この記事は、前編の続きです。後編では、「理学療法士・さあらさん」についてご紹介させていただきたいと思います!
理学療法士の道へ
さあらさんが、理学療法士になろうと思われたきっかけは何だったのですか?
私は4歳の頃からピアノを習っており、小学校卒業の時に先生の勧めと母の希望で音大受験を目指すための勉強を始めました。高校にあがり音大受験の時になっても、どうしても卒業後の自分の将来について描けるものがなく、進路についてとても悩みました。
病気で結婚できないかもしれない、と思うと、何とかして手に職をつけておきたいという気持ちもありました。
そんな折、当時かかっていた千葉大学病院の先生が「病気があるから医療職につけないと思っているなら、それは誤解ですよ」と、看護師や臨床検査技師、放射線技師など様々な医療職の方とお話しする機会を作ってくださいました。
この時は、目の前の霧が晴れていくような気持ちでした。
とても素敵な先生ですね。
はい、そうなんです。その紹介してくださった中に、理学療法士の方との出会いもありました。25年以上も前のことなので、当時は今のように理学療法士という職業はほとんど知られておらず、大学病院でさえ整形外科の脇に小さな部屋があるくらいでした。
それでも、人と直接接することができる仕事にとても興味が湧き、すでに合格していた音大にはいかず、理学療法士の養成校へ進むことを決意しました。
暮らしの中に工夫を凝らす
さあらさんはリンパ浮腫ケア技能指導者の資格ももたれ「リンパ浮腫に対するリハビリ」を専門として活動されいるとお聞きしました。以前は病院、そして現在は在宅の現場でご活躍されているそうですが、病院と在宅の違いは何かありましたか?
また、働く中で面白さややりがいを感じる瞬間があれば教えてください。
私は乳がん専門の病院で働いた後に訪問リハビリへ行ったのですが、リンパ浮腫の患者さんは病院と在宅とでは本当に全然違っていて、そこに面白みを感じました。
みんなそうだとは思いますが、やはり、病院ではいい格好しちゃうというか、背筋が正されているんですよね。家に行くと、そこでの暮らしや現実がとてもよく分かりました。病院で当たり前のようにやっていたことも、家ではなかなかできなかったりします。関わるうちに「妥協線」というのが分かっていきました。
病院で仕事をしていた時は「一方的に指導をする」という感じのスタイルだったのですが、家で同じリハビリをやってもらうためには、継続してもらうための仕組みが必要になることに気がつきました。
患者さん自身のやる気や生活を変えないように工夫をしています。その人の暮らしの中に取り入れることが大切なんですよね。
「継続してもらうための仕組み」を考える際に、大切にされていることはありますか?
病院だと効果を出さないといけないけど、在宅では本人の感覚に合わせて、そこまではっきりとした数値に拘ることはなくなりました。
特に私が関わる分野では、数値化することが逆にマイナスになる場合もあるんです。教科書的にはとても大事なことはわかっています。だけど、それだけじゃないと思っています。
制度の狭間にいる方を
患者さんと関わる中で、嬉しかった記憶や思い出のエピソードなどはありますか?
自分も患者だから分かるんですが、患者さんって、医療者が自分に興味を持ってくれるだけでとてもありがたいんですよね。だから「一緒に悩む」ということがすごく大事だと思っています。
病院でいう「改善」という状態がなくても、在宅では「本人と一緒に悩んで、工夫するというプロセス」を私はとても大事にしています。
なので、患者さんから「色々してもらって、考えてもらって、嬉しかったです」と言われることがとても嬉しいです。
以前、病院で働いていた時などはよく患者さんからリハビリ時間以外で呼ばれることがありました。行ってみると、病気やリハビリの話ではなく、たわいもない話だったりするんですよね。例えば、ここに旅行したいんだけどどうしようかとか、家族の中でおきたエピソードとか。
あと、患者さんが亡くなった後に旦那様から「妻と仲良くしてくれて、ありがとうございました」って言われたことがありました。お世話になりました、と言われることはあっても「仲良くしてくれて」って言われることはそんなにないので、あの時は嬉しかったですね。
その方は若くて、病気になった以降は友人ともあまり連絡が取れない状況だったみたいなので、私がお友達のようなそんな存在だったそうです。そんなに近い存在で支えられていたのだなと思うと、とても嬉しい気持ちになりました。
さあらさんがその方にとっての心の拠り所のような存在になっていたのですね。さあらさんは、非常に包容力のある素敵な女性です。さあらさんに癒され、支えられてきた方はたくさんいることでしょうね。
患者さんの “最期” に関わる経験が多いかと思いますが、在宅で関わられる上で心がけていることは何かありますか?
その人の“人生” を教えていただくことをとにかく大事にしています。
福祉用具などや自宅のインテリアも含めて、その人の人生観に合わせてあげたいと思います。雰囲気を壊したくないですよね。例え、ベッド柵ひとつでも。
だから、本人の趣味とか人生に関わる中で色々と教えてもらっています。自分が何か提案するというよりは、その人のこだわりや人生感を大事にするんです。
以前、亡くなる直前に患者さんに呼ばれてご自宅に伺ったことがありますが、患者さんがとても喜んでくださいました。亡くなる前は意識も朦朧としている状態ですが、家族や人がいるという気配はわかるんですよね。
亡くなる直前までその人はその人でした。だから、“いつも通りに関わる” ということも大切にしています。そして、安心する声かけをします。「自分どうなるのかな」と不安になっている人が多いので、「大丈夫、大丈夫」って、ただそれだけで、伝わるものがあるんです。
在宅でのリハビリや緩和ケアに関わらている中で、もどかしさを感じたりすることはありますか?
ありますね。私は、制度外の人をサポートしたいです。
例えば私が関わる分野でいうと、乳がんの術後の患者さんの場合は、リンパ節をとった人しかリハビリはできないですし、亡くなる前はリハビリは切られてしまい関われないことがほとんどです。
それが、個人事業主として活動を始めたきっかけでもあります。リハビリをしたくても出来ない方に、選択肢を増やしたい。決してお金を設けたいからなんかじゃなく、私はこの一心で、活動しています。
“魂” を癒す
患者さんと関わる上で、理学療法士のさあらさんが大切にされているモットーを教えてください。
初めて患者さんと会う時、私は素の状態・まっさらな気持ちで会うことを意識しています。もちろん事前情報はあるけれど、そこにあまり囚われず、考えすぎないようにしています。
「私とあなた」という対等な関係で出会いたいんです。
例えば事前にクレーマーの方だという情報があっても、何がそんなに辛いのかとか、不安は何なのかということを考えます。それは、「困り事をどう解決するかがすべて」だと考えているからです。自分にある技術で何をするか、自分にできなければ何を紹介するか、それだけだと思うんです。
これまで、この選択がベストだった、と思ったことは一度もありません。よりベター、よりベターを積み重ね、常に前に進んでいくことを目指しています。
さあらさんにとって、リハビリとは何でしょうか?
その人の「人生そのもの」とか「生き抜くこと」、それら全てがリハビリテーションだと思います。
最終的には、その人の “魂” が自分らしさを取り戻していれば、それはもうリハビリテーションかなと思っています。
そう考えると、その人の人生に携われるって、ものすごくやりがいのある仕事だと思うんですよね。その人の年表にちょっとでも加われることが嬉しいです。
私が理学療法士をやめられないのは、そこにやりがいを感じていからだと思います。ありがたいですよね。
その人の “魂” が自分らしさを取り戻していれば、、。非常に深い言葉ですね。
さあらさんの描く未来
最後に、さあらさんが今後、挑戦していきたいことがあれば教えてください。
今後、私は「育成」に力を入れていきたいと思っています。
私を指名してくれる患者さんが沢山いることは嬉しいのですが、私が手を差しのべることができる人は限られています。
なので今後は、人を育成していくことに力を注ぎたいと思っています。そして、その人たちの横のつながりを大きくしていって、セラピストの少ない地域に人を紹介できるようにもなりたいと考えています。
リンパ浮腫ケアを行う看護師や理学療法士など、リンパ浮腫ケアの資格を持つセラピストには熱意を持って取り組んでいる人が多くいますが、独立しても仕事にならないのが現状です。技術としてはとても高いものなので、世に認められて仕事になるような仕組みを作っていきたいと思っています。
また、福祉用具の分野も変えたいと思っています。在宅ケアでの担当者会議に、理学療法士って呼ばれないことが多いんですよね。しかし、初回の時にいたら全然違うと思うんです。在宅の環境設定は大事にしないといけないと思っています。
だから、これまでしていた個人の活動から、福祉用具の部門も加えて「一般社団法人バラカメディカル」を立ち上げました。法人にした理由は、ここから世界を変えたいと思ったからです。
広くみんなに伝えたいというよりも、分かり合える人だけに伝えていきたいなと私は考えています。そして、自分たちができる範囲から、地域から、変えていこうと思います。
以上、本日は福岡県福岡市に拠点のある「一般社団法人バラカメディカル」代表理事の今村さあら (SARAH) さんを紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、さあらさんの素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワ.comをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
※この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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