みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、大阪府大阪市にある車いすユーザーのための宿泊体験型モデルルーム「WADACHI(わだち)」さんを取材しました。
ここは、ベッドや浴室、キッチン、リビング、トイレなど、暮らしに欠かせない空間を実際に体験できる場所です。その背景には、「こんな暮らしができたら」という願いと、それを支える人たちの熱い想いが込められていました。
本記事では、WADACHIの誕生秘話や空間の工夫、住まいづくりの流れまで、実際に訪れて感じた魅力をお届けします。
WADACHIとは

宿泊体験型モデルルーム
「WADACHI(わだち)」は、大阪市港区・大阪港駅より車いすで約5分の場所にある、宿泊体験型のモデルルームです。車いすユーザーのために整えられた空間で、退院後の暮らしや一人暮らしの始まり、家族との住まいづくりを考える際の大切なヒントを見つけることができます。
新しい環境に移るときには、不安や戸惑いがつきもの。WADACHIは、そうしたときに自分の暮らしを描くための「ものさし」になることを目指しています。実際に泊まって体験することで、「これは自分に合いそう」「ここまでは必要ないかも」と見極めながら、「これなら大丈夫」と安心を積み重ねることができます。
住まいの専門家の知識と、当事者のリアルな視点が融合した、まるで暮らしのセレクトショップのような場として、多くの人を迎えています。


右のドアがWADACHIの入口で、自動ドアになっている。左のドアは2階にある民泊用の入口。
WADACHIの誕生秘話

WADACHIの発起人であり、車いす住宅アドバイザーとして活動されている横山和也さんに、誕生の背景やこの場所に込められた想いについてお話を伺います。

◆ 横山 和也(よこやま・かずや)さん
1984年、大阪府箕面市出身。2010年、旅行中の転落事故により頚髄(C5)を損傷し、車椅子ユーザーとなる。1年9ヶ月の入院生活を経て、退院と同時に一人暮らしを始める。障害があっても自立して暮らすための情報が少ないことに課題を感じ、その解決をライフワークに掲げる。以来、教育機関やイベントでの講演活動、テレビ出演、オウンドメディアの立ち上げ・運営などを通じて情報発信に取り組む。現在は「車いす住宅アドバイザー」として、住まいづくりや暮らしのサポートに力を注ぐ。

僕は2010年に頚髄(C5)を損傷し、車いすユーザーとなりました。僕にとって車いすでの生活は、常にバランスボールに乗っているような感覚です。だからこそ、「自宅で安心してくつろげる空間」や「自分に合った住まいづくり」がどれほど大切か、身をもって感じてきました。
また、車いすユーザーにとって環境を新しく変えることは、本当に勇気のいることです。たとえば、新しい型の車いすに替えるとき。たとえ性能が向上していても、慣れ親しんだものから変えるとなると、不安でいっぱいになります。
僕自身も、ベッドのマットを新調したとき、褥瘡(じょくそう)になるのが心配で、15分おきに尻を必ずチェックしていました。マットの変更でそうなので、ましてや家を変えるとなれば、「どれだけ過ごしにくい家でも慣れているからいいや」と、つい諦めてしまいがちになるのが現状です。でも実際には、良いものがたくさん出ていますし、勇気を出してそれを取り入れることで、暮らしはもっと快適になる。僕はそのことを強く伝えていきたいと思っていました。
そんな悩みを抱えていたときに出会ったのが、WADACHIを運営する「株式会社デイリーエステート」の会長さんでした。2019年に意気投合し、「車いすユーザーのためのモデルルームを作ろう」とプロジェクトが始動。コロナ禍を経て、2022年に完成しました。


全国的にもまだ珍しい取り組みで、お話を伺いながら私自身とてもワクワクしました。WADACHIでは、見学するだけでは分からない「暮らしの使い勝手」を、実際に泊まって体験できるとのこと。車いすユーザーさんの不安をそっと和らげてくれる、大切な場所だと感じました。
そんなWADACHIのコンセプトや空間づくりの中で、横山さんの特に大切にされた「こだわりのポイント」があれば、ぜひ教えてください。

車いすユーザーの暮らしといっても、本当に十人十色です。だからこそWADACHIは、僕自身が「心地いい」と感じる空間を基準にしました。廊下の幅や傾斜の角度を決めたり、移動しやすい動線を工夫したり。車いすユーザーが暮らしを考える際の「ものさし」として、お役に立てたらと思っています。
設計をすすめる際に大切にしたのは、「車いすユーザーだけの空間にしないこと」です。WADADHIは、家族や友人と一緒に過ごしても、みんなが快適でいられるような空間を意識してデザインしています。実は僕自身、家を改修したときに寝室に浴室を作ったのですが、結露で不便だったり、健常者の家族には脱衣所がなくて使いづらかったり。そうした経験から、「一人のため」ではなく、「みんなの暮らしに寄り添う空間」を大切にしたいと思うようになりました。
また、WADACHIに関わる中であらためて思ったのは、「諦めることが美徳ではない」ということです。これまで多くの当事者が「不便は仕方ない」と受け入れてきました。でも、本当は選択肢を持つことが大切なんです。勇気を出してチャレンジすれば、自分に合った暮らしを見つけられると僕は信じています。
だからこそ、僕の役割はそのハードルを少しでも下げること。多くの車いすユーザーのみなさんに、「住宅を介して再挑戦すること」を伝えていきたい。環境を変えるのは確かに勇気がいりますが、その先にはきっと、新しい可能性が広がっていると思っています。

ルームツアー

ここからは、実際に横山さんにWADACHIを案内していただいたときの様子をご紹介します。モデルルーム内には、あちこちにユニバーサルな視点がちりばめられていて、「なるほど!」と思う工夫がたくさんありました。
寝室
◆ 寝室の空間
寝室は、車いすユーザーが安心して宿泊できるよう設計されています。病院の個室のように機能性は高く保ちながらも、殺風景になりがちな空間を在宅仕様に近づけ、落ち着いた雰囲気を重視しています。
特徴的なのは、1室に2台のリクライニングベッドを備えている点です。車いすユーザーは1人で1部屋を利用することが多いですが、WADACHIでは車いすユーザー同士が同じ部屋で過ごせるよう、あえて同じ部屋に2台設置してあります。

◆ ベッド
パラマウントベッド製のシングルベッドとセミダブルベッドが1台ずつ設置。機能性とデザイン性を兼ね備えた高級感のあるベッドで、柵の取り付けも可能です。ベッドは4モーター式で、細かな姿勢の調整も可能でした。



◆ムートンシーツ
セミダブルベッドには、褥瘡(じょくそう)予防にも効果的なムートンシーツを採用。天然素材で蒸れにくく、湿度調整にも優れています。リクライニングベッドに対応したタイプは珍しく、ふかふかとした感触でありながら沈み込みすぎないのが特徴です。

◆ ベッド用リフト
WADACHIでは、移乗をサポートするリフターを実際に試すことができます。「据え置き型」と「天井走行型」の両方を設置し、違いを比較できるようになっています。
リフターの導入は基本的に購入ですが、日常生活用具給付の申請や住宅改修制度を活用することで、一部の費用助成を受けられる場合もあります。WADACHIでは、こうした制度も含め、実際の導入をよりイメージしやすいように配慮されているそうです。


◆ 電気・コンセント
電気スイッチは車いすからも手が届きやすいよう低めに設置され、コンセントは屈まずに利用できるよう高めに配置されています。

◆ 扉(開閉センサー)
WADACHIには、玄関・トイレ・浴室前の3か所にだけ扉があります。車いすユーザーにとって扉の開け閉めは大きな負担になるため、すべて自動開閉のセンサー付き。近づくとスッと開き、離れると自動で閉まる仕組みになっています。



浴室・洗面所
◆ 浴室・浴室用リフト
狭い浴室では介助者の動きが制限されやすいため、ここでは十分な広さが確保されていました。シャワーキャリーでの移動がしやすく、3方向からのアプローチも可能で、快適に介助できる環境となっています。





浴室は、WADACHIの中でも特に思い入れのある場所になっています。
僕自身、受傷してからの12年間、自宅で浴槽に入ることがありませんでした。「家にいるのに、くつろげていないよね」と話になり、「横山をお風呂に入れよう」ということから、この浴室が生まれました。
実際に3年前の夏、WADACHIが完成して家族と泊まったとき、12年ぶりにお風呂に入りました。正直、自分としては入らなくても困らなかったのですが、娘はずっと「パパと一緒に入りたい」と思ってくれていたようで、本当に嬉しそうでした。夏休みの絵日記には「夢が叶いました」と、僕とお風呂に入れたことが書いてあったんです。
その姿を見て、「自分があきらめていたことでも、家族にとっては必要なんだ」と気づかされました。僕にとっても、ここは「再挑戦の場所」になっています。

◆ 洗面台
洗面台は、車椅子のまま奥までしっかり入れる設計になっていました。鏡も低い位置まで備わり、座ったままでも快適に使うことができます。


キッチン
◆ キッチン
車いすでもゆったりと動ける広さがあり、ただ「調理をする人」と「してもらう人」という関係ではなく、一緒に時間を楽しめるように工夫されています。向かって右側のコンロや作業台は立って使いやすい高さに、反対側の棚やオーブンは車椅子からも手が届きやすいように設計されているのが特徴です。



トイレ
◆ トイレ
浴室前と同じく、自動で開閉できる扉を採用。また、ベッドも備えられており、介助者が作業を行ったり、本人が服を脱いで置いたりできるスペースとして活用できます。さらに、長時間の利用も想定してエアコンを設置し、快適に過ごせる環境が整えられていました。



リビング
◆ 小上がりの和室
高さを設けることで、車いすに座っている人と畳に座っている人の目線が近づき、自然に関わることができます。車いすで直接上がることはできなくても、そこに距離を縮める工夫があることで、「バリア」ではなく「つながり」を生み出す場となっていました。


◆間接照明
もともとは「壁が傷つかないように」と、和室と同じように壁をくり抜いたことが始まりでした。そのスペースを活かして照明を設置したことで、空間全体がぐっと上質で心地よい雰囲気に仕上がっています。足先が入りやすくなるため、車椅子での旋回もしやすく、壁を守る工夫にもつながっています。特別な配慮に見えず、誰にとっても自然に使えるデザインになっているのが魅力です。

◆ アート
WADACHIにはリビングを中心に、色とりどりの絵が飾られています。リビングに飾られている「轍」というタイトルの絵は、京都にお住まいの身体障害のある方が描かれたもの。暮らしの可能性を広げるWADACHIの想いが鮮やかに描かれていました。

住まいづくりの流れ

丁寧にルームツアーをご案内いただき、本当に勉強になりました。横山さんの「暮らしの場を変えることで、もう一度チャレンジできる人を増やしたい」という熱くて優しい想いが、WADACHIの空間全体からまっすぐに伝わってきました。
WADACHIは、住まいづくりの「イメージづくり」や「ものさし」として多く活用されているとのことでした。最後に、実際の住まいづくりの流れについて、横山さんからお話を伺いたいと思います。


住まいづくりの流れを、大きく「リノベーション」と「注文住宅」の2つに分けて説明します。
リノベーションは、いまある建物に手を加えて暮らしやすく整える方法です。デザイン性を高めたり、車いすユーザーの生活に合わせて間取りや内外装を工夫したりと、既存の空間を新しく生まれ変わらせることができます。
一方、注文住宅はゼロから形づくる住まいです。間取りや外観、仕様まで自由度が高く、予算に合わせて理想の家を建てることができます。土地探しから始めることもできるので、福祉サービスが充実している地域を選び、暮らし全体を見据えた計画も可能です。
◆ リノベーションの流れ
1)資金計画の相談
2)設計プランの相談
3)設計契約
4)リノベーション工事着工
5)引き渡し
6)アフターサービス
詳しくはこちらから
◆ 注文住宅の流れ
1)資金計画の相談
2)物件・土地探し
3)設計プランの相談
4)設計契約
5)住宅工事着工
6)引き渡し
7)アフターサービス
詳しくはこちらから

僕は主に、資金計画や設計プランの相談を担当しています。まずは丁寧にお話を伺い、トイレやお風呂、車椅子の動線など、暮らしに欠かせない場面を細かく確認させていただきます。
賃貸の場合は必ず現地に足を運び、段差や通路の広さを自分の目で確かめ、必要に応じてオーナーとの交渉も行います。実際にWADACHIに宿泊していただきながら、一緒に暮らしの形を考えることも大切にしています。
また、住まいにとどまらず、防災や福祉サービス、ヘルパーの利用など、暮らし全体を見据えた提案を心がけています。相談員さんと来られる方も多く、「安心して暮らせる生活」を一緒に描くお手伝いをさせてもらっています。
障害のある方が新たな一歩を踏み出せるよう、その背中をそっと押せる存在でありたいと思っています。困ったことがあれば、どうぞ気軽にご相談ください。

施設概要
■ 運営会社
株式会社デイリーエステート
■ 営業日
OPEN:10:00~19:00 ※年中無休・完全予約制
受付日時:平日9:00~17:00(定休日 土日祝)
■ 宿泊体験
最大4名まで宿泊体験可能(うち車いすユーザー2名まで)
■ 所在地
〒552-0021 大阪府大阪市港区築港2丁目8-30
TEL:06-6777-3695
■ アクセス
大阪メトロ中央線「大阪港駅」①番出口より車いすで5分
■ お問い合わせ
こちらのフォームからお問い合わせください


<関連情報 / SNS>
・リハノワ記事「リハビリの歩み」横山和也さん
・WADACHI 公式ホームページ
・Instagram(WADACHI)
・Instagram(横山和也さん)
ぜひ合わせてご覧ください。

以上、今回は大阪府大阪市にある車椅子ユーザーのための宿泊体験型モデルルーム「WADACHI」さんをご紹介しました。
ひとりでも多くの方にその魅力と素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。


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