農園芸×ケアを通して「Meaningful life」を探求する|園芸療法士 石神洋一さん

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

本日は、NPO法人たかつき代表理事で園芸療法士の石神洋一さんをご紹介します。

石神さんは、造園資材メーカー在職中に園芸療法に出会い、2001年にNPO法人たかつきを設立。現在は「Meaningful lifeの探求」を使命に園芸療法を取り入れた通所介護施設の運営や親子を対象とした自然体験活動、大学や専門学校・学会の講師を務めるなど幅広い領域でご活躍されています。

実際に石神さんが所長を務める「デイサービスセンター晴耕雨読舎」さんにお邪魔し、園芸療法を主軸とした介護事業を始めたきっかけや大切にされている想い、さらには今後に思い描くことなどをお聞かせいただいたのでその魅力をお伝えします。

園芸療法士・石神洋一さん

石神 洋一(いしがみ・よういち)さん
NPO法人たかつき代表理事 / 日本園芸福祉普及協会理事 / 日本園芸療法学会園芸療法士

日本の大学を卒業後、アメリカオハイオ州オハイオ大学大学院で環境学修士課程を修了。その後、造園資材メーカー「東邦レオ株式会社」に就職し、都市における緑と人の関係を学ぶ。在職中に園芸療法と出会い、2001年「NPO法人たかつき」を立ち上げ高齢者の介護予防のための通所施設「街かどデイハウス晴耕雨読舎」で園芸療法を開始。現在は、高齢者の「Meaningful lifeの探求」を使命とした高齢者福祉事業や、親子を対象として自然体験活動、大学や専門学校、園芸芸福祉の講師業を通して園芸療法・園芸福祉の普及に力を入れる。

園芸療法とは
「花と緑で人を癒す」療法のことで、草花や野菜などの園芸植物や、身の回りにある自然とのかかわりを通して、心の健康、体の健康、社会生活における健康の回復を図ります。医療や福祉分野をはじめ、多様な領域で支援を必要とする人たち(療法的かかわりを要する人々)の幸福を、園芸を通して支援する活動です。

日本園芸療法学会HPより一部抜粋

園芸療法の必要性

かわむー
かわむー

石神さんと園芸療法の出会いや、資格をとろうと思われたきっかけを教えてください。


石神さん
石神さん

農園芸を中心とした介護予防事業に取り組むなかで、園芸療法の必要性を感じ資格を取得しました。

私はもともと日本の大学を卒業後、アメリカのオハイオ大学大学院に進学し「環境学」について学んでいました。帰国後は、造園資材メーカーに就職し、環境緑化に関わる仕事に従事。その企業に在職中に、都市における緑と人の関係性について学びを深めるなかで「園芸療法」に出会います。

もっと環境問題の改善に取り組みたいという思いから2000年に会社を退職し、翌2001年にNPO法人たかつきを設立。高齢者の方々と自然の中で農園芸中心とした事業に取り組むなかで、高齢者に「園芸療法は絶対に必要だ」と確信し、続けていこうと心に決めました。

当時なぜそう思ったのかはっきりとした理由は思い出せませんが、直感的に「これは必要だ!」と感じたのです。


かわむー
かわむー

環境に関わる仕事から「介護事業をはじめよう」と思ったきっかけは何だったのでしょうか?


石神さん
石神さん

もともとは自然環境問題に興味があったので、それを基軸に展開していきたいと考えていました。その時、たまたま大阪府高槻市が「まちかどデイハウス事業」という通所型介護事業の委託先を探していたんです。そこに、うちが手をあげました。

2001年に「街かどデイハウス晴耕雨読舎」の事業がスタートしました。残念ながら2022年3月で終了することになったのですが、約20年運営することができたのは多くの方々に支えていただいたおかげなので、本当に感謝しています。


街かどデイハウス晴耕雨読舎を始めた当初は、介護のかの字も分からないような状態でしたが、「目の前の人にどうやったら喜んでもらえるか」「どうやったら笑顔になっていただけるのか」を一生懸命に考えながら運営するうちに、いつのまにか自然な形でケアを提供できるようになっていきました。

街かどデイハウス晴耕雨読舎には、介護度の重い方は少なく、比較的動ける方々が通われていたのですが、次第に介護保険を受け、通えなくなる人がでてきました。

つい数ヶ月前まで元気に農園芸をしていた方が、介護保険を使うようになった途端に選択肢が狭められ、閉じこもりになっていったのです。通所施設でも、じっと動かないで座っていることが多いという話を聞き、その状況に違和感を覚えました。

高齢者が自然の豊かさを感じながら生きがいをもって過ごせる場所を作ろう!と決心し、農園芸活動(園芸療法)を主体とした介護施設を始めることにしました。

2007年、高槻市原に「デイサービスセンター晴耕雨読舎」を、2017年に南平台の住宅街の中に「Roles晴耕雨読舎」をオープンしました。


デイサービスセンター晴耕雨読舎
Roles晴耕雨読舎南平台

ケア×農園芸の魅力

かわむー
かわむー

街かどデイハウスやデイサービスを運営するなかで、大変だったことや苦労したことはありますか?


石神さん
石神さん

街かどデイハウスの運営をはじめた当初は、通ってこられる利用者さんにとにかく楽しんでもらえるように、こちらで全てお膳立てしていました。例えば、苗植えをする、フラワーアレンジをするなど、こちらが楽しんでもらえるように全て準備していたんです。

でも、半年でネタ切れしました。どうにかイベントで繫ぐようにしてみましたが、そう長くは続きません。

そこで私たちは、利用者さんに「全てを一緒にやってもらおう」と、方針を切り替えたのです。

苗の準備をする、水をやる、肥料をやる、どうやったら育つか考える、植えるものを選ぶ、カカシを作る、など。私たちがお世話をするのではなく、利用するみなさんが好きな農園芸や活動ができる「環境作りをお手伝いします」というスタンスに変えたのです。

それは、結果として私たちや利用者さんにとって、とても良い影響を与えました。農園芸は、自分が手をかければかけるほど、育った時の喜びや面白みが増していきます。主体的に取り組んでもらうことで利用者さんの自立が促せるようになり、笑顔がますます増えていきました。

私たちスタッフ側も、農園芸のなかにあるたくさんの作業を通じてケアを提供できるので、「楽しませなくちゃ」「何か提供しなくちゃ」というプレッシャーから開放され、心に余裕が持てるようになりました。



かわむー
かわむー

活動の中に一つでも多くの作業をつくり、選択肢がたくさんある状態はとても豊かなことですね。

介護=お世話すること、というイメージが強かった2001年当時に、既に自立支援に向けた取り組みを積極的に推進されていたことが本当に素晴らしいことだと感じました。

園芸療法を主体とした介護事業を展開するなかでは、当然、安全配慮やリスク管理など、大変なこともたくさんあると思います。そのような状況のなかで、石神さんのやりがい原動力となっていることは何でしょうか?


石神さん
石神さん

私がやりがいを感じるのは、利用者さんが心から喜んでくださる瞬間に立ち会えた時です。

自然の力も借りながら進めている活動の中で、成果が出たことを一緒に喜べるのはとても嬉しいことです。これは、園芸療法の魅力だと思います。
 

園芸療法を軸とした介護施設を運営する中では、当然、たくさんの失敗もしましたし、10年以上たってやっと土壌が整ってきたと感じることもあります。

私たちがここまで信念をもって活動を継続できた原動力は、私自身が自然の中で活動をするのが好きということが大きかったと思います。

自然の中で野菜や花を育てたり、モノづくりをしたりするのは本当に楽しいです。

大自然に囲まれた環境で、利用者さんに野菜や土の手入れの仕方、大工仕事の極意などを教えてもらいながら活動するのは本当に魅力的ですよ。


仕掛け作りのプロ

かわむー
かわむー

園芸療法とケアをかけ合わせて活動を続けるなかで、特に印象に残っているエピソードがあれば教えて下さい。


石神さん
石神さん

以前、80代の男性で家で動かないことから身体機能が低下し、認知症もすすんできたということからデイサービスの利用が始まった方がいらっしゃいました。

通い始めた当初は、うちに来てもほとんど椅子に座ったままで、なかなか動くことがありませんでした。しかし、お話をする中で、昔は家庭菜園をしていたということを教えて下さいました。

その方にできるだけ体を動かして欲しいという思いから、その方がいつも座る椅子からよく見える場所に、その方専用の畑を作ってみたのです。畑には、名前が書いてある看板が立ちます。

ちょうどその時期は秋だったので、かぶの種まきをしてもらったり何度か水やりをしてもらったりしました。

デイサービスに来てその椅子に座るたびに、自分の畑が目に入ります。次第に畑のことが気になっていったその方は、だんだんと畑のお世話をすることが習慣になっていきました。

当初は椅子に座ったまま動かなかった方が、1日に5〜6回は庭にでていくようになったのです。食堂の椅子から畑まで数十メートルはあるので、立ったり座ったり何往復も歩いたりするだけでも、けっこう良い運動になっていたと思います。

その方が、自ら「やりたい!」と思い動いてくれるようになったことが、とても嬉しかったです。


畑は、高さのある花壇(レイズドベッド)を使用します
レイズドベッドを使用することで、利用者さんは足腰を曲げずに作業することができます


かわむー
かわむー

心が動けば、身体が動く! まさに「環境調整の力」を感じました。ついつい世話をしたくなる、目に入る場所に名札つきの畑を設置するとは、ナイスアイデアですね。

デイサービスセンター晴耕雨読舎さんは、畑への出やすさを考慮され室内はすべて土足OKとされていました。そのような環境面の配慮もふくめ、人が動きたくなるような環境が丁寧に作り込まれており本当に感動しました。

環境学を学ばれ、何十年も実践されてきたプロの魂を感じます。


石神さん
石神さん

ありがとうございます。

私が介護施設を運営する上で農園芸活動を取り入れている目的は、2つあります。

1つ目は、「生きがいづくり」です。やりたいこと、やりがいのあること、楽しみ、大切な人間関係があり、「生きたいな」と思って頂くことが大切だと考えます。農園芸のみならず、それを通じた人と人との繋がりというのも丁寧に紡ぎます。

デイサービスに「行きたい」という気持ちから、農園芸を通じて生きがいができて「もうちょっと長生きしてもいいかな」と思っていただけたら嬉しいです。


2つ目は、「機能維持・回復」です。農園芸には、土を耕したり種まきをしたり水をやったりと、様々な作業があります。

利用者さんには、それぞれの身体の状態や能力にあわせて作業を提供できます。動くことや作業することが目的ではなく、例えば「大根を大きく育てたい」ということが目的にあるうえで、水やりという作業を行います。

私たちは、利用者さんに「リハビリしましょう」「訓練にいきましょう」と伝えることはありません。

「大根が大きくなりますよ、ぜひ水やりに行きましょう」と声をかけるのです。



かわむー
かわむー

人の感情や行動を大切にした丁寧なデザインや環境設計、本当に素晴らしいです。

デイサービスセンター晴耕雨読舎さんは、デイサービスでは珍しく、利用者の6割が男性だそうです。さらに、ここを利用するため他の町から引越して来られた方や、利用するために待ってる方もいる状況だそうです。

デイサービス・晴耕雨読舎、私も実際に通いたいと思いましたし、農園芸の好きな両親にいつか介護が必要になったらお願いしたいと思いました。実際に見学をさせて頂き、その人気の理由が大変よく分かりました。

晴耕雨読舎のようなデイサービスが、全国にできてほしいなと感じます。


Meaningful lifeの探求

かわむー
かわむー

最後に、石神さんが今後チャレンジしてみたいこと、思い描いていることなどあれば教えて下さい。


石神さん
石神さん

最近では、晴耕雨読舎に見学に来てくださる方や園芸療法を軸とした場所を作りたいと訪ねてきてくださる方が増えてきました。私たちとしても、今後はこの事業を社会に広めていくために力を入れたいと考えています。

やりたいという思いのある事業者に向けたプログラム提供などをしながら、園芸療法を実践できる現場を増やしていきたいです。

実際に運営するなかで、介護事業と農園芸の相性は非常に良く、利用者さんにとっても運営する側にとってもとてもメリットは多いと感じます。


高齢者の方と農園芸をやると、楽しいことがたくさんあります。利用者さんの心も身体も元気になることで、新しい可能性を色々と見出すこともできます。

ぜひ、一人でも多くの方に農園芸(園芸療法)× 介護の可能性を知っていただき、一歩踏み出す際の背中をおせる存在になりたいです。

私はこれからも、高齢者の「Meaningful lifeの探求」を使命とし、信念をもって活動を続けていきます。



かわむー
かわむー

心が動いて、身体が動く。その結果、心身機能の維持・向上に繋がり、人と人との繋がり・関わりも増え、「生きがい」になっている。

人の人生をより豊かにするというリハビリテーションの考え方と、Meaningful life(生きがいのある豊かな人生)を探求し続ける石神さんの考え方は、共有している部分がたくさんあるなと感じました。

デイサービスは生活の一部であり、利用者さんには日々の生活や暮らしがあります。そのなかに農園芸のエッセンスが加わることで、新たな豊かさの創出に繋がると思います。


私のこの胸の高鳴りと感動を、一人でも多くの人に伝えたい。

園芸療法の魅力と可能性が、日本そして世界中に広がっていきますように

これからも、石神さん、そして晴耕雨読舎さんのますますのご活躍を心から応援しております。

本日は、本当にありがとうございました。


 運営 
NPO法人たかつき
代表理事 石神洋一さん

 創立
2001年

経営理念
全従業員の物心両面の幸福を実現する
人と自然が生きる力を応援し、人・心・生命を大切にする


■ 所在地
〒569-1051
大阪府高槻市原2235番地

■ 問い合わせ
TEL:072-689-9112
Mail:information@npo-takatsuki.org
お問い合わせフォーム

■ 関連情報・SNS
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かわむー
かわむー

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・畑のある「デイサービスセンター晴耕雨読舎」の紹介記事はこちら

・役割のあるデイサービス「Roles晴耕雨読舎南平台」の紹介記事はこちら


ぜひ合わせてご覧ください。



写真提供:くらしフォトグラファー・しんたろう


以上、本日はNPO法人たかつき代表理事で園芸療法士の石神洋一さんをご紹介させていただきました。


一人でも多くの方に、石神さんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。




この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。


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