記事では、石本さんがデイサービスを立ち上げたきっかけや取り組み、食や環境デザインに対する熱い想いについて紹介します。
理学療法士・石本貴徳さん
◆ 石本貴徳(いしもと・たかのり)さん
1981年生まれ、広島県福山市出身。理学療法士免許を取得後、兵庫県の病院で8年間勤務。その後、福山市内にある2つの医療機関に約10年間勤務し、2022年10月に地域密着型通所介護「暮らしのデイサービスねっこ」を開所。併設した田畑を利用して、自然栽培に取り組む。
現在、農業を取り入れたデイサービスを営む石本さんですが、もともと理学療法士の道を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
小学2年生から大学まで剣道をしていたので、昔からスポーツや身体のことには興味をもっていました。
理学療法士を知ったのは高校3年生のときです。運動している友だちのサポートをしたいと考えていたところ、通っていた接骨院の先生に勧められました。国家資格というところにも魅力を感じ、理学療法士の道に進むことを決意しました。
免許取得後は、兵庫県にある中核病院に就職しました。そこでは、外来、急性期、回復期、訪問など、さまざまな現場で経験を積みます。8年ほど勤務した後、地元の福山市へ戻りました。福山市では約10年間、病院、クリニック、デイサービス、訪問などさまざまな施設で働きました。
いろんな領域のリハビリテーションに携わられてきた石本さんですが、特に印象に残っている現場はありますか。エピソードもあれば教えて下さい。
やはり、生活期のリハビリテーションは面白かったですね。最初に勤めた病院で初めて訪問リハビリに携わった時、「なんてやりがいのある現場なんだ」と思ったのを覚えています。
病院ではなかなか、いち理学療法士の声は届きづらい現状がありましたが、訪問の現場では「生活をコーディネートできる」という実感がありました。同時に、自分の力量で目の前の患者さんの今後を左右することになるため、強い責任も感じました。
印象に残っているエピソードとしては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で日常生活に重度介助が必要な方の外出支援に関わった時のことがあります。ご本人が「パチンコに行きたい」と希望され、僕たちはどうやったらその希望が叶えられるか、同居する娘さんや関連職種の方々とたくさん議論を重ね、丁寧に準備を進めました。
外出当日、パチンコ店に着くと、その方は出る台を分析し、「ここがいい」と選びました。実際に勝ち、そのお金を娘さんにお駄賃として渡しました。その時の嬉しそうな表情は、今でも忘れることができません。
この経験を通じて、本人の希望に沿ってサポートすることの大切さを学びました。
暮らしのデイサービスねっこ
兵庫県から地元の福山市に戻り、医療機関で勤務していた石本さんですが、デイサービスを開所しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
2020年にCOVID-19が流行し、全世界で多くの感染者が増えていく中、医療だけではなんともならない現実を目の当たりにしました。
「自分が見ていた世界はほんの一部にすぎなかった」と気付き、病気になりにくい身体作りに興味を持つようになりました。そして、いろいろと調べていく中で、心身の源といえる「食事」の重要性に気がついたのです。
2022年くらいから本格的に食事に関する勉強を始め、自分で自然栽培の農業をしたいと思うようになりました。
デイサービスのマネジメントの経験があったため、自然栽培を取り入れたデイサービスであれば、仕事にしていけるのではないかと考えたのです。
実家の隣にある祖父の縫製工場を改修し、2022年10月に「暮らしのデイサービスねっこ」をオープンしました。
コロナ禍でいろいろな気付きを得られたのですね。それにしても、そのタイミングですぐに行動に移せる石本さん、素晴らしいと感じました。
いつ何がおこるか分からない世界で、「自分の人生を楽しまなくては!」と思ったのが、一番大きかったですね。
僕としては、お金は生活するのに困らなければそれでいい。自分の楽しいことをしながら豊かな時間を過ごすことを、何より大切にしたかったんです。
お世話になった地元に貢献する!とか、高齢者を救いたい!とか、そんな高尚なことではなく、自然栽培を実践しながら、自分の根っこ(繫がり)が行き届く人たちの豊かさについて考え、行動しよう。それがすべてのスタートでした。
食と健康と環境デザイン
暮らしのデイサービスねっこさんでの取り組みや、こだわりのポイントについて教えてください。
「食事をよくしたい」という思いから起業しているので、ねっこに通ってもらう人にはとにかく身体に良い食事を提供させてもらっています。
自然栽培で育てた野菜やお米、無添加の調味料、地元の醤油、小麦粉ではなく米粉、お菓子もできるだけ手作りにするなど、食事にはかなりこだわっています。正直、お金はめちゃくちゃかかるのですが、ここだけは譲れないポイントです。
食事の準備も、利用者さんに手伝ってもらっています。野菜を切る、洗う、混ぜるなど、調理にはたくさんの作業があります。利用者さん一人ひとりにあった作業を、管理栄養士さんをはじめスタッフで判断し、お願いをしています。
その他、環境デザインにも力を入れています。僕は、自分の思うように「人は変わらない」「人を変えるのは難しい」と思っています。だからこそ、自然と行動変容を促せるような環境デザインが大切だと考えます。
「動いてみようかな」と思ったり、「居心地がいいな」と感じられたりする環境を、五感を刺激しながら設計しています。
(詳しくは記事下部にリンクしている施設紹介記事をご覧ください)
施設内に入った瞬間、思わず「ただいま」と言いたくなるような居心地の良さには大変感動しました。
居心地の良さの裏側には、ハード面はもちろん、音楽や空気などソフト面にも気を使われていました。人が心地良いと感じる周波数を意識したヒーリングミュージック、空気をきれいにする空気サプリ機器は、言われなければ気づかないほどのさりげない仕掛けで、種明かしをされた時にはとても驚きました。
豊かさを追究して
石本さんが施設を経営する中で、大切にしていることはなんですか?
僕は、ねっこに通われてくる利用者さんやスタッフの「自己幸福感」を大切にしています。
利用者さんには、穏やかな環境で健康に良い食事をとりながら、豊かさについて感じてもらいたいと思っています。
スタッフも同様に、一人ひとりの「楽しい」と思える豊かな状態を大切にしています。介護に必要といわれるスキル研修を一方的に用意するのではなく、一人ひとりの幸福に向き合い、そこを全力でサポートしたいと考えています。
僕自身は、お金で豊かになるとは思っていないので、生活できる範囲で、好きな人たちと好きなことをして、仕事を楽しむことを大切にしています。
石本さんを含めたねっこのスタッフ皆さんが、心から楽しく働くこと、豊かな人生を送ること。それが回り回って、ねっこに通われる利用者さんを幸せにしているのですね。
ねっこさんは、心地よいとか満ち足りているという「穏やかな感覚」と、役割をもって行動することでの「達成感」など、人が幸福に感じるポイントがうまくデザインされている場所だと感じました。
自然とともにありのままに生きる、石本さんご自身の生き方もかっこいいなと思います。
今後、石本さんが挑戦していきたいことなどがあれば教えて下さい。
地域の方々に、もう少し食事に意識を向けてもらえるよう、おむすびなどの注文販売をやっていきたいと考えています。
利用者さんで作業できそうな方もいらっしゃったら、うまく巻き込みながらやっていきたいですね。
ねっこの大切にする想いに共鳴してくれる人たちと一緒に、楽しい時間を過ごしてゆきたいです。
リハビリに励む方へ
最後に、ねっこさんに興味を持たれている当事者の方々に向けてメッセージがあればお願いいたします。
僕たちは、「自分」を大切にしています。
いま、ねっこに通われている方々はご縁があった時期なんだろうなと思うし、ねっこには来れるときに来れたらいい、そんな思いで運営しています。
デイサービスは、誰かに行けといわれて行きたくなるような場所ではないなと思っています。知っている顔が一人もいないと、行きたいとも思えないでしょう。だから僕は、通ってこられる最初のうちは、週に2〜3回くらい、少しの時間だけでも利用者さんのご自宅に会いに行くようにしています。1分でも2分でも、顔をあわあせることが安心につながるのであれば、行く意味はあると思うのです。
ねっこは、「通ってくれる一人ひとりを大切にしたい」そこに真正面から向き合っている場所です。もしいつかご縁のある方がいらっしゃったら、よろしくお願いします。
長年の医療機関でのご経験や、人間を哲学する石本さんだからこそ生み出せる、独特の安心感や居心地の良さがここにはありました。自然や関係性の中にある豊かさに気づくことができたように思います。
ねっこさんの安心安全な環境づくり、作業や活動のバリエーション、動きたければ動いたらいいという自由な空気感、それらすべてが素晴らしかったです。
リハノワはこれからも、豊かさを育み続けるねっこさんを心から応援しています。
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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・暮らしのデイサービスねっこ
・ねっこ利用者・Kさん
ぜひ合わせて御覧ください。
撮影:山本夏希
以上、今回は広島県福山市で暮らしのデイサービスねっこを運営する、理学療法士の石本貴徳さんを紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、石本さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
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