みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、大阪府枚方市にある川口脳神経外科リハビリクリニックで働く、理学療法士の金起徹(きん きちょる)さんにお話を伺いました。
臨床の現場で患者さん一人ひとりと丁寧に向き合いながら、企業に出向き「健康経営」という新たなフィールドにも挑戦する金さん。その原点には、「自分らしさを表現すること」を支えたいという、まっすぐな想いがありました。
この記事では、金さんが理学療法士を志した原点から、健康経営に取り組むようになったきっかけ、そしてこれから描いている未来についてご紹介します。
理学療法士・金起徹さん

◆金 起徹(きん・きちょる)さん
認定理学療法士(脳卒中) / 両立支援コーディネーター / 健康経営エキスパートアドバイザー / 元プロボクサー
1994年生まれ、大阪府大阪市出身。畿央大学理学療法学科を卒業後、2016年に大阪府内の病院へ入職し、回復期リハビリテーションの現場で臨床経験を重ねる。2019年には畿央大学大学院へ進学し、運動学習をテーマに研究に取り組む。2021年より川口脳神経外科リハビリクリニックに勤務。2022年に健康経営支援事業を立ち上げ、現在は企業へ出向しながら、働く人が健康に、そして自分らしく働き続けられる環境づくりに力を注いでいる。

金さんは、普段まわりの方から「起徹(きちょる)さん」と呼ばれているそうなので、この記事でもそう呼ばせてください。
現在は、健康経営の領域で幅広く活動されている起徹さんですが、その歩みの始まりにはどんなきっかけがあったのでしょうか。理学療法士を目指された原点について、ぜひお聞かせください。

原点をたどると、まず思い浮かぶのは、幼い頃に見た自閉症をテーマにしたドラマです。その影響で、「病気を治せるような医師になりたい」と、医療の世界に興味をもつようになりました。
その後、小学1年生から中学3年生まではサッカーに打ち込み、高校からはボクシングを始めるなど、成長とともにスポーツが生活の中心となり、自然と「将来はスポーツに関わる仕事ができたらいいな」と考えるようになります。
その2つの想いが重なったのが、高校1年生のときにテレビで見た、車いすテニスの国枝慎吾選手が、再び歩くことを目指して取り組むリハビリのドキュメンタリーでした。その姿を通して、リハビリや理学療法士という仕事に強く心を動かされます。
さらに、水泳の北島康介選手がオリンピックに出場された際、そばで支えていたトレーナーも理学療法士だと知り、医療とスポーツ、その両方に関われる仕事として、「理学療法士」という道が自分の中で1つにつながっていきました。
高校1年生の頃には、進路はもう理学療法士一択でしたね。高校卒業後は、自宅から通える畿央大学へ進学しました。

選手としてスポーツに向き合ってきた経験から、今度は「支える側」として、医療やスポーツに関わる道を選ばれたのですね。
畿央大学へ進学されてからは、どのような学生生活を送られていたのでしょうか。授業や実習はもちろん、学生生活の中でとくに力を入れていたことや、印象に残っていることがあればぜひ教えてください。

両親が在日韓国人で、幼稚園から高校までは朝鮮学校に通っていたため、これまで授業はすべて韓国語でした。大学で初めて、日本語で授業を受けることになり、まわりもほとんどが日本人。環境が一気に変わったことは、とても新鮮だったのを覚えています。
最初は少し緊張もありましたが、みんなが「きちょる」と名前で呼んでくれて。それがニックネームのようになり、すごくうれしかったです。授業では、解剖学や生理学など将来につながる内容が多く、最初の1〜2年は勉強そのものがとても楽しかったですね。
学生生活で力を入れていたのは、アカペラサークルです。高校時代から「ハモネプ」が好きで、音楽経験はありませんでしたが、思いきって挑戦しました。ボイスパーカッションを担当し、2年生の後期からはサークルの代表も務めました。理学療法学科以外の学生と関わる機会が多く、とても刺激的でした。
また、理学療法士を目指す学生が集う「日本理学療法学生協会(JPTSA:Japan Physical Therapy Student Association)」への参加や、大学の先輩方との交流、実習先でも多くの仲間と出会い、学びだけでなく、人とのつながりにも恵まれた学生時代を送りました。

夢中で駆け抜ける日々

勉強に、サークルに、人との出会いに。忙しくも、とても充実した大学生活を送られたのですね。
理学療法士の免許を取得されてからは、どのような歩みを重ねてこられたのでしょうか。

実習先に急性期病院が多かったこともあり、当初は急性期で働くことを考えていました。ですが、就職活動を進める中で一度立ち止まり、やはり「スポーツに関わりたい」という原点の気持ちを大切にして、スポーツ領域で知られる大阪の病院へ就職しました。
入職後は、半年ずつ本院と系列の病院での研修を行い、2年目からは系列病院に配属となりました。回復期リハビリテーション病棟で、脳卒中や整形外科の患者さんを担当しながら、臨床経験を積んでいきました。
臨床に取り組む一方で、「スポーツに関わりたい」という思いはずっともち続けていました。休日や業務外の時間には、ボクシング部の後輩をサポートしたり、スポーツ現場で活動する先輩に同行したり、研修会への参加やテーピングの練習に励んだりと、自分にできることを1つずつ積み重ねていきました。
当時、とくに意識していたのは「行動量」です。ほぼ休みなく動いていましたが、それが苦になることはなく、むしろ夢中になって取り組んでいた感覚のほうが近いと思います。


しかし、理学療法士4年目を迎えた頃にコロナ禍となり、思うようにスポーツ現場に関われなくなりました。これまでの経験を振り返り、スポーツ現場での学びは一定積み重ねられたと感じたことから、このタイミングで次のステップを考えるようになりました。
そして、以前から関心をもっていた研究に本腰を入れるため、大学院への進学を決意します。入職2年目から歩行の予後予測に関する研究に取り組んでいましたが、1人では限界もあり、より深く学びたいと思ったんです。
大学院では、脳卒中のリハビリにもスポーツの現場にも応用できる「運動学習」をテーマに学びを深めました。臨床経験と研究がつながり、視野が大きく広がる時間だったと感じています。
その後、大学や大学院でのご縁を通じて、川口脳神経外科リハビリクリニックで働く先輩方と出会いました。「ここで働きたい」という思いが強くなり、ご縁がつながって2021年に転職。現在は、臨床に携わりながら、新たなフィールドにも挑戦しています。

健康経営との出会い

これまでのお話を伺っていて、起徹さんのパワフルさがひしひしと伝わってきました。
ここからは、川口脳神経外科リハビリクリニックで現在取り組まれている「健康経営」について、お話を伺いたいと思います。
どのようなきっかけから、この取り組みが始まったのでしょうか。

きっかけは、外来で担当していた若年性パーキンソン病の方との関わりでした。リハビリ室では問題なく動ける一方で、職場では症状が強く出てしまい、思うように働けない。その現実を、ご本人と職場の上司、院長を交えたカンファレンスの場で目の当たりにしました。
知識としては理解していた「オン・オフ現象(治療薬が効いているオン状態と、効果が切れて症状が悪化するオフ状態がスイッチのように切り替わる現象)」が、働き盛りの人生にどれほど大きな影響を与えるのか。あのときのご本人の表情や、場の空気はいまでも忘れられません。
この経験を通して「クリニックの中だけでは、その人の人生を支えきれない」と強く感じ、働きながら治療やリハビリを続けるための「両立支援」や、「職場でどう活躍し続けられるか」という視点に関心をもつようになります。
経営者が多く集まる場にも足を運び、企業側の声を聞くことにも努めました。すると、「支援したい気持ちがあっても、中小企業では簡単ではない」という企業側の現実にも直面します。
そうした中で、「理学療法士として、企業にとって本当に意味のある関わり方とは何か」を考えるようになり、出会ったのが「健康経営」という考え方です。腰痛対策などの単発的な施策ではなく、「社員が定着し、働き続けられる環境をどうつくるか」という、経営の視点から人を支える考え方に触れ、大きな納得感がありました。

ここでも、起徹さんの行動力が発揮されていったのですね。現場で聞いた一つひとつの声に丁寧に向き合い、考え続けてこられたプロセスが、いまの取り組みにつながっているのですね。
実際に、どのような歩みを経て形になっていったのでしょうか?

健康経営の取り組みを本格的に始めたのは、2022年10月です。
まずは自分なりに企画をまとめ、院長にプレゼンをしました。すると、この取り組みに賛同してくださり、「週に1度、水曜日の午後を健康経営の活動に充てていいよ」と声をかけてくださいました。とてもありがたかったです。
実際に動き出すまでの半年間は、準備期間として、営業資料やパンフレットの作成、ホームページの立ち上げ等に取り組みました。また、ビジネスマッチングの場や商工会にも足を運び、名刺を配りながら一社一社声をかけていきました。その間に、健康経営エキスパートアドバイザーの資格も取得します。
そして、2023年4月から本格的に活動をスタート。基本的に私一人で担当をしていますが、内容に応じて、公認心理師や管理栄養士など、他職種の専門家と連携しながら活動しています。
エリアは大阪や京都を中心とした近畿圏全体で、内容は企業ごとのニーズに応じて、健康セミナーの実施や健康経営優良法人の取得に向けた相談、「ボクササイズ」などの運動プログラムの提案まで、幅広く対応しています。
関わり方も、週1回、月1回、数か月に1回などさまざまです。企業ごとに状況や課題が異なるからこそ、定期的に対話を重ねながら、その都度、最適な関わり方を一緒に考えていくことを大切にしています。

「自分らしさ」を表現する

健康経営の取り組みを進める中で、大変だと感じることはありますか? また、続けていく中で感じているやりがいや、起徹さんご自身の原動力になっていることについて、印象に残っているエピソードがあればぜひ教えてください。

企業の現場に入るようになって強く感じているのは、「健康の大切さは分かっていても、それを日常の行動に落とし込むのは簡単ではない」ということです。
働く世代の方は、仕事や子育て、介護などで忙しく、自分のことがどうしても後回しになりがちです。セミナーでは、具体的な事例や疑似症例を交えながら、「なぜ予防が大切なのか」を、できるだけ自分ごととして感じてもらえるよう、伝え方を工夫しています。
やりがいを感じるのは、ボクササイズやセミナーの場で、リアルな声を聞けたときですね。「体重が少し落ちました」「健康診断の結果を見るのが楽しみなんです」「筋肉量、増えてると思うんですよね」と、何気なく話してもらえることがとてもうれしいです。
ボクササイズを気に入ってくださったある企業では、毎回10〜20人ほどが集まり、常連の方も増えてきました。中にはマイグローブを持参される方や、個別に教えてほしいと言ってくださる方もいて、その確かな広がりが今の原動力になっています。


確実に輪が広がっており、素晴らしいですね。
起徹さんが、健康経営に取り組むうえで大切にしていること、そして理学療法士として日々心がけていることについても、ぜひお聞かせください。

一番大切にしているのは、まず自分自身が健康でいることです。僕が休んでしまうと、企業のみなさんを支えることもできなくなるので、日頃から運動や体調管理には気をつけています。
もう一つ大切にしているのが、「正しいことを伝える」という姿勢です。理学療法士としての専門性や、医療機関と連携している立場だからこそ、エビデンスに基づいた内容を届けたいと思っています。栄養の話であれば管理栄養士にお願いするなど、自分の専門外には無理に踏み込まず、役割の線引きを意識しています。
また、理学療法士として日々心がけているのは、相手のニーズをきちんと捉えて目標設定を行うことです。いつまでに、どうなりたいのか。その方の想いや価値観を丁寧に引き出します。
たとえば、神経難病の方が「ディズニーランドで、障がいのある人として優先されるのが悔しかった」と話してくれたことがありました。そこで、「一般のレーンに並べるように歩くこと」を目標に設定し、一緒に取り組んだんです。その方にとって意味のある目標を共有することで、リハビリも前向きに進んでいきました。
腰痛の方でも、「腰を治したい」ではなく、「体重を落としたい」という希望に目標を置いたことで、自然と活動量が増え、結果的に症状が改善したケースもありました。
この経験から、目標はその人の価値観に沿って設定することが、とても大切だと感じています。達成可能な目標をおくことで、行動も結果も大きく変わるんです。
僕は、リハビリテーションとは、「自分らしさを表現すること」を支える営みだと考えています。患者さんが「ディズニーランドに行きたい」「孫に会いたい」と話してくれるとき。それは単なる目標ではなく、その人がその人らしく生きたいという、かけがえのない想いです。
その「らしさ」は、対話を重ねる中で、少しずつ見えてきます。どんな状況にあっても、その想いを大切にしながら、実現に向けて一緒に考え、支えていく。それが、リハビリテーションの本質だと思っています。

リハビリに励む方へ

リハビリテーションとは、「自分らしさを表現すること」を支える営み。起徹さんらしい素敵な表現が、まっすぐ届いてきました。
最後に、これから先に思い描いていることや、挑戦してみたいことをお聞かせください。また、いまリハビリに励んでいる方に向けてメッセージがあれば、お願いします。

健康経営の事業を始めて、まだ2年ほど。まずはこの取り組みを、きちんと事業として育てていきたいと考えています。体制を整えながら、関わる企業さまや仲間を少しずつ増やし、継続的に価値を届けられるようにしたいです。
最近では、高齢者の通いの場や高校生を対象にした健康教育の機会も増えてきました。世代は違っても、「自分の身体を知ること」「セルフケアができること」「正しい情報を選ぶ力」は、どの年代にも共通して必要だと感じています。
介護予防、就労、そして健康教育まで。これからは、分野を分けて考えるのではなく、「地域全体の健康を支える存在」として、理学療法士の関わり方を広げていきたいです。
そして、いまリハビリに励まれている方には、ぜひ「良い理学療法士」に出会ってほしいと思っています。
良い理学療法士とは、知識や技術だけでなく、目の前の人の話を丁寧に聞き、その人の価値観や背景に寄り添いながら、選択肢を示してくれる人。どんな領域にも、必ずそうした理学療法士がいます。
あなたに合ったリハビリ専門職と出会ることを、心から願っています。

起徹さん、たくさんの想いがこもったメッセージを、ありがとうございました。成果に向き合いながら、責任をもって事業を前に進めていく姿に、強い覚悟を感じました。
環境や立場にとらわれることなく、新しいかたちのリハビリテーションを切り拓いていく起徹さんの姿は、これからの理学療法士の可能性を、やさしく、そして力強く示してくれているように思います。
リハノワはこれからも、地域の健康に向き合い続ける起徹さんの挑戦を、心から応援しています。
本日は、貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。



以上、今回は大阪府枚方市にある川口脳神経外科リハビリクリニックで、健康経営支援に取り組む理学療法士・金起徹さんを紹介しました。
ひとりでも多くの方に、起徹さんの素敵な想いと魅力がお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。


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