本記事では、埼玉県坂戸市にある「デイサービスmoi(代表 山口真さん)」さんのこだわりの福祉建築についてご紹介します。
実際に施設内を見学させていただき、建築のこだわりについて設計を担当された一級建築士の八木稔文さんにお話を伺っていきたいと思います。
(moiさんの施設紹介記事はこちら)
建築のこだわり
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◆ 八木稔文(やぎ・としふみ)さん
合同会社わくわくデザイン 代表社員
<略歴>
1976年東京都出身。2000年東京理科大学工学部一部建築学科を卒業後、早稲田大学大学院創造理工学研究科建築学専攻を修了。2005年より株式会社環境システム研究所に勤務し、建築設計に従事。2015年より合同会社わくわくデザインに参画し、日本全国の建築設計に携わる。福祉と建築をテーマに、これまでに栃木県の介護付き有料老人ホーム「新」や長野県の中規模多機能福祉施設「あたり前の暮らしサポートセンター」、埼玉県のデイサービス「moi」など、全国各地の福祉建築を手がける。
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写真に八木さんのコメントを添え、moiさんの建築のこわだり箇所をご紹介していきます!
(取材では本当に多くのポイントを丁寧にご説明いただきました。こちらではいくつかピックアップしたものをご紹介します)
● 天井と照明
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食堂ですから、みんなに来てほしいわけです。なので、建築もみんなが集まりたくなる感じがいいですよね。
「居心地がいい場所がここにありますよー、みんな集まっておいでー。でもみんな一緒でなくてよくて、好きな人同士で適当にグループ作ってくださいね。」という気持ちを可視化するつもりで、かまぼこ型の天井、ヴォールト型の天井ともいいますが、小さな単位の包まれ感のある天井としました。
この天井が綺麗に出来すぎると、場に「綺麗にちゃんとしましょう!」というメッセージを伝えてしまいます。集まって欲しいけれどみんな自由にしていて欲しいと思ったので、形はあるけどきちんとしすぎない、スカスカしたものにしました。
照明は、温かい空間を表現してくれるものを選びました。
●作業場の天井
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作業場は玄関入ってすぐの場所にあります。通りに面していてちょっと慌ただしい空気を感じるので、腰掛けて落ち着く空間になるよう天井の高さは低めに作っています。
介護施設は利用者さんが忙しく動き出すと皆大変なので、スローで充実した空間になるようにと思っています。
天井は面として貼るのではなく、穴開きの合板を格子状に組み合わせていて、手を伸ばせば色んなものを簡単に吊るせるようにしました。誰かの誕生日をお祝いするなど、サプライズイベントをしやすく、みんなでいる気持ちが揚がるようにと考えました。
●作業場
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ものを作る、工夫して生み出すのって元気になりますよね。利用者さんが思い思いに創作活動ができるように工具やレーザーカッターを置いていただくようにしました。
以前他のデイサービスで、すごく丁寧に作られた籠の材料がスーパーのチラシに色を塗ったものだったことがあって、もったいないなぁと思ったことがあります。どうせなら高く売れるようなものを作れたらって考えられれば本気になれるし、手にとった人も嬉しいですよね。こういうプラスの力を集めていくことで面白くなると思っています。
そんな場所なので散らかりがちです。なので色んなものが出しっぱなしでも居心地の良い場所になって欲しいと考えました。デイサービスはいろんな人がくる場所だから、綺麗すぎる空間ではなく、あえてごちゃごちゃとした場所を作ることがとっつきやすさになり、安心感にも繋がります。
居場所を見つけられやすく、参加しやすい雰囲気にもなっていると思います。
●テーブル
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市販のテーブルは高さ70cm〜72cm程度の高さのものが多いのですが、介護施設で使うには高すぎると思います。既製品の木脚を切ってもいいのですが、今回はオーダーで鉄脚を作ってもらい市販の天板と組合わせています。
作業場のテーブルの鉄脚はTAONTA、食堂のテーブルの鉄脚はKITAWORKSで作ってもらいました。
作業場は子どもとイベントをすることや上から力をかける作業を行いやすいように、高さ62cmにしています。食堂は下足で小柄な方も多いので、高さ66cmにしています。幅も75cmと狭くしてコミュニケーションをとりやすくしています。
そうすることで、お皿に取り分けるなどちょっとしたお手伝いがしやすくなり、職員さんだけではなく利用者さんも積極的に関わりやすい状況ができます。
それぞれ天板はムクボードというホームセンターにも売っているスギの集成板、5000円ぐらいのものを使いました。イベント等で汚してしまっても簡単に交換できます。
●コーヒー豆の焙煎機
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コーヒーの焙煎機があったら面白そう!という話になりました。コーヒーのいい香りがするだけでいい場所に来たって感じするじゃないですか。焙煎している様子もみんなで楽しめますし、通りから見えるところに飾るとかっこいいし。
自分だったらデイサービスらしい場所に来たいって思うより、カフェに来たいって思うなぁと。初期投資としてはかかるけど、毎日多くの方が来てコーヒー飲んでもらって、で何十年も運営すると思えば、高い買い物ではないと思います。
読み終わった本を持ってきてもらえばコーヒー無料券をプレゼントするなど、地域との接点づくりにも使われています。ますます盛り上がって今後、コーヒースタンドをオープンされる予定です。
●椅子
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作業場の椅子はIKEAで、食堂の椅子は飛騨産業です。飛騨産業の椅子はしっかりしたものでとても座り心地がいいです。値段もするのですが奮発して買ってもらいました。
介護施設は椅子の使い方が半端ではありません。普通のダイニングチェアは家族がご飯を食べる間に座っているためのものですが、ここの椅子は利用者さんが一日中座り、そして何十年もずっと誰かが座っているものです。
私は、居心地を作る上でいちばん重要なのは肌に触れるもの、次に家具、その次に建築だと思っています。不快な椅子だと、どんなにいい空間・場所でも長くは居続けることができません。そして、みんなすぐに立ち上がって落ち着かない空間になってしまいます。
また、しっかりしたものでないと数年で壊れてしまいます。座り心地も選んでもらえるように、いろいろな形の椅子をいろいろな脚の高さにカットしています。
●利用者さんのキッチン
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デイサービスにおける食って、メインテーマですよね。なので、メインらしく真ん中に大きなテーブルをどーんと置いて、みんなに興味を持ってもらって参加してもらえるようにと考えました。高さは68cmなので座って使えます。シンクもついています。
利用者さんがご自宅で調理できなくなったのは、実は建物のつくりが原因かもしれません。出来なくなるというのは幸せなことではないですよね。座っての調理なら出来るかもしれません、水栓がワンタッチだったら出来るかもしれません、他の人と一緒ならば出来るかもしれません・・・。
調理していただいて、まだ私も捨てたものじゃないわねと思っていただきたいです。
●タイル
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タイルってキッチンをすごく綺麗にみせてくれますよね。ラフなコンクリートと鮮やかなタイルのコントラストで、お互いが引き立つようにと考えました。
●和室
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ゆるく区切られていますが、室にはなっていません。隙が多い建物だから、ここだけ普通の和室というのもおかしいかなと。古い建具を買ってもらったので、ぐっと落ち着く感じになりました。建具の上なんかもあえてスカスカにしています。普段は利用者さんがゴロゴロしたりテレビを見てくつろいだりされているようです。
●浴室
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お風呂は好きな方も多いし、デイサービスに来る大きな目的になっているのでかなり力を入れています。利用の8~9割ぐらいの方が入られています。介護アドバイザーの青山幸広さん(ケアプロデュース RX 組)の考えられたお風呂で、3人ぐらいで入れるお風呂と個浴があります。
青山さんとは、以前からデイサービスが適切な福祉情報を提供できるショールームになったらいいのにという話をしています。先程のキッチンの話と同じく、ご自宅のお風呂に入れなくなってしまったのもトイレに一人で行けなくなってしまったのも、建物のつくりが原因かもしれないと思っています。
お風呂に段差がいっぱいあったり、マタギが大きすぎたりしていないでしょうか。適切な場所に手摺がついているでしょうか。自分の力を活かして入っていただくために、体を動かす度につかめる箇所をたくさん作っています。お湯の中では浮力もあるので安全に体を使ってみることもできます。写真のちょっと大きなお風呂には、7本の手摺の他に浴槽の縁やシャワーチェアの縁、面台にも手かけ穴があります。個浴にも5本の手摺があります。
個浴とシャワーチェアは「青森ひば」を使って、青森の木工所で作ってもらいました。高い抗菌作用で褥瘡の悪化などを防ぎ、お湯もまろやか、いい香りでリラックス効果も高いです。
また、水勾配はあえてなくしフラットにしています。車椅子が動かず、介護に不慣れなスタッフでも困らないように配慮しています。
写真の格子状の手摺を脱衣室につけています。松屋産業のテスリックスという商品で、いろいろなところを握れて使いやすいです。木製のものが手触り良くおすすめです。
●トイレ
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トイレが出来るだけ自立できることはとても大事だと思います。このトイレも、青山さんの考えられたものです。
いろいろな方が使いやすいように、車椅子トイレには先程のテスリックスに加えて座位が安定しない方のための背もたれの手摺、前傾姿勢を保持しやすく移動の手摺代わりにもなるTOTOの前方ボード手摺を使っています。
前方ボード手摺は壁のしっかりした補強が必要にはなりますが、とてもよく出来たものだと思います。普通の大きさのトイレにはクネットという手摺をつけています。
ここで利用者さんにどこに手摺があれば自分の力を活かしてトイレが使えるのかを把握してもらい、在宅の改修ができたらいいですよね。また手摺だらけのトイレでは殺風景になるので、手摺代わりにもなる棚をつけたりもしています。
● 照明
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明るさをもたらしてくれる照明、手に触れる水栓、あとは身だしなみを整える鏡などは大事ですよね。こういうところで気を抜くと施設らしくなってしまう気もします。
今回はヤフオクで時代物の照明を探したり、Creemaで買ったりしました。
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八木さん、たくさんのこだわり箇所をご紹介いただきありがとうございました!
「なんか居心地が良い」と思っていたことの真相が分かり、とても勉強になりました!
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photo by ひろし
■ moi 代表 プロフィール
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山口真(やまぐち・まこと)さん
1986年7月21日生まれ/京都市出身
奈良の高校を卒業後、介護福祉士国家試験に合格し埼玉県にある聴覚障害者向けの特別養護老人ホームで勤務。その後、特別養護老人ホーム、デイサービス、サービス付き高齢者住宅や小規模多機能居宅介護施設などでの勤務を経て、2017年に一般社団法人シンビオージを設立し代表理事に就任し、デイサービスを運営。2019年に株式会社Restoryを設立。取締役として看護小規模多機能型居宅介護施設を運営。2020年3月に株式会社3’s peaceを設立し、代表取締役に就任。同12月にデイサービスmoiをオープンする。
以上、本記事では埼玉県坂戸市にある「デイサービスmoi」さんのこだわりの福祉建築について紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、moiさんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
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この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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