みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
本記事では、8年前の事故による頸髄損傷/不全麻痺で車椅子ユーザーとなった藤井佳奈さんの、運転再開にむけて歩まれた過程や実際の改造車、その活用方法についてご紹介します。
また、今回は特別に佳奈さんご自身に自動車を運転していただき、スーパーに買い物に行くところに密着取材させていただきました。車椅子ユーザーの方の視点から見える課題感をはじめ、運転再開を決意した経緯やその後の想いについてもお話を伺ったので、写真を交えながらその魅力をとことんお伝えしていきたいと思います!
(佳奈さんの事故当時からこれまでの歩みについてまとめた記事はこちら)
藤井佳奈さん
◆ 藤井佳奈(ふじい・かな)さん
1975年 広島県尾道市生口島出身
歯科衛生士 / FP / メディカルアロマセラピスト&アドバイザー
歯科衛生や病院の医療事務として勤務した後、生命保険会社で外交員として従事。2014年10月(当時39歳)、交通事故により第6頸髄損傷・骨盤骨折をはじめとした多発外傷を受傷。1年2ヶ月にわたる入院治療とリハビリを経て、自宅に退院。退院後も懸命なリハビリを継続され、数mの杖歩行や自動車運転の再開を果たす。現在は、週4日リハビリに励みながら生命保険会社の外交員として勤務している。今後は、実用性歩行の獲得を目指し再生医療/リハビリに挑戦する予定。
運転再開を決意した日
1年2ヶ月の入院リハビリを経て、2015年12月に自宅へ退院された佳奈さんですが、「再び自動車を運転しよう」と思われたきっかけは何だったのでしょうか。
頸髄損傷により車椅子ユーザーとなってから4年が過ぎようとしたある日のこと、私は、娘のある一言で運転再開を決意しました。
その日はひどく雨が降っていて、高校に通う娘の友人は家族に迎えに来てもらう人が多くいたそうです。その時、友達に「りこちゃん、家族の迎えこないの?」と言われたのだと、家に帰ってきた娘が話していました。
それを聞いた瞬間、「よし!娘が高校のうちに車で送り迎えできるようにするぞっ!」と、娘のために運転再開を決意。早速、運転再開に関する情報収集からはじめました。
はじめの第一歩
事故当時のことをまとめた前回の記事の中でも、娘さんの存在が「してやりたい」という未来への希望に変わり、リハビリの原動力になっていたのだとお話されていました。
病院を退院してからも、娘さんの存在が様々なことにチャレンジするきっかけになっているのですね。
運転再開に向けて、具体的にどのように進めていかれたのでしょうか。
運転再開しようと思い立った私は、まずはじめに今の身体でも運転できる「改造車」を手に入れるために、市内にある改造車専門の会社に行きました。
その会社のことは、普段からお世話になっている医療メーカーさんから教えてもらいました。
まずは既製の改造車を見学させていただき、「どうやったら自分にとって使いやすいだろうか」とイメージを膨らまします。そして、どの部分を改造するか、会社の方とじっくりと相談しながら一つずつ決定していきます。
その後は、実際に改造する自動車を購入し、それを改造車専門の会社へ持っていきました。
自動車は、実際にどういったところを改造したのでしょうか?
アクセルとブレーキを手で操作できるようにしたり、ハンドルを回しやすいようにグリップを付けたり、ドアの開閉がスムーズにできるようにベルトを付けたりしました。
また、ウインカーやワイパーの設定変更などもあわせて提案し、改造には約1ヶ月を要しました。
改造車には、市町村ごとの助成金が使えます。私の住む市は10万円程度の補助がおりました。しかし、今回の改造にはトータル60万円ほどかかったので、そこに自動車本体代もかかってくると思うと実質負担額は少なくないのが現状です。
佳奈さん流!運転の練習方法
実際に運転を再開するにあたり、練習はどのように進めていかれたのですか?
私の場合は、特に自動車学校で練習するなどはなく、改造車の納車日にお店の人と一緒にちょっとだけ運転することで、一通りの操作を覚えました。その後は、いきなり長距離を運転するのは勇気がでなかったので、まずは家の近所を一人で運転し練習を重ねます。
そして数カ月後、ついに初めて娘を高校まで迎えに行くことができました。娘をのせて無事に家まで帰れた瞬間は、とてもホッとしましたしこの上なく嬉しかったのを覚えています。
しかし、そんな安心していたのも束の間。
なんと娘から「マックのドライブスルー行こうよ!」と新たな試練が課されたのです。
マックのドライブスルー!それはまた、やりがいのある試練ですね!
私は「やってみようじゃないの!」と返事をし、一番近くのマックまで再び車を走らせます。
しかし、マックに辿り着いたのは良いものの、運転で精一杯の私には金銭のやり取りをする余裕はなく、娘に対応をお願いしました。
ハンバーガーとシェイクを購入し無事に自宅についた時、ふと娘の顔を見るととても嬉しそうに笑っていました。
娘は、私の状態をいつも丁寧に観察しながら、もう一段回ステップを上がれるような声掛けをしてくれるんです。
これまでも、娘のおかげでチャレンジできたことはたくさんあります。そのため、彼女の提案にはいつも前向きに答えるようにしています。
彼女には、感謝してもしきれません。
娘さんとの信頼関係、本当に素晴らしいですね。お話を聞きながら目頭が熱くなりました。
密着取材①:乗降車と車椅子の積み込み
実際に、佳奈さんに運転していただき近所のスーパーまで買い物に行ってきました。
まずは、佳奈さん流!車への乗り降りや車椅子の積み込み方法について、写真を交えながらご紹介したいと思います。
ちなみに、自宅玄関から車までの数mの移動は、ロフストランド杖を両手に持つことで歩けるようになりました。
ゆっくりゆっくりですが、少しずつ練習を重ねています。
密着取材②:スーパーで見えた課題
佳奈さんと一緒にスーパーで買い物をする中でいくつか課題が見えたので、写真も交えながらご紹介したいと思います。
■ 駐車場の左右スペース不均等
積み込みをするためのスペースが片方しかないところがありました。
■ 通路に自転車などモノが置かれている
スーパーの通路には自転車が多く置かれており、車椅子が通れないことがあります。実際に取材時も数台移動させました。当たり前のことですが、通路にはものを置かないようにする心掛けが必要です。
■ 車椅子用買い物カートの未導入
買い物かごを膝に置くと、ぐらぐらして倒れることがあります。さらに、家に帰ると膝が真っ赤になっているなど皮膚トラブルを起こすこともあります。車椅子用の買い物カート導入が全国的にすすんで欲しいと感じました。
■ 高い所にある商品がとれない
■ その他気づき
実際に佳奈さんの目線でスーパーを歩くことで、これまで見えていなかった多くの視点に気づくことができました。
車椅子ユーザーの方が安心してこまめに買い物に来れるような環境づくりが必要だと感じます。それは、ハード面はもちろん、心のバリアフリーといわれるソフト面も同様です。
それらを丁寧に整備することが、まちの「暮らしやすさ」や「豊さ」に繋がっていくのだと改めて感じることができました。
運転再開の可能性
最後に、佳奈さんが運転を再開したことで選択肢が広がったと感じたこと、エピソードなどあれば教えて下さい。
最近は少しずつ運転に自信がついてきたので、次第に運転する距離をのばしています。つい先日は、友人と一緒に島根県の出雲大社までドライブをしました。
私の改造車はいつでも通常車にボタン一つで切り替わるので、帰りは友人に運転をお願いして、私はついた先でご褒美のビールをいただきました(笑)
また、連続で1時間くらい運転して実家のある生口島まで帰れるようにもなりました。どんどん活動範囲が広がっていくのは、本当に嬉しいです。
運転ができなかった頃は、病院に行くにも介護タクシーを予約しないといけなくて、結局、良い時間帯に介護タクシーがなかったら待ち時間が発生します。病院で1時間以上、待ちぼうけをくらうこともありました。
運転を再開してからは、こうした心の負担はなくなりました。
今では、勇気をだして運転再開してみて本当によかったと思っています。
行きたい時に、行きたいところに、自由に行ける。
運転再開までのハードルは決して低くはありませんが、その可能性というのを存分に感じることができました。
最近では「移動支援」といわれる、自動車に乗らない方のためのサービスもどんどん充実してきています。こちらも是非、調べてみると良いでしょう。
佳奈さんの貴重ご経験と生の声が、同じような境遇で悩まれている一人でも多くの方に届くことを願います。
佳奈さん、本日は貴重な声をお聞かせ頂きありがとうございました!
<佳奈さん関連情報>
・リハノワ記事:「41歳で頸髄を損傷。娘や仲間と歩んできた8年間と再生医療挑戦の裏側|藤井佳奈さん」
・佳奈さんInstagram
写真提供:まっさん(カメラマン/理学療法士)
ぜひ合わせて御覧ください。
以上、本記事では8年前の事故による頸髄損傷/不全麻痺で車椅子ユーザーとなった藤井佳奈さんの、運転再開にむけて歩まれた過程や実際の改造車、その活用方法についてご紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、佳奈さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、施設から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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