みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、島根県発のローカルゼブラ企業「株式会社Canvas」の代表であり、作業療法士の元廣惇さんにお話を伺いました。
元廣さんは、職業病予防を切り口に、企業の健康経営支援と地域課題解決に取り組むため、2021年にCanvasを創業しました。現在は、その事業を全国に広げ、社会に大きなインパクトを与えるべく日本中を飛び回っています。
本記事では、Canvasが取り組む職業病予防を通じた企業の健康経営支援や、地域共創型フランチャイズの展開、さらに元廣さんの原点や起業ストーリーを紹介します。
※リハノワは、2024年6月からCanvasさまとパートナシップを締結しています
Canvasとは
株式会社Canvasは、スーパーゼネコンや中小企業に向けて、「職業病予防」を切り口に健康経営支援や地域の課題解決に挑戦する、島根県発のローカルゼブラ企業(事業を通じて地域課題解決を図り、域内企業等と協業しながら、新たな価値創造や技術の活用等により社会にインパクトを生み出しながら収益を確保する企業)です。
職業病を切り口に
Canvasの対象としている「職業病」について、代表による著書「働く人と『ともに創る』作業療法」には以下のように説明されています。
「職業病とは、職業の特殊性によって引き起こされやすい病気や健康被害のことを指します。たとえば、炭坑夫や石工がかかりやすい珪肺や、工事現場など化学工業での中毒、チェーンソーや鋲打ち器による末梢循環障害などです。リハビリテーション専門職であれば、腰痛や膝痛、またはパソコン作業による肩こりなどを思い浮かべるかもしれません。これらは、『狭義の職業病』といえます。
一方、『広義の職業病』は、特定の仕事に従事する人に見られる心理的な癖なども含めたものを指します。たとえば、『スーパーで品出しをしている人が、プライベートの買い物でも商品がきれいに並んでいるか気にしてしまう』ことや、『スポーツトレーナーが道を歩く人の姿勢や動作が気になってしまう』ことなどです。
Canvasでは、この広義の職業病をさらに『身体的・心理的・社会的』の3つのカテゴリーに分類します。たとえば、草刈りの現場で長時間、草刈り機を取り扱うことで前かがみ姿勢の負担がかかり生じる腰痛は身体的要因です。営業職や接待業など対人の感情労働を行う仕事で生じやすいストレスや心身の疲労は心理的要因。また、仕事による身体・心理的変化を『仕事上仕方ないもの』と捉えたり、そういった雰囲気が職場に蔓延してしまったりすることは社会的要因です。職業病は、これらのさまざまな切り口で会社全体の健康管理に影響を与えています。
働く人たちの健康が脅かされると、会社の生産性の低下、離職者の増加、社会的信用度の失墜など、経営そのものに影響を及ぼします。1)」
職業病の問題は個人の問題として捉えられがちですが、実は会社全体で取り組むべき課題といえます。
引用・一部改編:
1) 元廣惇・他:働く人と「ともに創る」作用療法,クリエイツかもがわ,2023, p.58-60
作業療法の観点を活かした健康経営支援
Canvasでは、広義の職業病に対して「作業療法」の観点を活かした独自のアプローチで支援を行っています。実際に以下のようなステップで、企業の健康経営を支援しています。
1. 労働生産損失の可視化
The Quantitiy and Quality method(QQメソッド)という疾患特異的尺度を使ってプレゼンティーズム(健康問題によるパフォーマンス低下)を評価し、疾患ごとに1年間でどのくらい損失額(仮定値)があるか円単位で可視化します。
2. 働く現場や組織を「作業」の側面から分析
作業療法で使われるフレームを柔軟に用いながら仕事現場の評価・分析を進めます。たとえば、「PEOモデル(Person-Environment-Occupation Model of Occupational Performance)」を使って、「人-作業-環境」の側面から現場を分析し、さらにそれらの関連性も深堀りすることで職業病がなぜ生じているのか要因を明らかにします。
3. 情報を共有し、職業病に対する「認知を変容」させる
課題を顕在化させて共有することを目的としたワークショップを実施します。オープンで安全な場を設計した上で、経営者、管理者、従業員みんなで健康課題について話し合います。そして「統合的行動モデル」や「行動変容ステージ」に基づき、行動変容を支援します。感情に訴えかける体験や、共同の体験の中で徐々に認知を変化させ、組織の規範や文化を構築するための基盤を作ります。
4. 経営者・管理者・従業員と「解決策を共に創る」
「プロセスコンサルテーション」という、組織内の問題を関係者が自らの力で解決するモデルで支援します。従業員一人ひとりが、自らの健康行動を「自分ごと」として意欲的に実践できるように、解決策の立案、結果の予測と解決策のテスト、行動計画、解決策の実行、フィードバックを行います。5. 会社で構築した健康文化を「持続可能なもの」にする
一度関心を持ったことが、再度、無関心に戻ってしまう逆戻り現象を防ぐために、自然な形で組織の当たり前になるような支援や、従業員が実体験として感じられるような支援、成功体験の構築などを行います。
引用・一部改編:
元廣惇・他:働く人と「ともに創る」作用療法,クリエイツかもがわ,2023, p.65-99
Canvasの健康経営支援で大切にしているポイントは、作業療法の視点を活かして、クライアントと「ともに創る(共創する)」ことです。
作業療法における作業とは、その人にとって「意味と目的」のある活動を指します。たとえば、経営者にとっての作業とは、「この会社を存続させ社会の中で価値を発揮し続けることで従業員を守る」こと。一方、従業員にとっての作業は、「会社や社会に貢献しながら健康的に働き続ける」ことです。経営者と従業員それぞれの意味や目的に注目し、その交点を見つけてつなぎ、「会社の作業(意味と目的のある活動)」を導き出します。
Canvasでは、「職業病」というワードを切り口に、クライアントの課題を深掘りし、相手の中にある正解を見つけ、各ステークホルダーの「作業」という側面を見つめることで、ともに創る健康経営を実現しています。
全国各地の仲間とともに
現在、Canvasの健康経営支援サービスは、「地域共創型フランチャイズモデル」で全国に展開しています。このモデルは、各地域の訪問看護ステーションやデイサービスなど医療・介護保険内の既存事業のある事業者や、健康経営を切り口に新たな事業構築を目指す事業者とフランチャイズ契約を結び、そこに所属する医療従事者と連携しながら、地域ごとに異なる課題や文化、慣習に合わせて企業の健康経営支援を共に創っていく独自のスタイルです。
具体例として、ぶどうが有名な福島県では、訪問看護ステーションとフランチャイズ契約を結び、地元のワイナリーと提携して健康課題を解決する取り組みを行っています。離島である奄美大島では、地元の作業療法士が新たに立ち上げた企業と契約を結び、島の生命線である航空会社と提携して従業員の健康を守る活動を行っています。各地域に根付いた中小企業には、「その土地に密着した人」が関わることが重要だと考えています。
2024年7月現在、全国で36件のフランチャイズ展開を実現しています。Canvasの各専門スタッフが2年間みっちりと伴走しながら、地域特有の課題に対して課題構造の仮説を立て、解決策を作り、地域共創を実現するために必要な産官学金連携をサポートしていきます。
現在Canvasさんでは、全国の作業療法士や理学療法士をはじめとした健康課題解決に興味のある方、事業者を探しているそうです! 詳しくはこちらをご覧ください。
作業療法士・元廣惇さん
◆ 元廣 惇(もとひろ・あつし)さん
株式会社Canvas代表取締役/認定作業療法士/博士(医学)/キャリアコンサルタント
1987年生まれ、島根県松江市出身。作業療法士免許を取得後、複数の医療機関で臨床業務を経験する。全国最年少30歳で作業療法士養成過程学科長に就任したのち、2021年に株式会社Canvasを創業、代表取締役に就任。会社経営の傍ら、島根大学客員研究員、国内外の複数大学の非常勤講師、さまざまな機関の理事などを兼任。近著に『働く人と「ともに創る」作業療法』(クリエイツかもがわ、2023年)、『セラピストのキャリアデザイン』(三輪書店、2023年)など。
わたしの原点
現在、作業療法士の知見を活かしながら、職業病予防を通じて企業の健康経営支援や地域の課題解決事業に取り組んでいる元廣さんですが、もともと作業療法士を目指したきっかけは何だったのでしょうか。
作業療法士を目指したきっかけは、発達障害のいとこに同伴して療育センターに通っていたことにあります。5歳くらいの頃から付き添いをしていたので、リハビリテーションの現場は私にとってとても身近なものでした。
いとこは作業療法の時間に、フィンガーペインティングでカレンダーを作るという活動を毎月行っていました。完成したカレンダーがリハビリ室の中心に貼り出され、「今月はこれを作ったんだね!」とみんなから声をかけられると、いとこはとても喜んでいました。
そんな自然とコミュニケーションが生まれる仕組みや役割がデザインされている様子を見て、私はとても感動しました。作業療法士の仕事は、ただ機能回復を目指すだけでなく、人がその人らしく生きるために「意味や目的を見出す」ことなのだと感じました。
当時はそれをうまく言葉では説明できませんでしたが、作業療法の魅力は存分に感じていました。
機能面のみならず、その人の趣味や興味を取り入れたリハビリを実施するのは作業療法士さんの特徴であり強みだと感じています。幼少期から素晴らしい作業療法に触れ、その可能性に気付いていたとは本当に素晴らしいですね。
実際に作業療法士として働いていたとき、特に印象に残っているエピソードはありますか? また、病院勤務後は教育機関に転職されたそうですが、その時に感じた変化や新たな気づきがあれば教えてください。
新卒で病院に入職し、急性期、回復期、生活期とさまざまな現場に携わりました。
特に印象に残っているのは、脳血管障害の患者さんとのエピソードです。その方は、脳の損傷が強く、重度の後遺症がありました。多くのスタッフがベッド上での介入に留まる中、私は他のセラピーの時間をもらってでも諦めずにリハビリを続けました。いつも奥さんが付き添っていたので、診療後は病室を訪れ、ベッドサイドで患者さんのこれまでの人生やこれからについてたくさんお話ししました。
結果として、その方は奥さんと手をつないで歩けるまでに回復しました。この経験から、エビデンスに基づいた機能改善のリハビリテーションだけが人の人生を左右するのではなく、その人の人生に真摯に寄り添い続けるプロセスが、リハビリテーションにかかわる上では時にとても重要になりうると考えるようになりました。
病院で7年間勤務した後、作業療法士養成校に転職しました。教員時代は、学生たちの可能性を最大限に引き出すことを目指し、教育者として学生一人ひとりに焦点を当てることの意味を探り続けました。学生を守り、保護者を守り、組織を守り、地域にとって学校がどんな存在であるべきか考え続ける中で、自分の視野も広がった5年間でした。
私も臨床時代には重度の脳血管障害の方を多く担当していたので、当時の元廣さんの姿が目に浮かび、とても胸が熱くなりました。病気や障害を抱える方にとって、リハビリテーションは「希望」の一つといっても過言ではないと思います。
エビデンスやアウトカムはもちろん大切ですが、セラピストが諦めずに一生懸命向き合い続けることで育むことのできるプロセスは、ものすごく意味があるものだと改めて感じました。
臨床家としても教育者としても、とても熱い心を持つ元廣さんを心から尊敬します。
作業療法という哲学
現在は臨床現場を離れ、企業を相手に「働くひと」を支えるための作業療法を実践している元廣さんですが、元廣さんが考える作業療法とは、一体なんでしょうか。作業療法を実践する上で大切にしていることもあれば教えてください。
作業療法はすごく不思議な学問だと思っています。場所とか人によって形が変わるので、「これが作業療法だよ!」という絶対的な正解はありません。
身体障害者、精神障害者、あるいは障害を持っていない人にとって、それぞれ作業療法の定義は異なるでしょう。ただ、そのすべてに共通するのは、その人にとっての「意味や目的を感じること」だと私は考えています。
これは、先にお話しした私のいとこの話にもつながります。毎月カレンダーを作るという作業は、彼にとって意味や目的を感じること(作業)であり、それがどう生きていくかに関わるのです。作業療法は、そうしたその人なりの意味や目的を見つけ出す学問であり、専門分野だと考えます。
作業療法を実践する上で私が大切にしているのは、「その人の中に正解がある」という考え方です。たとえば、先ほどの患者さんでいうと、寄り添って諦めなかったことがその時の正解だったと感じています。教員時代は学生や保護者の中に正解があり、Canvasで職業病に向き合ういまは、働く人たちの中に正解があると考えています。
当然、医療はエビデンスに基づいて行われますが、作業療法は、その中でも独自の哲学を持っていると感じています。
起業ストーリー
臨床時代は熱いセラピストとして、教員時代は最年少学科長として大活躍されていた元廣さんですが、職業病という課題の解決に挑むため、2021年にCanvasを創業されました。その背景には、どんなことがあったのでしょうか。
教員時代、私は地域の方々と触れ合う中で「作業療法士として地域社会に新しい形で貢献できないか」と模索するようになりました。地域住民の困りごとを作業療法の視点を活かして解決したいと考え、地域のセラピストと連携して、自治会の方々と協力した地域住民の困りごとを見える化するワークショップを共同開催しました。
その中で、ある高齢者が抱える痛みの問題に対して、なぜ痛みが生じているのか、何に困っているのか、いつから生じているかなど調査を進めていくと、どうやらそれは働き盛り世代から生じている「潜在的な問題」だということが見えてきました。その後、一般企業を調査すると、痛みを我慢しながら働いている人が多い状況も見えてきたのです。
職業病の「この職業に就いた以上、この症状は諦めるしかない」というマインドや、文化を根本から見つめ直し、作業療法の視点を活かした企業の健康経営支援ができると確信し、起業を決意しました。
2021年3月、株式会社Canvas創業。「Canvas」という社名には、「ともに幸せな未来を描く」という意味を込めています。
現在、元廣さんは月の大半を全国各地を飛び回って活動されているそうですね。起業そのものも相当なパワーが必要だと思いますが、そのタフさは、一体どこからきているのでしょうか。
タフさの源は、小学生から始めた空手にあります。高校時代、私は全国でも厳しいことで有名な師範のもとに住み込みで空手に取り組みました。
寮生活は非常に厳しく、年間を通して家に帰れるのは2日だけ。毎朝5時から夜遅くまで、厳しいトレーニングに励みました。部員の多くが一度は逃げ出し、中には消息不明になる者もいましたが、私は応援してくれる両親のことを思い、逃げることはありませんでした。
この3年間で、「やり抜く力」や「逃げない力」といった非認知的な能力を養うことができました。「ここでやり遂げられるなら、世の中の大半のことはできる」という自信もつき、私のベースを築いています。
会社を経営していると正直しんどいこともいっぱいありますが、Canvasは社員、顧客、業界の今後を左右する重要な使命があると信じているため、私に逃げるという選択肢はありません。高校3年間の経験が、現在のベンチャー経営においても逃げずに挑戦し続ける原動力となっています。
これからの挑戦
最後に、これからチャレンジしたいことについてお聞かせください。
これからチャレンジしたいことは大きく4つあります。
1. 日本全国でエリアや地域に応じた中小企業、大企業のサポートモデルを構築
2. 協会や産官学金などの関係機関とのつながりを強化し、ベンチャービジネスとしてのスタイルをより推進
3. 企業と個人の健康と経営のデータ分析と改善策の提案を行えるシステムの開発
4. 海外(特にアジア圏)でのプレゼンス向上
これらの挑戦を通じて、Canvasの可能性をさらに広げていきたいと考えています。
元廣さんが「セラピストってこんなもんじゃない、まだまだ社会に大きなインパクトを与えられるパワーがある!」と語る力強い眼差しに、私も大きな勇気をもらいました。
臨床、教育、研究で作業療法を突き詰めてきた実績と、実際に行動を続ける中で見つけた共創という新たな形。絶対に逃げず、負けないという強い信念を持って前例のない領域に挑戦している元廣さんを、リハノワはこれからも応援し続けます!
元廣さんが信じる可能性を共に追いかけ、その未来を一緒に作り上げてくれる仲間の輪がさらに広がることを、心から楽しみにしています。
Canvasさんの活動を応援したいという方は、リハノワのサイトからコメントをお寄せいただくか、下記に掲載しているCanvasさんのサイトやSNSからお問い合わせください。また、共創型フランチャイズに興味のある方はこちらをご覧ください。
元廣さん、本日はありがとうございました。
会社概要/問い合わせ
■ 株式会社Canvas
代表取締役 元廣 惇
■ 開設
2021年3月■ 業務内容
・健康経営支援事業
・フランチャイズ事業
・教育事業
・研究事業
■ 所在地
島根県松江市北陵町1 テクノアークしまね 南館
■ 問い合わせ
こちらのフォームからお問い合わせください
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■ 関連サイト・SNS
・会社HP
・X(旧Twitter)
・書籍『働く人と「ともに創る」作業療法』(クリエイツかもがわ、2023年)
・書籍『セラピストのキャリアデザイン』(三輪書店、2023年)
撮影:ひろし
以上、本日はリハノワパートナーである株式会社Canvasの代表で、作業療法士の元廣惇を紹介させていただきました。
ひとりでも多くの方に、Canvasさんと元廣さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、ご本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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