“リハビリ旅行療法士” として見据える、その先の世界。 | 理学療法士 中村翔さん

みなさんこんにちは、リハノワ.comのかわむーです!

本日は、広島県広島市西区にある「訪問看護ステーションリライフ井口」で理学療法士として働く中村翔さんを取材してきたので、皆さんにご紹介したいと思います!中村さんは利用者さんの旅行のサポートをする “リハビリ旅行療法士” としてもご活躍されています。

普段お仕事をされる中で感じることや、理学療法士として、またリハビリ旅行療法士として大切にされている熱い想いや活動についてなど、その魅力にとことん迫っていきたいと思います!


かわむー
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・訪問看護ステーションリライフ井口さんの紹介はこちら

実際に中村さんが担当する利用者さんの声こちら

中村さんのTwitterFacebookはこちらから。

ぜひ合わせてご覧ください。


理学療法士・中村翔さん

かわむー
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中村さんが普段、理学療法士として関わられている方や専門分野を教えてください!


中村さん
僕は、理学療法士として働き出して12年目になりますが、その半分以上は「訪問分野」で働いています。

はじめは、学生時代から興味のあった脳卒中を専門とする病院に就職し、そこで7年間働きました。倒れてすぐの “急性期” からリハビリがメインとなる “回復期” に4年間、そして5年目以降は訪問デイケアなどの “生活期” のリハビリに従事しました。

現在の職場では、利用者さんの家へ訪問してリハビリを行う「訪問リハビリ」を専門に行っています。


かわむー
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急性期から回復期、そして生活期のリハビリまで全てを経験されているとは、、、!本当にすごいですね。

いろんな経験をされた中村さんが、今の “生活期のリハビリ” の現場で働くことを選択されたのは、なぜだったのですか?


中村さん
きっかけは上司に「訪問リハビリをやってみないか?」と聞かれたことから始まります。ただ、病院内はホーム、病院外はアウェイみたいな印象が強かったため、最初はものすごく不安でした。それでも、“病院の看板を背負って外に出る=期待されている証拠?” という勝手な解釈で、「やります!」と元気よく返事したのを覚えています(笑)

訪問リハビリでは、入院中のリハビリと違って、利用者さんの生活に直接関わることができます。そして、利用者さんには事業者や担当者を選ぶ “選択肢” があリます。その選択肢がある中で、利用者さんから “選んでいただける人 になりたい、と強く思いました。

常に緊張感はありますが、利用者さんの家に行って、そこでの暮らしが支援できることは非常に楽しいですね。


かわむー
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確かに、病院では患者さんに “この病院がいい” とか “この人がいい” という選択肢はほとんど無いのが現実ですよね。

利用者さんに選択肢がある上で “選んでもらえる人” になりたい、というのはかなりプロフェッショナルな精神で、非常にかっこいいです。

中村さんは本当に柔らかくて温かい、そして真の優しさと行動力を持たれたセラピストで、個人的に、自分の家族や親族にリハビリが必要になったらお願いしたいくらいです!




“リハビリ旅行療法士” とは

かわむー
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中村さんは “リハビリ旅行療法士” といわれる資格をお持ちのようですね。

リハビリ旅行” とは一体どういったものなのでしょうか?


中村さん
リハビリ旅行」とは、バリアフリー旅行とは違い、障がい者≒バリアフリーというように単にバリアを排除するのではなく利用者の方と立てたプログラムを電車・駅・温泉施設などを利用しリハビリの場として提供するものです。

「リハビリをしてから旅行に行く」のではなく、「リハビリをしながら旅行に行く」んです。 “リハビリプログラムを取り入れたオーダメイドの旅行” みたいなイメージですね。

リハビリ旅行の最大のポイントは、この旅行に医療従事者が携わっていることです。
過介護というのは、利用者さんにとっては自分の力や自分のペースで旅行をしたいという意欲を奪うものなので、普段からその人の身体の状態を把握しているスペシャリスト(医療従事者)が同行し、支援するというのに意義があると感じています。


かわむー
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バリアを逆手に取り、旅先でのリハビリの道具にしてしまおう!というのは非常に面白いですね。

リハビリで機能が回復したら、また旅行に行きたい!」というのがモチベーションになっている方は非常に多いように感じます。“リハビリしながら旅行に行く” という発想がなかったので、非常に新鮮でした!

中村さんも資格を取られた “リハビリ旅行療法士” とは、そのリハビリ旅行を支援するセラピストということでしょうか?



中村さん
そうですね。リハビリ旅行療法士 とは、リハビリ推進センター株式会社がリハビリ旅行を広めるため、その人材育成のシステム構築として作った民間の資格です。2013年の3月から理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、看護師を対象に研修が開始となりました。

現在(2020.4)は全国に80名ほどのリハビリ旅行療法士がいて、僕のいる広島県には、僕を含め2名の療法士がいます。

資格を取得するためには、在京研修現地研修の2研修を終える必要があって、現地研修では実際に伊豆稲取温泉へ行きました。旅行に行く前の段取りから、実際の公共交通機関や旅館での対応・当事者になる体験などを通して、非常に多くのことを学ぶことができました。


資格を取得してから、実際に「リハビリ旅行」の支援を行いましたが、今のところ日帰りでの企画がほとんどです。今後は利用者さんからの希望があれば、宿泊旅行にもチャレンジしていく予定です。

利用者さんは旅行に行く直前や1週間前に緊張することが多く、体調を崩されることもあります。そのため、安心して参加してもらえるように精神的なフォローも欠かせません。

旅行会社、旅館やホテルのスタッフ、往診してくれる先生、ケアマネジャー、福祉用具専門員、いろんな方と連携しながらプランを立てる必要があるので決して簡単なことではありませんが、利用者さんの旅行を終えた時の笑顔を見たときは “頑張って良かったなぁ〜” と、とてもやりがいを感じます。


かわむー
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旅行に行く前の念入りな準備は本当に大変そうですね。
でも、利用者さんもこのような方々がいてくれる事はとっても安心なのではないでしょうか。

そして、療法士さんも全国に80名いるとは驚きです!今後さらに療法士さんが増え、全国各地で連携が強化されると、県をまたいでの旅行も安心して行くことができそうですね。今後のご活躍も楽しみにしています!


リハビリ旅行・リハビリ旅行療法士に関する問い合わせはこちらから


実際のリハビリ旅行の様子




セラピストになったきっかけ

かわむー
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中村さんが、“理学療法士になりたい” と思ったきっかけはなんだったのですか?


中村さん:
最初に “理学療法士” という職業を知ったのは、サッカーをしていて靭帯を痛めた時でした。そのリハビリをする中で、理学療法士の方と初めて関わりました。

その後、決定的に “理学療法士になりたい” と思うようになったのは、高校生時代に祖父が脳出血になったことがきっかけです。

祖父は人工呼吸器の管理が必要なくらい重症でした。重度の運動麻痺や失語症もあり、毎日一生懸命リハビリに取り組んでいました。ICUに入室している時、祖父が朦朧とする中で「もう米が作れん、、」と話していたのを覚えています。でも、その後「美味しい米をまた孫に食べさせたい!」と田んぼの再開を目標に、一生懸命リハビリを頑張っていたのがとても印象に残っています。結局、リハビリの成果もあり祖父は無事家に帰れました。

その過程をずっと隣で見ていて、“リハビリってすごいな” と思いました。

作業療法や言語聴覚療法もある中で、なぜ理学療法士になるということを選んだかというと、祖父が寝たきりの状態だったのに歩けるようになったことにとても衝撃を受けたからです。その時にサポートしてくれていた方が理学療法士だったこともあり、「理学療法士になりたい!」と強く思うようになりました。


かわむー
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それはとっても感動的なエピソードですね。
美味しい米をまた孫に食べさせたい” と言って、辛いリハビリも一生懸命頑張られていたお祖父様。孫としてはこんなに嬉しいことはないですね!

中村さんの原体験に触れられて、とても温かい気持ちになれました。




中村さんとお祖父様(そっくりですね…!)



大変だった経験

かわむー
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中村さんがお仕事をされる中、また、リハビリ旅行療法士として活動する中で “苦労したこと” や “大変だった経験” はありますか?


中村さん
旅行支援の際に大変だと思ったことは、旅館やホテル側との連携ですね。

旅行前に問い合わせてみると、「和室が傷つくので車椅子は遠慮してほしい」「バリアフリーが整っていない」などという理由から、はなから断られることも少なくありません。受け入れ側としては、ハード面はもちろんのこと、受け入れることへの不安が大きいのだと思います。

だから、“環境が整ってなくても、バリアがあってもいいですよ” “バリアがあるからこそリハビリの目標になりますよ” ということを旅館やホテル側に伝えるようにしています。

そして、“専門のスタッフがいれば出来ること” を現場とすり合わせていきます。

かわむー
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旅館やホテル側からしたら、“環境が整ってなくても、バリアがあってもいいですよ” と言ってもらえるのはかなり心強いのではないでしょうか。

中村さんは、リハビリ旅行を通して利用者さんがどうなったらいいな、と思われますか?


中村さん
旅行に行くことができた” という事実が大きな自信となり、その人らしさや社会参加をどんどん広げていってもらいたいです。


以前、利用者さんが日帰りで家族旅行に行ったという話を聞きました。
ただ本人は、「惨めだった」「ここまでしてもらって旅行に行きたくなかった」と言われていました。これまで一家の大黒柱だったプライドのある方なので、介護を受けながら行った旅行に、そう感じてしまったのかもしれません。せっかくの旅行なのに、そうなってしまうのは悲しいことですよね。


僕は、本人が主体的に旅行に行って欲しいと思っています。それに向けて、リハビリのプログラム立てて旅行に備えます。この準備が本当に大変なことなんですが、ここを念入りに本人や周りの人と行うことで、旅行後の達成感を共有することができます。

旅行に行くことがすべてではなくて、その先を見据えて

これが一番大事なところだと思っています。


「いける場所」へ行くのではなく「行きたいところ」に導くのがリハビリ旅行
です。
そして、旅行を通じてその方の生きがいを見出す一つの “きっかけ” になればいいなと思っています。


かわむー
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旅行の準備段階からその先を見据えてプランを立てていかれているのですね!リハビリ旅行、非常に奥が深くてやりがいがありそうです!

リハビリ旅行を通して利用者さんに生きがいを与え、その人らしさを追求されている中村さんの姿、とっても素晴らしいです。



実際のリハビリ旅行の様子




やりがいを感じる瞬間

かわむー
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中村さんがお仕事をする中で、“やりがいを感じた瞬間・エピソード” などがあれば教えてください。


中村さん
僕は、その方の可能性を見出し、一歩を踏み出すきっかけを作って、「諦めていたこと」が実現したその瞬間に立ち会えたときに “やりがい” を感じますね。

その人らしさ” を引き出せた瞬間というか。


以前、50代で脳梗塞になった男性を担当しました。重度の右片麻痺が残り、車椅子生活で閉じこもりとなっていました。
もともとデザイン関係のお仕事をされていましたがそれも辞め、はじめは口もきいてくれないぐらい暗くなっていました。

その方との信頼関係が少しずつ出来てきた頃、ふとした瞬間にその方の “人生” について聞いてみました。
すると、昔「ロック」が好きだったことが分かりました。そして「またライブに行きたい」と言われたんです。僕はすごく嬉しくなって、すぐコンサートに行けるように動きました。気づいたら体が勝手に動いていましたね。

時間が空くと本人の気持ちも冷めてしまうと思って、すぐに主治医やケアマネジャー、コンサート会場に連絡を取りました。その日のうちに全て段取りを終え、車椅子でも行けるか会場の下見にも行きました。

それから、訪問リハビリの時間で外出練習をして、最終的に本番のコンサートにはその方1人で行くことができました。


その方はその経験が成功体験となり、その後、一人で野球観戦などにも行くようになりました。そして、訪問リハビリは卒業することになります。





このイラストは、その方が最後の日にプレゼントしてくれたものです。
右麻痺があるので、非利き手である左手を使って鉛筆一本で描いてくれました。

これは、僕の宝物です。


この経験が、僕がリハビリ旅行療法士を目指すきっかけにもなりました。


かわむー
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その方の “その人らしさ” を引き出せた、とても感動的なお話ですね!
お話を聞きながらその情景が目に浮かび、私までとっても嬉しくなりました。

プレゼントして下さったイラストも、中村さんにとっても似ていますね!これを非利き手で描いただなんて驚きです。

中村さんとその方との信頼関係の強さ、そして、その人らしさを引き出すための中村さんの行動力に心を打たれた人は多いのではないでしょうか。



後悔のないように今を生きる

かわむー
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最後に、中村さんがセラピストとして “大事にしていること” や “モットー” などがあれば教えてください。


中村さん
主体的に動く ということを大事にしています。
「心が動けば身体も動く」という言葉があるように、まずは「○○したい」という本人の気持ちを一番に考えています。


あとは、自分自身としては “後悔のないように生きる” というのが人生のモットーです。

災害支援に携わったことや、母親が急に亡くなったことをきっかけに、“” というのがものすごく近いものになりました。当たり前だと思っていたことが実はそうじゃない” ことがわかったんです。


感謝の気持ちを忘れない」そして、それを「相手に伝える」って本当に大切だと思います。


今、余命宣告を受けたらどうだろう?” と常に問いかけながら、日々を生きていくことを人生のテーマとしています。


かわむー
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これまで様々な経験をされてきた中村さんだからこそとも言える、『後悔のないように生きる』という人生の大きなテーマ。

私も、今を精一杯に生きていかなければな!と、とても勇気をもらいました。中村さんの言葉に、胸を打たれた人も非常に多いのではないでしょうか。

これからも中村さんのご活躍を心より応援しています!
中村さん、本日は本当にありがとうございました。








以上、本日は広島県の広島市西区にある「訪問看護ステーションリライフ井口」で理学療法士として働く中村翔さんを紹介させていただきました。


一人でも多くの方に、中村さんの素敵な想いがお届けできれば幸いです。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


今後ともリハノワ.comをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。








※この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

コメント

  1. […] 管理者でもある作業療法士の小野誠三さんは、非常に熱い思いを持った大変素敵なセラピストでした。患者さん・利用者さんのニーズは “果たして本当に本人のものだろうか?” “本当は何をしたいんだろうか?” と常に繰り返し問いながら、本人の本当のニーズを引き出していくことを大事にされているそうです。“本物と偽物を区別できるようにセンスを鍛える” とお話されていたのが非常に印象的でした。一人一人違う、オーダーメイドのサポートを行うために大切な信念を、たくさん教えてくださいました。スタッフの中村翔さんもとっても素敵な思いを持ったセラピストです。非常に優秀で魅力的なスタッフが揃っているリライフ井口さん。素晴らしいですね! […]

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