みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
本日は、マイスター靴工房KAJIYAの代表 中井要介さんをご紹介します。
中井さんは、ドイツ国の職人最高職位である「ドイツ整形外科靴マイスター」と「義肢装具士」の2つの資格を有する世界初の医療技術者です。
医療靴先進国であるドイツで2005年より9年間修業後、現在は東京と神戸を拠点にマイスター靴工房KAJIYAを運営されています。
実際に東京と神戸の工房にお邪魔し、靴づくりの過程や製品、創業のきっかけや整形外科靴に対する熱い思いを伺ったので、写真も交えながらその魅力をお伝えします。
中井 要介さん
◆ 中井要介(なかい・ようすけ)さん
1980年 北海道稚内市出身
株式会社マイスター靴工房KAJIYA 代表取締役
<資格>
・ドイツ整形外科靴マイスター
・義肢装具士
・スポーツシューフィッターマスター
<略歴>
2002年
早稲田医療専門学校 義肢装具科卒業、義肢装具士の国家資格取得
有限会社梶屋製作所 入社
2005年
渡独、整形外科靴職人(ゲゼレ)になるための職業訓練開始
バイエルン州の整形外科靴工房(2カ所)で修行
2009年
ゲゼレの国家試験に合格
ベルリンの整形外科靴工房で勤務
2013年
ドイツ整形外科靴マイスターの国家試験に合格
日本へ帰国、梶屋製作所で勤務
2016年
株式会社マイスター靴工房KAJIYAに組織変更し、代表取締役に就任
2019年
神戸市灘区に初の支店を開設
靴作り職人を目指して
ドイツ整形外科靴マイスター、そして義肢装具士として第一線で活躍している中井さんですが、幼い頃から靴に興味を持たれていたのですか?
また、義肢装具士を目指されたきっかけを教えて下さい。
私は幼少期の頃から足や靴を大切にする環境で育てられました。当時、その理由はよく分かっていなかったのですが、とにかく両親は靴だけにはこだわりを持ち、多少値段がはっても良いもの買ってくれていたんです。
私自身も、小学校から陸上をやっていたこともあり次第に靴に興味を持つようになりました。新しい靴が届き、自分で紐を通すあの瞬間のワクワク感がたまりません。高校時代にはスニーカーブームが到来し、エアマックスなど流行のモデルを愛用して足元のオシャレを楽しみました。
高校生の進路選択の時「大好きな靴に関われる仕事はないか」と、当時東京にあった靴の専門学校などを調べました。しかし、卒業後の就職先を見るとどれもアパレル系ばかり。ボイラー整備士の父を見て育ったので「手に職をつけたい」と思っていた私は、靴を作る職人になりたいと考えるようになります。
そんなある日、地雷で足を失ったカンボジア人に義足をつくる日本人の義肢装具士がテレビで取り上げられているのをたまたま目にしました。人の役に立つ仕事である医療にも興味をもっていたので、直感的に「これだ…!」と思いました。
中井さんは、幼少期の頃から足を大切にすることが当たり前の環境で育てられたのですね。進路選択の時期に、好きな「靴」と「ものづくり」、さらには興味をもっていた「医療」の全てが掛け合わさった義肢装具士という仕事に出会えたことに、運命的なものを感じました。
最初は義足がきっかけだったかと思いますが、整形外科靴に興味を持ったのはいつ頃だったのでしょうか?
東京にある義肢装具士の養成校に進学した私は、その学校の授業で「靴型装具(整形外科靴)」という領域があることを知りました。
また、時を同じくして、たまたま実家に帰省した際に、整形外科靴を履いた幼少期の自分の写真を見つけたんです。びっくりした私は、興奮気味に両親に話を聞きました。すると、「足の内反変形のため1歳から3歳くらいまで整形外科靴を履いて過ごしていた」というのです。
靴にこだわりをもって育てられてきた理由がやっと分かり、整形外科靴にますます興味をもつようになりました。
私は早速、整形外科靴に関する情報収集をはじめました。日本には作れる人があまりおらず、ドイツが靴型装具の先進国であることを知ります。ドイツには「マイスター制度」という職人を育成する制度があるため、靴作りの文化が習熟しているのです。
19歳の時には「いつかドイツに行って靴作りを学びたい!」と夢を抱いていました。
義肢装具士の免許取得後は、本場ドイツの靴作りを取り入れていた梶屋正吉さんの工房(有限会社 梶屋製作所)に就職。3年間で一通り靴作りができるようになった後、ドイツに渡りました。
わざわざドイツに渡って靴作りを学ぼうなんて、19歳の中井さんの靴作りに対する情熱、そして行動力、素晴らしいですね!
幼い頃から、物事に対するチャレンジ精神は強い方だったのですか?
昔から、行動力や上昇志向が強く、親がなんと言おうと聞かない性格だったと思います。
子どもの頃、初めて行ったスキー場は一人で動き回っていたそうですし、中2の夏休みには自転車で北海道を一周しました。野宿をしながら計15日間、1日200キロくらいのペースで進みました。
自転車・北海道一周の経験は、はじめて自分で挑戦したことだったので非常に思い出に残っています。さまざまな人と出会い、多くの人に支えられながら達成する喜びを体験し、人生観が変わった瞬間だと今でも思います。
本場ドイツで見た世界
靴作りのメッカであるドイツ。やはり、日本とは人々の靴に対する意識や文化に大きな違いがあるのでしょうか?
渡独した当時、中井さんが感じたことを教えて下さい。
ドイツでは、小さな村でもマイスターが2人はいて、薬局のような感覚で靴工房がありました。まちの人をみても洋服以上に靴にはお金をかけていると感じられる場面が多くありました。
実際にドイツでできた友人も、10人に1人は行きつけのマイ工房があって、靴や足のケアを定期的に行っていると話していました。特殊なインソールを使っている人も、日本より圧倒的に多かったです。
ドイツでは、靴に対するお金のかけ方や教育の違い、靴を大切にする文化が広がっていることを実感しました。
また、ドイツには子ども靴専門店もあって、そこに売っている靴もかなりしっかりしていました。機能的にもデザイン的にも「良い靴」を履くという文化が、子どもの頃から醸成されていることに驚きました。
マイスター制度があることで、靴に対する意識や文化がこんなにも変わるものなのですね! 私も学生時代はスポーツをやっていましたが、例えば「良い靴の選び方」や「靴紐の結び方」「正しい靴の履き方」など、靴の教育をちゃんと受けたことがなかったなと感じました。
文化も言葉も違うドイツに単身で渡られて、苦労したことはありませんでしたか?
よく聞かれるんですが、私は辛いと感じることや不安になることはほとんどありませんでした。
梶屋さんのもとで3年働いて、一通り靴が作れるようになってから渡独したのは、大きかったと思います。言葉が通じなくてもなんとなく言っていることが理解ができたし、向上心をもって学ぶことができました。向こうの人にも評価されているのを感じました。
ただ、見た目や言葉、文化など、なにもかも違う日本人がいきなりドイツ人の輪に入るわけですから、当然、差別はうけたし、変な質問がくることも多々ありました。
しかし、そんななかでも私は異文化やマイノリティ、インクルーシブを楽しむことができていたと思います。
たとえば、「日本人はいつも着物をきてるのか」とか「アジア人は犬を食べるのだろう」とか、そういった偏見に対しても「そうくるのね!」と、すごくワクワクしたし、なんて答えようか考えるのが楽しかったです。
どんな状況であれ、生きていることに変わりない。だったら、少しでも前向きに楽しくいたいですよね。
常に厳しい状況に身を置き、自分の信じた道をひたすら突き進む中井さんの姿からフロンティア精神を感じました。心に響く素敵な言葉をありがとうございます。
課題解決を通して未来に思い描くこと
日本とドイツ、2カ国の靴の文化事情を知る中井さんは、日本の整形外科靴にどんな課題を感じていらっしゃいますか?
まず、国民の足や靴に対する意識の低さは大きな課題だと感じます。
靴が合わず足に痛みが生じてると、思うように動けなくなりフレイルが進み、結果として寝たきりとなり健康寿命の短縮につながります。
できるだけ長く自分の足で歩くためには、日々の暮らしを支える「靴選び」は本当に重要です。
「良い靴を履いて、いつまでも健康に歩く」という意識が小さい頃から植え付けられれば、未来は少しずつ変わっていくと考えます。
潜在的なニーズを発掘していきたい。まずは、ユーザーはもちろん医療介護従事者の足に対する意識を変えることから始める必要があると思っています。
いち理学療法士として、長く歩き続けるための靴選びの重要性は身にしみて感じます。
現段階で、中井さんが課題の解決策として何か考えられていることや、思い描く未来像があれば教えて下さい。
私は、日本の靴工房を薬局みたいな身近な存在にしたいと考えています。
処方箋をもらって、どの工房にするかを自分で選べるような環境が整備できたら、人々の足や靴に対する意識は上がっていくと思うのです。
そのためには店舗を増やしていく必要がありますが、需要がない中ではなかなか進めづらいのが現実です。まずは日本各地に靴工房の需要を増やせるように、その前段階としての仕掛け作りや普及活動をする必要があります。
その一つとして、今後は理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職と義肢装具士・靴職人がディスカッションできる機会を増やし、靴に興味を持つ人たちの知識や技術、熱量を高めていきたいと考えます。
私たちも義肢装具士という専門職ですが、どうしても病院に伺う際は委託業者という立場が強く出てしまうので、正直、受け身となってしまいがちです。現状では、質の高いディスカッションは十分にできていないことが多いのではないかと思います。
身体機能の強化に強いリハビリ専門職と、インソール・靴づくりに強い義肢装具士や職人。お互いの強みを活かしながら、手と手を取り合い、目の前の患者さんの足の問題を解決していきたいです。
専門職同士のコミュニケーション
リアルな課題感をありがとうございます。私自身、病院で働いていた経験から、セラピストと義肢装具士さんとの間にある見えない壁についてはなんとなく理解できます。
しかし、お互いに「目の前の患者さんをより良くしたい」という気持ちは揺るぎないものだと思います。そのためにも、セラピストと義肢装具士さんとの連携は改めて重要だと感じました。
セラピストと義肢装具士さんがコミュニケーションをとる際に、「こんなことを伝えてもらったらより良い連携ができる」といったポイントはありますか?
ありがとうございます。そうですね、たとえば「インソール」を作る場合でいうと、患者さんの主訴やROM制限で気になる所(たとえば趾の背屈制限など)や筋力のどこが弱いのか、アセスメントと現在の治療内容(〇〇の筋肉が弱い、〇〇で痛みがあるからこんな治療をしている等)を教えていただけると、義肢装具士や職人は「良いものづくり」に繋げることができるかと思います。
その他、片麻痺の方の「シューホン」を作る場合だと、患者さんが自分でどの程度着脱できるかや、住環境(床材、階段商工、手すり、装具を着脱する場所の広さ、玄関など)を教えていただけると嬉しいです。また、諦めやすい・粘り強いかなどの性格面も教えていただけると、装具を履く際の難易度を調整することも可能です。
なるほど!と思うポイントばかりで大変勉強になりました。貴重な声をありがとうございます。
セラピストの良い評価と治療、義肢装具士さん・職人さんの知識や技術が、密なコミュニケーションをとることで患者さんに還元できるのだと改めて実感しました。
マイスター直伝!良い靴の選び方
せっかくの機会なので、ドイツ整形外科靴マイスターの中井さんに、良い靴の見分け方や靴を履く際のポイントなどを伺いました!
「良い靴」を見分けるポイントは、以下6つが基本です。
① カウンターがしっかりしている(かかとの周りに硬い芯材がある)
踵の骨を包み込み、支えになってくれます
② 靴底が指の付け根で曲がる(真ん中や、後ろ1/3が曲がるのは良くない)
歩く時の足の動きを邪魔しません
③ 甲にマジックや紐がついている
足と靴のズレを防ぎます
④ つま先が上がっている
⑤ つま先の長さにゆとりがある
体重をかけると足は長くなるので、1〜1.5cm(指1本文)の余裕が必要
取り外した中敷きの上にたち、チェックするのがおすすめです
⑥ 靴の中敷きが取り外せる
スニーカーのように手で外せる中敷きで、厚みが3〜4cm程度あるものが良い。
靴の履き方としては、4つポイントがあります。
① 靴紐は毎回ゆるめます
② 足をいれる時は、かかとを踏まないように気をつけましょう
③ 靴に足を入れたらかかとを床にトントンとして、靴とかかとをあわせます
④ 靴紐はギュっとしっかり締めます
さらに中井さんから、おすすめのルームシューズも教えていただきました!
中井さん、たくさんのポイントやおすすめのシューズを教えてくださりありがとうございました。
メッセージ
最後に、靴や足の問題で悩んでいる方に向けてメッセージがあればお願いします。
私たちは今、足や靴を大切にする文化を広める活動に力を入れています。そのうえでは、大変なこと・困難なことも非常に多いですが、今、目の前にいる患者さんやまだ会えていない患者さんに「良い靴」を届けるため、色んな方々と手を取り合い一生懸命精進している最中です。
足から社会を支えたい
歩く喜びを、あなたに届けたい
この信念のもと、私たちは前に進み続けます。
もし足や靴に関してお悩みのことがあれば、お近くの靴工房か、マイスター靴工房KAJIYAにお気軽にご相談ください。そして、これまで足に気を使ったことがない方には、まずはご自身や家族の方の足に意識を向けてもらうところから始めていただきたいと思います。
大切な足を守るのはあなた自身です。その際の手助けが少しでもできると幸いです。
「靴作りの原動力は、靴が完成して渡した瞬間の患者さんの喜んでくれた笑顔です」と漫面の笑みでお話される中井さんはとても輝いていました。
中井さんの熱い素敵な想い、そして本場ドイツで学ばれた本物の技術と知識が、少しでも多くの人に届いてほしいと心から思いました。
これからも、中井さんをはじめマイスター靴工房KAJIYAの皆さんのご活躍を心から応援しております。
中井さん、本日はありがとうございました。
以上、本日はマイスター靴工房KAJIYAの代表 中井要介さんをご紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、中井さんの魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
リハノワは、パートナー企業、個人サポーター、読者の皆さまの応援のもと活動しています。皆さまからのご支援・ご声援お待ちしております。
※取材先や取材内容はリハノワ独自の基準で選定しています。リンク先の企業と記事に直接の関わりはありません。
コメント