みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
本日は、東京都品川区にある作業療法士のいるファブラボ「ファブラボ品川」さんをご紹介します。
ファブラボ(FabLab)とは、3Dプリンタやレーザー加工機などのインターネットに繋げることのできるデジタル工作機械を備えた市民に開かれた工房のことで、現在、全世界では約2000箇所以上あると言われています。
ファブラボ品川は、世界で唯一の「作業療法士のいるファブラボ」として、自助具をはじめとした人々の個別性に合わせたものづくりに取り組まれています。
2022年1月に開催されたオンライン講演会に参加させていただいたことがきっかけで、今回の取材が実現しました。
実際に工房内や作品の見学、これまでの素敵な取り組みや今後に思い描くことについてお聞かせいただいたので、写真も交えながらその魅力をとことんお伝えしていきたいと思います!
ファブラボ品川とは
2018年4月に開設された「ファブラボ品川」は、一級建築士の濱中直樹さんと作業療法士の林園子さんが中心に運営されています。
ファブラボ品川は作業療法士のいるファブラボとして、現在は、3Dプリンターの使い方ワークショップや講演活動、イベント運営や自助具3Dモデルデータの共有プラットフォームの構築、コワーキングスペースやスタジオの運営、ECサイトでの商品販売や書籍執筆、研究開発や企業のコンサルなど、多岐にわたりご活動されています。
近年はCOVID-19の影響もありオンラインでの活動が主体となっていますが、全国各地の方々とやり取りが可能となり少しずつ活動の幅を広げてきているそうです。
今後は、オンラインでも3Dプリントしたり、プリントしたものを手に取ったりする体験ができるように、実機を使ったコンテンツを提供できるように現在準備中とのこと。
デジタルファブリケーション(デジタル工作機械を使ったモノづくり)が、人が健やかで生きがいある生活を送るためにどのようして活用できるのか、その方法や可能性について先駆者として発信を続けられています。
◆ 濱中直樹(はまなか・なおき)さん
ファブラボ品川 ファウンダー/建築家・デザイナー/一級建築士
合同会社ハマナカデザインスタジオ代表社員
アーキテクト/ファブリケイター
ハマナカデザインスタジオ主宰。ファブラボ品川 ファウンダー。2014年11月に立ち上げたファブスペース[at.Fab (アトファブ)]を2018年4月に「作業療法士のいるファブラボ」ファブラボ品川としてリローンチ、「ともにつくる」社会の実現を目指して活動している。
◆ 林園子(はやし・そのこ)さん
ファブラボ品川 ディレクター/作業療法士
一般社団法人ICTリハビリテーション研究会 代表理事
新潟県長岡市出身。1997年作業療法士免許取得後、神奈川県の総合病院に勤務。2005年より訪問看護ステーションにて訪問リハビリに従事した後、2018年1月一般社団法人ICTリハビリテーション研究会を設立、代表理事に就任。同4月ファブラボ品川ディレクターに就任。2021年4月より慶應義塾大学政策・メディア研究科後期博士課程に在学中。3Dプリンタなどのデジタル工作機械を介護やリハビリテーションの現場で活用するためのワークショップを展開している。主な著書に、2019年8月「はじめてでも簡単!3Dプリンタで自助具をつくろう(三輪書店)」、2021年6月「無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集(三輪書店)」がある。
作業療法×モノづくり
おふたりが、作業療法士のいるファブラボ「ファブラボ品川」を作ろうと思われたきっかけを教えて下さい。
現在ファブラボ品川がある場所は、もともとは2014年からパーソナルファブリケーションスペース「at.Fab (アト・ファブ)」として私が運営していました。一時期は、子どもを対象に3DプリンタをSTEM教育にいかす取り組みもしていましたが、2018年からは作業療法に特化しています。
私は以前から、ファブラボを単に地域に開かれ誰でも利用できる場というだけではなく、社会の中で役割をもった場にしたいと思っていました。
そんな中、作業療法士の林園子さんと出会い、作業療法とモノづくりのコラボレーションならばファブラボを社会のなかに位置づけることができると思ったんです。
私は臨床で作業療法士として患者さんのリハビリテーションに関わる中で、自助具(自分で、身の回りの動作を行いやすいように特別に工夫された道具)製作などのモノづくりは、仕事の一部と言っていいくらい身近な存在でした。
2017年に濱中さんと出会い、3DプリンタやICTなど最新の技術をもっと現場で活用したら、作業療法の幅も広がるのではないかと思いました。
そこで、作業療法士のいるファブラボとして「ファブラボ品川」を立ち上げ、以降、自助具づくりに強いファブラボとして活動を続けています。
私自身、作業療法の考え方はとってもとっても大好きで、作業療法士さんのこともすごく尊敬しています。しかし、その良さが本当の意味で分かってきたのは最近のことで、作業療法は理解できるまでが本当に難しく、非常に奥が深いなと感じています。
建築家である濱中さんは、作業療法のどんなところに惹かれたのでしょうか。
僕自身は、林さんや他のセラピストの方々と話していく中で、作業的視点でモノづくりや自分自身をみたり、他人をみたりするって大事だと思ったんです。そして気づいたら、作業療法のファンになっていました。
最初は、「Occupational Therapy:作業療法」の「作業」という言葉が、どうもしっくりきませんでした。しかし、関わるうちにだんだんと理解できるようになっていきました。このタイミングで作業療法が理解できた、というきっかけは無く、今もアップデートされ続けている状況ですが、ある日ふと「作業」という言葉でいいのかと思えるようになっていたんです。
作業療法の専門書によると、作業とは「本人がしたいこと」「する必要があること」「することを期待されていること」の3つに集約されるそうです。
つまり、クライエントの「思い」に寄り添うアプローチだといえるのです。
ファブラボ品川の活動をはじめて大切にしているのはまさにこの部分です。
ただ3Dプリンタを使って自助具を作るだけではなく、利用者さんの「なにか創りたい」という自己実現の場や、「楽しいから創る」というレクリエーションの機会としても機能していくことを大切にしています。
ファブラボ品川では、「モノづくりという作業を通して人生をより豊かにする」まさにリハビリテーションのあるべき姿が実現されているのですね。
実際の利用者さんの作品を見ても、困っているから作ろう、というよりかは、楽しんだり面白がりながら作ったんだろうなという思いが強く感じられました。ファブラボ品川さんの取り組み、本当に素晴らしいですね!
作業療法士である林さんは、ファブラボ品川での活動を通して「作業療法とモノづくり」の未来に何か思い描いていることはありますか?
私も濱中さんと同じく、ファブラボ品川のモノづくりの魅力は、3Dプリンタで自助具を作っているだけでなくてその過程にあると思っています。
私は、個々のアイデアを永遠に生かし続け、誰でもクリエイターになれる、そんな世界を目指しています。
そのためには、みんなでより良い道具や環境を作り上げる取り組みが、経済や社会の中にしっかりと組み入れられていくことが必要です。
そんな仕組みや循環があったら、世界中は分断ではなく平和につながっていくと思うんです。
3Dプリンタの基礎知識
実際に、3Dプリンタを使ったモノづくりについて伺ってみたいと思います!
3Dプリンタで自助具を作るためには、どのような機材や準備が必要になるのでしょうか?
3Dプリンタでモノづくりをするには、
① 3D プリンタ(1万円前後〜数十万円)
② 材料であるフィラメント(3,000 円前後 / kg)
③ パソコンまたは スマートフォンや iPad など、SD カードにデータを送ることのできるデバイス
上記3つがあれば、すぐにでも始めることができます。
3Dプリンタも様々な種類があるようですが、おすすめの3Dプリンタはありますか?
また、どれを選んで良いかわからない場合は、ファブラボ品川さんにご相談させてもらうこともできるのでしょうか?
私たちが今、お勧めしているものは、FDM 方式(熱溶解積層方式)と呼ばれる、熱いノズルの先から出る樹脂を積み上げていくタイプの 3D プリンタです。以下に、おすすめの製品をご紹介します。
1. Ultimaker
2. Original Prusa
3. Anycubic
ここ数年、比較的安価な FDM 方式 3D プリンタでも、使用できるフィラメントの種類が豊富になりました。3D プリンタは製造国、製造会社、造形エリア、付加機能などでそれぞれ価格が異なります。そのため、目的と予算に応じて選ぶ必要があります。
ファブラボ品川では、3Dプリンタを導入する際のサポートも行っています。最近は、企業や病院からの問い合わせも少しずつ増えています。急性期病院や回復期病院、法人全体で使える汎用性のあるものまで、その施設に合ったものをご提案させていただいています。
また最近では、CTからデータを引き出して3Dプリンタで患者さんの状態を形にすることができるようになりました。そのため、患者さんへの説明の際に使用する骨模型を作りたいと、整形外科医から依頼がくることもあります。
人が使う道具以外でも、医療現場で活躍する機会は増えています。このように、使う目的や用途に合わせて、より良いものを提案させてもらっています。
素敵な取り組み
ファブラボ品川さんのたくさんの素敵な取り組みの中から、私が特に気になったイベント「メイカソン」と「データ共有プラットフォーム」をご紹介します!
◆ メイカソン
メイカソンとは、「メイク(Make)」と「マラソン(Marathon)」を掛け合わせた造語で、一定時間集中して物づくりをするイベントのことをいいます。
ファブラボ品川では、一般社団法人ICTリハビリテーション研究会と連携して定期的にメイカソンを開催しています。
障害のある方やその支援者をチームの一員に据えて行う「インクルーシブメイカソン」として、6〜8人程度のチームでモノづくりに挑みます。ニーズの抽出からアイディア出しやデザインをともに行い、実際にものをつくり、プレゼンテーションを行います。発表するまで対面では半日から3日間、オンラインでは最大1ヶ月半ほどかけて開催してきました。
2018年9月に第1回を開催し、以後定期的に開催しています。(メイカソンの様子は、こちらのページから御覧いただけます)
◆ 自助具 3D モデルデータ共有プラットフォーム
ファブラボ品川では、全ての方のアイデアが活かされ、多くの困りごとが解決し、必要な人が必要な場所で必要な分だけものづくりができる社会を目指すべく、障害のある方の暮らしに役立つ自助具など、ケアに役立つ道具の3Dモデルを共有し、使いたい方が3Dプリンタを用いて安価に道具を手に入れられる環境を整えています。
こちらのページには多くのデータが掲載されており、全て自由にダウンロードすることができます。
多くのアイデアやモノの一つ一つに人の「行為」が織り込まれていて、とても面白いなと感じました!
これだけ沢山のデータが自由にダウンロードできるなんて、凄すぎます…!
データを見ていたら、実際に作ってみたくなりました。3Dプリンタ、欲しくなりますね…
最近では、本当に安価で3Dプリンタが手に入るようになりました。私も自宅に3Dプリンタがありますが、人の数より3Dプリンタの数の方が多いくらいです(笑)
一方で、かなり手に入れやすい環境にはなっているものの、日本ではまだまだ広まっていないのが現状です。世界市場からみても約2%程といわれています。
日本で広がりにくい背景には様々なことがあるかと思いますが、それでも「モノを作る楽しみ」というのは必ずあるはずなので、興味を持ってくれる人にアプローチし続けていきたいと思います。
日本における3Dプリンタを使ったモノづくりは、OTが取り組んできた自助具と掛け合わせることで広がっていくと、私は信じています。
新しいマーケットやコンセプトを拡げることはいつでも大変ですが、これからもモノづくりと作業療法・ケア領域の架け橋となれるように、楽しみながら挑戦し続けていきたいと思います。
施設概要・問い合わせ
■ 開設
2018年4月
■ 運営
合同会社ハマナカデザインスタジオ
一般社団法人 3D プリンタ自助具デザイン協会
■ 営業時間
完全予約制、ウェブサイトの問い合わせフォームからご予約ください
■ 住所
〒142-0053
東京都品川区中延4-6-15■ アクセス
東急大井町線/都営地下鉄浅草線 「中延」駅 徒歩1分
■ お問い合わせ
・お問い合わせフォーム
・メール:fablabshinagawa@gmail.com
■ オンラインストア
自助具等の購入はこちらから
■ 会員制度
個人会員 2,000円/月
■ SNS・関連情報
・ホームページ
・note
・林さん著書『はじめてでも簡単 ! 3Dプリンタで自助具を作ろう』(三輪書店、2019年)
・林さん著書『無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集』(三輪書店、2021年)
実際にファブラボ品川さんにお邪魔しお話を伺わせていただいたり、林さんの本を読ませていただいたりする中で、デジタルファブリケーションとリハビリに改めて可能性を感じました。3Dプリンタの進化や活用の幅の広さにも驚きです!
個別性の高い「自助具」が、3Dプリンタによって気軽に作れる世界があることにとてもワクワクしました。ぜひ一人でも多くの方に、デジタルファブリケーションを知ってもらいたいなと思います。
これからも、ファブラボ品川さんのさらなるご活躍を心より応援しております!
濱中さん、林さん、本日はありがとうございました。
以上、本日は東京都品川区にある作業療法士のいるファブラボ「ファブラボ品川」さんを紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、ファブラボ品川さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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