医療刑務所でのリハビリの現状|東日本成人矯正医療センター【あなたの知らないリハビリの世界】

猛暑日が続く2023年7月、東京都昭島市にある医療刑務所「東日本成人矯正医療センター」さんを訪れました。広報担当の刑務官さんとお話させていただく機会があり、今回の取材が実現しました。

施設に到着すると、制服である水色の長袖シャツを着た調査官の関さんが出迎えてくれました。施設内は冷房が効いており、汗がすっと引いていきます。

広い会議室をお借りして、まずは施設の概要やセラピストへのインタビューを行い、その後、病棟やリハビリ室などの施設内を案内してもらいました。

この記事では、普段なかなか知ることのできない東日本成人矯正医療センターでの医療の実態や施設の様子、入院中の生活やリハビリテーションについて紹介します。

東日本成人矯正医療センターとは

東日本成人矯正医療センターは、全国の刑事施設(刑務所、少年刑務所、拘置所)から専門的な医療を必要とする患者を受け入れる、病院機能を有する刑事施設です。

医療刑務所は、受刑者の円滑な社会復帰を目指しています。内科・外科・精神科を中心とした専門医が、医療関係職員と協力しながら適切な治療とリハビリテーションを行います。

「医療専門施設」とされる医療刑務所は、全国に4箇所(東京、大阪、岡崎、北九州)あります。さらに、医療刑務所ほど設備は整っていないけれど、重点的に医療がおこなわれる「医療重点施設」は、全国に9箇所(札幌刑、宮城刑、府中刑、名古屋刑、大阪刑、広島刑、高松刑、福岡刑、東京拘置所)あります。

矯正とは、再犯・再非行防止のための各種教育や改善指導、職業訓練を実施し、被収容者の改善更生と円滑な社会復帰を目指すことです。
リハビリをサポートする理学療法士および作業療法士は、医療専門施設に配置されています。2023年度からは、医療重点施設にも配置が進められています。
東日本成人矯正医療センターのシンボルマークの「モック」。昭島市の公式キャラクターにも採用されているクジラのモチーフに准看護師養成所を象徴したナース帽が被せられています。名前の由来は「Medical Correction Center」の頭文字と、所在地「もくせいの杜」からきています。

医療提供体制

急性期から回復期、終末期まで幅広い医療を提供しています。

診療科目は、内科、精神科、外科、泌尿器科、歯科口腔外科、リハビリテーション科、麻酔科(左記8診療科は医師が常駐)、整形外科、眼科、婦人科、耳鼻咽喉科、皮膚科(左記5診療科は非常勤の医師が在籍)があります。

施設にはMRI、CTスキャナ、超音波診断、人工透析装置などの医療機器等が完備され、外科(肝臓・膵臓以外)、婦人科、泌尿器科、整形外科、眼科、口腔外科の手術が行われています。また、化学療法などのがん治療も行われます。

収容対象者

治療が必要だと判断された身体疾患や精神疾患を抱える受刑者が収容されています。受刑者は、初犯、累犯、暴力団、長期刑、外国人、女子、高齢者などさまざまです。収容定員は580名です。

がん、心不全、脳梗塞、脳出血、COVID-19など身体疾患を抱える受刑者が約7割、統合失調症、覚醒剤中毒後遺症、うつ病、重度発達障害、摂食障害などの精神疾患を抱える受刑者が約3割収容されています。

一般刑務所の収容率は50%を超えていますが、医療刑務所はそれを数%下回る程度で稼働しています。

職員の内訳

医療刑務所には、公安職と医療職の方々が働いています。病院機能を有する「刑事施設」であるため、基本的には公安職の割合が多くなります。東日本成人矯正医療センターにおけるそれぞれの職種や人数は以下のとおりです。(令和5年7月現在)

◆ 公安職 254名
・刑務官
・作業専門官
・教育専門官
・調査専門官
・福祉専門官

◆ 医療従事者 163名
・医師 23名
・看護師 124名(うち96名が女性)
・薬剤師 5名
・臨床検査技師 3名
・放射線技師 2名
・理学療法士 2名
・作業療法士 2名
・臨床工学技士 1名
・栄養士 1名 

その他、常勤職員として行政職員1名、非常勤職員として社会福祉士、精神保健福祉士、処遇カウンセラー、就労支援スタッフ等が在籍しています。

国家公務員となるため職員の異動はありますが、医療職の異動は刑務官などの公安職ほど多くはありません。

左からセラピスト、看護師、刑務官。日頃から密な連携を図られており、非常に仲が良い印象をうけました。

リハビリテーションの現状

リハビリテーション科には、理学療法士と作業療法士が在籍しています。

理学療法では、主に脳卒中、整形外科術後(股関節、頸部など)、廃用症候群と診断された方に対するリハビリを、作業療法では、主に統合失調症、摂食障害、認知症、発達障害など精神疾患を抱える患者さんのリハビリを実施しています。

医療刑務所は一般の病院とはルールが異なります。医療刑務所は法務省の所管となるため、診療報酬制度が適応されません。

実際のリハビリに関する詳しい話は、セラピストの取材記事で紹介しています。(本記事下部にリンクあり)

理学療法士のモックさん(ペンネーム)
作業療法士の昭島OTさん(ペンネーム)

准看護師養成所について

東日本成人矯正医療センター内には、准看護師養成所が設置され、全国から集結した刑務官や法務教官などの矯正職員が准看護師の資格取得を目指して学んでいます。

ここは矯正職員を対象としているため、一般の方は入学できません。臨床実習は外部医療機関や東日本成人矯正医療センターにて実施し、2年間、学業のみに専念して資格取得を目指します。

免許取得後は1年間の研修期間が設けられており、大阪医療刑務所か東日本成人矯正医療センターに配属されます。身体および精神疾患を受け入れている施設が、大阪と東京の2箇所となっているからです。

施設内ツアー

かわむー
かわむー

今回は特別に、東日本成人矯正センター内を案内していただきました。

病棟には、スマホやボイスレコーダーなどの電子機器を持ち込むことができません。カメラのみ持ち込み許可をいただき撮影させてもらいました。


施設の特徴

施設内は、鍵が多いのが特徴です。

通路の鍵は医療職員も持参していますが、受刑者の病室のドアは刑務官しか触ることができません。リハビリやケア、診察の際、医療職は刑務官同伴のもと病室を訪問します。

また、職員は出勤後、基本的には施設の外に出ることができません。昼食をコンビニに買いに行くなどできないため、売店または職員食堂を利用するか、弁当などを持参する人が多いそうです。

病棟

一般病棟は、精神、身体、感染症で分けられており、刑務所と同じく男女別となっています。

手術室やICUに準じた回復施設(個室2つ、4名の大部屋1つ)もあります。

どの病棟も比較的静かで、安全と清潔が保たれています。数名の健康な受刑者が、配膳や清掃などの作業を行っている病棟もありました。

この病棟は全て個室です。それぞれの部屋の鍵は、刑務官によって厳重に管理されています。食事は、ドア横にある小窓から受け渡しします。また、社会情勢を知るために、毎日、新聞が回覧されます。
各病棟にはお風呂が設置されています。個室と大部屋があり、個室は完全バリアフリーです。
大部屋では複数名ずつ入浴します。入浴時間は15分。ドライヤーはありません。(※ガラス越しの撮影のため車椅子等が映り込んでいます。ご了承ください)

病室(個室)

病室は、ベッドや車椅子の出し入れや処置が行えるように、通常の刑務所よりやや広めの造りとなっています。

病室には窓があり、光が差し込みます。トイレや水場も設置されています。十分な療養環境が整えられていると感じました。

また、各部屋には荷物をしまえるキャリーケースが常備してありました。部屋は定期的に変わるため、移動をスムーズに行うためとのことです。

手動式の3モーターベッド
トイレ(施設より写真提供)
水場(施設より写真提供)

リハビリテーション室

集団療法室(女性専用
精神疾患の方のリハビリをおこなう部屋。女性部屋は、アイコンタクトが取りづらいように、学校と同じような形の机の配置になっています。訓練作品が多数展示され、道具も綺麗に収納されています。

ここで1時間程度の作業をおこないます。
作業療法の時間に書いた習字。更生を目指した、前向きな言葉が選ばれていました。
作業のほか、コミュニケーションを学ぶ時間も設けています。


集団療法室(男性専用)
精神疾患の方のリハビリをおこなう部屋。男性部屋は、基本的にはそれぞれが黙々と作業するため、机はバラバラに設置してあります。月水木は高齢者、火金は統合失調症など若年者が作業療法を実施しています。

1.5時間程度の作業をおこないます。
男性受刑者による訓練作品
作品の中には、職員が手伝って制作されたものもありました。これは「矯正展」というイベントで展示されたものだそうです。


運動療法室
一般的な病院の理学療法室と同様の機器や備品が整備されています。一度に複数名のリハビリを実施することもあります。運動療法室には刑務官2名が配置されており、リハビリ中の安全を確保します。保安上、紐や杖、重錘などの道具は、厳重な管理のもと使用されています。

運動療法室
見守りの刑務官さん。担当は輪番制。

その他、作業室
その他にも、施設内には社会復帰を目指してさまざまな作業ができる部屋がたくさんあります。紙を使った細かい作業で機能向上を目指す機能向上作業室や、企業の仕事の一部を担っている作業部屋などがありました。

機能向上作業室の制作途中の訓練作品
機能向上作業室で作られた訓練作品
作業室に置かれた窯

衣と食について

身体疾患の方は、一般の病院で着ているような青色の病衣(甚平)を着用し、治療に専念します。精神疾患の方は、治療の一環として作業をおこなう場合があること、メリハリのある生活にするために、男性は黄色の、女性はピンクの病衣(作業着)に着替えることがあります。

食事は、1日に給与する熱量が定められているため、これに沿って、栄養バランスのとれた献立を管理栄養士が作成しています。また、刑務所なので麦飯が基本ですが、患者の状態に応じて、お粥、重湯、パンなどを給与しています。おかずも、細かく刻んだり、塩分やたんぱく質などを制限したりするなどの治療食が給与されています。

医療刑務所での1日の流れ

東日本成人矯正医療センターには、休養被収容者(治療が必要な人)と一般被収容者(健康な人)が一部収容されています。一般被収容者は、清掃、食事の配膳、治療作業の補助など職員の手伝いをしています。

以下は、それぞれの収容者の1日のスケジュールです。

休養被収容者
7:30 起床
7:40 点検
8:00 朝食
9:00  安静
11:50 昼食
13:00 安静
16:20 夕食
16:55 点検、余暇
21:00  就寝

※リハビリは、安静時間のどこかで実施


一般被収容者
7:15 起床
7:30 点検
7:50 始業
8:00 朝食
12:00  昼食
16:20  終業
16:30 夕食
16:55 点検、余暇
21:00  就寝

※業務内容としては、食事や洗濯物の運搬、清掃、図書、計算など

矯正展の紹介

全国にある刑務所や一部の拘置所では、社会を明るくする運動の一環として、一般社会の方々に広く矯正行政に対する理解と協力を求めることを目的とした、「矯正展」というイベントを開催しています。

全国の刑務所で制作した製品やパンが展示販売されたり、受刑者の食事を体験できたり、刑務所の中や模擬居室の見学ができたりします。

2023年の矯正展
日時:2023年9月24日(日)9:30〜
場所:矯正研修所(東日本成人矯正医療センターが所在する、国際法務総合センター内)

第63回全国矯正展
日時:2023年12月9日(土)〜12月10日(日)
場所:東京国際フォーラム

施設概要

■ 施設名
東日本成人矯正医療センター
センター長 奥村 雄介さん

 沿革
1878年 神奈川県八王子町に神奈川県監獄八王子支署として開庁
1951年 八王子医療刑務所と改称
2018年 東京都昭島市へ移転、東日本成人矯正医療センターとして開庁

■ 所管
法務省

■ 所在地
〒196-0035
東京都昭島市もくせいの杜2丁目1−9
TEL:042-500-5271

アクセス
JR青梅線「東中神駅」北口より徒歩15分


かわむー
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撮影:ひろし



以上、今回は東京都昭島市にある東日本成人矯正医療センターさんを紹介させていただきました。

取材前は漠然とした近づき難いイメージを持っていましたが、実際に現場に伺い、中の人ややっていることが見えたことで、そのイメージは一変しました。

最後は、調査官の関さんにお見送りしていただきました。閉ざされた矯正行政の世界を、一般社会の方々に少しでも理解していただけると嬉しいとお話されていました。

今回の取材記事を通して、受刑者の更生・社会復帰に真摯に向き合い続ける人たちがいることを、一人でも多くの方に知っていただけると幸いです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!



かわむーでした。

この取材は、施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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