こんにちは。リハノワでライターと広報をしています、みっこです。
今回は、大阪府河内長野市の当事者会「ゆっくりいっぽ仲間の会」に参加されていた脳卒中当事者の辻 ありささんをご紹介します。
辻さんは、7年前に左被殻出血を発症し、右片麻痺となりました。懸命なリハビリの末、現在は短い距離の移動であればお一人で杖歩行が可能です。大好きなお料理をはじめ、家事動作も麻痺手である右手を補助的に添えて、工夫されながら取り組まれています。
福祉車両を活用し、色んな人との交流にも積極的に向かわれる辻さんは、現在、大阪を拠点に脳卒中をはじめとしたリハビリ当事者に向けた「フラリハ(=フラ+リハビリ)」の普及活動をされています。
この記事では、辻さんが脳卒中を発症してから7年間の歩みについてお伝えします。障がいをどのように受け入れたのか?どうしてフラリハをリハビリ当事者に教えるようになったのか?脳卒中当事者に必要なケアについてなど、詳しくお話をお聞かせいただきました。
※フラ=フラダンス
右片麻痺と私。「表現」を奪われたショックからモチベーションを取り戻したきっかけ
はじめに、辻さんの自己紹介と脳卒中を発症した当初のことを教えてください。
私は、7年前に左被殻出血を発症し、右片麻痺になりました。
病気になる前はフラダンサーとしてステージに立っていたので、病気がきっかけで20年以上続けてきたフラが元通りに踊れないことにとてもショックを受けました。
それは、今思い出しても涙が出るくらい悲しい出来事でした。フラは自分の魂が解放される「表現」の場だったので。自分で言うのもおかしいですが、けっこう良いダンサーだったんです。
イメージ通りに動かない自分の身体を受け入れるまでには、かなり時間がかかりました。
フラダンサーとして長年ご活躍されていたのですね。
ご自分の「表現」方法が奪われてしまって大きなショックを受けられたことと思います。
リハビリ当初の葛藤と自身との向き合い方
リハビリ当初は、どのようにご自身と向き合われたのですか?
踊れないことがとてもショックでしたが、フラの経験がリハビリに役立つこともありました。
私は、身体を動かすイメージを持つのが得意なんです。感覚はしっかり残っていたので、今、自分の身体がどこに位置しているのかイメージしながら動かすことができました。例えば、骨盤の左右のバランスや動きがどうなっているのかなどを考えながら身体を動かすのです。
運動麻痺で思い通りに動かせない歯痒さや完全には元どおりに踊れないことへの悔しさはありましたが、感覚が残っていたのは大きなメリットでしたね。
フラダンスの経験がリハビリにも役に立ったのですね。リハビリは順調に進んでいたようですが、完全に元通りにはならないことを受け入れるのは大変つらい経験だったと思います。
右片麻痺である自分を認められるようになった出来事
現在は、とても明るくリハビリ当事者の方にフラリハを教えられている辻さんですが、障がいを受け入れられたきっかけはありますか?
当初は大好きだったフラに関わることを避けていましたし、麻痺が反対だったら利き手が使えていたのに…と、落ち込むこともありました。
けれど、近所の病院で外来のリハビリを受けた時に担当してくださった作業療法士の方の一言が、私の気持ちをとても楽にしてくれました。
下半身不随で車椅子ユーザーでありながら、作業療法士をされているその方が「もし右脳出血の場合、イメージする力が低下する可能性があります。人によってはモチベーションを保つのが大変だという声も聞きます。辻さんは運動麻痺があるけれどもイメージする力がしっかり残っていますよね。」と仰ったんです。
その瞬間、「そっかあ」って、気持ちが楽になりました。私にはまだイメージする力、「表現力」が残ってるんだと気づいたんです。
フラと私。表現者として再開、障がいのある方にフラリハを提供
辻さんがフラを再開した経緯について、詳しく聞いていきたいと思います。
フラの表現者として再開した辻さん
表現力が残っていると気づいて、どのようにフラを再開されたのですか?
病気を発症して間もないころ、あるフラの講師の方から「一緒にフラを発表したり、スタジオで教えたりしませんか」と誘われました。その先生は先天的な障がいをお持ちで、私がフラ経験者だったことから声をかけてくださったんです。
誘われた当時、私も「障がいを持ちながらもフラを再開したい」と思っていたので非常に興味を持ちました。
障がいを受け入れ、フラを再開するまでに時間はかかりましたが、座ってならフラができると感じ、スタジオでの講師をお受けすることにしました。
その後、スタジオに通うようになってすぐ、さらに素敵な出会いがありました。
ボイストレーナーをされている方とフラのワークショップで知り合い、コラボさせてもらうことになったのです。生歌に合わせてフラを踊り、心が解放されるような感覚を経験しました!
生歌に合わせて踊る!呼吸を合わせて表現するのは一段と大変ですね。
確かにかなり難しいのですが、生歌に合わせるのは心地よく、フラの表現はもっと自由でいいんだなと感じた日でした。
フラリハを提供しようと思ったきっかけ
フラの表現者として活動を再開された辻さんですが、フラとリハビリを掛け合わせようと思ったきっかけは、何だったのでしょうか?
一つは、4年前の7月に道頓堀で開催されたフラのフェスティバルに参加したことにあります。
ボイストレーナーの方やフラの仲間とともに誰もが楽しめる振り付けでフラを披露しました。右片麻痺になって初めてステージに立ったことで、フラってどんな方でも自由に楽しめるのだと実感しました。
例えば、私のように麻痺で体の不自由なら座って踊ればいいでしょ。聴覚に障がいがある方は見て真似を、視覚に障がいがある方は音を感じればいい…。
そのフェスティバルに参加したことがきっかけで、障がいの有無にかかわらず同じ場を共有できるフラは、なんて素晴らしいのだろうと感じました。
フラは一人ひとりが自由に楽しめて、色んな人とつながりを持てる場にもなるんですね!
そうなんです。素敵ですよね。
フラリハを提供しようと思ったもう一つのきっかけは、脳卒中当事者のほとんどが「うつ状態」を経験していて、自分の気持ちを表現する場が必要だと感じたことからです。
私は右片麻痺になる前、心療内科でうつ患者さんに「フラ療法」という名前で気持ちをリラックスしてもらう場を提供していました。
その時、フラをしながら自分と向き合う時間を持つことが、患者さんにとってリフレッシュになっていると感じました。うつを経験しやすい脳卒中当事者にとって、フラは提供する価値があると考えています。
もともと、心療内科でメンタルケアの一環としてフラを教えてらっしゃったのですね。
確かに、うつになるとふさぎこみがちな気持ちを開放する瞬間が必要かもしれません。うつになる傾向がある脳卒中当事者の方にとって、フラリハが憩いの場になるといいですよね。
ピアカウンセリングと私。脳卒中当事者として選択肢が広がった瞬間
本日開催された当事者会「ゆっくりいっぽ仲間の会」では、ピアカウンセリングという同じ背景の人同士が悩みを打ち明け、お互いを支え合うことができる方法が取り入れられていますが、辻さんにとってピアカウンセリングは、ご自身の考え方や活動にどのような影響を与えたのでしょうか?
「ピアカウンセリング」との出会いは、脳卒中当事者である私の選択肢を広げたきっかけの一つであり、フラリハでもその考え方を取り入れています。
ピアカウンセリングとの出会い
辻さんは、どこで初めてのピアカウンセリングを受けられたのですか?
兵庫県西宮市にある脳卒中専門のリハビリセンター「動きのコツ研究所」のリハビリ合宿です。
ネットで検索して興味がわいたので飛び込んだのですが、合宿のカリキュラムの一つだったピアカウンセリングに、「なんじゃこりゃ」と衝撃を受けました。
大きな輪になって向き合い、お互いの話を共有する。
ピアカウンセリングで自分の想いを言葉にすると、脳が切り替わるような感覚がありました。あえてみんなの前で言葉にすることで、ふさぎごみかちな状況から一歩進むことができたんです。
私の中で、新しい選択肢が広がった瞬間でしたね。
心のうちを開放することが、踏み出す一歩になるのですね。同じ経験をしているからこそ深く共感できるし、励みになるのではないかと思いました。
脳卒中当事者としての選択肢が広がった瞬間
ピアカウンセリングとの出会いによって、辻さんにどのような選択肢が生まれたのでしょうか?
ピアカウンセリングで脳卒中当事者の方々とお話しする中で、私が取り組んでいる「フラリハ」が役に立つのではと思いました。
フラリハは、心を落ち着かせて自分の心と身体に向き合うだけでなく、周りの人を見渡して温かい気持ちを共有することができるからです。
「動きのコツ研究所」のリハビリ合宿でピアカウンセリングの一環としてフラリハを提案し、初めて参加してから3年目にコーナーを担当させてもらうことになりました。
現在は、おおさか脳卒中の会認定のピアカウンセラーとして、活動の幅が広がっています。
初めは参加者だったところから、合宿の一つのコーナーを担当されるまでになったのですね。
心療内科でフラ療法を提供されていた背景や脳卒中当事者としての経験から、辻さんがワークショップを担当されることが他の参加者の方へ大きな励みになったのではないかと感じました。
「ゆっくりいっぽ仲間の会」で、実際に私もピアカウンセリングとフラリハを体験させていただきましたが、自分自身や参加者の方と対話することができ、心と身体がポカポカするような時間でした。
よい機会になったのなら、うれしいです。本日開催した「ゆっくりいっぽ仲間の会」をはじめ、大阪を拠点にフラリハのワークショップを少しずつ展開しているところです。
フラリハとピアカウンセリングを多くの人に届けたい
辻さんの今後の目標を教えてください。
フラリハで心と身体をほぐし、脳卒中当事者の方同士がつながりを持つためのワークショップを少しずつ広げられたいと考えています。
対面での関わりが再開されつつありますが、同時に新しい形としてオンラインでのフラリハの提供を企画中です。
イメージとしてはオンラインフィットネスのような感じ。
今は私が脳卒中当事者の方にお伝えしていきたい内容をゆっくり準備していて、焦らずに良いタイミングを待っている段階です。
フラリハがもっと多くの方に届くように、新たな取り組みにチャレンジしようとされているのですね。
オンラインで企画中とのことですが、気軽に参加しやすくなり大阪以外の方ともつながりが発展しそうです。
ご自身の経験から、脳卒中当事者の方が第3の場所を得ることはもっと必要だと思われますか?
そうですね。先ほど、脳卒中当事者の方のほとんどがうつ状態を経験すると話しましたが、心のサポートがまだまだ足りておらず、当事者の方の第3の場所は必要です。
それから、医療従事者の方にも心のケアについてさらに学んでほしいなと感じています。ピアカウンセリングでも用いられる、声のかけ方や聞き方などを勉強するだけでも当事者の方との関わり方がものすごく変わると思います。
大学によっては、授業でピアカウンセリングを体験に来られる生徒さんもいらっしゃいます。
医療従事者の方が、心のケア方法や当事者同士が話をする場に参加する機会がさらに増えることを期待しています。
おっしゃる通りですね。心のケアについて課題に感じている医療従事者は多いと思います。
今日、開催された「ゆっくりいっぽ仲間の会」のように、ピアカウンセリングや辻さんが提供されているようなワークショップに参加してみることで、当事者の方に寄り添うための学びがたくさんあるなと感じました。
過去の私へメッセージ
脳卒中を発症してから7年間、つらい経験を経てご自分が大切にされている考え方や経験をシェアされている辻さんですが、最後に、過去のご自分にメッセージを伝えるとしたらどんな言葉をかけられるか教えて下さい。
「結構いいよ」という一言ですね。
そんなに悲観しなくていいよって感じかな。
色んな人との出会いを得て、今も「表現」し続けている私がいるので、その一言を伝えたいです。
「結構いいよ」というメッセージに、私も自分ごとのように勇気づけられ、つい涙が出てしまいました。
脳卒中の当事者同士のつながりやフラリハ、ピアカウンセリングのような心と身体のケア方法が多くの方に届いてほしいですね。
辻さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
写真提供:山本夏希
(みっこプロフィール写真:くらしフォトグラファー・しんたろう)
以上、本日は脳卒中当事者でフラリハの普及活動に力を入れられている辻 ありささんをご紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、辻さんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
みっこでした。
この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
リハノワは、パートナー企業、個人サポーター、読者の皆さまの応援のもと活動しています。皆さまからのご支援・ご声援お待ちしております。
※取材先や取材内容はリハノワ独自の基準で選定しています。リンク先の企業と記事に直接の関わりはありません。
コメント