地域共生のまちづくりとは。鞆の浦・さくらホームと羽田冨美江さんの歩み | 広島県福山市

みなさんこんにちは、リハノワのかわむーです!

本日は、広島県福山市の鞆の浦にある生活密着型多機能ホーム鞆の浦・さくらホーム」さんを紹介します。

さくらホームは、理学療法士の羽田冨美江さんによって開設された地域共生社会の実現を目指し展開されている介護事業所です。

実際にさくらホームの施設内や様々な関連施設を見学させていただいたり、代表・羽田さんに設立までのストーリーをお伺いしたので、写真を交えながらその魅力をお伝えしていきたいと思います。


(2022年1月26日追記:当初はPR記事として作成した訳ではありませんでしたが、2022年1月より仕事をお手伝いさせて頂くことになったため追記致します。)

施設の概要

株式会社 親和
『鞆の浦・さくらホーム

設立
2004年

■ 代表
羽田 冨美江(はだ・ふみえ)さん


営業日時
月~土 9:00~17:45(祝日も対応)

■ スタッフ
看護師  :7名
介護福祉士:23名
ケアマネージャー :11名
社会福祉士:3名
作業療法士:3名
柔道整復師:1名
保育士  :5名

事業内容
グループホーム
地域密着型デイサービス
小規模多機能サービス
居宅介護支援事業
放課後等デイサービス(関連施設)
重症心身障がい児の多機能型事業所(関連施設)

■所在地
〒720-0201
広島県福山市鞆町鞆552番地

電話:084-982-4110

アクセス
バス:所要時間30分
JR山陽本線福山駅より鞆鉄バス
「鞆の浦」バス停下車 徒歩3分

施設の理念

家族と結ぶ、地域と結ぶ、その人らしさを発揮できるホームにする

<大切にしていること>
■ ご家族と地域につなげるケアを実践します ~「人」と「地域」を結ぶ橋~

物理的な、ある場所、ある土地ではなく、「人」とのつながりこそが地域だと思います。そこに住む人の気持ちが変われば、地域も、町も変わるんです。その想いが、さくらホームを始めた「きっかけ」です。

安心して老いることができる鞆の町 ~鞆のお年寄りを鞆の地域で支える〜
拠点は利用者さんの生活区域の約400m圏内に設けています。生活に近いところに拠点があれば、地域の人たちも気軽にホームに出入りでき、利用者さんも地域に顔を出しやすくなります。“町全体で見守る” ということを実践します。

■ 鞆の町(地域)への責任をもつ
在宅の人も含め、「365日24時間、しっかり利用者さんのフォローをすること」これがさくらホームのもう一つの役割です。夜中でも、すぐに対応します。介護が必要な方たちが町で安心して生活するためには、その後ろに『責任』を持つものがいなければいけません。「徘徊している人がいる」そういう連絡が入ったら、夜中でもすぐ飛んでいきます。

さくらホーム施設内中央にあるホール
代表・羽田冨美江さん

さくらホームと鞆のストーリー

さくらホームは、施設長であり理学療法士の羽田冨美江さんによって2004年に開設されました。さくらホームができるまでのお話や、出来てからの地域とのあゆみ、また大切にされている熱い想いについて伺ってみたいと思います。

かわむー
かわむー

兵庫県出身の羽田さんが、広島県の鞆の浦にさくらホームを作ることとなったきっかけを教えてください。


羽田さん
羽田さん

きっかけは、義父の介護を経験したことにあります。

私は、結婚を機に鞆(鞆の浦)に移住してきました。当時23歳、人と人との距離が近い、なんだか狭い町になかなか馴染むことができず、職場は自宅から離れた町の病院まで通っていました。

そんなある日、義父が脳梗塞で倒れました。半身麻痺の状態でしたが、本人の「鞆にある自分の家に帰りたい」という想いを尊重し、自宅で介護生活を送ることになります。当時、私が38歳の時でした。


かわむー
かわむー

理学療法士として活躍されてきた経験から、お義父様の介護やリハビリに関しては特別な想いがあったのではないですか?


羽田さん
羽田さん

そうですね、要所要所で私の理学療法士としてのプライドが掻き立てられましたが、心が折れそうになったことも何度かあります。

ある日、義父が「行きつけの居酒屋に顔を出したい」というので一緒に行ったところ、かつての飲み仲間から憐みの目を向けられ、以降、義父は引きこもりとなってしまいました。特別扱いされたことで、自分の居場所がなくなったのです。

私がいくら外出やリハビリをすすめても、言うことを聞いてはもらえません。当然、私の専門職としてのプライドも傷つき、途方にくれていました。

そんなある日、近所でお祭りがあったので一緒に出かけました。久しぶりに地域の人と話したりビールを飲んだりする中で、義父は自分の居場所を次第に取り戻していきます。そして、帰る頃には以前のような生き生きとした姿に変わっていたんです。その後は自ら地域に戻ることを望み、リハビリに励むようになりました。

この時に初めて、支援が必要な人が地域で暮らすためには、住民に受け入れてもらうことが必要だということに気がつきました。

そして、鞆にある築300年の商家が取り壊されるのを耳にしたのをきっかけに、この商家と街並みを守るために介護施設として再生させることを決意。多くの方の協力を得て、2004年にさくらホームを開所しました。


かわむー
かわむー

まさに、さくらホームが掲げる「ノーマライゼーション=高齢者や障がい者も、そうでない人と同じように日常生活を送れる社会を実現する)・地域共生のまち」の原点ですね。

今でこそ、人と人とを繋ぐハブ的存在、そして地域共生を実現した介護事業所として名高いさくらホームですが、開所当時から現在までの期間で、多くの試練もあったのではないでしょうか。


羽田さん
羽田さん

そうですね、開所当初は住民の理解を得るのに時間がかかりました。当時は認知症グループホームとデイサービスから始めたのですが、利用者さんと町で散歩や買い物をしていると「あんな状態の人を歩かせていいんか」「見せ物にするんか」などの声が聞かれました。

認知症高齢者を受け入れる意識も乏しく、どれだけ必要性や熱意を伝えても怒鳴られることもしばしばありました。

最初の5年は無関心との闘い、5年が過ぎると徐々に変化が見えてきて、10年経った頃には明らかに町の人の意識が変わっているのが分かりました。

そして、15年を迎えた今は、住民の皆さんと一緒に地域で共に暮らす豊かさを感じることができています。地域の力が高まり、「地域共生」のまちづくりを地域の人たちと一緒に進めているという感覚です。


かわむー
かわむー

鞆の町を、そして鞆の人を想い、やっとのことで立ち上げた事業を受け入れてもらえない場面は、想像しただけでもとても胸が苦しくなります。

当時の羽田さんは、そのような状況で何を感じ、どのように乗り越えてこられたのでしょうか。


羽田さん
羽田さん

もちろん、最初の頃は悔しくて悔しくてたまりませんでした。枕を濡らした日もあります。しかしそれは、私の中に「この町のためにしてあげている」という支援側の意識が少なからずあったからかもしれません。

私は、地域共生のまちづくりを行うという明確な目的を持っていました。このぶれない軸があったからこそ、乗り越えられたと思っています。義父のような支援が必要な人が町で受け入れてもらえるようになるには地域共生のまちづくりが必要不可欠であり、そのためには時間をかけてみんなに分かってもらうしかないのです。

さらに、私は、開所して1年が過ぎようとした頃、くも膜下出血で倒れてしまいました。1ヶ月間はほとんど体を動かすことができず、半身麻痺となりました。それでも、様々な人の支えのおかげてリハビリにも励むことができ、杖で歩けるまで回復しました。

退院してから、障がい者となった私は杖をついて町を歩きました。自らが町に出ることで、住民の「受け入れる意識」が育まれると思ったからです。足を引きずりながら歩く私を、地域の人ははじめは遠くから見ていました。しかし、次第に「歩き方よくなってきたな」とか「うちで休んでいき」と声をかけてくれるようになりました。

行動し続けることで、地域の人の意識は変わることを再認識した瞬間でした。私はこれからも、住民の皆さんと一緒に、地域で共に暮らす豊かさを感じながら過ごしていきたいと思います。


さくらホームと羽田さん
鞆の町並み

施設内のこだわりポイント

実際にさくらホームの中を羽田さんに案内していただきました。設計時にこだわられたポイントや、運営する上で心がけていることをいくつかご紹介したいと思います!

■ 木の温もりと開放感を演出
築300年の建物に使われている立派な梁を大迫力で感じることができます。


■ あえて段差を残した玄関
鞆には坂道や段差が多くあります。入居者の方が町に出た時に困らないように、あえてバリアを作っているそうです。さくらホームに通ってくる方も自然と足が鍛えられます。


■ 音が吸収される仕掛けづくり
床はワックスを塗ると音が反射するため自然のままの板を利用し、壁は音を吸収しやすい素材を使用。


■ 光への配慮

入り口の電灯はオレンジ系の白色灯にして温かさを表現、デイサービス内は作業をすることが多いため明るく、グループホームの居室は落ち着く空間を意識し少し暗めに設定しているそうです。


■ 「監視感」のない設計

建物がすっきり整っていて見通しが良いと、認知症のお年寄りは監視されているように感じてしまいます。そのため、廊下はあえてまっすぐせず、部分的に見通しがきかない場所を作っているそうです。


■ 大迫力の樽風呂

もともと酢の醸造に使われていた大きな木の樽を浴槽に再利用。木のぬくもりがあってよく温まると、利用者さんから人気だそうです。


■ 寝具は敷布団
寝具は本人の希望も聴取し、自宅と同じ環境で眠ることができるよう可能なかぎりベッドではなく布団を使用。


■ 窓ではなく襖を使用

居室の窓は、人の気配がわかり安心感が持てるように襖を使用。


■ 階段には点線で注意喚起

階段を踏み外さないように、テープで目印がつけてあります。ポイントは一本線ではなく、あえて点線様にすることで目に入りやすくしているところ。


かわむー
かわむー

また、ジブリ映画『崖の上のポニョ』は鞆の浦が舞台となっています。

映画の制作期間には宮崎駿監督やスタッフの方々がさくらホームを訪れ、施設内を見学したり羽田さんのお話を聞きに来られたりしたそうです。

映画のストーリーの一部は、羽田さんのお話が元になっているとかいないとか…! 施設内で当時の色紙と写真を発見しました。す、す、すごい!



鞆にある4つの拠点

鞆の町には、さくらホームとは別に4カ所の拠点があります。利用者さんの自宅から400m以圏内(生活圏内)に、いざという時に頼れるスタッフがいるという体制が整備されています。生活圏内に介護スタッフを置くことにこだわられているのには、さくらホームが「地域の介護に責任を持つ存在」になると決めているからだそうです。

また、「24時間・365日、利用者さんのフォローをします」と断言しているさくらホームでは、地域の人にも頼ってもらえるように、日頃から「顔の見える関係づくり」を心がけているのだそうです。スタッフ一人一人が情熱と温かい心を持ち、鞆に向き合われているのが印象的です。


■ さくらホーム・原の家
小規模多機能型居宅介護 / 定員29名。馴染みの場所で、馴染みのスタッフが通いを中心に、訪問・泊まりを組み合わせたサービスで支援しています。

鞆の浦・さくら荘 いくちゃんの家
小規模多機能型居宅介護 / 定員12名

■ さくらんぼ
放課後等デイサービス。もともと保育所だった場所を、障がいをもつ子どものための事業所として開所。スタッフには、保育士・介護福祉士・作業療法士・画家など10名が配置され、目の前の海や山、町を使った遊びの場を提供しています。

映画『崖の上のポニョ』に登場する保育園のモデルとなっているそうです…!

かわむー
かわむー

さくらんぼでは、スタッフの方ともお話しさせていただきました。皆さんとても熱い想いを持って働かれていて、非常にパワフルです!

さくらホームの理念、羽田さんの想いがスタッフ一人一人に浸透していて、改めて素晴らしい介護施設だと感じました。


「超高齢化」は地域共生を実現するチャンス

最後は、羽田さんが著書『超高齢化社会の介護はおもしろい!の中で書き綴られているメッセージの中に、ぜひ皆さんにも触れて欲しい言葉があったので、一部を抜粋しご紹介させていただきたいと思います。

地域づくりを目指す介護職の皆さんに伝えたいこと>

私が地域共生のまちづくりを続ける中で確信しているのは、まずは介護職が「地域化」することが不可欠だということです。町の中にいろいろな人の居場所を作るための第一歩は、支援が必要な人をケアできる介護職が「地域の中へ入ろう」という意識を持つことです。

人間関係は学校や会社などでも築くことができますが、最後に残るのは住んでいる場所ーー身近な「地域」での人間関係です。地域の中で人と関わる機会があり、自分の居場所があり、自分の存在が誰かの心を動かしていることに気づくと、それが生きるための活力になります。だから、私たち介護職が地域に目を向け、そんな人にも居場所がある地域を作ることが大切です。地域にいてこそふれられる人の温かさがあるからです。

どんな人でも居場所がある地域とは、支援が必要な人を住民が自然に受け入れ、「相手に助けが必要なら、できる範囲で手を貸すのが当たり前」という文化がある町です。そういう町の住民には、きっと多様な人を受け入れる度量の広さがあり、支援の必要な人を手助けするための知識があり、対応力やコミュニケーション力があることでしょう。

そんな町や地域のことを、ある大学教授は「ケア付きコミュニティ」と表現していました。住民が高齢者や障がい者を受け入れ、ちょっとした支援をしながらともに過ごしているコミュニティです。もちろん、頼れる専門職が身近な存在としてそばにいることが前提です。

自分が住んできた地域がケア付きコミュニティになれば、住む場所がどこになっても、ずっとその地域に居場所を持ち続けることができます。自宅で暮らし続ける人も、特別養護老人ホームやグループホームに入居した人も、サービス付き高齢者住宅に住む人も、好きな時に町へ出てゆき、地域の人たちと関わることができるのです。コミュニティの中で過ごしたいと思う人が、疎外感を感じることなく、普通に受け入れてもらえるということでしょう。

そういう地域を作るために、介護職が地域の中にどんどん出て行って「頼れる存在」となり、どんな健康状態であっても地域で豊かに過ごすことができるのだと実感してもらうことが必要です。

「超高齢化社会の介護はおもしろい!」より


かわむー
かわむー

2019年に出版された『超高齢化社会の介護はおもしろい!』というこの本は、お世辞抜きで、本当に素晴らしい本です。読みながら胸にこみ上げてくるものが沢山あり、涙なしには読めませんでした。とても学びとなる、定期的に読み直したい一冊です。

地域リハビリテーションや地域共生のまちづくりについて学びたいセラピストや介護職、学生には教科書・導入書としてとてもお薦めです。ぜひ、興味のある方は手にとってみてください。

羽田さんの強い信念と、多くの人の温かい心と情熱で築きあげられた地域共生のまち・鞆の浦。

たまたま立ち寄った食堂では、大将のお母様がさくらホームで看取りまでお世話になったそうで、「さくらホームは日本一だよ。他にこんなやってくれるとこないやろ!」と誇らしそうに当時のことをお話ししてくださいました。

ーー鳥肌が立つほど感動した私のこの胸の高鳴りが、一人でも多くの人に届くことを祈って。


さくらホームの皆様、取材に丁寧に応じてくださった羽田さん、本日はありがとうございました。さくらホームのさらなるご発展を、心より応援しております。



かわむ
かわむ

<さくらホームの関連情報はこちら>

さくらホームHP
さくらホームが運営するお宿と集いの場『燧冶(ひうちや)
羽田冨美江さんの娘さんで作業療法士の羽田知世さん




以上、本日は広島県福山市にある生活密着型多機能ホーム鞆の浦・さくらホーム」さんを紹介させていただきました。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


今後ともリハノワをよろしくお願いいたします!


かわむーでした。




※この取材は、施設の同意を得て行なっています。本投稿に使用されている写真の転載は固くお断りいたしますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

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