みなさんこんにちは、リハノワのみっこです。
今回は、脊髄損傷者の再歩行を目指すトレーニングジム「J-Workout大阪スタジオ」でチーフトレーナーを務める市川春菜さん(理学療法士)を紹介します。
J-Workoutは、脊髄損傷の独自のリハビリ技術と知識を強みに、回復が難しいと言われたクライアントを再歩行に導いています。
本記事では、市川さんが新卒入社してから10年の経験と脊髄損傷の治療にかける想いを詳しくお伝えします。
市川さんが脊髄損傷専門のトレーナーになった理由
市川さんが理学療法士そして脊髄損傷専門のトレーナーになったきっかけを教えてください。
もともと、人と接することやおじいちゃんおばあちゃんが好きで、何か医療系の職業について人の役に立ちたいなと思っていました。特に、リハビリ職しかり理学療法士は、病気やケガで人が一番つらい時期を共にする仕事で、回復を目指して人を支える存在になれることに魅力を感じたんです。
高校卒業後は地元の高知県を出て、岡山県にある吉備国際大学に進学しました。実習で脊髄損傷の患者さんと関わったわけではなかったのですが、大学3年生のとき、「夢の扉」という番組でJ-Workoutが紹介されたのをきっかけに、脊髄損傷のトレーニングについて興味が湧いたんです。
企業スローガンである「KNOW NO LIMIT〜回復に限界はない〜」という言葉にとても惹かれ、共感しました。ちょうど母校の脊髄損傷の授業を担当されている先生に、ご自身もC5(頸髄の5番目)レベルの頸髄損傷を受傷した方がいらっしゃいました。
国家試験では、C5損傷なら歩行困難と判断して回答すると思うのですが、その先生は自分で歩いていたんですよ。「C5なら獲得できるのはこの動作まで(上肢の動きの一部のみ可能で、通常車椅子利用)」と、その先生が教えているのに「あなたは歩いてるじゃん。どういうことなんですか」って(笑)
そんな先生が身近にいたこともあって、J-Workoutの「限界はない」という言葉が響きました。回復が難しいと言われるレベルであっても、トレーニングをすれば良くなる可能性があると感じたんです。
教科書に書いてあることが必ずしも正解ではないのだと、脊髄損傷専門のトレーナーを志望したのですね。とてもかっこいいチャレンジだと思います!
「限界を決めない」脊髄損傷者の再歩行に向けて
実際に入社していかがでしたか?脊髄損傷者の再歩行という難しい課題に日々チャレンジすることになって。
入社当初は大変でした。クライアントに「一年で、歩かせてください」と、強い希望を訴えられたときはメンタル的に相当きつかったです。
でも、当時チーフマネージャーをしていた谷野と創設者の渡辺が、重度頚損の方が「野球がしたいです」と言ったのに対して「やろうよ野球!」と応えていたという話を聞いたんですね。
なんでそんなこと言えるんだろうなって正直思いましたが、ここでトレーナーとして経験を積んでいるうちに、トレーニングを続けたことで良くなった方々をたくさん見てきたので、逆に今は「良くならないってどうして言えるんだろう」と思います。
経験を重ね、トレーニングでよくなる可能性を信じられるようになったんですね。市川さんがトレーナーとして積み重ねていく上で大切にされてることは何ですか。
やはり、私はJ-Workoutのスローガンや考え方を大切にしています。「KNOW NO LIMIT」の言葉どおり、私たちトレーナーが限界を決めてしまったら、クライアントの将来を潰してしまうんですよ。
ある程度、経験を積んで知識が深まってくると回復レベルやかかる期間の予測はついてしまうので、一線を引いてしまうことがあると思います。
でも、それってトレーナーが勝手に限界を決めていますよね。トレーナーが限界を決めた時点で、クライアントにもそこが限界だと先入観を持たせてしまうので、前提として考えないようにしてます。
今後、再生医療をはじめ脊髄損傷の治療技術も発展していく中で、目の前の人が100%歩けないとは言い切れないですから。
それと同時に、真摯に向き合うからこそ、治療の難しさをはっきりとクライアントに話します。
クライアントに「歩けますか?」と聞かれたら「正直難しいです」と現状をうやむやにせず、包み隠さず。その上で、同じ重症度の方で歩けるようになった症例やトレーニング後の生活の様子などを紹介し、回復に必要な時間と練習量、自主練習に至るまでそのトレーニングの厳しさも伝えます。
最終的に「本気でやりたいんですね?一緒に挑戦していただけますか?」と意思確認し、同じ方向を見てトレーニングを開始することが大切です。
共通認識を持って治療に当たることがトレーニング効果をあげるためにも必要なのですね。限界を決めず挑戦するからこそ難しいことはなんでしょうか?
身体の回復に関してはフォローできますが、最近悩ましく思っているのは生活の場のサポートについてです。私たちは年単位でクライアントと関わるので、プライベートな部分にかなり立ち合うことになります。
例えば、小さい時から通っていた子が進学や就職をきっかけに別の地域に移る場合があります。遠方からでも通ってもらえるのですが、その環境によっても生活の場って全然違うので。
なかには、リハビリして外出できるようになったけれど、怪我をきっかけに引きこもりになってしまった方がいました。
今は身体も心もかなり回復して、ご両親と一緒にショッピングに行ったり、外食や海にも行ったりと楽しむ余裕は出てきたようですが、社会に出るとなると課題があって。私たちは長期に渡って関わっているからこそ、生活のサポートについては手が届きにくい現状を歯痒く感じています。
身体だけじゃなく、ライフイベントにもう少し関わっていけたらなと、代表の谷野が力を注ごうと動いています。適切な就労支援の紹介や、実際に「車椅子でも大学に進学したよ」というような人たちとお繋ぎするサポート体制ですね。
人生を一緒に歩ませてもらっている感覚だからこそ、今後は生活の面にも携わっていきたいと考えています。
クライアントがより良い生活ができるよう真摯に向き合っておられるのですね。逆に長期に関わることで、嬉しかったことや印象に残っていることはありますか?
家族の一員のようにスタッフで運動会や卒業式などの学校行事や結婚式にも参加させてもらったことがあります。
谷野は、クライアントのお父さんのように一緒に写真に写ったりして(笑)本当に人生に携わらせてもらっているからこそ、嬉しい出来事ですね。
「歩いて何がしたいのか」その先を考えたリハビリ
脊髄損傷者が再歩行獲得に向けてトレーニングを続ける上で欠かせないことはありますか?
やはり、一緒に頑張れるかどうかが大事だと思います。私たちがトレーニングを提供するだけでは目標達成はなかなか難しいので。
これは私たちスタッフが常に読み返している会社のバリューブックにも載っている内容なのですが、「クライアントの『絶対に歩く』と、スタッフの『絶対に歩かせる』が掛け合わさること」が欠かせません。
だから、目標達成するためにクライアントと本気で喧嘩することもありますよ(笑)例えば、「何で自主練してないんですか!本当によくなりたいと思っているんですか!」みたいな会話はしょっちゅうです。
そして、クライアントに再三尋ねるのが、「歩いて何がしたいですか」ということです。私たちが歩行にこだわってトレーニングを進めていく上で考えておかなくてはならないのが、「クライアントがその先に何を描いているのか」です。
そうやって目標を共有して懸命に挑戦したからこそ達成できるし、たとえ目標を達成できなくても、挑戦したからこそ考え方が変わったという方もいました。
私たちもその挑戦の先を考える大切さを教えていただきましたね。
なるほど。脊髄損傷者にとって難しい再歩行という目標を達成するには、その先の希望を明確に描くことが必要なんですね。
長期間モチベーションを維持する上でとても大切だと思います。
とはいえ、クライアントは年単位でトレーニングにあたるのでモチベーションが下がって弱音を吐くこともありますし、私たちも思い悩みます。
そもそも歩けないと言い渡されたなかで挑戦することは簡単じゃない。そう認識しつつも、私たちは本当に厳しいことをクライアントに課していると思います。
車椅子の方に「毎日自主練習するように」とか、「一時間立位を取るように」とか。ただでさえ身体が動かしにくい状況なので、お仕事も日常生活の動作にもかなり時間かかるんですよ。そんな大変な中、自主練習に時間を割くのは正直めちゃくちゃ厳しいです。
でも、歩くことを諦めたくなくてJ-Workoutを訪ねてくれたクライアントに対して、全力で還元したい一心で厳しいと分かりつつお伝えしています。
J-Workoutは、ご本人の努力はもちろんチームで試行錯誤しながら脊髄損傷の方へ立位・歩行の獲得というすごくニッチな領域の挑戦をしている場所です。そんな熱意のあるクライアントや関わってくれているスタッフの存在が、私の原動力にもなっています。
先ほどクライアントの方と本気で喧嘩するとおっしゃっていましたが、意見交換するなかで印象的なエピソードはありますか?
私が今も担当している男性のクライアントで、周りにも心配されるくらいトレーニング中に言い合う方がいるんですよ。「本当に俺のこと良くしたいと思っているんですか。市川さん、俺を歩かせるまで遊んでる暇なんてないですよ!」とか。
これはまだ冗談の域なんですが、本当に真剣に話しあう中で伝えてくれたのが、「今までにここまで俺に真剣にぶつかってくれる人はいなかった。毎回うるさく言ってすみませんが、本音でぶつかって、歩きたいという気持ちを受け入れてもらえることが俺にとって大事なこと。困らせていると思うけど、これからもよろしくお願いします」という言葉でした。
不意にそんな言葉をいただいてびっくりしたんですけど、今まで本気でぶつかってきてよかったなって報われた瞬間でしたね。
クライアントの方との関係性が目に浮かびます。お互いに全身全霊で向き合ってこられたからこその言葉ですね。
脊髄損傷の治療やリハビリの進歩に向けて
今後、脊髄損傷の治療技術が進歩していくには、何が必要だと思いますか?
個人的な意見としては、専門性の高い技術や知識を秘匿にせずオープンにすることだと思います。
私たちは大阪大学や国際障害者リハビリテーションセンターに所属する先生方ともお話しする機会があるのですが、考えを聞くたびに学びを得ています。
J-Workoutの技術と新しい学びを掛け合わせることで治療のアイデアがより蓄積されますし、クライアントに還元できます。
今、チャレンジしているのが再生医療中にJ-Workoutで提供しているリハビリをすること。早期からクライアントにより良い治療の選択肢を提供できれば、辛いリハビリの日々を少しでもラクにできますからね。
情報を共有することで、その活動に興味を持ってくれる方やコラボレーションしたいと言ってくださる医療関係者の方が訪ねてくれるようにもなりました。脊髄損傷の治療が進歩するよう、こうした活動の輪が広がっていくといいなあと思っています。
一方で、急性期・回復期での病院のリハビリの大切さも実感しています。中には「車椅子生活なんて認めたくない」と、病院をすっ飛ばしてJ-Workoutでトレーニングを受けようとされる方もいらっしゃるのですが、その際には、病院のリハビリの大切さをお伝えさせて頂いています。
そう思う方はいるでしょうね。お断りするのはなぜでしょう?
やはり、入院期間中に車椅子で生活できるレベルになって、次の難しいレベルに向かう環境を整えないといけません。車椅子に乗れないとうちには通えないですしね。だから、短い入院期間で車椅子レベルにまで回復させてくれた病院の先生たちをすごく尊敬しています。
私たちは星ヶ丘医療センターの先生方や、その他関西地方で脊髄損傷をよく診ている先生方と勉強会をする機会を設けることもしてきました。そこでは急性期・回復期、訪問とそれぞれの分野の先生方が一堂に集まって情報共有しています。
退院後もリハビリに挑戦したい人には、J-Workoutを紹介いただいていているので、地域のフォローアップ体制も強みですし、脊髄損傷の治療技術を進歩させるためにも強化していきたい部分ですね。
そして、理想としては「将来、脊髄損傷が治る疾患になるといいよね」と代表の谷野と話しているんですよ。
現状、私たちJ-Workoutは脊髄損傷になった方に最後の砦のように頼っていただいているのですが、治療技術が進歩して、私たちの役割がなくなればいいと思っているんです。
私たちの会社が大事にしている「KNOW NO LIMIT」の概念が、医療業界にもっと浸透し、一時的に脊髄損傷になっても早期に治るような時代が早くきて欲しいです。
〜脊髄損傷者の回復を目指して〜理想とするトレーナー像
脊髄損傷の治療の進歩に向けたその熱い思いに胸を打たれました。
市川さんは今後どのようなトレーナを目指していきたいですか?
一つはクライアントのモチベーションも引っ張り上げられるサポートを今後も大事にしていきたいです。これは個人というより、チームでの目標です。
脊髄損傷者にはメンタルの問題を抱えている方も多くいらっしゃるので、身体の回復を届けながら心も元気になってもらいたいと考えています。
また、J-Workoutをクライアント同士の交流の場として活用してもらい、再歩行という共通の目標に向かって励めるようサポート環境を整えていきたいです。そのために、スタッフ同士が共通認識を持って業務にあたることを意識しています。
私たちは毎朝、トレーナとしての在り方が書かれているバリューブックを読み上げたり、みんなの考えを共有したりする時間を設けています。業務の終わりには、お互いの素晴らしいと思った点を認め合う時間も作っていて。
チームワークを大切にしながら、私自身も「KNOW NO LIMIT」の企業理念やバリューブックに則った理想とするトレーナー像を体現していきたいです。
最後に、脊髄損傷の患者さんに還元するためにチームや1人のトレーナーとして成長を促すものはなんだと思いますか?
やはり、奢らず学び続けることですかね。
うちの独自の技術や知識、今までの経験だけではなくて、たくさん新しいことを学ぶ姿勢が大事。例えば、再生医療や海外で開発されたロボットなど。いろいろな技術を組み合わせて年々アップデートしていかないとと、常に思っています。
クライアントは、そういった情報をいち早くキャッチされている方が多いですし、うちを訪ねてきてくれるのも脊髄損傷に特化したリハビリのすごさを求めてくれているからだと思うので。
業界全体としても、脊髄損傷のトレーニングが受けられる場所が増えることを望んでいます。
ライバルと切磋琢磨し、治療技術が進歩するといいですよね。
クライアントにとって、うちしか選択肢がないから来るのではなくて、数ある中でうちを選んできて欲しいです。
市川さんをはじめ、J-Workoutのみなさんが常にクライアントファーストで学び続ける姿勢に身が引き締まる思いでした。
貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
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写真提供:山本夏希
以上、本記事では脊髄損傷者の再歩行を目指すトレーニングジム「J-Workout大阪スタジオ」でチーフトレーナーを務める市川春菜さんを紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、市川さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
みっこでした。
この取材は、ご本人から同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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