みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、脊髄損傷に対する再生医療後のリハビリに取り組まれている藤井佳奈さんにお話を伺いました。
佳奈さんは39歳の時に頸髄を損傷するも、その後8年間、再生医療にむけて懸命にリハビリに取り組んできました。2022年7月に北海道で再生医療を受け、現在は再生医療後のリハビリに励んでいます。
本記事では、再生医療に踏み切るまでの歩みや実際の再生医療について、またその後のリハビリに関する生の声をご紹介します。
※佳奈さんの受傷後から再生医療前までの歩みはこちらの記事にまとめています。
藤井佳奈さんと再生医療
◆ 藤井佳奈(ふじい・かな)さん
1975年広島県尾道市生口島出身。一児の母。歯科衛生士や病院の医療事務として勤務した後、生命保険会社で外交員として従事。2014年10月(当時39歳)、交通事故により頸髄損傷(C6B2不全)・骨盤骨折をはじめとした多発外傷を受傷。1年2ヶ月にわたる入院治療とリハビリを経て、自宅に退院。退院後も懸命なリハビリを継続し、数mの杖歩行や自動車運転の再開を果たす。2022年7月に釧路孝仁会記念病院にて再生医療を実施。入院リハビリを経て、現在は訪問リハビリや自費リハビリ施設にて再生医療後のリハビリを行っている。
佳奈さんが、再生医療に踏み切られるまでの歩みについて教えて下さい。
再生医療に踏み切るまで、正直とても悩みました。
私は2014年に交通事故により頸髄を損傷しました。「一生、歩けない」という現実を突きつけられ、恐怖のどん底に叩き落されました。当時は今みたいに情報発信している人も少なく情報はなかなか手に入らない状況で、私はこの先どうなるんだろうかと不安でいっぱいでした。
それでも「また歩きたい」という望みを持って、大阪にある脊損損傷者の再歩行を目指すトレーニングジム「J-Workout(ジェイ・ワークアウト)」に通いました。そこで、再生医療の治験がスタートする話を聞いたのです。
その頃から、「私もいつか再生医療を受けて、昔のように歩ける未来がくるかもしれない!」と希望を持つようになり、それがリハビリのモチベーションにも繋がりました。
受傷から5年ほどたったある日、知り合いが北海道で再生医療を受けるという話を聞きました。私は「ついにこの時がきた!」と思い、病院の先生をはじめ色んな人に相談をしました。「再生医療をしたいのだけど、どう思いますか?」と。
すると、「藤井さんがあまりにも希望を持っているので現実をお伝えするけれど、再生医療を受けたからといって、必ず歩けるようになるのではないですよ。痺れが良くなったりはするかもしれないけど、元通りになることはあまり期待できません」と、現実を教えてくれたのです。
再生医療を受けたら歩けるようになると思っていた私は、2度目のどん底を味わいました。全ての希望を失ったかのように、悲しみに明け暮れました。
北海道の釧路孝仁会記念病院の方からは、「藤井さんは受傷から5年以上たっていますが、当院ではこれまで5年以上たって施行した人はいません。個人差もありますし、結果がでるかは何とも言えません。だから、よく考えてください」と言われました。
そのような状況から、私は再生医療を受けるのを決めかねていました。再生医療の費用は本当に高額です。「このお金があれば、娘のこれからの未来のお金になるのに…。ここでわたしの身体に使うことが、本当に親として正しいこのなのだろうか?」ととても悩みました。
そんな時、リハビリ病院でお世話になっていた看護師長さんに「もしかしたら何も変化がないかもしれない。でも、何か変わるかもしれない!例えば、痺れが少し軽減するとか。何も変わらなくても、今のカナちゃんに戻るだけ!」と言われたのです。
さらに、娘からも「これまでのデータは無いかもしれないけど、母さんがそのデータを作ればいいじゃん!やるかやらんなら、母さんはやる人じゃろ?悩むくらいなら、やった方がいいんじゃない?」と背中を押されたのです。
「そうか、これから再生医療を受ける人たちの参考となるようなデータを私が出せたら、それは社会貢献に繋がるじゃないか。もし結果が出たとしたら、色んな人にも薦められるし…!」と自分の中でも前向きに考えられるようになったのです。
色んな方の言葉を聞きながらご自身の気持ちを整理して、再生医療を受けることを決心されたのですね。
いつも笑顔でパワフルな佳奈さん。娘さんや師長さんが、佳奈さんの性格も知った上で前向きなコメントを送っているのが伝わり、とても温かい気持ちになりました。
佳奈さんが受けられた再生医療は、どのようなものだったのですか?再生医療までに準備したことなどもあれば教えて下さい。
私が受けたのは「脂肪組織由来間葉系幹細胞を用いた再生医療」です。北海道にある釧路孝仁会記念病院で受けることが決まり、まずは2020年の2月25日に北海道まで移動し、脂肪採取手術を行いました。
脂肪採取手術を受ける前にはがん検診も実施しました。検査でがんが無いことが証明できないと、脂肪採取ができないのです。脂肪採取手術では、右腹部を10cmほど切開しました。
細胞を培養するのには約4〜6週間かかるため、一旦は広島の家に帰宅。そして、2ヶ月後の2020年4月、無事に細胞が培養できたという連絡が入ったのでした。
再生医療の準備は整いました。すぐにでも投与できる状況でしたが、世間はちょうど新型コロナウイルス感染症が流行し始めた頃でした。釧路に行くのが難しい状況となり、細胞は凍結してもらうことになります。
そして、脂肪採取から2年以上が経過した2022年6月30日。私はついに、再生医療を受けるために北海道に旅立ちました。かなり時間がたっているので、再度ペットCTやMRI、心電図などの検査を再度実施しました。身体に異常がないことを確認し、7月5日に細胞を投与しました。
投与は、自室で行いました。肘の静脈から点滴をするのです。テレビを見ながらでも良いですよ、と言われましたが、私は部屋を暗くして1時間横になって投与しました。
1回の投与には、270万円の費用がかかります。2回目以降は半額で打つことができるので複数回打つ人もいるそうですが、私は1回のみにしました。
再生医療前の準備としては、とにかくリハビリを頑張りました。コロナが流行していたので大阪のジムにも行けず、自宅で生活しながら身体機能レベルを落とさないようにリハビリに取り組みました。
再生医療後のリハビリ
細胞投与直後
再生医療は細胞投与後のリハビリが大事だといわれていますよね。実際に佳奈さんが釧路孝仁会記念病院でどのようなリハビリをされていたのか教えて下さい。
リハビリは、投与した翌日から開始しました。
再生医療のあとは3ヶ月間の入院が必要と言われていましたが、入院リハビリも自費診療になるので、私は1ヶ月間でやりきるぞ!と決めてリハビリに取り組みました。(1ヶ月の入院リハ費用は70万円程度)
リハビリ開始1日目、これまで力が入らなかった右手が「グー」をできるようになっていました。嬉しくなった私は、リハビリの目標を「缶コーヒーやビールの缶を開けられるようになること」と設定しました。
リハビリとしては、
・電気をつかった筋肉の促通練習
・手や指を動かす練習
・歩行練習
・調理実習
・自主ストレッチの練習(リハビリ前の体づくり)
などを実施しました。調理実習は1ヶ月のうちに3回実施しました。おにぎり、お好み焼き、チャーハンを作れるようになり、とっても嬉しかったです。
投与から約1ヶ月後の8月10日、広島の自宅に退院しました。
上記の写真は、全てご本人より提供いただきました。
回復期病院
釧路孝仁会記念病院を退院後は、どのように過ごされましたか?
バタバタの1ヶ月だったので、8月いっぱい身体を休めて、9月から脊損専門の病院に入院して再生医療後のリハビリに取り組む予定でした。しかし、入院直前に新型コロナウイルス感染症に罹患し、入院日を10月5日に延期しました。
釧路孝仁会記念病院を退院してから2ヶ月間あいているので、脊損専門のリハビリ病院ではまず体力をつけることからはじめました。
・電気をつかった筋肉の促通練習
・ストレッチの自主練習(平行棒で自分でストレッチ)
・筋力トレーニング
・歩行練習(サークル型歩行器で荷重のかけ方を練習、杖歩行)
などを行いました。また、入院中には患者同士のなかよしグループもできました。脊髄を損傷して間もない方もいて、中には「リハビリなんて続けても…」と諦めそうになっている人もいました。
そのため、私が知っている情報や自身のリハビリの歩み、原動力について話をして勇気づけたり、私の頸髄損傷で絵描きの友人の絵画展をしたりして、みんなに元気のおすそ分けをしました。
「脊髄損傷になってもこんなにできるんだ!」と可能性を感じてもらえたようす。その姿をみて、私もとても嬉しくなりました。
1ヶ月程度リハビリに励み、11月2日に退院しました。
現在の訪問&自費リハビリ
現在は、どのようなリハビリに取り組んでおられるのですか?
11月24日から大阪にある脊損専門のトレーニングジム「J-workout」を再開しました。
再開後は、1ヶ月に1回大阪に遠征し、3日連続でトレーニングを実施しています。J-workoutでは、「杖なしで歩くこと」を目標にトレーニングをしています。
その他、週に4日訪問リハビリを受けています。理学療法士さんが自宅にきてくれて、1時間みっちり筋力トレーニングを行います。
床に寝てストレッチやレッグプレスやブリッジ(おしり上げ)をしたり、四つ這い位で背中を動かす練習や立位で足のストレッチをしたり、歩行器を使った歩行練習に取り組んでいます。
自主練習としては、手や指を動かす練習として洗濯物をたたむなど生活のなかにリハビリを取り入れています。
身体にみられた大きな変化
先ほど、投与後に指が動くようになったなど身体の変化を教えてくださいました。その他にも、再生医療後に身体で変化したことがあれば教えて下さい。
しびれが軽減したので、スムーズに動けるようになりました。雨の日は起き上がるのがきつかったり、調子が悪いときはカロナールを飲んだりしていましたが、それもなくなりました。
その他、感覚にも変化がありました。シャワーをしているときに温度を感じたり、身体に髪の毛があたる「チクチク」とする感じも分かるようになりました。
しびれや感覚の改善にともない、足への荷重のかけ方も変わりました。杖なしでの歩行もできるようになり、今(2022年12月現在)は、独歩で10m程度歩けるようになりました。これはとても大きな変化で、自分でもびっくりしています。
手の変化でいうと、先程右手が動かしやすくなったと話しましたが、リハビリを続けたことで待望の缶ビールが開けられるようになりました。ペットボトルの蓋も開けられるようになったし、おむすびも握れるようになりました。両手にヘラをもって、お好み焼きも焼けるようになりました。
また、手が動くようになったので自分で浣腸もできるようになりました。便のストレスがなくなったのは、私にとって大きな変化です。
これまでは、3日に1回手伝ってもらって排便していたのですが、手が使えるようになったので、自分で小さいスポイトにゼリーをつけて出せるようになりました。下剤を使わなくてもいいし、自分の意思でコントロールできるようになったのが何より嬉しいです。
今まさに、身体全体が変わっている途中です。私は、再生医療を受けて本当に良かったと思っています。
前回、2022年1月に取材をさせてもらった時は、ロフストランド杖をもってなんとか数m歩ける状態でした。
今回取材で伺った時、何も持たずに歩けるようになった姿を披露してくださり、その光景に私は思わず涙してしまいました。本当に素晴らしいです・・・!
さらなる目標を掲げて
佳奈さんの現在のリハビリの目標はなんですか?
よく「再生治療どうだった?」と聞かれるのですが、自分のなかではまだ「再生医療中」だと思っています。
細胞投与後のリハビリも合わせて「再生医療」だからです。まだまだ結果が出るのではないかと期待して、トレーニングに励んでいます。
リハビリの目標は、まずは自宅内で車椅子を卒業することです。
その他、春には熊本に、夏にはイルカと泳ぐという目標があります。
それらを1年で実現したいと思っています。期限を決めたほうが、集中して取り組めるからです。
それ以降は、現在娘がいるアメリカのカルフォルニアに行って、独歩で歩いている姿を娘に見せてあげたいです。
佳奈さんらしい、素敵な目標がたくさんありますね!必ずや叶えられるよう、私も応援しています!
再生医療を考える人へメッセージ
最後に、再生医療を考えている方に向けてメッセージがあればお願いします。
再生医療は、投与したあとの努力なしには成果はついてきません。そのため、意欲をもって取り組む必要があります。
私自身、再生医療を受けるまでは山あり谷ありでした。でも、これまでを振り返ると、あの悔しさも失望も、全てが必然だったように思います。
決して順調に歩んでこれたわけではないですが、諦めなかったからこそ今があるので、自分ではうまくいっていると思えています。
「リハビリなんてやってもどうせ変わらない」と思うよりも、「もしかしらた良くなるかもしれない!」と思って続けた方がきっと良くなるはず。
私はいま、同じように脊髄損傷で悩んでいる当事者の少しでも力になりたいという思いが、自分の原動力にもなっています。だから、行った先々でも誰かのために動くし、学んだことや経験したことは積極的にアウトプットしています。
誰かの力になることが、自分のパワーにもつながります。私はこれからも、前に進み続けます。
佳奈さんの、さまざまな困難を乗り越えながらも次のステージに向けて階段をのぼり続けるその姿は、多くの人の希望の星となりパワーを与え続けてくれます。
再生医療はまだまだ分からない部分も多くある領域です。今回の佳奈さんの結果は、必ずしもすべての人に当てはまるものではないと思われるため、再生医療を受ける際は身近な医療従事者とよく相談し、検討したうえで決断されることをおすすめします。
今回は、再生医療に関する貴重なお話をお聞かせくださり本当にありがとうございました。
これからも、佳奈さんの挑戦を心から応援しております!
本日は、ありがとうございました。
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写真提供:山本夏希
以上、本記事では脊髄損傷に対する再生医療後のリハビリに取り組まれている藤井佳奈さんを紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、藤井さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、ご本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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