みなさんこんにちは、リハノワ.comのかわむーです!
本日は、広島県福山市にある「地域密着型特別養護老人ホーム 五本松の家」で理学療法士として働く橋本康太さんを取材してきたので、皆さんにご紹介したいと思います!
普段お仕事をされる中で感じることや、地域で働く理学療法士として大切にされている熱い想いなど、その魅力にとことん迫っていきたいと思います!
地域密着型特別養護老人ホーム 五本松の家さんの紹介はこちら。
橋本さんが主催したバリアフリービーチ三原2019 のイベント紹介はこちら。
ぜひ合わせてご覧ください。
“地域密着型” 特養で働く理学療法士
橋本さんが普段、理学療法士として関わられている方や専門分野を教えてください!
橋本さん:
自分の専門分野を特に気にしたことはないのが正直なところではありますが、急性期・回復期・慢性期(生活期)とある中では、慢性期に当たると思います。また、リハビリテーション分野においては地域リハビリテーションになるのではないかと思います。
簡単に言えば、急性期とはいわゆる入院してすぐの「病気や疾病の治療がメインとなる時期」、回復期とは「リハビリがメインとなる時期」、慢性期・生活期とは病気や症状が落ち着き「状態を維持することがメインとなる時期」のことです。
では、地域リハビリテーションとは、一体どういったものなのでしょう。
橋本さんが現在お仕事されている“施設” や “働き方”というのはどんな感じなのですか?
橋本さん
僕が勤務している場所は、「地域密着型特別養護老人ホーム」といわれるところになります。
“地域密着型”とは、介護度が高くなったとしても、住み慣れた地域で最後まで生活ができるようにと作られたサービスになります。
地域密着型特別養護老人ホームでは、要介護度が「3 以上」の方々が入居されています。僕はその施設の中で機能訓練士(1名)として日々業務をしています。
なるほど、施設の中の “機能訓練士” というポジションで働かれているのですね!
(「機能訓練士」は、必ずしも理学療法士である必要はなく、看護師さんや柔道整復師さんなどでも良いそうです。
実際に、機能訓練士とはどのようなお仕事なのですか? また、橋本さんの “理学療法士” という資格を活かして、工夫されている点などがあれば教えてください。
橋本さん:
いわゆる、歩いたり、関節可動域訓練のような機能訓練は病院ほど積極的に行っていません。それよりも、加齢や病気の進行に伴い身体状況が右肩下がりで下降していく中で、それを “どれだけ緩やかにできるか” を考え、その状況にあったケアや環境調整などを主に行っています。
褥瘡(床擦れ)、摂食・嚥下、ポジショニング 、シーティング、移乗介助といったスキルは、リハビリ職として重宝していると思います。
寝ていたり座っていたりしても、1人ではなかなか思うように動けない方もいらっしゃるので、骨の出っ張ったところ等の皮膚に「褥瘡(床擦れ)」ができやすい環境にあるそうです。
そのため、その褥瘡(床擦れ)ができないように、寝ている姿勢をクッションなどで調整(ポジショニング)したり、座っている姿勢を調整(シーティング)したりされるようです! 理学療法士は「体の専門家」なので、この辺は得意分野なのですね。
車椅子や椅子・トイレなどに移る「移乗」も、1人ではなかなか難しく、また介助する側も腰を痛めたりする原因になることが多いので、どうやったら “楽にできるか” を専門的に教えてくれる人がいるということは、施設の利用者やスタッフにとっても、とてもありがたいのではないでしょうか。
個人的には、食べる・飲み込むといった「摂食・嚥下」の面も気にして見られていることに驚きました! 幅広く利用者さんのことを見られていて素晴らしいですね。
たった1人の理学療法士が見る世界
介護士さんや看護師さんの中に1人、理学療法士が配属されているという環境の中で、橋本さんはどんな事を考えながらお仕事されているのですか?
橋本さん:
リハビリ職としての専門性(理学療法の治療技術など)を発揮する場面は、日常の生活の中ではあまり多くを占めません。それよりも、日々の介護を介護士さんと一緒に行いながら、どうすれば利用者さんも介護士さんも楽になるのかを考えながら仕事をすることが多いです。
リハビリ職はとても曖昧な職業だと思っています。弱みに聞こえるかもしれませんが、施設においては強みになり得ます。
介護士さん・看護師さん・ケアマネジャーさんとの共通言語があり、多職種の意見を背景から汲み取ることができる職種でもあります。感覚的な表現を言語化したり、様々な指示の意図を感じることができます。
実際に取材に行かせていただいた時も、利用者さんやスタッフを含めた「現場全体」を見ながら動かれている姿がとても印象的でした!
病院やクリニックなどでは1対1でリハビリを行うイメージが強いですが、施設ではまた少し違った視点が必要となることがとてもよくわかりました。
ちなみに、リハビリ職が1人という状況で「大変だな」と感じることはありますか?
橋本さん:
以前は病院に勤めていたのですが、その時はある程度、受動的に仕事が回ってきていました。しかし、現在の施設では僕一人なので、決まり決まった仕事はありません。自由度が高い一方で、何をすれば良いのか分かりにくいという難しさがあります。
介護士さんからも「この人は何をするんだろう」といった雰囲気も伝わってきます。
慣れると何も問題ないのですが、慣れるまでは理学療法士としてのアイデンティティに苦しむ人はいるかもしれません。幸い、僕は周りの職員さんに恵まれ、非常に良い環境で働かせてもらうことができています。
本当にやりたいことに気づく
橋本さんが、“理学療法士” を知ったきっかけはなんですか?
橋本さん:
理学療法士を知るきっかけになったのは年子の妹です。
生まれつき右上肢に障害があり、一緒にリハビリ室に行っていました。
他の方よりも早くリハビリ職の方々と触れ合う機会はありました。しかし、それが要因で理学療法士になりたいとは思いませんでした。当時、スポーツに関わりたいとか、デスクワークが嫌だったとかの記憶がありますが明確には覚えていません。
年子の妹さんのリハビリについて行っていたことが、理学療法士を知るきっかけだったのですね!
現在携わられている “地域リハビリ” に興味を持たれるようになったのはいつ頃からなのですか?
橋本さん:
僕が新卒で入職したところは、田舎の総合病院でした。
キャリアのスタートは同法人内のデイケア(通所リハ)でした。1年で異動となり、デイサービス(通所介護)。そしてさらに1年で異動となり、病院に勤務となりました。
合計3年間、同じ法人で勤務した後に退職し、現職(2年目)に至ります。
理学療法士として働き始めた当初は、そのスキルを伸ばそうと運動連鎖の勉強会やPNFのベーシックコースを受講していました。しかし、それ以上に幅広い視点で利用者さんや地域を眺めることがいつのまにか好きになっていました。
理学療法で解決できない問題でも、他の人に頼めば解決できることも多々あります。
今の職場には、働きながら様々なことにチャレンジできる環境に魅力を感じ転職しました。通常の施設業務だけではなく、法人のイベント開催、地域の体操教室、子どもの体操教室、研究会での発表など本当に多種多様な挑戦をさせてもらっています。
運動連鎖といういわゆる「体の動きの専門知識」や、PNFという「治療の特殊技術」を勉強され、まさに体を治す “理学療法” 技術 を極めていた橋本さんですが、お仕事をされる中で、やっぱり “地域を眺めることが好きだ” “地域リハビリが好きだ” と思われたのですね。
多くの分野での経験があり、また強い想いも持っているリハビリスタッフがいることは、施設にとってもとても心強いことなのではないでしょうか。
かつての患者さんから学んだこと
橋本さんのこれまでの経験の中で、“これはだけは忘れられないな” ということはありますか?
橋本さん:
病院勤務の時に、今でも忘れることができない患者さんがいます。
その方は、寝たきりで重度の関節拘縮がある身体の小さな高齢のおばあちゃんでした。
入院中に拘縮はさらにひどくなり、褥瘡ができてしまいました。そこからさらに全身状態が悪化し、骨折した下肢は切断するまでひどくなり、最終的には亡くなられました。
僕は本当に何もできず、その人のリハビリに訪室する度に、もどかしく苦痛だったのを覚えています。今の自分であれば、もう少し環境調整含めもっとできることがあるのに…と思ってしまいます。
そういった背景があり、褥瘡やポジショニング については改めて勉強をし直しました。
そんな経験があったのですね。
施設でも、橋本さんは褥瘡(床擦れ)対策のポジショニング等にはかなり気を使われているのがわかりました。
当事者の方や介護者のことを考えたポジショニングの環境調整は、私もとても勉強になりました。橋本さんはSNS(@Twitter)でも、ポジショニングやシーティングなどについて発信されています。私も参考にさせてもらっています。
“誰が幸せになるのか” を常に考える
働いている中で、“やりがい” を感じる瞬間はどういった時ですか?
橋本さん:
何かに挑戦することにやりがいを感じます。
何かを企画することもそうですが、入居者に問題が生じた時に、スタッフの人達とどのようにすればその問題が解決できるのか、考えて一緒に取り組んでいくことにやりがいを感じます。
まさに “頼れる存在” ですね。
こんな志を持った方がいらっしゃるというのは、入居者や利用者、スタッフにとっても頼もしく、安心できることではないでしょうか。
橋本さんが大事にしている “モットー” はなんですか?
橋本さん:
自分のエゴになっていないか、気をつけることは大事にしています。
例えば、理学療法士は良く動く訓練をして、身体機能を向上させることが大きな仕事です。しかし、動きが改善することで、“誰が幸せになるのか” は常に考えるようにしています。
仮に、本人は幸せと感じる場合でも、家族や施設職員は幸せに感じることが出来ないかもしれません。短期的に本人が幸せであっても、長期的にみた時にどちらが幸せなのかを検討しなければならないと思います。
そして、施設で入居者に対して何か取り組む時も、自分だけの意見では長続きする仕組みにはなりません。介護士さんにとっても楽で自然にできる仕組みにすることはとても重要だと思います。
橋本さんからメッセージ
最後に、橋本さんからリハビリ職の方へ向けてメッセージをいただいています!
リハビリ職の方へ
特養の入居者が入院してきたら、きっと“寝たきり”の人だ、と思うことが多いのではないでしょうか。
実際に寝ている時間が長い人もいます。しかし、思ったよりもベッドから起きて、座っている過ごす時間が長い人もたくさんいます。
どうか、先入観を持たず “どのような生活を送っているのか” 少しでも良いので思いを馳せていただきたいと思います。
これは、特養の入居者だけではなく、すべての人にとって大切にしないといけないことだと思います。
僕はデイケア、デイサービス、病院、特養、訪問看護(見学)、ケアハウス(見学)、有料老人ホーム(見学)、小規模多機能(見学)、重症心身障害のデイ(見学)、放課後等デイサービス(見学)など、様々な場所に触れ合ってきました。
なので、大抵、施設名を聞くとどのような人達なのかおぼろげながら映像が浮かびます。
少しでも “想像できること” が、質の高いリハビリテーションに繋がってくると思います。
熱いメッセージ、ありがとうございます!
そうですね、私自身、実は今回初めて地域密着型特別養護老人ホームを見させていただいたのですが、想像よりもはるかに、利用者さんがその人らしく “生活” や “暮らし” をしていて驚きました。
改めて目の前の人のことをいかに “想像できるか” そして “誰のための幸せかを考える” ことの大切さを学ぶことができました!
橋本さん、本日は本当にありがとうございました!
以上、本日は、広島県福山市にある「地域密着型特別養護老人ホーム 五本松の家」で理学療法士として働く橋本康太さんを紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、橋本さんの素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワ.comをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
※この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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