みなさんこんにちは、リハノワ.comのかわむーです!
本日は、広島県廿日市市にある「であい工房」さんを紹介したいと思います。
以前、当メディアで、生後間もなく脳室周囲白質軟化症(PVL)と診断された6歳の女の子・ニコさんを取材した際に、ニコさんが使用していた福祉用具があまりにもオシャレで素敵なモノだったため、お母さんのイツカさんに無理を言い、その道具を作ってくれた工房さんへと繋いでいただきました。
であい工房さんは、障がい児のシーティングを専門とされ、広島県の西部エリアを拠点とし活動されているメーカーさんです。その豊富な制作実績とシーティング技術を生かし、オーダーメイドからレディスメイドまで幅広く商品提供をされています。
今回は、“ものづくりの世界” から障がいを持ったお子さんやその家族の暮らしに寄り添い、それをより豊かにするために日々チャレンジしている「であい工房」さんの矢賀社長に、普段お仕事をされる中で感じることや、職人・プロフェッショナルとして大切にされている熱い想い、現在取り組まれている活動についてなどを伺い、その魅力にとことん迫っていきたいと思います!
今回紹介してくださった「ニコさん親子」を特集した記事はこちら。
・前編:「病気のお話」や「食事・食育」「リハビリ」について
・後編: お母さんの熱い想いや皆さんへのメッセージ
・オシャレで素敵なお母さん「イツカさん」を特集した記事はこちら。
であい工房さんの紹介は、親子の記事・前編とお母さんの記事にもあります。
ぜひ合わせてご覧ください。
であい工房の概要
◼️ 創立:1979年
◼️ 代表取締役:
矢賀 洋さん(認定シーティングエンジニア)
◼️ スタッフ: 総員13名
有資格者
・認定シーティングエンジニア 4名
・義肢装具士 2名
・作業療法士 1名
◼️ 対象:
障がいをもったお子さん(8割)、大人(2割)
◼️ 代表製品:
・立体スリング調整式立位保持具(スーパインボード):『tatti』
・立体スリング式モジュール型座位保持装置(屋外用/車いすタイプ):『meet』『meet-pro』
・立体スリング式モジュール型座位保持装置(室内用/椅子タイプ):『cot-sp』
・車載用座位保持椅子(カーシート):『D.S.S』 『warp-CS』
※後ほど詳しく紹介します。
◼️ 場所:
〒738-0034 広島県廿日市市宮内3300
TEL:0829 (39) 0041
FAX:0829 (39) 8504
会社設立のきっかけ
であい工房さんは、創立から40年以上も続く歴史あるメーカーさんなのですね!
矢賀社長は、なぜ40年前 “障がいをもったお子さんの福祉用具を作ろう” と思われたのですか?
その “きっかけ” について、もし良ければ教えてください。
矢賀社長:
僕は社会人になって最初の5年は、大阪でコンピューター関連のSEをしていました。その当時、コンピューターが日本に入ってきてまだ間もない頃で頃でした。周りには優秀な人たちがたくさんいて、切磋琢磨しながら、日々社会の波にも揉まれていましたね。
それから5年後、地元広島に帰ってきたのをきっかけに、新しく “何かしたい” と色々考えました。
そしてちょうどその時、朝日新聞でみかけた一つの記事がきっかけで、人生が大きく変わります。
そこには、障がいを持った子どもの福祉用具を作っている若者の紹介がありました。僕はそれを見て、すぐに東京へ見学に行きました。
見学に行って、これだ!と思いました。
当時、日本は高度経済成長の真っ只中。“他が真似しないもの” そして “競争相手が少ないところ” で勝負をしたい。
もともと工業系の学校を出ていたため、物作りや木工はとても好きだったのもあり、これなら“自分でも面白いものができそう!” と思いました。
そこから、道具を作ることで障がいを持った方々の暮らしの質を上げる “プロフェッショナル” としての歩みが始まり、コンピューターを眺める日々から、人の体ってどうなの!?と考える日々に変わりました。
矢賀社長の “であい” とは
大阪での若手時代の経験が、会社を設立した当時の原動力にもなっていたと話される矢賀社長。
新しく会社を始められてからは、どんな“出会い” や “歩み” があったのでしょうか。
矢賀社長:
僕が道具を作る中で最も忘れられない運命的な出会いは、理学療法士の三好春樹さんとの出会いですね。彼と出会えたことが全ての始まりでした。
彼は当時、広島の介護現場で働かれていました。
そんな彼から、「人にとって “排泄” するということは本当に大事なことなんだよ」ということを教えてもらいました。
そして彼と一緒になって、高齢者が安心してポータブルトイレに座れるように、高さと手すりを補填できる道具を開発しました。
最初は子どもではなく、老人の、しかも「トイレ」を作るところから始まったんです。
三好春樹さんは、広島県生まれの介護・リハビリテーションの専門家で、「生活とリハビリ研究所」の代表もされている方です。「オムツ外し学会」や「チューブ外し学会」を立ち上げて、介護・リハビリ・看護の枠を超えて日本全国で「生活リハビリ講座」を開催し、介護に当たる人たちに人間性を重視した老人介護のあり方を伝える活動をされています。
まさか、三好さんと当時一緒に商品開発をされていたとは、驚きです。
そして、であい工房さんのスタートが、『トイレ』そして『高齢者』だったことにも驚きました!
子どもの分野に参入されたのはどのタイミングだったのでしょうか?
矢賀社長:
しばらくは高齢者を中心とした福祉用具等の制作に携わっていましたが、数年後、養護学校の先生との繋がりもあり、子どもの分野への参入が始まります。
また、当時会社の近所に障がいを持ったお子さんとお母さんの共同作業所があったため、ここでも現場の課題を吸い上げていきました。
当時多く聞かれた声としては “座らせたい”というものでした。
どうやったら障がいがあるお子さんが安心して座れるか、『シーティング』についての研究がこの頃から始まります。
現場の皆さんの要望に応えるために、子どもの分野も最初は『トイレ』から始まりました。それから、通学の時に必須となる『カーシート』の制作や、食事の時に必要となる座位保持の『椅子』、さらには『車椅子』や『バギー』を作るようになっていきます。
その後、日本車椅子シーティング協会(JAWS)という、障がい児・障がい者の生活具を提供する団体の全国組織を立ち上げました。
ここには、道具についての困りごとを相談できるメーカー、輸入業者が全国各地から集まっています。
日々の様々な悩みや想いなどを語り合う「工房連絡会」というのもあり、年に数回みんなで集まっては、シーティングや道具に関して、あぁでもない、こうでもないとお酒を交えながら熱く語り合いました。
全国で活躍する仲間の存在はとっても大きいです。こういった仲間との出会いも、私の原動力となっていますね。
子どもに関しても、初めは「トイレ」であり、排泄の課題に取り組むところから始まっていたのですね! “三好さんとの出会いが全ての始まり” と話されていた社長の原点が、少しだけ見えてきたように感じました。
それにしても、社長の作る道具は、本当に現場の切実な声から生まれてきたものばかりですね。現場の声に寄り添う社長の姿勢がとっても素晴らしいです。
現場を重視し、シーティングに関してとことん突き詰めた矢賀社長の熱い思いが詰まった『であい工房』が素敵な理由が、次第にわかってきました。
知られざる内部を紹介!
であい工房さんが今の場所へとお引越しをされてきたのは、15年ほど前だそうです。
本日は、工房の中を特別に少しだけ覗かせてもらったので、皆さんにも写真付きで簡単にご紹介したいと思います!
◼️倉庫
制作段階のものが沢山収納されています。既製品とのコラボなども行われます。
◼️加工場
◼️デモ機置き場
デモ機の役割は、採寸・採型の精度向上や使用者の使い勝手や使う環境とのマッチングミスを防ぐために必要です。車いす・カーシートなどのデモ機を50台以上揃えられています。
◼️縫製場
シートカバー・ベルトなどが、こちらで素早く綺麗に仕上げられます。
現場でユーザーさんの声を直接聞き、そしてこれだけの過程を経て一つの道具が完成しているのですね!実際にモノが作られる過程を見たのは初めてだったので、改めて職人さんの偉大さに感動しました!
これだけ手塩にかけモノが完成した時の達成感って、ものすごいんじゃないか!と思っていましたが、矢賀社長に言わせると “できた瞬間に達成感はない。お子さんやご家族さんが使って満足してくれた時に初めて、達成感を感じるもの” だそうです。
ただ単に「道具を作る人」なのではなく、道具を作ることによって暮らしを支える「チームの一員」である、という矢賀社長のプロフェッショナル精神をものすごく感じた瞬間でした。
海外などの大手メーカーではできない、日本の工房だからこそできるこの「チーム医療」。私たち医療者も、もっとこういったチームメンバーのことを知っていかなければいけないな、と強く感じました。
であい工房のアイデア製品
矢賀社長の想いが詰まった、であい工房オリジナルの “アイデア商品” についてご紹介させていただきます!
◼️立体スリング調整式立位保持具(スーパインボード):『tatti(タッチ)』
身体に合った立位姿勢保持ができる装置。
特徴としては、寝た状態から起こしていくので本人のストレスや介助者の負担が少ないこと、また、姿勢を整えやすいため足底や姿勢への負荷のコントロールがしやすく、褥瘡予防にも効果的です。
5年頃前より開発が進み、現在では車椅子のように簡単に移動できるものも誕生しているそうです。
さらに最近では、“エンタメ要素” を取り入れたものも作られているそうです。
こちらは音に合わせて振動する機械となっており、スマホからYouTubeなどの音をBluetoothを使って流すと、その曲に合わせて台(写真:左手奥)が振動します。
ここにtatti(タッチ)を融合させ、起立することにエンタメ的な要素を取り入れます。「治療やリハビリのために立つのではなく、楽しい時間を過ごすために立つ」「子どもたちに楽しい時間を過ごしてもらいたい」という矢賀社長の想いが詰まったアイデア商品です。
展示会などでは結構人気のようで、お子さんたちは自ら楽しんで利用されるのだとか!
私も実際に試させてもらいました。
社長が選曲してくれた「パプリカ」の曲に合わせて台から振動がきて、その振動の強さも調整ができたため少し強くしてみました。かなり楽しくて、気づいたら結構一人ではしゃいでいました(笑) 大人でもこれだけ楽しめるので、お子さんにはもっともっと喜ばれるものなのかな、と思いました。
メーカーさんが道具にエンタメ要素を積極的に取り入れられているのは、あまり例を見たことがなかったので、そのチャレンジ精神にとても嬉しくなりました。
ちなみに価格は、子ども用tattiと振動板を合わせて80万だそうです。
今後の福祉機器展などにも展示される機会があるそうなので、ぜひその際は試されてみてはいかがでしょうか。
<その他・であい工房オリジナル商品>
◼️立体スリング式モジュール型座位保持装置(屋外用/車いすタイプ):『meet』『meet-pro』
◼️立体スリング式モジュール型座位保持装置(室内用/椅子タイプ):『cot-sp』
◼️車載用座位保持椅子(カーシート):『D.S.S』 『warp-CS』
ちなみに、ニコさんが実際に使っているバギーや座位保持装置(防水カバー)、立位台がこちらです!
お母さんのイツカさんのアイデアも反映させながら制作されたそうです。
オシャレでとっても可愛いですよね!
矢賀社長よりメッセージ
矢賀社長が考える、仕事をする中で “大切にしていること” を教えてください。
矢賀社長:
私たちの仕事は、“道具を作ること” が目的なのではありません。本人や家族とコミュニケーションを取りながら、その輪の中に入り、生活を支える事なのです。
そのため、“分業をしない” のが 私 (であい工房)のやり方です。
ユーザーさんと直接お話をする営業から、一つ一つ道具を作るところまで全てを、1人のスタッフ・職人が行います。こんな形でしっかりと関われるのは、日本の工房の強みだと思いますし、これをモットーに、より身近で寄り添える工房を目指しています。
ユーザーさんの生活にずっと寄り添っていきたいため、あまり範囲を拡大することもしていないんです。
本当は売り上げを上げるためだったら仕事を取って、範囲を広げればいいのだけれど、そうすると一人一人のユーザーさんとしっかりと関われる時間も減ってしまうし、より早く対応してあげることも出来なくなってしまうんです。僕はそうじゃないな、と思っていて。だから、範囲はあえて広げすぎないようにしています。
ユーザーはお子さんが多いので、道具は定期的に作り変えないといけないんです。
そして、ただ単に身体機能を補うだけではなく、成長や発達を促し重度化させない、また、他者と同等に感じ、生活を楽しむことができるなど “人としてよりよく生きる” ことを支える『仕掛けのある道具づくり』が必要だと思っています。
従業員に対しても、持続可能な働き方ができるように、残業はしないように配慮しています。
長く働いたり、アイデアを創出するには個人の健康を大切にし、持続できる環境を整えることが大切だと僕は考えています。
矢賀社長がこの工房にかける熱い熱い想いがものすごく伝わってきて、とっても胸が熱くなりました。
ユーザーさんの人生における影の立役者として、これだけのプライドを持ったプロフェッショナルがいることにとっても感動し、同時に、とても心強くなりました。そして、私たちはもっと職人さんと手をとりあり、ユーザー(患者さん)のためにより良いものを作っていかなければならないなと感じました。
そのほか最後に、この記事を読まれている方へ向けて何かメッセージがあればお願いします。
矢賀社長:
私は、“ 障がいのある子ども達の要求を形にする” というオーダーメイドの経験を次世代に継承していく年代になってきました。
非常にアジア的とも思っていますが、日本において “独特なかたちで発展してきたモノづくり” をどのような形で残していけるのか、このことが今一番の課題です。
私がこの世界を知ったのは、偶然出会った新聞の記事でした。
この時のことを思い返してみると、一番に思ったことは、将来もこの仕事を目指す人は大きく増えることはないだろう、でも必要とされ続けるだろう、ということでした。
私がこの世界に入って40年です。
この間、医療技術は進化し、障害を軽度化する。そして、コンピュータ技術の進化で社会参加も実現しやすくなっています。
しかし、日常生活をサポートするための道具製作技術者や会社が充足しているわけではありません。
それはこの仕事の社会的認知度が低いことも理由かもしれません。
パラリンピックを支えている義肢装具士さんもいます。華やかな舞台はありませんが、日常生活をたとえ障害があっても楽しく、より良く生きたい。それを実現するための道具づくりはもっと多様な技術者が必要です。
タイにも私たちの仲間がボランティアで技術伝承に毎年出かけています。
こんな仕事を、より多くの人に知ってただくことで、私が始めたころの予想に反して、この世界に挑戦する若者が増えることを願っています。
僕のモノ作りにかけた半生が、誰かの励みになり、そして、今後また新たなモノ作りのきっかけになると嬉しいです。
今回は、このような機会をいただきありがとうございました。
矢賀社長、最後は熱い熱いメッセージをありがとうございました!
社長の、69歳とは思えない溢れんばかりのパワフルさに、私自身とっても背中を押されました!
各業界のスペシャリストはもちろんのこと、少し専門的なところでいくと、社長が普段関わっているモノ作りは静止時の道具なので、動作時のサポート(道具)を作る人はどうしてるのか、あとは、パラリンピックに関わるPOさん(義肢装具士さん)は一体どんなもの作ってるのか、など、その分野の専門家の方々のお話も気になるそうです。
ぜひ、この記事を読まれて社長とお話してみたい方がいらっしゃったら、また、商品やオーダーメイドに関するお問い合わせ(広島県西部エリア対応可)は、であい工房:deai-fitters あっとまーく mva.biglove.ne.jp までご連絡いただければと思います。
※迷惑メール対策です、「あっとまーく」を「@」に置き換えてメールして下さい。
矢賀社長、本日は本当にありがとうございました!
以上、本日は、広島県廿日市市にある「であい工房」さんを紹介させていただきました。
一人でも多くの励みや元気に繋がると幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワ.comをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
※この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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