みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!
今回は、東京都町田市にある住民主体で始まった無料地域巡回バス「くらちゃん号」をご紹介します。
くらちゃん号が生まれたきっかけや鞍掛台地区の歴史や課題感、また、くらちゃん号にかける熱い想いを自治会メンバーである中村さんと海老澤さんにお伺いしました。その魅力にとことん迫ります!
「くらちゃん号」とは
住民主体の無料地域巡回バス「くらちゃん号」とは
くらちゃん号は、坂道の多いことで知られている東京都町田市の鞍掛台(くらかけだい)地区で運行されている無料の地域巡回バスです。バスは、日中空いているデイサービスの車両を使用し、乗車する住民には登録制ではなく無料開放し好きな時に利用してもらいます。
くらちゃん号のプロジェクトメンバーは、鞍掛台地区の自治会、市役所、高齢者支援センター、社会福祉協議会、社会福祉法人、市議会議員など幅広く、地域住民が主体となり進められているところが魅力の一つです。
<くらちゃん号概要>
■ 運用開始:2020年4月3日
(試運転:2019年3月)
■ 運行日時:
毎週火曜日と金曜日
午前10時30分から午後0時30分(祝祭日・年末年始を除く)
1日5便(1周約30分)
■ 対象:鞍掛台地区の外出に困っている住民
■ 定員:1便あたり7人程度(申込不要・先着順)
■ 料金:無料
■ 運行ルート:
鞍掛台地区(東京都町田市西成瀬1)と成瀬コミュニティセンター(東京都町田市西成瀬2-49-1)の間
■ 協賛:
まちだ正吉苑、 地の星ベロニカ苑、 高ヶ坂ひかり苑、 地域のデイサロンくらかけ庵
■ 運営:
買物・外出支援プロジェクト事務局
地域の歴史と防災見守り支援隊
くらちゃん号のプロジェクトは住民主体で始まったとお聞きしましたが、きっかけは何だったのでしょうか?
僕たちの自治会には、『防災見守り支援隊』という地域の防災と高齢者の見守りを行う組織があります。
この組織の中で、買い物が不便な方への支援ができないだろうかという声が上がったことがきっかけで、プロジェクトが動き出しました。
実は、鞍掛台の高齢化率は30%を超えているのですが、地形として坂道が多く、バス停がないんです。高齢になる程道を歩くのは困難となるし、車の運転も危険になっていく中で、日常の買い物に不便を感じる方が多くいらっしゃいました。
そこで、社会福祉法人と話し合いの場を設け、プロジェクトチームを結成。それから、社協、市議会議員、行政書士、市役所の交通安全課など徐々に協力メンバーを増やしていき、プロジェクト実現へ向けて歩み出しました。
自治会の防災組織は、1年交代の強制参加(輪番制)でやっている所が多いんですが、僕たち自治会の防災見守り支援隊は、強制ではなく興味を持ってくれた人たちに集まってもらっています。自発的な意思を大事にしていて、いつやめても構わない。そうすることでプレッシャーもなくなるし、自分のペースで関われると思うんです。
メンバーは30人を超え、多い時では40名を超えている時期もありました。現役を引退した方の他にも、現役の会社員、市役所職員、消防隊員やデザイナーなど、本当にいろんな人がいます。
地域って、人材の宝庫なんですよね。
その多種多様な地域の方々がどうやったら協力してくれるかというのは、「やりがい」とか「使命感」が鍵を握ると思っています。僕の会社員時代の経験から言うと、人が働く・動くのは、お金のためかやりがいがあるか、どちらかだと思うんです。
退職した今、僕はお金のことよりもモチベーションとかやりがい、使命感を大事に生きています。意外と僕と同じ感性の方は多くて。だから、その辺りを刺激しながら、仲間集めを行っています。
定年後の方々はとても経験豊富だと思います。まさに、地域は人材の宝庫!いかにしてモチベーションを保つか、ということがポイントになるのですね。
鞍掛台地区は、自治体の防災に対する意識が非常に高い印象を受けました。なぜここまで防災の意識が高いのか、また、自治体の結束力が高まったきっかけなどがあれば教えてください。
防災の意識が高まったのは、2015年に初めて発生した鞍掛台地区の火災事故がきっかけです。
その時、消火が遅れたことから一名の方がお亡くなりになられました。当時、僕と海老澤さんは自治会の役員をしていたのですが、非常に残念でなりませんでした。
調べていく中で、現場住所の伝え間違い(地区の区域整理直後であった)や消火栓の場所を知らないなど、多くの問題が浮上しました。今後、このような状態ではなにかあった時に困るだろうということで、議論をする場が設けられます。
そこで、これまで1年交代の輪番制だった防災組織を継続的にみていけるように構築し直そうと提案がありました。さらに、高齢化が進んでいたことから防災だけではなく高齢者の見守りも一緒にやろうということで、防災見守り支隊というネットーワークが誕生しました。
自治体の結束力が高いのは、この地区の歴史に触れると分かるかもしれません。
もともとこの地区は、50〜60年前に自治会の管理で水道を引いたり、道路は私道が多いため自治会で修繕していたりしました。自分たちの自治体で多くのことをやってきた歴史があるんです。
鞍掛台地区は、自治体の下部組織も結束力が強いのが特徴です。老人クラブ、ソフトボールクラブ、子ども会、防災見守り支援隊の4つの組織が、多くの活動を活発的に行なっています。
くらちゃん誕生秘話
実際にくらちゃん号のプロジェクトをどのようにして進めてこられたのか、また、その中で大変だったことや苦労されたことがあれば教えてください。
プロジェクトを進めるにあたり、まずはバスの名前決めからはじめました。
送迎車は各介護福祉施設の車両であるため、僕たちのプロジェクトの送迎車だということが分かってもらえるようなシンボルマークが必要でした。マークにはアザラシのキャラクターを起用し、地域のどんど焼きのイベントで実際に送迎車とイメージキャラクターを住民に見てもらいました。
キャラクターの名前は住民投票とします。80名からの投票の結果、クラノスケやクラモンなど6種類の中から「くらちゃん」が選出。自分たちが作っている送迎車だよ、自分たちの足だよ、という愛着や意識づけをするのに、このような形をとって良かったなと思っています。
以降は、実際の運行内容や停留所の位置、運行する曜日や時間の調整に入ります。作り上げるのには一年程かかりました。
さらに、運輸局への承認や傷害保険の内容、事故があった際などのトラブル対応、経費関係など、プロジェクトを進めていく上で大変なことはたくさんありました。
くらちゃん号の試運転後、住民にどれぐらいニーズがあるのだろうかという事を知るために、地区の全世帯(約300世帯)にアンケート調査を行いました。
その結果、約100世帯が「あれば利用したい」、利用している方々は「週一回助かっている」や「買い物がしづらかったができるようになった」と声を頂きました。
この時、あぁ、やっていることは間違いなかったと非常に嬉しく思い、やりがいを感じました。
かつての経験を活かして
くらちゃん号プロジェクトの進め方をみていると、お二人をはじめメンバーの方々のこれまでの経験が存分に活かされている印象を受けました。
お二人は、現役時代はどのようなお仕事をされていたのですか?
私はもともと、会社の企画とか販売促進に携わっていました。
だから、くらちゃん号を企画・運営・広報するのも、似たようなものなんですよね。かつての経験が活かされているかと思います。
また、惣菜屋で働きながらショーケースの中のものがどんな仕掛けをしたら売れるか、人の心理を探りながら仕事をしていた経験もありました。
利用人数とか時間帯など様々なデータをもとに分析をしていたのですが、くらちゃん号にはその時の経験も活かされていると思います。
私は、車関係の仕事をしていました。
仲間と同じ思いを持って一つのことを成し遂げるプロセスは、会社時代に培ったものかと思います。その時の熱量の保ち方も同様です。
商品やサービスを作る上でのこだわりというのも、くらちゃん号に影響しているかもしれません。くらちゃん号のシンボルキャラクター「くらちゃん」は、プロのデザイナーさんにデザインしてもらいました。タダじゃないなって思ってもらえるのって大事だと思うんですよね。
くらちゃんはTシャツやファイル、ステッカー、缶バッチなどのグッツにもなっていて、住民の方々に配ると喜んでくださいました。
チームの強みの引き出し方
プロジェクトを進めるにあたって、本当に多くの方と協力しながら活動してこられたと思います。
様々な特技を持った方がワンチームとして活動するために大切にされてきたことや、くらちゃん号メンバーの強みを教えてください。
皆さんの意見を丁寧に聞きながら、チームとして作り上げるということを常に大切にしてきました。
例えば、道路のことには詳しくないから、市役所の交通事業推進課の人にも手伝ってもらいながら停留所の場所を決めました。停留所が坂の途中にならないようにとか、角から何m離れたところにしようとか、色々とアドバイスを貰いました。
私が感心したのは福祉施設のドライバーさんです。
道路って側溝のため蒲鉾型になってるじゃないですか。高齢者はそんなところでも転びやすいんですよ、と福祉施設のドライバーさんが教えて下さいました。
普段から高齢者を乗せているドライバーさんだからこその視点に感心しましたね。「坂が多いから前に捕まって」とか「段差に気をつけて」とか、言葉の節々に優しさがあるんです。
くらちゃん号のドライバーが福祉施設のドライバーなのは、すごく安心感が強いですね。
仲間づくりを強化し明るい未来へ
最後に、プロジェクトを進める上での原動力や、今後に描いていることなどあれば教えて下さい。
プロジェクトを進める上での自分自身の原動力は、やはりやりがいですね。
刺激とか、何かを成し遂げるってすごく大事なことだと思います。男性では特に、定年してから地域の人と付き合うようになる人が多いと思います。新たな人と知り合えるということはとても刺激にもなりますし、仕事がなくなった後の孤独感からも解放されます。一人じゃない、と思えるんですよね。僕たちのところに来れば、そんな居場所を少しでも提供できるかと思います。
今日ここにいる、くらちゃん号の広報・永島さん(作業療法士)もそうですが、くらちゃん号を通して本当に良い人にたくさん出会えました。永島さんと知り合うまでは、作業療法士や理学療法士も区別がつかなったけど、知り合いがいると違いを知りたくなったりしますよね。
リハビリの専門職の方々は、健康ということに対して様々なリソースをお持ちなので、ぜひ自治会とも一緒になって何かできないかなと思っています。もっと仲間ができれば、楽しいこともたくさんできますしね。
これからも楽しい明るい未来を想像し、考え続けていきたいです。
僕が今後の自治会・防災見守り支援隊に描いていることは、女性の方にもっと関わってきてもらいたいということです。
防災見守り支援隊というと、男性的な力仕事みたいなイメージで女性が関わりづらいのかもしれませんが、実際にはそんなことないので、気軽に仲間になっていただけると嬉しいなと思っています。
今僕たちは高齢者の見守りというのをしていますが、幼い子どもを持つお母さん方は、自分の子ども達の見守りもしてもらいたいと感じていると思います。僕たちから率先して、通学の時に立つとか何か手伝っていけると良いかもしれませんね。
また、現在自治体の昔からの流れで、訃報の情報は回るけど誕生の報告は回らないんですよね。それを変えていきたいです。
これからの世代を引っ張っていくのは子どもたちなので、地域の住民みなさんが暮らしやすいようサポートしていきたいです。
素晴らしいチームワークで活気溢れる魅力的な町・東京都町田市の鞍掛台地区。地域の伝統文化や自治体のリーダーたちの地域を思う熱い心に胸をうたれました。
この地区の自治体を、私は『一歩先をゆく自治体』と表現したいと思います。
地域住民のために必死になって取り組む姿や、その過程をご自身の生きがいに変えイキイキと活躍する姿はとても魅力的です。
鞍掛台地区の自治会には、日本を変える力があります。この自治会の魂が、子ども達世代にも引き継がれていくことを願って。
自治会の中村さん、海老澤さん、くらちゃん号広報の永島さん、本日はありがとうございました!
鞍掛台地区とくらちゃん号の今後のさらなる発展をお祈りします。
以上、本日は東京都町田市にある住民主体で始まった無料地域巡回バス「くらちゃん号」を紹介させていただきました。
一人でも多くの方に、鞍掛台地区の熱く素敵な想いがお届けできれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!
かわむーでした。
この取材は、本人の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。
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