みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、広島県広島市にあるイタリア料理店「di Grotto TAMAZAWA(ディ グロット タマザワ)」のシェフである玉澤良樹さんを取材しました。
玉澤さんは、2023年5月に発症した脳梗塞により、利き手である右半身に重度の麻痺が残るも、発症からわずか半年でお店を再開し、現在は左手で調理を行いながら、こだわりの味を届け続けていらっしゃいます。
本記事では、玉澤さんのお店再開に向けたリハビリの様子や、現在の調理の工夫などをご紹介します。
※ 玉澤さんの「発症当時からリハビリの歩み」についてまとめた記事はこちら
料理人・玉澤良樹さん
◆ 玉澤 良樹(たまざわ・よしき)さん
1963年生まれ、広島県広島市出身。東京の大学卒業後、飲食業界へ飛び込み、経験を積む。1999年に地元広島に戻り、飲食店や食品メーカーで勤務したのち、2014年6月に広島駅西側にある「エキニシ」エリアに、イタリア料理店「di Grotto TAMAZAWA(ディ グロット タマザワ)」をオープン。2023年5月に脳梗塞を発症し、利き手である右半身に重度の麻痺が残るも、懸命なリハビリの末、わずか半年で営業再開。左手で調理を行いながら、こだわりの味を届け続けている。
お店再開までの歩み
<2023年>
・5月19日 脳梗塞を発症し、入院
・5月下旬 回復期病院に転院
・7月中旬 調理リハビリ開始
・9月下旬 退院
・10〜11月 お店での仕込み練習開始
・12月 営業再開(常連さんのみ)
<2024年>
・1月 曜日限定で営業再開(通常)
病院での調理リハビリ
2023年5月に脳梗塞を発症し、急性期病院、回復期病院でリハビリに励まれた玉澤さんですが、実際に「お店を再開する」という目標に向けて調理の練習を開始されたのはいつ頃だったのでしょうか。
当時、どんなリハビリテーションに取り組まれたかについても教えていただけると嬉しいです。
2023年5月19日に脳梗塞を発症し、最初に運ばれた病院に約10日ほど入院しました。その後、5月末にリハビリに専念するため回復期病院に転院しました。
転院初日、リハビリテーション科の医師に「お店に復帰したい」という目標を明確に伝え、それをもとに理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語聴覚療法(ST)がスタートしました。
当時、右半身の手足はまだまだ動かしづらい状態だったため、理学療法ではまず立つための体力づくりや歩行練習を、作業療法では麻痺した側の肘の曲げ伸ばしや、お手玉をつかんで運ぶなど、調理に近い動作の練習に取り組みました。
調理の練習を本格的に始めたのは7月中旬頃だったと思います。最初に挑戦したのはボロネーゼ作りでした。
正直なところ「調理はできないかもれしない」と思っていたので、時間はかかったものの、なんとか一品完成した瞬間、「やったらできるじゃん!」ととても嬉しかったのを覚えています。まずはやってみること、挑戦することの大切さを感じました。
調理練習は、2週間に1度のペースで進んでいきました。ボロネーゼの次はトマトソースをベースとしたメニューを作るのを目標に、鍋をつかむ、食材を押さえる、ものをつかんで運ぶなど、調理に必要な動作の練習に力を注ぎました。
一品料理を作れるようになってからは、制限時間を設けて複数品を作る練習へとステップアップ。たとえば、「1時間で2品仕上げる」といった具合に、実際の業務を意識した練習を行いました。
リハビリの時間以外では、長時間立ちながら調理するための体力をつけることを目指し、毎日歩く練習を続けました。
一つひとつの成功体験が「やればできる」という自信につながり、周りの方からの温かい声援や応援の言葉が、さらなる原動力となっていました。
お店再開に向けた準備
お店再開に向けて、新たに導入した設備や建物の改修など、何か工夫されたことはありますか?
お店は2階建てで、もともと片側にしか手すりがなかったため、もう片側にも新たに手すりを設置しました。
また、入口の段差を解消するためにスロープも導入しました。
あとは、食材などの買い出しでどうしても運転再開が必要でした。そのため、厳しい運転リハビリを経て、片麻痺でも運転しやすいように自動車を改造しました。
運転再開に向けたリハビリは、OTの時間を使って行いました。通常は3〜4週間はかかるところを、私は特別に1週間で集中して取り組ませてもらいました。入院中のリハビリ時間は1日3時間と決められていましたが、そのうちの2時間を運転リハビリにあて、知能テストやシミュレーターでの練習を行ったのです。
テストは「落とすためのテストなのか」と感じるくらい難しくて、頭が爆発しそうになるほど集中しました。実際に合格できない人も多いと聞きましたが、どうしても運転を再開したいという強い気持ちがあったので、その熱意でなんとか乗り越えました。
通常3〜4週間かかるリハビリを1週間で乗り越えられたなんて、本当に大変だったと思います。
9月末に退院されてから、お店を再開されるまでの間は、どのように過ごされていたのでしょうか?
病院で歩く練習はしていたものの、退院直後は体力がまったく足りず、家で動くだけでもすぐに疲れてしまいました。
病院での調理リハビリを通じて1時間は連続で立てることは分かっていましたが、お店の営業再開にはさらに体力が必要でした。そこで、退院後は毎日2km歩くことを決め、地道に続けました。
また、10月と11月の2ヵ月間は病院の外来リハビリに通い、少しでも手の機能を良くするために、OT2時間、PT1時間、計3時間のリハビリを週3回のペースで続けました。その傍ら、お店にも足を運び、再開に向けた料理の仕込み練習にも取り組みました。
そして予定通り、12月にお店を再開。最初は常連さんだけに来ていただきましたが、問題なくできそうだったので、1月からは曜日限定で営業をスタートしました。
1月以降はリハビリを訪問に切り替え、週3回、PT1時間、OT2時間のリハビリを継続しています。手が固まらないようにリラクゼーションを取り入れたり、手先の練習にも力を注いでいます。
シェフ直伝!調理の工夫
目標通りにお店を再開された玉澤さんですが、現在の調理で工夫されていることについて、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。
片手で調理を行うため、いくつかの特殊な道具を活用しています。たとえば、食材を固定するために釘が4本ついたまな板や、ロブスターを捌くための専用まな板です。これらは、学校で技術の教員をされている方が特別に作ってくれたものです。市販のものも試しましたが、釘の数が少なく固定力が弱かったため、要望に合わせて釘を4本にしてもらいました。
また、片手での抜栓が難しいため、特殊なワインオープナーも導入しました。時間がかかるためスタッフに手伝ってもらうことも多いですが、この道具があれば一人でも開けることが可能です。
さらに、バランスを崩しやすい中腰やしゃがみ込みの動作を補うため、厨房には低い位置での作業用椅子を設置したり、床に落ちた物を拾うためのリーチャーを導入したりしました。
調理動作そのものにも工夫を重ねています。たとえば、食材を切るときは「固定」が命です。まな板を木片とお腹で固定しながら切ることで作業の安定性を高めています(写真参照)。
鍋の洗い方にも工夫があります。片手で洗おうとすると鍋が動いてしまうため、シンクの角に押し付けて洗うようにしています。
料理人として「鍋だけはきれいにする」という信念は、今も大切に守り続けています。このこだわりだけは、どんな状況でも譲れません。
玉澤さんのさまざまな工夫から、「固定が大事!」ということがとてもよく伝わってきました。本当に勉強になります。
その他、仕込みや買い出し、営業日の調整などについても、どのように工夫されているか、ぜひお聞かせいただけますでしょうか?
仕込みには時間がかかるため、2日前から少しずつ進めています。夜の営業に備え、昼過ぎにはお店に行き準備を整えるようにしています。買い出しは週3回ほどで、自動車か最近導入した電動車椅子を活用しています。買い物袋が重く、立ったまま運ぶとバランスを崩して転倒するリスクがあるので、車や電動車椅子は欠かせません。
営業は基本的に予約があった日にオープンするスタイルです。体力を考慮し、現在は週4日ほどの営業にとどめています。また、仕込みの時間が必要なため、現在はコース料理のみの提供で、最終入店は20時ごろまで。それ以降に飛び込みでいらっしゃる場合は、飲み物と簡単なアラカルトを提供させてもらっています。
今後の目標は、週6日の営業を安定して続けられるようになることです。また、体力をつけて、いずれはアラカルトメニューも復活させたいと思っています。
ただ、年間160万円以上稼ぐと障害者の補助がなくなる仕組みがあり、その点には正直複雑な気持ちがあります。お店をもっと営業したい思いはあるものの、体力的に厳しい中で補助がなくなると生活が苦しくなる可能性もあり、葛藤を感じています。このような制度が障害者の社会復帰の妨げになっているのでは、と考えることもあります。
それでも、こういった声を届けることも大切だと感じています。まずは目の前のことをしっかりと取り組みながら、発信も続けていきたいと思います。
さまざまな葛藤を抱えながらも、前向きに歩まれている姿勢が本当に素晴らしいと感じました。このようなお声が実際にあることを、私自身も伝える立場として、しっかりと社会に届けていけるよう努めたいと思います。貴重なメッセージを共有してくださり、ありがとうございました。
メッセージ
最後に、同じようにリハビリに励んでいる方々に向けて、メッセージがあればお願いします。
私自身、障害者となって不便や不自由さを感じることは多々ありますが、不幸だと思ったことはありません。
落ち込んだり悩んだりすることもあるかもしれませんが、「現状を受け入れる」ことが大切だと実感しています。受け入れるからこそ、次に進むことがでるし、選択肢も広がっていくのだと思います。
また、障害を抱えながらも社会復帰に向けて努力を重ね、少しでも社会に貢献できる形をつくっていくことが大切だと感じています。補助を受けながらも、その恩恵を社会にお返しする気持ちを忘れずにいたいです。
もし悩むことがあれば、相談だけでも構いませんので、ぜひ気軽に私のお店にいらしてください。少しでも励みを届けられたら嬉しいです。
玉澤さん、素敵なメッセージをありがとうございました。「現状を受け入れることで前に進む力が生まれ、選択肢が広がる」という考え方は、リハビリに励む方々にとって大きな希望になると感じました。
また、お聞きした調理の工夫は、同じように調理に悩んでいる方々にとって大変参考になったのではないかと思います。貴重な情報を共有していただき、本当にありがとうございました。
リハノワは、これからも玉澤さんのさらなるご活躍を心から応援しています。
本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
<関連記事 / SNS>
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◆ 店舗情報
店名:di Grotto TAMAZAWA(ディ グロット タマザワ)
住所:〒732-0821 広島県広島市南区大須賀町12−11
電話:082-258-1882
アクセス:広島駅南口から徒歩約5分
営業:予約のみ/不定休(営業している日は予約なしでも入店可)
・18:00〜 ディナー/コース料理
・20:00以降はバータイム/アラカルト対応
撮影:Takaya Yamamoto
以上、今回は広島県広島市にあるイタリア料理店「di Grotto TAMAZAWA(ディ グロット タマザワ)」のシェフである玉澤良樹さんに、お店再開に向けたリハビリの様子や、現在の調理の工夫などについてお話を伺いました。
ひとりでも多くの方に、玉澤さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、ご本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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